第26話 使いの水竜
2日後、俺はフィアスと共にバルヘイム王国の隣に位置するナルメド王国へと向かっていた。
ナルメドは獣と人の血が混じった、いわゆる獣人達が住む国だ。
俺自身、実際に行ったことがないから確証はないが、恐らくアニメで見たことのある獣人と似たような容姿だろう。ケモ耳がついていたり尻尾がついていたり。
なぜ向かっているのかというとそれはエルシィと別れる際、今日から開催される収穫祭で会おうと約束したからだ。
半ば強制感が拭えないが気にしないでおこう……ちょっとは楽しみにしてたしな。
さて、そんな俺達だが、1つ問題がある。それはーー、
「なんで歩きなんだ……もう無理……疲れた」
「仕方ないですよ……馬車がなかったんですから」
そう、空いてる馬車が一台も無かったのだ。多分俺達と同じようにナルメドへ向かうべく、馬車を使ったんだろうな。おかげさまでがら空きだったぜ……
んで仕方なく今、遠くまで広がる草むらの上を歩いている。
「和樹さんが召喚した子が移動出来る子だったら良かったんですけどね……」
「うっ……痛いところを」
「あぁっすいません! つい……」
どうやらフィアスもそろそろ歩き疲れているのか、本音を言ってくる。すまんな、移動出来るやつがいなくて。
それなら最悪アーリーかランチェルにやらせるか?
……無理だな。体の大きさ的に。
こんな時こそ一部のアニメにあるあの展開だ! 来い! ご都合展開!
そう思っていたその時! 俺の3枚目のカードが突然光を放ちだした!
そしてカードの中から強力な魔物が……!
……なわけないよな。確認したけどうんともすんともいわねぇわ。
ただ、シルエットは出現していた。なんか鳥っぽいシルエットだ。
「和樹さん! あそこに何か……」
フィアスが指差す方を見ると、そこには青い翼を生やした何かがうずくまっていた。
体長3、4メートルぐらいはありそうだ。
全身も翼と同じく青い色の身体で、背中からは鋭利な棘がいくつも生えている。
「なんだあれ……っ!?」
恐る恐る近づいてみると身体の隙間からそいつの顔が見え、俺は思わず後ずさった。
竜だ。それも子供なんかじゃない。れっきとした大人の竜だ。初めて見た俺でもなんとなく分かる。頭にある大きな銀色の角と、この竜から感じる闘気?
とにかく分からないが何か凄い力を感じるのだ。鋭く巨大な歯が生えた口に全身を覆うちょっとやそこらでは傷1つすらつかないであろう鎧のような鱗。
けど、なんでこんな何もない草むらに竜が……?
「グッ……グガアァッ!!」
「うおっ!?」
竜の様子を見ていると突然、竜はうめき声を上げながら顔を上げ、俺の顔を見るや咆哮したのだ。
威嚇しているような気もする。
「逃げるぞフィアス!」
考えるのは後だ! とにかく逃げるのが先だ! 俺の直感が全力で逃げろと警報を鳴らしている。
このままだと進めないが一旦引き返して別の道を歩くしかない。
俺は来た道を引き返そうとする。だが、フィアスはその場を動こうとしなかった。
「フィアス! どうした? 早く逃げるぞ!」
「待ってください! あの子、様子が変です」
フィアスの言葉を聞いた俺は竜を見る。
「ギュオアァァ……」
さっき俺に咆哮してきたのが嘘のように竜は活気をなくし、首から上の頭が地面にだらりとついた。
「っ!」
それを見たフィアスが竜の元へ駆けつけた。
「おいっ、フィアス?」
もしかしたら俺達の油断を誘っているかもしれない。だが、その考えは杞憂に終わった。
「この子、怪我をしてます」
「っ! ほんとだ……」
よく見ると確かに竜は身体のあちこちを怪我していた。爪の一部が砕け、手足にはいくつもの切り傷。そして胴体や顎には軽い火傷の跡があった。
早く助けないと。
「早く治療を……! くそっ!」
俺はここで自分が属性魔法を使えないことを思い出した。たとえ使えたとしてもそれは無属性か闇属性。回復系の魔法はほとんど光属性であるため、使えない。
「大丈夫です和樹さん」
そう言うとフィアスは竜の怪我の部位に手を添えた。
「……聖なる光よ、かの者に光の祝福を……ヒーリング」
途端、フィアスの手のひらから魔法陣のようなものが現れた。
そしてその魔法陣のようなものから光のオーラが竜に放たれる。
放たれたオーラは竜に触れると染み込んでいく。僅かだが傷跡が消えたのが分かる。
「回復魔法……」
「そうです。といっても中級ですけどね」
だが、それでもフィアスの回復魔法は竜の傷を完全にとまではいかなくとも、うっすらと傷跡が残る程度まで治した。
「……すげぇ」
俺もあの魔法使いこなせるようになりたい。いや、無理ってわかってるんだけどな。
「……グガ?」
「「っ!」」
その時、竜が目を覚ました。
俺とフィアスは念のため竜から距離を取る。
「……っ?」
竜は首を起こすとしばらくの間フィアスと自分の身体を交互に見比べた。
「……私を治療したのはそなたか?」
低い声が辺りに響き渡る。
「……和樹さん、今喋りました?」
「いや、何も言ってないぞ?」
「え?」
「いやほんとだって」
てか、こんな低い声さすがにでないし。
「じゃあ、誰が……」
「私だ。命の恩人よ」
「ひゃっ!?」
気づくとフィアスが治療した青い竜が彼女の目の前まで近づいてきていた。
「かっ、和樹さん! り、竜が喋って……」
「……みたいだな」
「みたいだな……ってどうしてそんなに落ち着いてるんですか!?」
そんなこと言われてもな……なんかあんまり驚かないんだよな……
喋る竜。すげぇって思うぐらいかな。やっぱ驚かねぇわ。ていうかなんで竜の言葉が……あ、そっか。俺、神様から言葉が分かる力貰ってるんだったけ。道理で言葉が分かるわけだ。って、あれ? フィアスも分かるのはどういうことだ?
