第19話 帰還と噂
「もう行ってしまうのか?」
バルヘイム国王が名残惜しそうに呟く。
「すまぬのオルトス。家のみんなを事情も話さずに放置してここまで来てしまったんじゃ。早く帰ってやらねばならんか」
「そうか……ならまたいつでも遊びに来てくれ。歓迎するぞ」
「もちろんじゃ。その時は昔のようにまた酒の飲み比べでもするかの」
「そうだな」
そう言い、はははと笑い合うブローゼンさんとバルヘイム国王。
なんかいいよな、こういうの。
そしてフィアスの方はというとーー、
「フィアス、もう帰っちゃうの? まだここにいてもいいのに……」
「ごめんねエルシィ、これ以上ここにいたら姉様達に心配かけるから」
「あ、じゃあさ、今度ナルメド王国でお祭りがあるからさ、その時に会わない? お兄様と一緒に行くわ」
「それならいいけど……その、お兄さんは……」
「大丈夫、強制だから」
「あれ? 僕の意思は……」
「行きますよね? お兄様?」
「あ、うん……もちろん」
あれ、なんか兄が妹に尻に引かれているようにしか見えないんだけど気のせいなのか……?
そう思っていると急に目の前に誰かの顔が近づいてきた。エルシィ王女だ。
「あなたももちろん来るわよね?」
「も、もちろんです……」
なんか無理やりハイと言わされたような……
「よろしい!」
「お嬢様と和樹殿、お別れの挨拶は終わりましたかな?」
「はい」
「爺、まだ体調が万全じゃないんだから私が……」
荷台に乗るフィアスが心配そうにそう言う。
まだ病み上がりだしな。はぁ……俺が馬の扱いに長けてたらなぁ……
するとそれを聞いたブローゼンさんが目の色を変えた。
「心配はご無用ですぞお嬢様! 爺はお嬢様のためとあらば世界一周だってしますぞ!」
うへぇまじか……なんかここまでくるとちょっと気持ち悪い。あっ、別に否定とかじゃないぞ。ただほんのちょっと思っただけだ。
「またね二人ともー!」
エルシィ王女達の見送りを受けた俺たちはバルヘイム王国を後にした。
向かう時と同じく、帰るのに3日を要した。宿泊先の泊まる部屋がブローゼンさんと同じだった俺は彼から耳にタコが出来るほどフィアスの話を聞いた。
それはもうフィアスの可愛いところからホクロの位置までびっしりと聞かされた。この人変態だと思うのは俺くらいなのだろうか? フィアスは特に怒らないしうーん……
ミール街にたどり着き、俺は荷台から降りる。
「じゃあここで。ブローゼンさん、ありがとうございました」
「んや、それはこちらのセリフじゃ。フィアスの面倒だけでなくわしのことも助けてくれてありがとう。この借りはいつか返そう」
「いえ、いいですって」
そう言うがブローゼンさんは首を縦に振らない。
どうやら結構義理堅い人のようだ。
「んじゃフィアス、またな」
「はい。和樹さん、爺やエルシィのことも含めてありがとうございました。私だけだったら危険な目に遭っていたかもしれません」
「いや、それなら俺よりもアーリー達に言ってくれ。俺は召喚しただけなんだから」
するとフィアスはその場にしゃがみ込んだ。
「ありがとうアーリー、ランチェル」
「どういたしましてです」
「チェル〜!」
そういえばこいつら俺の身体から魔力を吸い取って召喚された状態を保っているだよな……?
だとしたら今の俺ってめちゃくちゃ魔力を消費……吸い取られてねぇか? なんか今疲れてる気がするんだよな……
帰ったらアーリー達に聞くか。
「では和樹殿、私達はこれで……」
ブローゼンさんがそう言い締めくくろうとした時だった。
「あーーーーーっ! いたーーーーー!?」
「「っ!?」」
「ゆ、ユーフィ!?」
ここから少し歩いた先に宿屋があるのだがその宿屋の前に彼女はいた。
大声をあげ、ずんずんと俺に近づいてくる。
「ひ、久しぶりだな……」
「久しぶりだな、じゃないわよ! あんた今までどこに行ってたの!? せっかくあたしが光属性の魔法を見せてあげようと思ったのに次の日からあんたいなくなるじゃない!」
あーそういえばそんなこと言ってたような言ってなかったような……
「和樹さん、この人は……?」
フィルムが不思議そうに言うとユーフィが腰に手を当てて答えた。
「あたしはユーフィリア・デュランナ。周りからはユーフィって呼ばれるからそれでいいわ。あなたは?」
「私はフィアス・アストレインと申します。すみませんユーフィさん、和樹さんを連れてしまって」
フィアスはユーフィに経緯を話す。
「あ、そういうことだったのね。いいわよ、別に急ぎのことでもなかったしね」
そう言いつつも俺の顔を睨んでくるんだが……
「お嬢様、そろそろ時間が……」
「えっ! もうこんな時間! 爺、すぐに帰りましょう! 和樹さんユーフィさん、さようならっ!」
そう言うとフィアスとブローゼンさんは物凄い勢いで帰路へと向かっていった。
残された俺とユーフィの間に沈黙が訪れるが、それもすぐに終わる。
「そういえばあんた達どこに行ってたの?」
「ところで和樹、あんた明日空いてる?」
「っ? 特に用事はないな……」
むしろ明日から何すりゃいいんだって感じた。
するとユーフィはニヤリと笑みを浮かべた。なんか嫌な予感がするのは気のせいか?
「なら明日ちょっと付き合ってもらうわよ」
いいわね? と言われ、俺はこくこくと頷くのであった。
その日の夜、宿屋に止まった俺はアーリーとランチェルを召喚した。
「主様、だいぶ慣れてきましたね」
「チェル〜」
「まぁな。ところで二人? に聞きたいことがあるんだが……」
「なんなりと!」
「チェル!」
アーリーとランチェルがおまかせあれとばかりに胸を叩く。
「二人共ずっとカードの中から出てるけどもしかしてその間ずっと俺の魔力って吸われてる?」
ラノベで読んだことがある。確か召喚先の世界で身体の存在を維持させる為に主人から魔力を吸っているとか。
ということはだ。もし俺の魔力が吸い尽くされたら俺はどうなる……?
「あ、確かにそうなんですけど主様が思っているようなことにはならないと思います」
「どういうことだ?」
「確かに主様から魔力を吸い取っているのは事実なんですが私達ほどの小物だとその量は微々たるものなんです」
「そうなのか?」
「はい。ですので、よほどの大物か七大龍王様でない限りその心配はありません」
「そうか……ん?」
七大龍王様……? なんか物騒な名前が出てきたな……
「七大龍王様ってなんなんだ?」
「えと、私もあまり詳しくは知らないのですが七大龍王様というのは昔、この世界が崩壊の危機に陥った際、世界の崩壊を食い止め、バランスを保ち、この世界の危機を救った【伝説の龍】と呼ばれています。また、龍王様を崇拝する土地では【世界龍】とも呼ばれています。それぞれ火・水・風・地・光・闇・無の7属性があります」
「なるほど……」
「といっても今はその姿が確認されていないので存在しているかどうかも怪しいんですけどね」
七大龍王。この時、俺はそれをただの世間話程度にしか思っていなかった。




