第33話 木洩れ日の道に潜む影
エルフの森メルザナ。
そこはたくさんの自然に満ち溢れる森だった。
辺りはたくさんの木々や草花が生い茂っており、鳥や昆虫、動物達の鳴き声があちこちから飛び交う。
道中、大きな水辺や果実のなった木々を見かける。ここの生き物達は水や食べ物に困ることなく優雅に暮らしているようだ。
争いの様子もなく、平和な森だ。
そんな中、俺は生い茂った草だらけの道から木洩れ日のが差し込む道を見つけ、そこを歩いている。
そうそう、あの鳥の魔物についてだが、アーリーやランチェル達の把握もかねて昨日の夜召喚をおこなった。
ざっとまとめるとこんな感じだ。
No.1アーリー
属性:地
タイプ:虫
能力:地属性魔法
トレーススキル:武装展開(剣)
No.2ランチェル
属性:光
タイプ:鋼
能力:フラッシュ、ホーリーライト
トレーススキル:不明
No.3ギロ
属性:無
タイプ:鳥
能力:攻撃無効化(一日一度きり+一定のダメージまで無効化)
トレーススキル:不明
アーリー以外、トレーススキルが不明だが、恐らくこれはランチェルとギロが召喚してからあまり日が経っていないのと、彼らとあまり打ち解けて居なかったのが原因だろう。このままではまずいと思って昨日召喚したのだがやっておいて正解だった。
このままだとアーリー以外の情報があまり分からず、いざという時に困るからな。
アーリーいわく、どうやら属性だけでなくタイプによる相性もあるらしい。例えば攻撃したのが火属性でそいつが虫に対して虫殺をもっていたとして、受ける側が地属性の虫タイプだった場合、攻撃側の火力が上がる。つまり、受ける側のダメージが跳ね上がるということだ。
属性相性による被ダメ率は相性抜群だと二倍、悪いと0.5倍と、だいたいこれくらいの被ダメージになるらしい。
ちなみにタイプ相性による被ダメ率は相性抜群だと三倍、悪いと通常の被ダメの0.5倍らしい。とまぁこんな感じだ。まだまだ知らないことが多いがそれはおいおい勉強していこう。
んで現在にいたるのだが博士から貰った地図を見るに北には先程通ってきたナルメド王国。西にはここからだと見えないがヴェスト高山、東から南東にかけてはピッチビーチという海岸、そしてこの森を抜け、南へ進むとまた別の国へと繋がるようだ。
上から下へ降りて行く感じに進んでいると言ったほうがいいだろうか。
それにしても長い。森の中心にエルフ達の移住区があり、そこに妹もいるはずだとパサラン博士は言っていたがその道中が長い! もう2時間も歩いてるぞ!
え? もしかして少ない? こんなの当たり前なのか……?
くそぅ。まぁ何もしないよりはいいか。報酬もあるし。
おっ、何やらこの先の奥が明るい。もうすぐでこの木洩れ日の道を抜けるってことか?
そう思っていた時だった。
ガサ……
「ん?」
少し歩いた先の道の脇にある草むらが少し揺れた気がする。
何かいるのか?
そう思っているとそいつはバッ! と俺の前に姿を現した。
「キギィ……ッ!」
花だ。それもヒマワリのような明るく黄色い花。
だが、どこか様子が、おかしい。
花の魔物がいても不思議ではないのは分かっているがそれでもどこか変だ。
身体の茎や葉はボロボロ、花びらもいくつか散っており、顔もボロボロ。そして表情は暗く、口から唾液のようなものを垂らしている。苦しそうだ。
すると次の瞬間、花の魔物は口から黒い煙を吐き出した。
「何だこれ!?」
黒い煙は地面を伝い、俺の元へと近づいていく。
「っ! ランチェルを召喚!」
俺はポケットからカードを取り出し、唱える。
するととカードの中からオレンジ色の煙が噴き出し、その中からランプの形をした魔物が姿を現す。
「チェルゥッ!」
「ランチェル、フラッシュだ!」
「チェル!」
ランチェルは返事すると花の魔物に向かって光を放った。
「ギエエエェッ……」
途端、煙を吐き出していた花の魔物がうめきごえをあげた。
そしてみるみるうちに身体は茎から枯れていき、1分と経たないうちに廃棄物と化した。
「……どういうことだ?」
黒い煙を吐き出すからランチェルの光で追い払おうとしただけなのに花の魔物はその光を浴びて枯れていった。
この時、俺はどこかこの森の様子がおかしいと感じていた。
気を紛らわすために俺はカードを見る。3枚目のカードはすでにシルエットが剥がれており、鶴のイラストが描かれていた。
名前はギロ。理由は昨日の出来事からついた。
☆☆☆
この森に来る前日、俺は宿屋で3枚目の魔物を召喚した。名前はアーリー達も知らないため、
「カードに描かれし者よ……我に力を。召喚」
と、若干アレンジした厨二病のセリフになってしまった。
途端、魔法陣が出現し、灰色の煙が吹き出す。やがてその中から鳥の魔物が現れる。
「っ、また呼び出してすまんな。ちょっと聞きたいことがあったんだ」
すると、鳥の魔物は……
ギロリ。
「ひっ……」
まるでヤンキーのような目で俺を見てくる。どう話そうか迷っていると、
「……主」
「は、はい!」
って、あれ? ダメもとで念話を試してみたがこれは念話じゃない。普通に俺に言ってる。どういうことだ?
