第27話 迷子と鳥と少女
「……凄い混んでるな」
「今日は収穫祭ですからね。みんな張り切ってるんですよ」
「なるほどな……」
ナルメドに来てまず思ったのが人の混み具合だ。すでに入り口付近から大勢の人でごった返しており、すんなり入るのは難しそうだ。
ここ、ナルメドはどうやら亜人の国やバルヘイム王国など数多くの国と友好国の関係にあるようで、様々な種族が来ている。見た感じ仲良くやっているようだ。
えーと、人族はもちろん、獣人族や鳥類族、エルフ族に、ドワーフ、リザードマンまでいる。他にもまだ俺が見てないだけでどこかにいそうだ。
すげーなこの国。一体何をしたらここまで発展するんだ?
「んじゃとりあえず中に入るか。……て、あれ? フィアス?」
辺りを見渡すがフィアスの姿はない。それどころか今俺がいるところにまで人がごった返すようになっていた。
「うへぇ、まじかよ……」
この状況でフィアスを見つけるのってくっそ難しくね!?
これだから人混みは……
ドサッ。
「ん?」
「きゃっ……」
背中に誰かがぶつかってきた。振り返ると、そこには古びたフードを被った少女が地面に尻餅をついていた。
「痛たた……」
「……大丈夫か?」
俺がそう言った次の瞬間、何かがビュン! と俺の横を通り過ぎていった。
ん? あれは鳥……しかも何かくわえていたみたいだが。
「大丈夫……っ! それよりあの鳥を追わなきゃ!」
そう言い、勢いよく立ち上がり、走り出す少女。そこには彼女が買った物らしきパンが入った袋が地面に置かれていた。
「……って、おい! これ!」
俺はその袋を持ち上げ、彼女の跡を追った。
「はぁっ……はあっ……! 待って!」
少女は息を切らしかけながらも人混みをかき分け、鳥を追いかけ続ける。
鳥は人の頭より少し高いところを飛び続ける。
「っ……早ぇなおい……はぁっ……」
そして俺も人混みをかき分けながら少女が置き忘れたパンの袋を持って必死に少女を追いかける。
これなんてシチュエーション?
まじできついから勘弁してほしいんだが……
最後に必死になって走ったの持久走以来だし……
人混みを抜けたその時、少女に追いかけられていた鳥が何を思ったのか、グルンと方向転換した。方向は逃げていたのと真逆。つまり追いかけている少女の方向だ。
「チャンス! 捕まえ……へ?」
「クエッ!」
次の瞬間、ゴンッ! と鈍い音が辺りに響き渡った。
再び少女は尻餅をつき、鳥はフラフラとしつつも、どこかへ逃げ去ってしまった。
「っ!」
先程、鳥にぶつかった拍子にフードがとれ、少女の髪と顔が露わになっていた。
ツーサイドアップにまとめられた鮮やかな水色の髪にパチリとした大きい瞳。顔はまだ少しあどけなさを感じさせる。フィアスと同い年か少し年下ってところか。
「あいたたた……」
「……大丈夫か?」
ひとまず声をかける。すると、少女は驚いた様子で俺を見上げた。
「あれ……? きみ、さっきの……もしかして追いかけてきたの?」
おっと、そうだった。これを渡すために追いかけたんだっけ。
「あぁ、そうだこれ。そっちが持ってたやつじゃないかと思ってな」
「あ! それ私の!」
俺に言われてハッと自分の手元を確認した少女は声をあげた。
少女にパンが入った袋を渡す。
「ありがとう、わざわざ届けてくれて。ちょっと鳥を追いかけてたから気づかなく……あぁっ!? さっきの鳥どこ!?」
「それならさっきあっちにフラフラと飛んでいったぞ」
空を指差し、方角を伝える。
「あぁ〜しまった……あれ、取り返したかったのに……」
その場でくずおれる少女。ん? 地面に何やらキラキラ光るものが……
ひとまず拾ってみる。
菱形の形をした赤いブローチだった。
「もしかしてこれか?」
少女は無言で顔を上げた。途端、目が大きく開かれる。
「あぁっ! それ、私の!」
「多分ぶつかった拍子に落としたんだろな」
少女の身体を起こし、ブローチを渡してやると彼女はニコリと笑った。その頰がほんのりと少し赤い。
「見つけてくれてありがと。またきみに借りができちゃったね」
「いや、別に借りとか気にしなくていいぞ」
「え? でもきみも用事があったんじゃ……」
首をかしげる少女。
「いや、確かに連れと来たんだけどちょっとはぐれてな……」
「えぇっ! そうなの……? ごめんなさい」
「いや、いいよ。そんなに時間食ってないから。じゃあこれで」
「はい、ありがとうございました」
こうして俺は少女に別れを告げ、歩き出した。
……んで、ここどこだっけ?