「驚かせてすまない命の恩人よ。私の名はアクロス、使いの水竜だ。今はそなたと同じ人間語で話している。あるお方の命により使いをしていたのだが道中で盗賊共の不意打ちにあってな。なんとか撃退したのだが負傷し、動けなくなっていた。そなたがいなければ私はあるお方の命を果たせなかったことだろう。礼を言う」
「いえ……当然のことをしただけなので……」
そう言いつつフィアスはまだ竜が喋っていることに驚いている。
まぁ普通、こんな反応だろな。ってか、フィアスに伝わるよう敢えて人間語で話しているのは分かるけどそれが出来るこの竜凄くね? 少なくともかなり賢い竜なのは間違いない。
そう言えば俺もこの世界に来て平然とフィアス達と話してたけどこの世界にも俺のいた世界の言葉が通じるんだな。
「あ、あの……」
フィアスが困ったような表情をする。竜はというと、フィアスをじっと見つめていた。
「……む? すまない。そなたからどこか高貴な匂いがした気がしてな。可能であればそなたの名を聞かせてもらえぬか?」
「はい。えと、フィアスです」
「フィアスか。覚えておこう。それとこれをそなたに……」
そう言い、アクロスと名乗った竜はフィアスに青い石を渡した。とても透き通っていてキラキラと輝いている。
「感謝の印だ。それがあれば我らはそなたを仲間と判断する。海竜系は気難しい奴が多いが……少なくとも私はそなたが困っていたら手を貸そう。その石に念じると私に伝わる。困った時は使うが良い」
「っ! フィアス!」
俺はフィアスを見た。フィアスも同じことを考えていたのか、コクリと頷いた。
「えと、水竜さん。早速お願いしてもよろしいですか?」
「……すげぇ」
水平線の彼方にぼんやりと陸地といくつかの建物が見えてきた。あそこがナルメドか。
「フィアスとそこの青年よ。そろそろ降りる。しっかり掴まっておけ」
水竜の言葉に俺とフィアスは水竜の背中にしがみつく。てか何気に初めて竜に乗ったな……
これが高所恐怖症とかだったら絶望もんだ。
まぁ初めてでもすぐに乗れたのはこの水竜が色々と教えてくれたおかげだけどな。結構親切な竜だ。
水竜は俺達が迷わないよう気を使ったのか、ナルメドのすぐ近くの広い草原に降り立った。
「ありがとう、おかげで助かった」
「ありがとうございます水竜さん」
「このくらいたやすいことだ。また言うがいい。さらばだ」
そう告げると水竜は再び翼を広げ、飛び去っていった。
「……あっという間に着いちゃいましたね」
「だな。しかももうほとんど目の前にあるから迷うこともないぞこれ」
あと少しあるけばもうナルメドである。
「なんだか今日は驚きっぱなしです……まさか竜の背中に乗るとは思いませんでしたし……初めて乗りました。って、あれ? これって結構凄いことじゃ……!」
「え? そうなの?」
「そうですよ! あの時は私もパニックで水竜さんにお願いしちゃいましたが竜に乗って移動なんてあまり聞いたことがありませんし……あ、そもそも竜に会うこと自体が珍しいんじゃ……」
「フィアス!?」
きゅーと声を上げ、倒れるフィアス。どうやら驚きのあまり気絶したようだ。
うーん、なんか俺だけ反応が薄い気がするんだが気のせいだろうか?
実はそういう耐性が神様から力を貰った時におまけとしてついていたりして。驚き耐性。なんちゃって。




