第32話 パサラン博士
「パサラン博士! エルシィ王女がお見えになられております!」
そう言い、眼鏡を掛けた男性が慌てた様子で金髪の女性に言う。
途端、金髪の女性はハッとした表情になり、エルシィ王女の方を向いた。
「っ!? エルシィ王女! お久しぶりです! お元気でなによりです!」
「え、ええ……博士も相変わらずお元気で」
苦笑しつつ答えるエルシィ王女。
すると次はフィアスの方を見てーー、
「フィアス嬢もお久しぶりです! お元気でなによりです!」
「あはは……ありがと」
エルシィと同じく苦笑して答えるフィアス。親しそうなところを見る限り2人はこの人と知り合いか?
あっ、そういえば2人は毎年収穫祭に来てたんだったな。
そう思っていると金髪の女性は再び俺の方を向き、ガシッと両肩を掴んできた。え?何々!? 怖いんですけど!?
「んで、君! あ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はパサラン・クラリス。気軽にパサランとでも呼んでくれ。ちなみに君の名前はもうすでに聞いてるから紹介はなくていいぞ! 僕は君を和樹と呼ばせてもらおう! ところで和樹、早速だけど例のーー」
「ま、待ってください! 早すぎて途中から何言ってるか……」
だめだこの人、口調が暴走してる!
なんとかして止めようと思っているとエルシィ王女がいつのまにか後ろへと回り込んでおり、左手を挙げ、軽いチョップを彼女の後頭部へと打ち込んだ。
「あいたっ!?」
「パサラン博士、興奮し過ぎです。和樹が困ってるわ」
「っ! あー、ごめんごめん。興奮しちゃってつい……今からはゆっくり話すから安心してくれ。今日ここに来てもらったのは他でもない。今日の収穫祭でバルサ博士が起こしたゴーレムの暴走を君が召喚術で魔物を使役して止めたことについて色々と聞きたいことがあるからだ。詳しい話は中でしよう。入ってくれ」
パサラン博士と眼鏡の男性に案内され、俺達は建物の中へと入り、数多くある部屋のうちの1つに入った。
ちなみに眼鏡の男性はアリバという名前だそうだ。
そこには白と黒のモノクロの壁が広がっており、部屋の真ん中には茶色く細長いテーブルがあり、それを囲むようにして白く、2人ぐらい座れるであろう大きさのソファと1人用のソファがいくつかあった。まるで応接室のようだ。
パサラン博士、眼鏡の男性、エルシィ王女、フィアス、そして俺が現在この部屋にいる。ちなみに護衛の騎士は部屋の外に待機している。
全員が座り、一息つくとパサラン博士は口火を切った。
「早速だけど君の召喚魔術をここで僕に見せてもらえないか?」
「っ? いいですけど……」
パサラン博士の意図が分からないがとりあえず俺はポケットの中からカードを取り出す。
「アーリーを召喚」
次の瞬間、俺が持つカードの中から黒い煙が噴き出した。
「おおっ……! なんだこれは……!」
パサラン博士がキラキラとした目で黒い煙を見る。
そしてしばらくも経たないうちに黒い煙が晴れ、黒く小さな虫が姿を現した。
『久しぶりだな、アーリー。戦闘でもないのに呼び出してすまん』
『大丈夫であります! 主様のご命令とあらばいつでも私は主様の前に現れます!』
ビシィッ! と敬礼するアーリー。相変わらず真面目だな。いつも世話になってるから今度なんかお礼しよう。
「ほぉ……これは見たこともない召喚魔術ですね」
眼鏡の男性、アリバさんが興味深そうにアーリーをまじまじと見ている。更にエルシィ王女やフィアスも。
そう思っているとパサラン博士が更に俺に近づいてきた。顔が近い!
