第30話 暴走、間抜け
「エルシィ、この作品綺麗だと思わない?」
「そうね、ここまで細かく作られている作品なんて早々ないし、これは最優秀賞作品の候補になるかも」
と、2人の少女は俺達から少し離れたところで別の作品を見ている。
俺とナルタス王子はというと、ハゲ鷹爺さんの話に付き合っているところだ。ぶっちゃけ、早くここから逃げたい。ずっと笑うの我慢してたが、もうそろそろ堪えきれんぞ……
「ガ、グ……」
「ん?」
気のせいか? 今、ゴーレムの身体から変な声が聞こえたような……
それになんだか目も赤い。さっきまでは黄色だったはずだ。
「ナルタス王子殿。わしは少々他の作品を見回りますのでこれで……」
そう言い、同時に黒いリモコンのボタンを押す。
だが、ゴーレムはその場から動こうとしない。
「む? おい、さっさと動かんかい」
今度はポチポチっと二回リモコンのボタンを押す。
「アガー、アゴー、ウゴー」
すると、ゴーレムはその場でまるで準備体操をするかのようにえっちらおっちらと上下に腕を動かす。
「おい! 早くいくぞ! お前は大事な作品だからのぅ!」
ハゲ鷹爺さんが苛立ち気にリモコンを操作する。
ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチブチッ……
「「あっ……」」
「あ……」
ゴーレムのすぐ近くにいた俺達にはすぐにその音が分かった。
絶対リモコンのボタン壊した音だ!
「お、おい、早くこっちにこんか」
あ、この爺さん絶対誤魔化そうとしてる。
「グ、オ……ウオオオオオォッ!」
次の瞬間、ゴーレムはたかが外れたかのように命令とは違う行動を開始した。
ドスンドスンドスン! とその場で地団駄を踏む。
「何をしてる!? さっさとこっちにぶっ……!」
ハゲ鷹爺さんが言い終える前に真横に吹っ飛ばされていた。
「ナルタス王子とそこの君! 早く退避して下さい! ここは我々が対応します!」
即座にナルタス王子の前に現れ、ゴーレムを取り囲むように立つ護衛の4人の兵士たち。
「ウオオオオオォン!」
「があぁっ!」
「ごふっ……」
「なっ……!?」
次の瞬間、ゴーレムは目にも留まらぬ速さで護衛の2人を殴り倒していた。
早い。本当にゴーレムなのかって思うほどの速さだ。
「止まれ!」
護衛の1人がゴーレムに剣を振るう。
だが、ガキンッ! という音と共に護衛の兵士の身体ごと吹っ飛ばされる。
そうか、あのゴーレムの身体はミスリルで出来ていたっけ。だから兵士が持つ鉄の剣? じゃ今のように太刀打ち出来なかったのか。
その時、ナルタス王子が俺の肩を叩き、後ろを指差した。
「和樹、護衛が戦ってる今のうちに退避するぞ。こっちだ」
「兄様! 和樹! 危ないわ!」
「2人とも! 早くこっちに来て!」
「ウオオオオオォッ!」
「がっ……」
「なっ!?」
エルシィ王女とフィアスの叫び声にお互いゴーレムの方を向くと、すでにゴーレムは残りの護衛を吹き飛ばし、こちらへ向かってきていた。まるで猪のような突進だ。じゃなくて! あのゴーレム行動くっそ早くね!?
とにかく、ここはひとつアーリーに止めてもらおう。
俺は懐からカードを取り出しーー、
「アーリーを召喚!」
しかし、いつものようにアーリーは現れない。
「何も起きない……っ!? しまった!」
よく見ると俺がいま手にもつこのカード、不思議な模様が描かれている。
これ、別のカードじゃねぇかああぁぁ!?
「和樹!?」
ナルタス王子が俺の名前を叫ぶ。
もう目の前には暴走したゴーレムが拳を構えてこちらに殴りかかろうとしていた。
俺とナルタス王子はほぼ同じ場所にいるが、立ち位置で言うとナルタス王子は俺の少し後ろ。んで、俺はナルタス王子の前。
途端、恐怖が一気に込み上げてくる。何か防げるもの……魔術でも召喚でも何でもいい!
