第25話 デート?
目を覚ますと、いつもと同じ薄い茶色の天井が視界に入った。
「朝か……」
身体を起こすと窓から差し込む太陽の日差しが掛け布団を照らしていた。
収穫祭まであと2日。今日はどうするか。さすがに昨日のことがあるから魔物と戦ったりするのはごめんだな。
てか、しばらく見たくねぇ……
特にやることもないが、俺はなんとなく外に出ることにした。
外に出るとそこには白い髪の少女が誰かを待つようにして立っていた。
「フィアス?」
「っ! 和樹さんっ」
フィアスは俺を見つけると側に駆け寄ってきた。
「どうした? 何かあったのか?」
「いえ、その……あの時のお礼を言いたくて」
「お礼?」
「爺やエルシィを助けてくれたことです」
あぁ、あの時のことか。って、言っても倒したの俺じゃないんだけどなぁ。
「いや、俺はほとんど何も……」
「そんなことありません。和樹さんがいなければどうなっていたか分かりません。和樹さん、本当にありがとう」
笑顔でそう言うフィアス。
その時、なぜか俺の心にぐっと熱いものが込み上がるのを感じた。
なんなんだこれ……こんなの元の世界でも感じたことねぇぞ。
しかもフィアスがいつもより可愛く見える……
「……どうかしましたか?」
「うわっ!?」
気づくと目の前にフィアスの顔があった。その距離10センチ。
近い近い近い!
「ご、ごめんなさい。もっと近くで見たくなって……」
「えっ? なんて言った?」
「な、なんでもないです!」
そう言い、顔を両手で覆うフィアス。その耳が赤い。
後半なんて言ったんだろな……
「んで、終わりか?」
「まだ終わりじゃないです! 他にも用事があってきました!」
話を切り上げようとする俺を慌てて止めようとするフィアス。なんか必死だな。
「その用事って?」
「えと……その……」
顔を赤くし、もじもじとするフィアス。用事って何!? 言いにくそうにしてるのがかえって意味深だ。
「えとっ、その……どこかに行きませんか? 2人でっ」
あれ? 意外と普通だった。
「お、おう? ……まぁいいけど急にどうしたんだ?」
「っ……特に他意はないです!」
とかいいつつ顔が赤いんだが。まぁいっか。俺も暇してたし。
「ん?」
その時、誰かがこちらを見ているような気がして、思わず俺たちの後ろを振り向く。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。いこうか」
ま、気のせいか。
てなわけで、俺とフィアスは2人でぶらぶらと街を歩き始めた。
……あれ? これってデートみたいじゃね?
……んなわけないか。
「とりあえずどこに行くんだ?」
「えっと、まずは……っ! あそこのお店に行きたいです!」
嬉しそうに指差すフィアス。その先には洋服屋の店があった。
「いらっしゃーい。って、あっ! もしかしてアストレイン家のお嬢さん?」
中に入るや店主らしき女性が声をかけてきた。
「えへへ、お久しぶりです。ラーンさん」
「おっ! そのまだあどけない顔と声は三女のフィアスちゃんだね? また一段と可愛らしくなったねぇ」
ラーンと呼ばれた女性はそう言いながらフィアスを抱きしめる。
「むぅ、あどけないは余計です!」
「んで、そちらの方は……? あっ! もしかしてフィアスちゃんの彼氏さん!?」
「「違います!」」
パンッ! と両手を叩き、キラキラとしたような目を向ける彼女に慌てて否定した。
「え〜そんな恥ずかしがらなくてもいいのにぃ。それに言葉もハモらせちゃって」
「あの、本当に違いますから」
ラーンさんは残念といった表情を見せた。うーん、そういえば俺たちってあんまり歳変わらなさそうだから恋人に見えなくもないのか。
「そういえばフィアスって今何歳なんだ?」
「……? えと、今年の冬で16です」
おっ、てことは俺の1つ年下か。今は街にある木が紅葉に彩られていて秋だからもうすぐだな。俺も今高校二年生でクリスマス前には17歳になるしな。
「おやおや? もしかしてフィアスちゃんを狙ってる?」
「ッ!?」
