第16話 その後と金貨
「あら、そろそろ時間ね」
ルミ姉がそう言った途端、俺は意識が少しずつ遠くなっていくのを感じた。
「……他にも聞きたいことあったんだけどなぁ」
「また近いうちに呼ぶわ。その時にまた教えてあげる」
その言葉を最後に俺の意識はとだえた。
和樹がここから去った後、ルミは小さく呟いた。
「……ごめんね和樹。私はあなたを利用するかもしれない」
その正体はただの神様ではなく、未来神ルミ。名の通り、彼女には少し先の未来を見通す力がある。
あえて言わなかったのは彼に自身の考えを悟られることを防ぐため。
「……必ずあの子を見つけてみせる。そのためには"あの子達"を捜さないと」
「っ……?」
目を覚ますと、天井に豪華なシャンデリアがあるのが視界に入った。
ふかふかな感覚が背中に伝わることからどうやらベッドの上に寝かされているようだ。
そこへ更に見知った少女の姿が俺の視界に入る。
「和樹さん!」
「フィアス……?」
俺はひとまず身体を起こそうとする。が、なかなか身体に力が入らない。
そこへ誰かが俺の背中に力を入れ、起こしてくれた。
「目を覚ましたようだね」
「ナルタス王子……」
振り向くとそこにはナルタス王子の姿が。更にその隣にはショートにした茶色のブラウンの髪の少女……って、あれ?この子確か……
俺の視線に気がついたのか、少女は淡い紺色のドレスの裾をかるく持ち上げて言った。
「エルシィ・リーブ・バルヘイムと申します。お兄様の妹にあたります」
あぁ、なるほど。ルミ姉と話してた通り、あの魔物が死んだから治ったのか。
これであとはフィアスに仕えてる爺も治ってたら一件落着だな。
のんびりとそんなことを考えていると誰かが部屋に入ってきた。
国王様と王妃様だ。その表情は安堵に満ちていた。そして二人は俺のベッドの側まで近づきーー、
「和樹殿、この度はこの王国に広がりつつあった未知の病の根源を絶ってくれたことを感謝する。ありがとう」
そう言い王妃様と共に頭を下げた。その対象は俺だ。って、
「えぇっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「……未知の病の根源を絶ってくれたって……どういうことですか?」
どういうことか全くわからない。するとフィアスとナルタスはお互いを見て頷いた。
ナルタスが口を開く。
「あの緑色の魔物を倒した後、城内の人達がみんな意識を取り戻したんだ。ここにいるエルシィを含めてね」
そう聞いてルミ姉が言ってたことを思い出す。シグアンデッドのことか。
「でも、自分はトドメを刺した覚えはないですよ?」
ランチェルを召喚して魔物に攻撃したところまでは覚えているが倒した覚えはない。
「うん、確かに僕達が気がつくとまだあの魔物、オーベルは生きていた。そして僕とフィアスの二人でトドメを刺した。だけどそのオーベルの身体はとても小さく、ほとんど弱っていた。それは君のおかげだろ? 君が意識を失うほどの死闘を繰り広げなければここまで弱体化は出来なかったはずだ」
そう力説され、思わず歯がゆい気持ちになる。死闘ってほど戦ったっけ?
