第50話 疫病の終わりとさらなる敵
「和樹!?」
「和樹さん!」
アレスが和樹の首筋に手を当て、次に額に手を当てる。
「……すごい汗だ。それに荒い呼吸。これは魔力欠乏症かもしれない。急いで村に戻ろう!」
アレスの案に全員が頷いた。
アレス達が和樹を抱え村へ戻るとそこには驚くべき光景が広がっていた。
「これはいったい……」
誰1人として歩いていなかった村に、村人達がちらほらだが、外を歩いていたのだ。最初のにこの村を訪れた時とは大違いの状況にアレス達は驚く。そして当の村人達は不思議そうに自分の身体を触っては首を傾げている。
疑問が残ったまま鍛冶屋へと入ると女の子がアレスに駆け寄ってきた。
弱熱病と風を患っていたポニーテールの女の子だ。苦しそうだった表情がまるで嘘だったかのようにピンピンとしている。
「お帰りなさい! お兄ちゃん!」
そう言い、アレスの身体に抱きつく。
「こらっチィ! お客さんに迷惑かけないの……って、あなたたちは……!」
「ペルシナさん、この服どこにしまえば……っ! 和樹!」
ペルシナやエルシィも後から出てきて驚いた表情をする。ペルシナもまた、弱っている様子はなく、女の子と同じように元気になっていた。
「ただいま戻りました。事情はあとで、それよりも和樹をお願いします!」
アレスが和樹を下ろし、ペルシナとエルシィが和樹を部屋に連れ、布団に寝かせた。
「はぁっ……はぁっ……」
「っ……大量の汗に荒い呼吸。酷い魔力欠乏症ね。このままじゃ彼の命が危ないわ」
「やはりそうか……」
和樹のおでこに手を当てたペルシナがそう言う。
「和樹さんは大丈夫なんですか!?」
「焦らないで。確かこの家に魔力欠乏症になった時のためのポーションが……あったわ、これよ」
ペルシナはタンスの引き出しを開け、青色の液体が入った瓶を取り出した。
その瓶を和樹の口にゆっくり少しずつ流し込む。
「んぐっ……ふぅ……っ……」
青い液体を飲んだ和樹は先ほどまでの荒い呼吸が収まり、小さな寝息を立て始めた。
その後でアレス、ユーフィ、フィアス、エルシィ、ペルシナの5人は途中事情を挟みつつ話し合った。
「……それで2人はここに来ててフィアス達と会ったというわけね」
「えぇ。バルヘイム王国で依頼があったから私とアレスはここに来たわ。距離が遠いから受けた時にギルドから指定された街のワープ石を貰ってほぼひとっ飛びよ。あなた達は?」
「私達は……」
「私とフィアスは和樹の旅についてきてそれでちょうどこの村を通りがかったの」
戸惑うフィアスを遮り、代わりに答えるエルシィ。
「ふーん、なるほどね……」
ユーフィはエルシィの方を見てそう呟く。恐らくなんでここにバルへイム王国の王女様がいるのか疑問に思っているのだろう。それでも騒ぎを起こさないように気を使ってかそれ以上何も言わないユーフィ。そんな彼女にエルシィは内心感謝した。ちなみにアレスの方は全く気づいていない様子だ。
会話が途切れると、ペルシナはその場で立ち上がった。
「この度は山に潜む魔物を倒してこの村から病源を絶っていただき、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ和樹を助けて下さってありがとうございます」
「いえそんな……私は当然のことをしただけですので……」
そう言いお互いぺこぺこと頭を下げ合う。
そんな彼らの声に反応し部屋の奥から誰かがやってきた。
ショーカットの女性だった。なにやら慌てた様子だ。
「ペルシナさん! 旦那達の居場所が分かりました!」
「本当ですか!?」
「はい、ここから南東へ行った先にシャトレーラという湖がありますがそこにペルシナさんの旦那さん含め男達が集まっていました。ですが……」
