第49話 村に巣食う魔物
鍛冶屋を出た俺とフィアスはすぐに山へと向かう。
ペルシナさんの話によると魔物は山から降りてきた。ならそこに親玉がいるはずだ。
走っていると、向かっている方から何やら騒がしい声が聞こえる。
どうやら村と山をつなぐ山道辺りの方から聞こえる。
「急ぐぞフィアス」
「うん」
俺とフィアスは走るペースを上げた。
ガキンガキンッガキィン! 激しくぶつかり合う音が鳴り響く。
その音を聞きつつ、山道へとたどり着く。
「こいつか……ん? 誰か戦っている……?」
続いて俺とフィアスもたどり着く。
「何が起きてるんだ? ……って、あれは……」
呟く俺にあっとフィアスが声を上げる。
「あ! あれは!」
2人の視線の先にはーー、
噴水近くに体長10m近くありそうな紫色の巨大蜘蛛とその子分達。そしてーー、
「クソっ! こいつ、糸吐きすぎて近寄れねぇ!」
そう吐き捨て、なんとか盾で敵の攻撃を防ぎつつ隙を探す赤髪の少年と、
「気合いで耐えるのよアレス! その間にあたしが高火力の拳でぶっ飛ばすわ!」
そう言い、拳に炎を纏わせていく赤い髪色をしたポニーテールの少女。
「無茶苦茶過ぎるわ! 第一それはやめろ! 山火事になるぞ!」
見覚えのある2人。
「っ! ユーフィ! アレス!」
すると、俺の声に2人はこっちを向いて驚きの声をあげた。
「和樹!? どうしてここに……!」
「ちょうどいいわ和樹! それとそこの女の子! 手を貸して!」
話は後ってことだな。
「行きましょう和樹さん」
双剣を両手に持つフィアス。
「そうだな、行くか!」
俺もアーリーの剣を持ち、フィアスと共に2人の元へ向かった。
「シールドバッシュ!」
アレスは巨大蜘蛛に向けて猛突進する。だが、子グモであるアラーネがボスを守ろうと数匹目の前に飛び出してくる。
ガンガンッ! 子グモがぶつかり、突進するスピードが落ちる。
「くそっ! うおっ!?」
いつのまにか盾を乗り越た巨大蜘蛛、アラネモがアレスに向かって糸を吐く。
糸を被ると移動スピード、スキルの使用スピードがガクッと落ちる。
アレスがもがいている隙にアラネモが口を開け、アレスに覆い被さろうとする。
だが、
「そこをどけ!」
子グモの攻撃を掻い潜り、アーリーの剣腹で勢いよくアラネモの胴を殴る。
「ギギギッ!?」
盾にぶっ飛ばされるとは思っていなかったアラネモは5メートル横にぶっ飛ばされる。
「和樹!」
「話は後だ! まずはこいつを片付けるぞ!」
「っ……あぁ!」
「炎舞!」
拳に炎を纏わせたユーフィは子グモを力任せに殴りつける。
「ギイイイイィ!」
体に火がついた子グモはその場でのたうちまわる。
ユーフィは辺りを見渡す。子グモの数、約50匹。しかも親玉のアラネモは戦いながらも定期的に子グモを召喚している。
「きりがないわね……っ!?」
その時、頭上から飛びかかろうとする子グモが2匹。だが、空中で水に当たり、彼らの攻撃は失敗した。
「弾けろ……水の泡!」
フィアスが水属性魔法を剣先から放つ。
「ユーフィ、大丈夫か?」
その間に和樹がユーフィの側に駆けつける。
「えぇ、アレスのおかげでなんとかね。ただあの親玉が定期的に子供を召喚するせいでなかなか親玉に近づけないし近づけても他の子グモに守られるわ」
「分かった。なら子グモは俺とフィアスで出来るだけ引きつける! その間にユーフィはあの親玉を倒してくれ」
「了解よ!」
「麗しき水よ、我が元に集え! 水流波!」
フィアスが自身の周囲から滝のような水を生成し、子グモを押し流していく。
そして俺とユーフィはフィアスが作り出した波に飲まれぬよう近くの建物から瓦の屋根に登る。
「って、おい! それはきついって!?」
後ろから波が押し寄せてきて焦るアレス。咄嗟に建物の近くにある街灯をよじ登り、避難する。
「屋根の上も召喚の対象か……」
俺とユーフィは屋根の上で5体の子グモと対峙している。
どうやらフィアスが出す波の上に召喚することは諦めたようだ。あ、ちなみにその子グモは街に行く心配はない。近くに崖があるのだが、そこに向かってフィアスが波を操作して流しているから。とりあえず子グモ達は溺死か落下死でお亡くなりというわけだ。
「こんなやつ、さっさと燃やしちゃいましょ」
「待て待て! そんなことしたら俺らがいるこの屋根も燃えるぞ!」
「……そ、そうね」
さすがにここで使うのはまずいと分かったのか、ユーフィは拳に付与した炎をおさめる。
だが、こうしている間にも子グモは俺たちの方へ近づいてくる。
「土よ、槍となれ。地槍飛」
土で槍を生成し、子グモ達にぶっ放す。彼らに避ける脳はなく、次々と直撃し、流れる波へと飲まれていく。
「みんな離れて!」
そう言うとユーフィは拳に炎を纏わせようと意識を集中させる。
となれば俺の役目は未だに屋根に召喚される子グモを倒すことだ。
しばらく子グモを倒したり波に突き落としたりしているとーー、
「っ! 出来たわ!」
「いけ! ユーフィ!」
ユーフィの声にアレスが叫ぶ。
次の瞬間、屋根にいたユーフィはタンっ! とジャンプした。その姿はとても優雅でスローモーションで流れているように見える。そんな彼女の右拳にはこれまでに見たことのない大きさの炎がメラメラと燃え盛っている。俺なら絶対火傷するぐらいに。
「爆裂火炎拳!」
飛び降りる落下速度で更にユーフィの拳が燃え盛る。火属性の適正があるからこそ成せる技だ。普通の人がやればとっくに火傷している。
「キギイイィッ!?」
顔をあげ、奇声をあげるアラネモ。糸を吐こうにもすでにアレスに顔面をボコボコにされ、出すことが出来ない。
アラネモの赤い目の上にユーフィの燃え盛る拳が触れた次の瞬間、ドッカアアアァンッ! という音を立て、辺り一帯に灰色の煙が立ち込めた。
「ぐ……」
目を覚ますと、俺は地面に倒れ伏していた。どうやら爆風で屋根から落ちたようだ。
辺りはまだ煙が立ち込めていて視界が悪い。
なんとか立ち上がり、みんなを探す。
辺りを見渡すと近くにフィアスが倒れているのを見つけた。頰が黒く、綺麗な顔が台無しだ。
「ん……和樹さん?」
「大丈夫か? フィアス」
俺は彼女に手を差し伸べる。すると、フィアスは顔を少し赤くし、遠慮がちに俺の手を掴んだ。
「っ……よし」
フィアスを立たせ、他の人を探し歩く。
すると噴水の近くで安らかに眠るユーフィとアレスを発見した。全員無事のようだ。
「ユーフィ、アレス。起きろ」
順番に体を揺すり、起こしていく。2人とも直ぐに目を覚ます。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「なんとかね……」
「とりあえず話は戻ってから……」
突如、全身に気だるさと立ちくらみを感じた。前にもあったような……まさかこれ……
その直後、俺の視界は真っ暗になった。