「私に名前を付けて欲しい。他の子みたいに」
「へ?」
カツアゲされると思っていた俺は拍子抜けした。いや、まぁ普通主にそんなこと出来ないんだけど。
「名前か……」
その時、ふと先程の鶴の目を思い出す。
「……ギロ。ていうのはどう、だ?」
恐る恐る言う。
「……ん、ギロ。了解した」
え? いいの?
「それで聞きたいことって?」
「あ、あぁそれなんだが……」
話をすっ飛ばされ、戸惑いつつもギロに聞いてみる。
「あの時、ギロは自分から出てきたよな? まだシルエットの状態だったし、どうやって出てきたのかなーって」
するとギロは首を傾げる。うーん、目元が怖いせいからか……? 考えてる時も睨んでるように見えるぞ。
「……分からない。けど、主の声が聞こえてきたから飛び出した。私は防御系の技が使えるから」
「なるほど。ありがとなギロ」
「ん」
ギロがあまり感情豊かじゃないせいか結構淡白な会話だ。それでも不思議と俺は嫌じゃなかった。ちょっと怖いけど。
それにしてもこの召喚術は不思議だ。ランチェルに感じてもだが念話は直ぐにできるようになるしギロに関しては直接会話が出来る。
魔物によるのか、もしくは俺のレベルが誰とでも念話、会話出来るレベルに達したか。そのどちらかだな。次のカードには尻尾がついた動物のイラストが描かれている。今度試してみるか。
☆☆☆
ふと昨日のことを思い出しているといつの間にか木洩れ日の光が射す道を抜ける直前だった。
「……っ!」
灰色の石畳を明るく照らす太陽。真っ白な石で造られた噴水。赤いレンガや大木で建築された家やお店などの建物。そしてそんな建物が並んだ道を行き交う人々。
間違いない。ここが博士の言っていた移住区だ。
おっ、長い耳の人達がたくさん歩いているぞ。あれがエルフか。
初めて見たけど耳が長いこと以外は俺みたいな人間とほとんど変わらないんだな。
一度見てみたいと思っていたものを生で見れて俺は少し感動していた。
その時だった。
「ねぇ、あれ……」
「本当だ、エルフじゃない……」
……何やら行き交うエルフの人達が俺をジロジロと見てくるんだが……
興味深そうに見てくるエルフ。なにやら怯えた様子で見てくるエルフ。様々だがあまり歓迎されているようには見えない。
「……まずいな」
俺がそう呟いた次の瞬間、俺の頭に何かが被さるような違和感を感じた。帽子だ。
「え?……っ」
思わず後ろを振り向くと、視界に入ったものに目を奪われた。
それくらい、視界に入ったものが綺麗だったから。
胸元にダイヤモンドのような宝石がついた純白のドレスを着て、頭には白いリボンがついた黒いハットの帽子をかぶっている。
金色のロングヘヤに青く輝く瞳。そしてツンと尖った耳。
「危ないですよ、迷い人さん。ここはもうエルフの人達が行き交う待ちなんですから耳を隠さないと」
そう言い、右目をウィンクさせる少女。
「あ、あぁ……ありがとう」
あまりの可愛さに動揺する俺。やば。こんなに可愛い子が異世界にはいるんだな……
「またね、迷い人さん」
そして少女は笑顔でそう言い、走り去っていった。対して俺はその様子をぼうっと見つめるのであった。
「……って、なにやってんだ俺」
頭をガシガシとかく。見惚れている場合ではない。俺は俺でやるべきことがあるのだから。
その頃、移住区から離れた深い森の中に2人の男がいた。
「どうだ? “あれ”の開発の調子は」
赤黒いコートを着た男がまるでハゲ鷹を連想させるような男に問いかける。
「ほっほっほ、いずれも順調ですな。それもあなたのおかげですぞアデン」
バルサは顎を撫でながらアデンに答える。
「ふん。被験体ならいくらでもやろう」
そう言うアデンの足元にはもがき苦しむウサギやクマなどの動物、花や昆虫達が地面に這いつくばっていた。
「俺はこいつらから闇の混じった生命力を集め、そこの爺さんは死にかけのやつらを改造し、新たな魔物を誕生させる……なかなかの趣味だな」
「ん? なんか言ったかの?」
「いや、何でもない」
アデンは空を見上げた。生い茂った木々から僅かに差し込む光が視界に入る。
アデンの目的はただ1つ。あのお方を復活させ、この地に再び降臨させること。そのためならばどんな犠牲を振り払っても構わない。
あぁ、早くあのお方に会いたい。でもそれはまだ叶わない。それまで何をしていようか。
「ところでアデンよ、このついでに少し頼みがあるのじゃが……」
「なんだ? 言ってみろ」
「この森にはエルフがおるじゃろ?そのエルフを攫ってきて欲しいんじゃ。出来れば可愛い子でのう」
「何をするつもりなんだ?」
「ほっほっほ、ちょっとした人体実験じゃよ。なぁに、礼はたんまりとするつもりじゃぞ?どうじゃ」
アデンはしばらく考え込んだ。どうせ礼など金目の物。正直どうでもいい。
だがーー、
「分かった。そのエルフとやらを掻っ攫ってこよう」
「本当か!? さすがアデンじゃ! エルフの特徴じゃが奴らは長い耳があるのが特徴じゃ。頼むぞ!」
「あぁ」
そう言い、振り返るアデン。その口には笑みがこぼれていた。
ーー面白い玩具を見つけた。ちょっとした退屈凌ぎにはなりそうだ……