それからあーだこーだして収穫祭の会場北側にある噴水へとたどり着き、そこでフィアスとようやく合流した。
そこにはすでにエルシィ王女とナルタスオ王子もいた。他には7〜8人の護衛。
あっ、そっか。2人とも王子様と王女様だから護衛がいて当然か。
「もうっ、和樹さん。どこに行ってたんですか!」
腰に手を当てて怒るフィアス。
「どこって……この辺をうろついてただけなんだが……」
さらに詳しく言うと可愛い子と会ってました。はい。
「全く、あなたが迷子になるなんてね」
そう言い、ニヤニヤと俺を見るエルシィ王女。
「……迷子じゃないですよ。はぐれただけです」
「それを迷子って言うんだけどなぁ……」
「ははっ! まぁまぁ2人とも、合流出来たんだからいいじゃないか」
場の雰囲気を収めようとするナルタス王子。
「お久しぶりです、ナルタス王子、エルシィ王女」
「うん、久しぶりだね和樹」
「久しぶりね。んじゃ、全員揃ったことだし行くわよ」
なんとかエルシィ達と合流し、俺達は歩き出すのであった。
豊かな自然が広がる大森林都市メルザナ。その大森林で2人の人物が対峙していた。
1人は橙色のブラウスに白を基調としたロングスカートに身を包む女性。
そしてもう1人はブラウン色の髪に目鼻立ちの整った青年。
お互い何も言葉を交わさずじっと相手が動くのを待っている。
先に口を開いたのは女性だった。
「私に何の用かしら? 用がないのならさっさとどいて欲しいんだけど?」
すると青年はふわっと髪をかきあげる。
「あはは、ごめんごめん。君がどう動くか待っていただけなんだ。君がそうするなら僕もそれに応えよう」
そう言い、青年は腰にある剣に触れた。
「っ!」
次の瞬間、青年は女性に向かって右手に持つ剣を一気に空に向かって振り上げた。それは一瞬の出来事だった。だがーー、
「ふん、手荒い受け応えね。この私に向かって刃を振り上げるなんて」
女性の手のひらからは六角形の盾が出現しており、青年の剣を弾いていた。
「お見事です。さすがの僕も少し驚きました」
剣を脇に挟み、パチパチと手を叩く青年。
「……それで、何の用かしら? あまり油を売っている暇はないんだけど」
「そうですね。僕もあまり長話は好みではないので単刀直入に言いますね」
青年は再び剣を握る。途端、黒いオーラが剣先から滲み出る。
「邪魔者を排除しにきました」
ニコリと笑いながら言う青年。
次の瞬間、女性の頰に一筋の光が流れた。
「っ……! あなた、ただ者じゃないわね」
ピッと頰を拭い、顔をしかめる女性。その手のひらには血がついている。
「貧弱な方だとあなたを止められそうにありませんからね」
ガキンッ!
青年の一刀両断。女性はそれを右手で受け止めた。その手から黄色いオーラが滲み出ている。
「うひゃあ……まさか片手で受け止められるとは……この剣、それなりに強いんだけぶっ……!」
女性は余った左拳を青年の右頬にめり込ませるようにして殴り飛ばした。
青年は大木の方へと吹っ飛ばされた。ドガアァンッ! と、甲高い音が響き渡る。
「あら、少しやり過ぎたかしら? っ!」
女性はとっさに身をかがめた。
すると、ほんの少し遅れて二本の短刀が女性の頭の上を通り過ぎる。
短刀はグササッと幹に刺さる。
「……そうでもないようね」
「……僕も少しあなたを見くびっていたようですね」
睨み合う2人。その上にある空は曇りを増していた。




