第36話 異常、異質な者
「っ……なんであの子に繋がらないの!?」
未来神ルミは激しく動揺していた。以前、彼が報告したあの時までは何度も繋がっていた。
これまで彼女は話の中で和樹が見たものや報告してきたものをまるで自分が見たかのように自身の脳裏に映像として映し出し、ある程度だがこれから起きる未来を見通してきた。
だが、今は何故か繋がらない。何度も呼びかけるが彼に繋がらない。更に運の悪いことに未来を見通す力を使う際、何故か映像に黒い影が移り、未来の状況がよく見えないのだ。
「……まさかあの時の少年のせい?」
分からないがそれしか考えられない。まずい。このままでは彼やあの子を見つけることがーー、
その時、偶然にもルミの脳裏にある未来が映った。それも、力を使用していないにもかかわらず。
……少女が真っ暗な空間にただ1人だけぽつんと立っている。その顔にはルミの知っている友人の面影があった。
「っ……! ルーシャ!」
思わず友人の名を呼ぶ。だが、少女は何も答えない。
次の瞬間、少女の身体が紫色に輝き出しーー、
「っ!」
そこで脳裏に浮かぶ映像は途切れた。
あれは間違いなく……
だが、自分は神であるがゆえにもうこれ以上干渉するのはまずい。警告はすでに一度きている。これ以上はいつ追放されてもおかしくない状況だ。
「それでもっ……! 私は……」
神としてか、はたまた友人としてか。彼女がどちらを選んだのか……
ただ1つだけ分かること。それはーー、
この日、天界から彼女の姿が消えたことだ。
「何? 捕らえられなかった?」
「すまない」
「……まぁいい、ならお前は補佐役でついてこい。わしがじきじきに出向こうではないか」
「……なんだそれは?」
アデンの視線の先には巨大な昆虫がいた。爪は熊のように鋭く、口には牙のようなもの、頭には角が生えており、その身体は鋼鉄のようなもので出来ており、更にその上は体毛で覆われていた。
一見昆虫に見えるがその原型はほとんど留めていない。
バルサは腰に手を当てながら言う。
「ほっほっほ! これはゴーレムを作っていた時の残りの材料と鉄を使って作り上げたわしの現時点での最高傑作じゃ!これならもしきゃつらに対抗されようとも負けはせん! 必ず手に入れてやるぞぉ……ほっほっほ! さぁ行くぞアデン!」
「承知した」
バルサは昆虫の中に乗り込み、アデンはその昆虫の背に乗った。
ランチェルのフラッシュの後、目を開けると男は白目を剥いて倒れていた。どうやら至近距離で食らった光に気絶したようだ。
「他の奴らもみんな気絶しているようだな」
レフールさんが辺りを見回す。この男達は少し離れた先にちらばっている3人と目の前にいるリーダー格の男で全員のようだ。
「あ、あの……」
小さな声に振り向くと赤い髪の少女が立っていた。さっき男達に襲われて泣いていたからかその頰は濡れている。
「さっきは助けていただいてその、ありがとうございます」
「っ……」
丁寧にお辞儀する少女に思わず返事しようとするのを寸前で堪えた。今の俺は見た目は女装しているおかげで女の子だが声は男のままだ。さっきのこともあるから下手に出して怖がらせるわけにはいかない。
俺はせめてものと右手を上げ、小さく微笑んだ。
「『どういたしまして』って言ってるな」
と、ここでレフールさんの助け舟が入る。グッジョブ!
無難に終わりそうだと思ったその時ーー、
「あれ……? あなたは……」
金髪の少女と目が合ってしまった。向こうは俺のことを知……って、今朝俺を助けてくれた子じゃん!? なんでここに……
頼む、今ここで言われるとそこの赤い髪と青い髪の女の子に警戒される。言わないでくれーー、
「フェーネ、この人と知り合いなの?」
青い髪の少女が金髪の少女に問う。
するとフェーネと呼ばれた少女はしばらく俺の顔を見て小さく微笑み、頷いた。どうやら何か事情があると察したようだ。
「いえ。どうやら人違いみたいです。それより私達を助けていただきありがとうございました」
「ありがとうございます」
フェーネに続き、青い髪の少女もお辞儀する。
「どういたしまして。あんた達の名前を聞きたいところだけどひとまずここから逃げよう。ここに長くいるのは危険だ。あ、こいつらのことは先ほどナルメド王国の警備達に連絡したから大丈夫だ」
レフールさんがテキパキと話を進める。ほんとこの人がいて良かった……
俺は黙ってついていくとするか。そう思った次の瞬間、遠くから騒音が鳴り響いた。それと同時に地面も揺れ始める。
「「きゃっ!」」
「なんだ!?」
やがて騒音が最大になり、その音の主は木を張り倒して俺達の前に姿を現した。
大量の体毛に覆われ、手には鋭い爪、そして頭には鋭利な角がついている。
「巨大なカブトムシ……いや、動物?」
「なんでこんなでかいのがここに……?しかも機械だと……?」
俺の言葉にレフールさんがあっけにとられたような表情で呟く。
「むぅ!? その声はレフールか!?」
途端、巨大な何か……カブトムシでいいか。そのカブトムシ型の機械がレフールさんの声に反応した。ん? この鋭い声どこかで聞いたような……
「そういうお前はバルサか!? 収穫祭を荒らした犯罪者がこんなところで何をしている!?」
「犯罪者だと!? わしを馬鹿にするでない! あれはわしのせいではない!」
どこかで聞いた声だと思ったらあのハゲ鷹爺さんだった。中からマイクのような声が響き渡るにどうやら巨大な何かは機械で出来ているようだ。それにしてもでかい。体長7、8メートルくらいだろうか。
「と、そんなことを言っている場合じゃなかったな。む? そこにいるのはエルフではないか?」
ハゲ鷹爺さんが目ざとく3人のエルフを見つける。
「おほぉ!? いたぞおおおお! エルフううう!」
ハゲ鷹爺さんの声に赤い髪の子が慌てふためく。
「ふぇっ……? え? わ、私達?」
「そうだ! お前さん達じゃ! ついてきてもらうぞおおあおぉ!」
次の瞬間、カブトムシの口から触覚のようなものが飛び出し、金髪の少女に襲いかかる。
「きゃっ……!」
「大いなる風よ! 暴風!」
レフールさんの手のひらから突風が巻き起こり、カブトムシ機へと襲いかかる。
「ぬおっ!?」
その突風で僅かだがカブトムシ機の態勢が崩れ、射程がずれる。
「この変態ロリコンめ! 相変わらずのようだな!」
「うるさい! わしより才が劣る貴様がつべこべ言うな!」
僅かに崩しただけのため、カブトムシ機はすぐに態勢を立て直した。
「和樹! このエロじじいの相手はあたしがする! お前はその子達を連れて逃げろ!」
「分かった!」
俺はすぐに3人のエルフ達の元に駆け寄る。
「あ、あのどうして……」
金髪の子が何か言おうとする。
「話は後だ。とりあえず今あの人が引きつけている間に逃げるぞ!」
逃げ道を振り返ったその時、
目の前に赤黒いコートを羽織った男が道を塞ぐようにして立っていた。
「っ……!?」
俺は思わず一歩後ろへ下がった。なぜか。それは危険から少しでも逃れようとする本能だったかもしれない。その男がとても普通じゃない、人間じゃないように感じられたからだ。




