第35話 女装、助け
「くそ……どういうことだ?」
アデンは思わず顔をしかめた。街を行き交ううちの1人のエルフに狙いを定め、連れ去ろうとした。
だがエルフに触れる直前、バチッ! という音が鳴り、それ以上近づけなくなるのだ。まるでそこに結界があるかのように。
「……ひとまず戻るか」
アデンは踵を返し、バルサ博士のいる森の中へと入った。
アデンが森へと入る中、そんな彼を木の上から目で追う者がいた。
肩まで伸びた鮮やかな紅色の髪にキリッとした目。背中には剣を担ぎ、腕を組みながら見下ろす女性。そんな彼女からは竜さえ凌駕してしまいそうな圧倒的な強さを感じる。
「……この世界も見ない間に物騒になったわねぇ」
そう呟くと彼女はこの場を去った。
「……で、レフールさん具体的に何をするんですか?」
「ん? 何をって、バルサを捕まえるに決まってるだろ?」
そう言いつつ、今いる森の中で木の枝や茂み、地面などに網や縄などを仕掛けている。あっ、さっきレフールさんが念話に使っていた蝶も手伝ってる。
「もしかして罠、ですか?」
すると、レフールさんはそうだといわんばかりに胸を張る。
「おぉ気づいたか。そのまさかだ! 古典的かもしれないがそこは気にするな」
「あ、はい……」
あのハゲ鷹爺さんを捕まえるんだろうなーっていうのは分かってたけどやり方がほんと古典的……
「本当にこれで捕まえられるんですか?」
言っちゃあ悪いけど正直こんな子供っぽい罠に捕まえられるとは思えな……
「大いなる自然よ……悪しき者を捕らえるべくかの道具達に力を。風充電」
レフールさんが近くの木に手を添え、魔法を唱える。
と、次の瞬間辺りに風が吹き、レフールさんの髪をなびかせる。
同時に手のひらから緑色のオーラが溢れ出し、木に伝わり、そこから更に先ほど張り巡らした網や縄などに染み込んでいく。
「もちろん、ただの罠じゃない。あたしがここで研究して手に入れた知識や魔法を使って奴を捕える! 子供っぽい罠に見えるけど結構期待していいぞ」
すいません。子供っぽいとか思ってました。
「あれ? 俺の役目はなんですか?」
ふとそのことに気がつき、聞いてみる。
「ん? あー、それはな……」
数十分後、俺はなぜかひらひらのスカートを履いていた。
……って、
「なんで俺が女装しなくちゃいけねぇんだ!?」
「ぷっ! あはははは!」
長い髪のヅラにばっちりメイクされた顔。白いタイツのようなものに女の子が履くようなピンク色の靴。そしておまけなのか胸にはブラをつけ、少々の膨らみが出来ている。あとフリフリのスカートまで履かせられている。まるでお人形さんだ。
そして俺をこんな格好にさせた張本人であるレフールさんがゲラゲラと地面で笑い転げている。なんかイラッとくる……
「いやぁ、ぷっ……すまん。割と似合ってて。ほらお前も見てみろよ……ぷっ」
なんとか笑いをこらえようとするレフールさんから手鏡を渡される。
見るとそこには金髪の髪をした少女が。あれ? 割と可愛い。って、そうじゃねぇ!
「俺は一体今から何をさせられるんですか!?」
するとレフールさんは急に笑うのをやめーー、
「ん? 餌だよ」
真顔で言う。へ?