ニヤニヤと笑うラーンさんにバッと俺の方を向くフィアス。その顔が真っ赤だ。
「いやいやいや! 狙ってませんから!」
俺が慌てて否定するが、ラーンさんはふーんとだけ言う。これ絶対まだ疑ってるよな。
「ほい! これは今シーズンの冬流行りそうな白と黒を基調としたコーディネート!」
ラーンさんがそういい、試着室のカーテンを開ける。
「っ!?」
そこには、思わず見惚れてしまうほどの美少女がいた。ラーンさんが言っていた白と黒を基調としたデザインが見事にマッチングしている。下は黒いスカートを履いており、膝から下は艶めかしい素足が惜しげもなく晒されている。
全体的にフィアスがちょっと大人っぽく見える。
「どう……ですか?」
「大人っぽくて綺麗だと思う」
「っ!?」
フィアスの顔が一瞬で赤くなる。
「あ、いや……そんなに赤くならなくても」
「いや〜照れてるねぇ、照れてるねぇ〜」
そしてからかうラーンさん。って、えっ!? 更に赤くなってる!?
「気に入ったんだったら俺が買ってやるぞ?」
とにかくフィアスの調子を戻すためにもそう言うと、途端フィアスは我に返ったかのように元の調子に戻った。
「っ! いえっ、自分で払いますので大丈夫です!」
「いいっていいって。こういうのは男が払うもんだろ?」
まぁこの知識、元の世界ていうより、ラノベで得た知識だけどな。
ラーンさんに値段を聞き、支払いを済ませる。金貨1枚で余裕で足りるな。
「……ありがとうこざいます、和樹さん。大切にします」
先程買った服が入った袋を抱きしめるフィアス。うん、可愛い。
「へぇ、やるじゃん。そういえば名前聞いてなかったね。あたしはラーン。あなたは?」
「和樹です。宜しく、ラーンさん」
「こちらこそ、宜しく。そうだ! せっかく来たんだし、あなたもコーディネートしてあげるわ!」
「えっ? いや、俺は別に……」
「ぜひお願いします!」
ラーンさんの言葉に返事するフィアス。あれ、この流れ、もしかして止められない?
結果、俺は黒を基調としたコーディネートをしてもらった。黒いコートに黒いズボン。なんか、見た目的に厨二病の技使えそうな気がする。
「ってか、自分が買うものくらい自分でお金出したんだが……」
「いいじゃないですか。お互いの物を買い合いっこです」
自分でお金を出すつもりが、払いたいと懇願するフィアスに押し負け、彼女に買ってもらった。なんかますますデートに近づいているような……
グギュルルル……
「へ?」
なんか今、お腹の音が……
「おっ、お昼にしても、いいですか……?」
隣を見ると、フィアスが恥ずかしそうにお腹を抑えていた。
「おぉ、上手いなこれ」
「でしょ? 実はそれ、ラピューンという魔物が稀に落とすお肉を使って作られているんです」
と、同じくラピューンのステーキ? とかいうものをもぐもぐと食べているフィアス。
これ、完全に牛肉をステーキにした味なんだが……
腹を満たし、店から出ると誰かに声をかけられた。
「……あれ? フィアス?」
白い髪の女性だった。
髪を後ろに束ね、ポニーテールのように結んでいる。
おっとりとしているように見えるが、どことなくフィアスに似ている。
「っ! リシェット姉さん? どうしてここに……?」
姉さん? てことは、この人がフィアスのお姉さんか。なんか可愛いというより、綺麗な人だな。慈愛に満ち溢れているように見える。
するとリシェットと呼ばれた女性は腰に手を当てた。
「それはフィアスちゃんが今朝、また何も言わずにどこかに行くもんだからシェルカ姉さんに頼まれてあなたをつけていたら男の人に会ってそのままどこかへ出かけるものだからこのままつけてきたの。心配だったしね」
「っ!? …… ごめんなさい」
誰かつけてきていると思ったらこの人だったのか……
「いいのよ。ただ、出かける時はちゃんと私や姉さんに言ってね。あっ、私はフィアスちゃんの姉のリシェットです。アストレイン家の次女ってところです。宜しく〜」
「は、はぁ……」
「それでフィアスちゃん、進展はいかほどに?」
なんか急におっさんくさいこと言い始めたぞこの人!
