第34話 アイテムボックス
黒いハットの帽子をかぶった少女のおかげで好奇の目から逃れられた俺は目的を果たすべく、パサラン博士の妹さんの家を訪ねていた。
「パサラン博士に頼まれてこちらに参りました。和樹です。えと、レフールさんいらっしゃいますか?」
俺はパサラン博士に教えてもらった家の前で妹さんの名前を呼ぶ。
が、返事はない。留守か?
ふとドアを見る。するとほんの少しだが扉が開いていることに気づいた。開けっ放しか……いや、もしかしたら何かあったのかもしれない。音信不通って言ってたし。
「……よし」
俺は勇気を振り絞り、レフールさんの家に入ることにした。これ絶対不法侵入だよな。まぁ、後で説明すればなんとかなる、よな?
「……お邪魔しまーす」
周りに誰もいないことを確認し、ゆっくりと扉を開ける。
恐る恐る中へ入り、扉を閉める。視界が真っ暗になる。明かりがついていないから当然だが。
暗闇に慣れ始めると、廊下が奥まで続いているのがうっすらと見えた。それを機に、一足、また一足と足を進める。
「レフールさん、いるなら返事して下さい」
だが、返事はない。本当に留守なのか? いや、でも鍵が開いていたからそれはないかーー、
「っ!? レフールさん!?」
部屋へたどり着き、中へ入る。
するとそこにはとても女の人が住んでいるような部屋だとは到底思えないものだった。
あちこちに散らかった缶ビールや弁当の山、ぽいっと放置されてからどのくらい経ったのか分からないような衣類、大量の書類など様々な物がこの部屋に散乱していた。もはや混沌の部屋とでも呼ぶべきか。
そしてその奥にあるテーブルに1人の女性が突っ伏していたのだ。
俺は慌てて彼女に駆け寄り、体を揺する。
「大丈夫ですか! レフールさん! しっかりしてください!」
と、とりあえずここからどうすればいいんだ!? まさかこうなっているとは思わなかった俺はまさに今、物凄く同様していた。
そうだ、助けを……って、見ず知らずの人に話しかけるとかそれもエルフとか難易度高ぇ!
頭を抱えているとーー、
「むにゃ……?」
「へ?」
女性の髪……アホ毛がピクンと動いた。それと同時にうめき声も聞こえた。
次の瞬間、ぱちっと女性の目が開き、俺と目が合う。
そして見つめーー、
「誰だ!?」
「っ!?」
見つめ合うことなどなく、女性は物凄い速さで俺に飛びかかり、はっ倒してきた。
予想外の力の強さに俺はあっという間に地面に張り倒された。
「え……?」
あっという間の出来事にぽかんと口を開ける俺。対して女性は俺のことを睨みつけてくる。
「……もう一度言う。誰だお前は。場合によってはーー」
「わあぁ! 誤解です! 俺はパサラン博士に頼まれてあなたの元へやってきた者です!」
「パサラン博士……姉さんの知り合いか?」
その後、女性が何やら蝶のような虫と念話のようなものをし、なんとか誤解は解けた。
「はぁっ!? この男の子にクエスト出したからその報酬はあたしが払えだと!?何を勝手に……! あっ、ちょ! っ……」
会話を聞くに相手はパサラン博士だ。すげぇな、あぁいうことも出来るのか。
やがて女性はため息をつくと俺の方を振り向いた。
「……急に張り倒してすまなかった。あたしはレフール・クラリス。ここでこの森に住む生物達や自然を研究している。知ってると思うがあたしとラン姉は姉妹だ。わざわざこんなところまで来てくれてありがとな。最近色々とやることが多くて睡眠もとれず、連絡も取り忘れてたんだ。これは報酬だ」
そう言い、俺に渡してきた。見ると銀貨8枚だった。
「え? こんなに……」
「いいよ。あたしからのおまけだから貰っとけ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は銀貨を白金貨が入っている袋に入れた。
「ん? お前、もしかしてアイテムボックスとかないのか?」
「アイテムボックス? もしかして、あの空間の中に収納できる箱みたいなもののことですか?」
まさかそんな便利なものあるわけ……
「そう! それだ! ないならあたしが作ってやるぞ」
「へ……?」
あるのかい! んでもって作れるのかよ!?