「あの、よく分からない……「バルサをおびき寄せるための餌だよ」えっ!?」
「そりゃあそうだろ。あいつがここを通らないと意味ないんだからさ」
「いやいやいや!? それならレフールさんが自ら……」
「残念だがあたしはもう二度とあいつの顔を見たくない。諦めな」
レフールさんの口調的にどうやら会った事があるようだ。あのハゲ鷹爺さん何やったんだ……
「……はぁ。分かりましたやりますよ……」
半端投げやりに答えたその時だった。
『あっ……! そっ……いっちゃ……め!』
どこかから少女の叫び声が微かに聞こえた。
俺とレフールさんは思わず顔を見合わせた。
「いくぞ和樹! バルサの仕業かもしれん!」
「分かりました!」
俺達は急いで声がした方へと走り出した。
油断していた。
青い髪のエルフ、サファイヤと赤い髪のエルフ、ルビィ。そして私、フェーネの3人はいつものように森に入り、果実や水を汲んでいた。そこは盗賊や冒険者達も知らない特別な道だったため、安全は確かなものだった。けど帰り道、私達はその安全な道から外れた。
理由はその外れた道から何か鳴き声が聞こえてきたからだ。
行くとそこには小さな竜がいた。緑色の鱗に碧眼の目。お尻には小さな尻尾があり、背中には可愛らしい羽根が生えている。
けどその小さな竜の様子がおかしかった。怪我をしていた。けど、近くに親の姿はなく、到底助けがくるとは思えなかった。この子はたった1人で暮らしている。このまま放っておくと死んでしまうかもしれない。そんな気がした私達はこの子を手に抱き抱えた。
その時、突然男の人達が茂みから現れた。そこでようやくこれは罠だったということに気づいた。
私達は急いで逃げ出した。小さな竜を抱えて。私達をおびき寄せる餌だったとはいえこの子を傷つけた人達の元に放っておくわけにはいかないと思った。
到底抱えては逃げきれず、あっという間に男の人達に囲まれた。
相手は4人。みんな剣や斧のような武器を持っていて怖い。サファイヤは男達を睨みつけ、ルビィは恐怖のあまり涙を流していた。
「へへ、なかなかの上玉だな。どのエルフからやろうか」
「兄貴、俺らのことも考えて下さいよ」
「分かってるって! まずはーー、お前だ!」
そう言い、男の乱暴な手が私の首を掴もうとした。
私は思わず目をつぶった。けれど男の乱暴な手はこなかった。
なぜなら小さな竜が男の腕に噛み付いていたから。
「いってえええええぇ! なんだこいつ!」
「あっ、ダメ! そっちにいっちゃダメ!」
けれど小さな竜は怒りに満ちた目で男の腕を噛み続ける。
「あ、兄貴!」
「おいクルゥ! 早くこいつを殺せ!もうこいつは用済みだ!」
「へい!」
「やめてぇーーー!」
私が叫んだ次の瞬間、男の人達の背後から2人の人影が現れた。
そのうち1人は今日私が出会った男の子だった。
「大いなる風よ……暴風!」
レフールさんが茂みの近くにいた男2人に風魔法で不意打ちを仕掛ける。
「「ぎゃああああああっ!?」」
男2人はあっという間に空高くへと吹っ飛ばされる。
「なんだこいつら!?」
「アーリーを召喚! アーリー、地槍投!」
『了解!』
驚いている男の背後でカードからアーリーを召喚し、アーリーに指示する。
「なんだこいつ!? ぐおあああああっ!」
アーリーに足元の地面をえぐられ、遠くへ吹っ飛ばされた。
「お前ら何者だ!」
1人残ったリーダー格らしき男が剣をこちらに向ける。
それを見たレフールさんはドヤ顔で言った。
「っ。通りすがりの者だ!」
「っ……! くそう! いつまでも噛み付いてくんなこのクソ竜!」
男は竜を下に向けて自分の腕を竜諸共地面に叩きつけた。鈍い音が響き渡る。
「ギャ!」
「もうやめて! その子にこれ以上怪我をさせないでーーひゃっ!?」
「へへっ、これで俺はひとまず安全だ」
男は金髪の少女を羽交い締めにし、その首に剣を突きつけた。
「人質をとるとは卑怯な奴め……」
「誰も動くなよ? 動いたらこいつが死ぬぜ。おっと、お前もだ小さい奴」
リーダー格の男は地面を靴でトントンと叩く。
『主、申し訳ない。バレてしまいました』
『大丈夫だアーリー、まだ手はある』
「おいお前ら! こいつを死なせたくなきゃ今から俺の言うことを聞け!」
男がそう言っている間に俺は脳内であいつを思い浮かべる。
『ランチェルを召喚!』
俺の前にランチェルが姿を現わす。
『チェル!』
『ランチェル、あの男の目にフラッシュだ』
『チェルッ!』
「そこのお前、何をしている! な、なんだこいつは!?」
男はランチェルを見て驚いている。
「他のみんなは目をつぶれ!」
そう言い俺も目を閉じる。当然警戒した男も目を閉じるだろうが問題ない。
「おいっ……やめ、目を開け……ぐああああーーーー!」
ランチェルが目をこじ開けてフラッシュするからな。実はこれ、割とえぐい。