さっきの慈愛はどこにいった!?
「そんなんじゃないです! 和樹さんはその……友達です」
まぁそうだろな。まだ会って日も浅いのに恋人同士とかありえねぇだろ。
俺? うーん、フィアスが恋人……もしそうなったら嬉しいがまだ未成年でしかも異世界に来た俺が養えるかと言うと……
って! 今、何考えたんだ俺!?
そんなことあるわけないだろ! どっかのラノベじゃあるまいし。
そんなホイホイと好かれるかよ。
「へぇ〜そうなんだぁ? じゃあ……えいっ」
「っ!!?」
次の瞬間、フィアスのお姉さんが俺の腕に抱きついてきたのだ。
「えっ!? ちょっ!?」
「え〜、いいじゃないいいじゃない」
しかもガッシリと俺の腕を抱きしめる。うおっ……胸が当たる! この人、見た目によらず結構大きい!?
「……っ」
「わっ……!?」
次の瞬間、俺は無言でフィアスに空いてる方の腕を掴まれ、リシェットさんから引き剥がされた。
「フィアスちゃん……?」
「フィアス……?」
返事はない。やば、と声を漏らすリシェットさん。うん、やり過ぎだよなこれ。 何か俺もよく分からんが……
「リシェット姉さん」
「は、はいっ!」
「和樹さんが困ってしまいますのでそういうことは遠慮して下さい」
笑顔でそう言うがその目は笑っていなかった。怖えぇぇ!!
「は、はい……」
「行きましょ、和樹さん」
フィアスに手を引かれ、俺は彼女についていく。リシェット姉さんはというとショボくれていた。
なんか今日、フィアスの意外な一面を知った気がする……
その後、俺はフィアスに「見せたいものがあるんです」と言って連れられ、とある山を登った。
「ここです和樹さん、たどり着きましたよ」
「っ! すげぇ……!」
俺は思わず感嘆の声を漏らした。それもそのはず、山から見下ろすとそこには先程俺たちが歩き回っていたミール街を一望出来たのだから。
「ふふっ。結構安らぐ場所なので私もたまにここに来るんです。嫌なことや悲しいことがあった時もここに来ます」
微笑むフィアス。そっか、見せたいものってこの景色だったのか。良かった。リシェットさんの件でまだ何かあるかと思ったわ。
おっと、そういえば。
「フィアス、これ」
俺はプレゼントをフィアスに渡す。
「これを私に……?」
「他に誰がいるんだ。……実は洋服屋でフィアスが試着している間に買ったんだ」
「……開けてもいいですか?」
「あぁ」
フィアスはゆっくりと包みを開けた。
「これは……」
「黒いリボン。フィアスの頭につけたら似合いそうだから買ったんだ」
あ、別に主人公っぽくしようとしたわけじゃないぞ。たまたまこの黒いリボンを見たとき、本当にフィアスに似合いそうだから買ったんだ。
「……嬉しい。すぐにつけてみますね」
そういい、長い髪を後ろに束ね、器用にリボンで括った。
「どう……ですか?」
恥ずかしそうに聞くフィアス。
白い髪の上にピョコンと黒いリボンが見えて……
「うん、可愛い」
ん? 待て、今声に出たような……あっ。
見ると、フィアスの顔はみるみるうちに赤くなっていた。
「えと……その……ありがとうこざいます。ずっと大切にします」
そう言い、ニコリと笑うフィアス。その表情はとても可愛く、眩しかった。