いや、だって俺がやったことってカードでアーリーとランプを召喚しただけだし意識を失ったのも召喚の影響で魔力が枯渇しただけであって別に死闘を繰り広げたわけではない。
てか俺が召喚したやつの方がよほど貢献しているように思えるんだが……
「よし、今日は盛大に祝おう!」
国王様が高らかに宣言する。この流れ、もう止まんないな……
そう思っているとフィアスが遠慮がちに手を挙げた。
「あの、国王様、私は爺の容体を……」
その時ーー、1人の兵士が駆け込んでくる。
「何事だ?」
「失礼します陛下! 城の前に執事姿の老人が現れ、自分は国王の知り合いだから中へ入れろと言っています!」
慌てて部屋に入ってきた兵士の言葉にいち早く反応したのはフィアスだった。
「っ!?それって……!」
……なんか俺もある程度想像できた。でも早くね? 確かミール街から馬車で3日はかかったぞ? あ、そうか別の人だうん、そうだな。
「あぁ、多分その者はわしの知り合いだ。通せ」
「ハッ!」
兵士が部屋から出て行く。
少しすると何やら騒がしい声が遠くから聞こえてくる。
そしてたどり着いたのか、バンッ! という音と共に部屋の扉が開かれ、執事姿の老人が中へ飛び込んできた。
「お嬢様ーーーーーーー!」
「っ!?爺っ!」
えぇーーー!? まじかよ!? どうやって来たんだよこの爺さん!
爺さんの身体力に思わず驚く。
そんな俺の思いとは裏腹にフィアスはそう叫び、執事姿の老人と抱きしめ合う。
おいおい、国王様完全に無視ってるぞ!? いいのかそれ……
国王様の方を見ると国王様は苦笑いを浮かべていた。
「っ……相変わらずじゃな、ブローゼン」
すると流石にこれ以上は失礼だと感じたのかブローゼンと呼ばれた老人は国王様の方を向く。
「オルトス。いや、バルヘイム国王じゃったな」
「国王はよしてくれ。お前とわしの仲ではないか」
「一応言ってみただけじゃ」
ハッハッハと笑い合う二人。
ひとまずこの件は終わりを告げようとしていた。
この城に来た日も豪華だったが、この日の夜の夕食は更に派手さを増していた。
豚や鶏の丸焼きに牛肉のステーキ。
この国で取れたトマトやキュウリなどの野菜に加え、何の魚かは分からないが恐らく高級魚であろう魚介類のスープに巨大なゼリーやプリンと思われるデザート。
そして中央には塔にも見える巨大なケーキがそびえ立っていた。
うん、なにこれ。凄すぎてもう何から食べたらいいか分かんねぇ……
そういえば今更言うのもなんだがこの世界の食べ物って俺がいた世界とほぼ一緒なんだな。たまに魚とか見たことないのがいるけど。
豪華な食事が終わった後、俺とフィアスは国王様に呼ばれた。
あ、ちなみに爺さんはフィアスと一緒にいようとしていたが、メイド達に連れていかれた。念の為体調確認でもしているのだろう。
てかやべ……めっちゃ緊張するぞ。
俺なんでこんなとこにいるんだ?
隣にいるフィアスもそれなりに緊張していた。
すると国王様はそんな俺に言う。
「そんなに緊張しなくてもよい。要件はそなた達にこれを渡そうと思ってな。今回の件に対する謝礼だ。どうか受け取ってほしい」
そう言い俺とフィアスそれぞれにジャラジャラと音のする袋を渡された。
これってまさか……
「中身は金貨だ。少なくて申し訳ないがそれぞれの袋に5枚ずつ入っている」
「「っ!?」」
金貨ってあれだよな……確か銀貨の10枚分だから1枚10万……
袋の中には5枚あるらしいから、ってことは合計で50万!?
「国王様っ、これは受け取れません」
フィアスが慌ててそう言い、国王様に返そうとするが国王様はそれを押し返す。
「いや、これは受け取って欲しい。偶然とはいえ君達があの魔物を倒していなければ今頃この国中に未知の病が広がっていたのだから」
「本当にいいんですか……?」
しつこいかもしれないが俺がそう聞くと国王様は頷いた。
「なんなら冒険に使うお金として使ってくれ。それなりに装備を整えられるはずだ」
それを聞いた俺たちはこれ以上言うのをやめた。
これ以上言うのは失礼だと思ったからだ。
まぁ、貰えるものはもらっておいて損はないしな。
そうこうしているうちに時刻は夜の9時を迎えた。




