第29話 鑑賞、ゴーレムとハゲ鷹爺さん
俺が落ち込んでいたから。
いや、落ち込んでいる俺を元気付けたかったからじゃないんだろうか。でなければそこまで知った仲じゃない俺にここまでする理由が思いつかない。
と、そんなことを考えているうちに屋台が並ぶ一本道を抜けていた。辺りにはたくさんのガラスケースが両サイドに並行して並んでいる。なんだこれ?
「これは銅像や人形の作品よ。この時期になると、各地の腕自慢の職人さんが作り上げた作品がここに展示されるの。最優秀賞に輝いた作品は1年間この国に飾られ、国王様に栄誉を称えられるわ」
俺が疑問に思っているとエルシィ王女が答えてくれた。なるほど。日本でいう芸術の秋ってところか。
この世界の季節はここに来る前の日本の季節と似ていると俺は思う。
他の季節はまだこの世界で見ていないから分からないが、秋は分かる。この国やバルヘイム王国で秋の象徴ともいえる銀杏の木や紅葉の葉を見かけた。
気候も日本でいう10月に入ったばかりのように少し肌寒く、どんどん寒さを増していきそうだ。更にこの時期に芸術とくる。
「わぁ……今年も凄いですね」
「そうね今年もみんなレベルが高いから最優秀賞を決める国王様が大変だわ」
確かにそれは思う。食べ物や動物の像、偉大そうな人物の像に可愛い人形など、どれもが細かい線や形、リアリティにこだわっており、とてもクオリティが高い。
これを毎年決める国王様も大変だな……
「うおっ!?」
なんとなく後ろを振り向くと茶色に色塗られた物体が急に視界に入り、俺は思わず尻餅をつく。
「ははっ、大丈夫かい?」
俺に手を差し伸べるナルタス王子。
顔には出さず、けれど声は笑っている。
……恥ずかしい。俺だって笑わせたくてこんなことしてるわけじゃないからな! ってか、この茶色いのなんなんだ? 見た感じロボットとかに見えるが……
「これはゴーレムだね。それも、ミスリル鉱石で作られたゴーレムだ。でも、なんでこんな所に……?」
「ほっほっほ、ナルタス王子殿、それはわしの作品でございます」
そう言い、姿を現したのは高価そうなコートに身を包む……
「っ!? ぷっ……」
ハゲた爺さんだった。なぜそう思ったのか。それは爺さんの髪のハゲ具合が実に見事だったからだ。
てっぺんの髪はほとんどなくなり、ツルツルになっており、耳の上らへんに申し訳程度に白髪が少しまるまるようにして生えている。眼光はその口調に似合わないくらいとても鋭く、まるでハゲ鷹のようだ。ぶっ……あかん、まじで笑ってしまいそう。
しかもあの高価そうなコートと微妙なマッチング具合がなんとも……
「っ! バルサ博士、あなたも参加していらしたんですね」
ハゲ鷹爺さんの顔を直視してもなお、平静でいられるナルタス王子。
すげぇ、さすが王子。でも内心絶対笑ってるだろこれ。だって両手の拳がプルプル震えてるし。
「ほっほっほ! もちろんですとも。是非ともナルメド陛下にわしの作品の良さを知ってもらいたいですしのぉ。それに、これまでは落選してきておりますが、今年はそうはいきませんぞ。なにせ、今回わしが出展する作品であるこのゴーレムは、動くことが出来るのですからのぉ!」
そう言うと、ポケットから黒光りする長方形の物体が出すハゲ鷹爺さん。
ハゲ鷹爺さんはその長方形の物体についている赤いボタンを押した。
途端、ゴーレムの目がピカッと光り出す。
「グ……ガ、ゴ……」
呻き声を漏らしながら一歩一歩ゆっくりと動き出す。
「へぇ、動くゴーレムか。なかなか面白いね」
「ほっほっほ! これでわしの優勝は間違いなしですぞ!」
ナルタスに褒められ、気をよくするハゲ鷹爺さん。
でもこれ、展示するんだから動くとかあんまり関係なくないか?
……まぁいっか。ん? そういえばルミ姉に頼まれてたゴーレムを作った人を見つけてほしいってことだけど、多分この爺さんだよな? また会った時伝えるか。
その頃、メルザナで対峙していた女性と青年の決着がつこうとしていた。
「はぁ……はぁ……っ! はぁっ!」
青年から奪い取った剣を青年に向けて一直線に振り下ろす女性。
その綺麗な腕や足にはが所々血が付いている。
「なっ!?」
驚く女性。青年は女性が振り下ろした剣を両手で挟んで受け止めていた。
真剣白刃取り。相手が勢いよく頭の上に振り下ろしてくる刀を待ち受けて両手で受け止める防ぎ方だ。
「あははっ、残念だったね。僕はそこらへんの魔物みたいにあっさりやられないよっと!」
「っ!?」
次の瞬間、青年は両手から黒いオーラを溢れ出した。途端、剣先が青年が触れた場所から黒ずんでいく。
そしてバキイィン! という音と共に女性の振り下ろした剣先が折られた。
青年は女性が怯んだ隙に後ろへ飛び下がった。
「……あなた何者? なぜ私の邪魔をするのかしら?」
「ははっ、さっき言ったじゃないか。邪魔者を排除するって。まっ、もういいんだけどね」
「は?」
「ようするに君の排除はとりあえず保留ってことさ!」
そう叫ぶと、青年は周囲に黒い円を出現させた。
「っ!待ちなさい!」
女性は青年を逃すまいと、物凄い速さで青年に近づく。
だが、青年は黒い円を出現させると、その中へと沈んでいってしまった。
周囲は途端に静かになる。聞こえてくるのは風に吹かれ、揺れる木々。
「……とんだ邪魔が入ったわ」
自分の邪魔をする青年。それも、神である自分に対抗できる強さを持っている。
あれはなんだったんだろうか。青年は邪魔者の排除と言っていたが……
「っ、しまった。こんなことをしてる場合じゃないのに……」
予知能力を使うも、あの子達は見つからなかった。恐らくもうこのメルザナにはいない。
「ひとまず戻ろうかしらね。この格好じゃ目立つわ」
女性は今の自分の姿を見下ろし、ため息をついた。
「ふふ、どうやらゴーレムが起動したようだね」
青年は女性から逃げた後、収穫祭の会場へと来ていた。木の幹の上に座り、様子を伺っている。
自慢気に話すバルサを見て青年は笑みを浮かべる。
「全く、誰のおかげで完成したと思っているんだろなあの爺さんは」
そこへ現れるもう1つの影。逆立った赤い髪に勝気な目をしており、荒っぽいイメージを沸かせる男だ。
「それでいいではないか。我々もあの男を利用するわけなのだから。ギブアンドテイクってやつだ」
そしてさらに現れる2つ目の影。金色の髪に黒と紫のオッドアイの目をした男。その背には紫色に光る金槌が背負われている。
「そういや、メルザナにいた連中は放っといていいのか?」
「構わんだろう。あれは我々の害にも及ばん。それよりも面白いことになりそうだから楽しみだ」
がははと笑う男達。
そんな中、青年はわいわいと賑わう会場に向け、両手を広げた。
「さぁ始めよう……新たな物語の幕開けだ」




