早く覚えなくては!
淡い光に目を覚ますと、目の前で微笑んでいるシャーロンが見えました。
……もちろん、私もシャーロンも何も着ていません。
昨日のことを思い出して、恥ずかしくてシーツに顔を隠しました。
…体のあちらこちらが痛いなんて、今は気にしてられません!!
「……あれ?昨日は僕に顔を見せてくれたのに、今は見せてくれないんですか?」
「………服を着てください!」
「着ますよ?僕は今日も仕事がありますからね………でも、リサとキスしてからじゃなきゃ服は着ませんよ」
「そ、そんなっ」
…シャーロンとキスするということは今の私の恰好のままシーツから出なければいけないんですけど!
もちろん、シャーロンの姿も見なければいけないということです!
恥ずかしすぎて本当に無理です!!
中々シーツから出てこない私を見て、シャーロンはこう言いました。
「リサが出てきてくれないと僕は服を着れないですね……このままだと仕事にも遅れてしまう…」
――チュッ
「……シャーロン、これでいいですよね?」
「…えぇ。リサ、大好きです」
「……私も大好きです」
――コンコン
「奥様?もう起きてらっしゃいますか?」
シャーロンと甘い余韻に浸っていると、カレンの言葉で現実に戻されました。
その声を聞いたシャーロンはすぐに服を着て、私の頬にキスを落としてから書斎へと消えていきました。
残された私は赤面した顔をもとに戻してから、扉の向こうにいるカレンとイリアに声をかけました。
「お待たせしてすみません。もう起きています」
「では、失礼いたします」
カレンとイリアが入って来る前にすぐさま服をきた私に、2人はお辞儀をしながらこう言ってくれました。
「「奥様、おはようございます」」
「カレン、イリア、おはようございます」
カレンとイリアは2人とも笑顔を浮かべていて(たぶん、昨日のことはわかっているのだろう)カレンが先に口を開きました。
「奥様。まだ朝食までお時間がございますので、汗を流しましょう」
「そうさせていただこうかしら」
「奥様。どうぞこちらに」
すでに湯は溜められてカレンとイリアに手伝ってもらって汗を流し終えると、イリアが笑みを浮かべながら部屋にあるクローゼットを開けました。
その中にはずらりとドレスがありました。
「奥様、今日はなにをお召しになられますか?」
「……たくさんありすぎて迷ってしまうから、イリア、選んでくれないかしら?もちろん、シンプルなものでお願いね」
「…奥様ならこれが似合うと思いますが」
「私、シンプルなものが好きなのよ」
『シンプルなドレスが好き』と言うと、イリアは心底びっくり(というか落胆)したような表情を浮かべながらも最後にはシンプルな淡い青のドレスを選んでくれました。
カレンとイリアに手伝ってもらってドレスを身に着け、軽く化粧もして(これもシンプルで!と私が言いました)2人に案内してもらいながらダイニングへ向かいます。
ダイニングに到着すると、軽く10人は座れるであろうテーブルがあり、先にシャーロンは席についていて、私はヘリオスに椅子を引かれて腰かけました。
「ヘリオス、有難うございます」
「いえ」
私が笑顔でお礼を言うと、ヘリオスは一瞬だけ驚いた表情を浮かべましたがすぐに執事の表情に戻りました。
シャーロンへと視線を動かすと、彼の服装は仕事着になっており(シャーロンのお仕事は騎士です)私の顔を見て微笑んでくれました。
そして、すぐさま私の前には朝食にしては豪華なものが並べられました。
…あれ?これは豪華過ぎませんか?
ほとんど3種類ずつお皿があり、どこから手をつければいいか平凡貴族で育った私にはわかりません。
とりあえず、パンとサラダとスープとスクランブルエッグを食べて、最後にヨーグルトを苺味でいただきました。
……フォルテ公爵家の料理人の皆様、残してしまって申し訳ありません。
毎朝、毎朝、この量が並ぶかと思うと寒気がするので、あとでヘリオスに相談してみましょう。
朝食を食べ終わったあとはお仕事へ向かうシャーロンを見送るのが私の務めです!
「シャーロン様、お気をつけていってらっしゃいませ」
「もちろんです」
「「「いってらっしゃいませ、旦那様」」」
最後は使用人全員でシャーロンを見送り、彼はお仕事へと向かいました。
……ちなみに、私はシャーロンと2人きり以外は『様』をつけます!
人前で『シャーロン』とは絶対に呼べませんよ!!
「奥様?お部屋にお戻りになられますか?」
「それとも、お屋敷内をご案内いたしましょうか?」
私がシャーロンの姿が見えなくなるまで見送ると、後ろに控えていたカレンとイリアが口を開きました。
…このまま部屋に戻ってもやることがありませんので、イリアの提案にのりましょうか。
でもその前に、私のすぐ横で待機してくれてるヘリオスに相談しなくては!
「イリアの提案に是非のらせていただこうかしら。公爵家のことをもっと知りたいですもの…でもその前に、ヘリオス、ちょっとよろしいかしら?」
「はい。なんでしょうか?」
「歩きながらでもいいかしら?」
「もちろんですとも」
私の『歩きながら』という提案にもヘリオスとカレンとイリアは笑顔で応じてくれました。
ちなみに、最初に提案してくれたイリアはとってもいい笑顔を浮かべてくれました。
「ヘリオス。朝食の件なんですが…」
「至らない点がございましたか?!」
「至らない点はありませんでしたよ!…ただ」
「「「ただ、と仰いますと?」」」
私の言葉に何故かヘリオスとカレンとイリアが同時に反応してくれました。
「平凡な貴族で生活してきた私にとって量が多すぎたの…出来れば、明日からはもう少し量を少なくしていただけるかしら?」
「…しかし、それでは……」
「好き嫌いがあるわけではないの…今日の朝食はすべての料理が3種類ずつ運ばれてきたでしょ?明日からは1種類ずつ、日替わりでお願いできないかしら?」
「……奥様がそう仰るのなら、手配しておきます」
私の我儘にヘリオスは一瞬だけ悩みましたが、なんとか折れて承諾してくれました。
「ヘリオス、無理を言ってすみません」
「これしきのこと、どうかお気になさらずに」
「有難うございます…お仕事があるのに引き留めてしまってすみません。お仕事に戻ってくださいね」
「仕事には差し支えありませんのでお気になさらずに…奥様、また何かありましたら何なりと」
「頼りにしていますよ、ヘリオス」
「……はい。失礼いたします」
私の最後の一言にまた驚いた表情を浮かべましたが、今度はもとの表情に戻らずに笑みを浮かべて執事室へと向かって歩き出しました。
その姿を見送ってから、私とヘリオスの話を静かに聞いていてくれたカレンとイリアを見て微笑みました。
「待たせてすみません……カレン、イリア、お屋敷内を案内してくれる?」
「「もちろんでございます、奥様!」」
カレンとイリアは笑みを浮かべて、私に公爵家を案内しようと歩き出しました。
…さて、この広い公爵家を早く覚えなくては!
読んでくださって有難うございました!