次の瞬間、カードがパァっと光を放つ。
そして同時に周囲に黒い煙が散漫した。
ガゴオォンッ!
次の瞬間、鈍い音が発せられる。
あれ? ゴーレムは?
攻撃が飛んでこないことに疑問を持った俺は辺りを見回す。
いた。何故か3メートルほど距離が離れている。
不思議に思っていると黒い煙の中から何かが姿を現した。
鳥だった。身体は鶴と同じぐらいのサイズで全身の色は白と黒の模様と際立っている。
更に鳥の目の前には魔障壁のようなものがあった。
「……へ?」
呆気にとられる俺。今、何が起きた?
「ウゴオオオォ!」
雄叫びを上げ、再び俺の方へ突進するゴーレム。
「「「大地よ、敵を絡め取れ! 地束縛!」」」
だが、エルシィ王女の近くにいた護衛の兵士達の魔法によってゴーレムの足元からニョキニョキと生えたツルがゴーレムの足を絡めとる。
「ウゴー!ウゴー!」
なんとかツルから逃れようともがくゴーレム。
護衛の兵士達が出したツルは頑丈なのか、ちぎることは叶わず、それどころかますます胴体に絡まり、やがて雁字搦めとなり、動かなくなった。
「和樹さん!」
「兄様! 和樹! 無事!?」
血相を変えて駆け寄ってくるフィアスとエルシィ王女。
「あ、あぁ……なんとか……」
そう答える俺の心情には助かったという安心とすぐ側にいる白黒の鳥は何なんだ? という疑問でいっぱいだった。
あれ? なんか頭が急にフラフラ……
「ん? ここは、確か……」
もう何度も来てて見慣れたせいか、驚いたり動揺したりすることはなかった。
「来たわね」
目の前には、お姉さん的な見た目を連想させる女性ーー、
「ルミ姉……? どうしたんだ急に」
「あら? 私に呼び出されるのはもう嫌?」
「そんなことないですもっと俺を呼んでください」
そんなわけないだろ。こんな綺麗な人に会って話が出来るのだから。
これを嫌だという男が何人いるやら。
ただ、急だったから疑問に思っただけだ。
「ふふ、ありがと。でも今回は違うわ。私はあなたを呼んでいない。むしろあなたの方から来たって感じね」
「え、そうなのか?」
「そうよ。恐らく気を失った後、無意識のうちに私の所へ来たんじゃないかしら」
「無意識に……」
「えぇ、多分何度もここに来ているから慣れてしまったようね。ま、夢の代わりだと思えばいいわ」
なるほど、そういうことか。
「そういえばルミ姉、ゴーレムを作った人見つけたぞ」
俺がそう言った途端、ルミ姉は眉をひそめた。え? どうしたんだ?
「あっ、ごめんなさいね。なんでもないわ。それより誰だったのかしら?」
パッと表情を戻すルミ姉を不思議に思いつつも、答える。
「はげ……バルサ博士っていう人だ。その博士が動くゴーレムをわしの作品だって言ってたから多分そうだと思う」
「バルサ……もしかするとあの青年と繋がってるのかもしれないわね」
「え?」
「っ! なんでもないわ! とりあえずありがとう」
「お、おう」
一先ず報告を終えた俺は次にあのことに関しての疑問をルミ姉に問う。
「そうだルミ姉、ちょっと相談があるんだけどいいか?」
「ええ、いいわよ。なんでも相談しなさい」
「さっき召喚した魔物についてなん……」
あれ? 意識が……
「あら? どういうことかしら」
ルミは消えた和樹を見て疑問に思った。まだそんなに時間が経っていないのに。
「思ったより向こうで早く目覚めちゃったかしら」
彼女はそう判断し、それ以上考えはしなかった。