「役目……収納。容量、100種類まで……よし、出来たぞ」
そう言い、俺の前に差し出してきた。何やら透明な箱がうっすらと見える。これがアイテムボックスかぁ。
「魔力を流してみな。手をアイテムボックスにかざせ」
レフールさんの言う通りにする。
「んでさっき自分で決めた言葉を使いな」
「オープン」
すると透明な箱の中身の空間がぐわんと歪み、真っ暗な円が現れた。
そこに先ほど報酬で貰った銀貨と白金貨を円の中へと放り込む。
「一緒に放り込んでも種類はきちんと分かれてるから安心しな。あと、取り出す時はその物の名前を言いながら手を突っ込めばそれが手に掴める。閉じる時も同じように自分で決めた言葉を使いな」
「クローズ」
途端、真っ暗な円が歪み、再び透明な箱しか見えなくなった。
「アイテムボックスは手に持たなくてもあくまで空間にあるから運ばずに済んで便利だぞ」
つまり、ゲームで言う画面にあるような感じか。これは便利だな。カードも今使えるもの以外はここにしまっておくか。
「ありがとうございます」
「いいってことよ。お前のおかげで大事な話を聞くのが遅れずに済んだしな」
次の瞬間、レフールさんはしまったという風な顔をした。
「……って、お前は当事者だから問題ないか」
「何かあったんですか?」
「あぁ、さっき大事な話って言ったのがそれだ。ナルメド収穫祭でゴーレムが暴れたの知ってるよな?」
「はい」
「それについて2つある。1つ目はそのゴーレムを解体したんだが中に奇妙な欠片が混じっててな」
「紫色の、ですか?」
「もう聞いてるなら話は早い。そのことが1つ目だ。2つ目。これが大問題だ。バルサが逃亡中だということだ。しかも今はこの森にいる可能性が高いらしい」
レフールさんは顔をしかめながら話す。あのハゲ鷹爺さんまだ逃げてたのか……
「奴はな、顔や性格はドスケベな最低野郎だ。小さい子から大人の女性まで幅広くジロジロと舐め回すように見てくるまさにクズと言ってもいいくらいだ」
つまり女好きでロリコンと。
「だが、奴にはそこそこ優秀な知能と技量、そして圧倒的しぶとさがある」
「つまり、ここで何か仕掛けてくるかもしれないから危ないと?」
「そうだ。お前理解早いな」
そう言い俺の頭をガシガシと撫でるレフールさん。この人、さっきから思ってたけど男勝りだな。見た目は美人だけど。
「まぁ、ここはエルフの森だからあまり表立って行動することは出来ないはずだがな」
「え? そうなんですか?」
「あぁ、ここは他の国と違ってあまり他国と交流をしないしなにより盗賊や奴隷目的の奴らがここにいるエルフを連れ去ることもあるから他族に対して警戒がある。特に男にはな」
そういえばお前はどうやってここまで来たんだ? とレフールさんに言われ、俺はここに来るまでの経緯も含めて話した。
「っ……! お前相当運がいいな。普通は逃げられて当然だぞ」
そうなのか。それにしてもあの子可愛かったな。礼も言いたいし、出来ればまた会いたいところだ。
「そういえばまだお前の名前を聞いてなかったな。名前はなんだ?」
「和樹。斎藤和樹です」
「そうか。なら和樹、お前これから用事あるか?」
「いや、特にないけど……」
しまった! と思った時には既に遅かった。レフールさんが何か企んだ表情で俺を見ていたからだ。
「よし、ならちょっと手を貸せ和樹。話がある」
あー、これ絶対ロクなことにならないやつだ……