歯切れ悪く言う女性。
「何かあったのですか?」
「はい……よく見ると男達の目は虚ろでまるで何かに操られてるような感じだったんです。そしてその男達の奥を見ると水色の髪の女性が1人立って何やら歌を歌っているような様子でした」
「その女の目的は分からないけどどうやらその歌声に何かありそうね」
ユーフィがそう口にする。
すると、ペルシナは部屋の出入口へと歩いていく。
「待ってください! ペルシナさん! あなただけじゃ危険……」
「居場所が分かったんだから早く行かないと!」
女性の止める声にペルシナが強く言う。
「でも、相手は危険な魔物かもしれないんですよ……」
「それくらい分かってますよ! けど……早くあの人を助けないと……」
「良ければ俺たちも行きますよ」
「「っ!?」」
「いいんですか……?」
驚く3人にユーフィが言う。
「珍しくアレスに賛成ね。依頼では病原の元の断ち切りだったけどこのまま帰るのも後味悪いし。この際全て解決させた方がいいわ」
「ありがとうございます……!」
涙ぐむペルシナ。
それに伴い女性は深く頭を下げる。
「村の病気を解決した皆さんになら安心して頼めます。どうか、村の男の人達をお願いします」
その後話を終え、アレス、ユーフィ、フィアス、エルシィの4人は外に出た。
「問題は何人で向かうかだけど……あまり人数が多いと気づかれる可能性が高いからそれを踏まえて考えたほうがいいよな」
「そうね。何か罠があるかもしれないから慎重に行ったほうがいいわ」
「なら、私は今回も残るわ。和樹のこともあるし」
「私は……」
声を詰まらせるフィアス。
「あなたもいいわ。ここに居なさい。あたしとアレスが行くわ」
「っ!? でも……」
「和樹のことが心配なんでしょ? だったら側にいてあげなさい。和樹も目を覚ました時に2人がいたら嬉しいと思うわ」
「っ……ありがとうございます。2人とも気をつけて下さい」
「あぁ、任せとけ!」
「和樹のこと任せたわよ」
「了解! こっちは任せて」
こうしてエルシィとフィアスは和樹の面倒を。アレスとユーフィは先ほどの女性の案内を元にシャトレーゼという湖へ向かった。
青く透き通った広い湖。その周辺にはたくさんの男。そしてそこから少し離れた先にその周りを囲む草木に3人の影があった。
「こちらです。あそこに村の男の人達が集まっています」
「……全員虚ろな目をしているのを見るに確かに何かに操られているように見えるわね」
「あれ? その男の人達を操ってる女性は?」
ふと、そのことに気づき辺りを見渡すアレスがそう口にする。
「……っ! 確かに、いません! どういうことで……がっ」
「「っ!?」」
案内した女性が言い終える前に彼女は呻き声を上げ、気を失った。
「あら? こんなところに3人も迷い猫ちゃんがいるわね」
気を失った女性の後ろにある木の後ろから現れる女性。
水色の髪に長い耳、白い肩出しのドレスのようなものを身に纏い、そのドレスの隙間からは艶かしい足がちらりと見える。
「っ……あなたが黒幕ね?」
厳戒態勢に入り、拳に炎を纏うユーフィ。
「あら〜? 戦う気満々ね? まぁ確かに間違ってはないかしら」
途端、水色の髪の女性の周囲に風が吹き始める。その風の中には雪が混ざっており、吹雪が吹き荒れそうだ。
「そう。なら特に言うことはないわ! 炎拳!」
メラメラと燃え上がる炎の波を女性に向けて放つユーフィ。
「あら、喧嘩っ早いわね。でもそう言うの嫌いじゃないわ。氷柱!」
女性の手のひらから氷の槍が複数生成されユーフィに向かって放たれる。
「え? ちょっ……避難させてくれ! うおあああああ!?」
ドカーン! という音と共に吹き荒れる強い風と白い煙。そんな中、アレスは全力で彼女達から距離をとった。