「うわっ!?」
「やはり君はすごいな。普通の召喚術は魔法陣を描かないと成功しないし対象を選ぶことは出来ない。やはり君が手に持つそのカードが関係してるのか!? 魔法陣も描かず更に詠唱も無しで召喚を成功させるなんて……もっと見せてくれ!」
「お、落ち着いて下さいパサラン博士!」
「あいたっ!?」
今度はアリバさんがパサラン博士の後頭部を叩き、動きを止めた。
その後、アリバさんが俺に従来の召喚術を説明してくれた。
「本来、召喚術というのはまず魔法陣を描き、対象の魔物を召喚することから始まります。ここで早速問題なのですが和樹さん、あなたはその魔法陣を描くのではなく、そのカードから魔物を召喚している、そうですね?」
「……そういえばそうですね」
「これがまず1つ目の疑問……いえ、謎です。2つ目はそれによって召喚される魔物が“あるイレギュラーを除いて”普通の人には指定することが出来ず、全くの未知、つまりランダムになることです」
「あ、でもそれは俺も同じです。今でこそアーリーを何度も召喚出来ますが、最初は何が召喚されるか分からない状態でした」
「なるほど。では3つ目ですが召喚術を行う際、種類にもよりますが、読み上げ……つまり詠唱を行います。これは高レベルの魔物になればなるほど文章が難しくなり、文章の量も増加します。ですが、和樹さんの召喚術で詠唱はありませんでしたよね?」
「……そうですね。基本対象の魔物と召喚と言うだけで成功します」
「ふむ、なるほど。これは研究のしがいがありそうだ。ありがとう和樹君。君のおかげで少し研究がはかりそうだ」
「いえ、聞きたい時はまた言ってください」
その後、俺がフィアスやエルシィ王女と出会った時のことやこれまでのことを話した。
「そういえばエルシィ王女達はこれからどうなされるんですか?」
「私は兄様と合流してバルヘイム王国へ帰るわ。フィアスは?」
「私もシェルカ姉さん達が心配すると思いますのでエルシィ達と一緒に帰ろうと思います」
「和樹はどうするの?」
「俺は……」
どう答えようか悩んでいるとパサラン博士が俺に何か目で合図をしてきた。
えと、ここに居て欲しい?
まぁいいか。どうせ帰っても特にすることないし。いや、元の世界への戻り方もこれから探していかなきゃならない今、少しでも何か情報を手に入れるべく積極的に行動するべきか。
その日の夕方ーー、
「しばらくお別れね、和樹」
「なんだか寂しいですね……」
残念そうな表情をするエルシィ王女とフィアス。
そんな2人の肩を叩くナルタス王子。
「まぁまぁ、また会えるんだからそこまで気に病むことないだろ。な? 和樹」
「はい、また戻って来ようと思います」
「冒険かぁ……きっとたくましくなって帰ってくるだろうな。な? 2人とも」
ナルタス王子の声に何故か2人は赤い顔をした。
「に、兄様! からかわないで下さい」
「あははっ、冗談だ冗談。それじゃあ和樹、またな」
「またね、和樹。必ずまたこっちに来てよね!」
「また遊びに来てくださいね和樹さん」
「あぁ、もちろんだ」
こうして俺はひとまずここに残り、ナルタス王子達はバルヘイム王国へと帰っていった。
「……すまない、君を引き止めてしまって」
「俺もやりたいことがあったので大丈夫です。それよりも何か話があるんですよね?」
すると、パサラン博士は突然真剣な表情をしーー、
「あぁ、先程君の力は見せてもらった。それを見越して少し聞きたいことと頼みたいことがある」
パサラン博士はもっとこっちに来いという風な手振りをした。それに応じて近づくとパサラン博士は耳元で囁いた。
「実はあのゴーレムを別の研究所で解剖してみたんだが中から奇妙な物が見つかってな」
「奇妙な物?」
「あぁ。それも5センチほどの小さな紫色の欠片だ。んでここからが問題なのだがそれに直接触れた物はたちまち苦しみ、その後命を落としてしまってな」
「命を……落とす?」
「そうだ。何か心当たりがあれば教えて欲しい」
心当たり、うーん……
この時、ユーフィ達とあの塔に登った時に出会った紫色のスライムを思い出した。あれと似ているような気もするが……違うか。
「……特に心当たりはないですね」
「……そうか。じゃあもう1つ頼みがある。和樹、君はこれから冒険をするつもりなんだよね?」
「そうですね。といってもどこに行くかまでは決めてませんが」
「ちょうどいい。なら、メルザナに行ってくれないか?」
「メルザナ……?」
「エルフの森、メルザナだ。そこに僕の妹がいるんだが最近音信不通でな……様子を見てきて欲しいんだ。もちろん、クエストとして君に頼もう」




