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私達は応接室へと通された。
グレッグ様と私は、隣同士にソファーへと腰掛ける。
テーブルには、紅茶が用意されていた。
「人払いはしてあるから、クレア、少しは落ち着いた?」
お母様は、クレア様を気遣われていた。
「えぇ。ありがとう。そしてグレッグ殿、ソフィア嬢、先程は取り乱してごめんなさいね。」
「いいえ、どうぞご無理なさらなにでください。」
「フォルスター夫人が取り乱されるなど、余程何か予期せぬことがおこったのでしょう?」
「予期せぬこと……えぇ、そうね。
グレッグ殿も、あまり社交の場には顔を出されてないですものね。
私の孫、リリアーナのこともご存知
ないのでしょう? 私達はもう随分前に引退して、家督を息子に譲ったのはご存知よね? その息子の娘、つまり私の孫娘ね。孫娘がリリアーナなの。あの娘もあまり社交の場に出ていなくてね。だから、グレッグ殿が顔を知らなくても、当然ね。
そちらの方、ソフィア嬢が、リリアーナと瓜二つなの。双子と言われても、おかしくないくらいにね。」
フォルスター夫人は、そこで言葉を区切る。
お母様に「もう大丈夫だから」と目配せするように視線を送る。
その視線を受けたお母様は、寄り添っていたフォルスター夫人から少し距離をとった。
「ここには、信用できる方しかいませんものね。あまり気持ちのよい話ではないけれど、昔話を聞いてくれるかしら。
もう、随分と昔のことよ。
私には、もう一人息子がおりました。
現在の当主は、実は、次男なの。もう一人の息子、長男のロバートがおりました。
幼い頃からロバートは優秀で、手のかからない子でした。私共は将来安泰だと喜んでおりました。けれど、親の思うようにいかないものね……。
ロバートに婚約話を勧めようとした時でした。
ロバートは、頑なに受け入れませんでした。自分には、既に心に決めた人がいる。彼女以外とは結婚はしない、と。
それでも、そのお相手の方が、私共の候補に上げている方ならば良かったのですが……。お相手の方は、男爵家のご令嬢でした。
男爵家の令嬢と結婚など、当時の私達は許せることではありませんでした。
それからです。私達とロバートの間に亀裂が入ったのは……。
何度も、説得を試みました。お相手の方にも。
一向に話が進みませんでした。そして、とうとうロバートは、出て行きました。爵位相続権 を放棄する旨の置き手紙を残して。
侯爵家の名誉に関わる問題です。決して、知られてはいけません。私共は、ロバートは病気療養ということにしました。
ある時、一度だけ手紙が届きました。
手紙の内容は、今までの身勝手な行いに対する謝罪と、メアリーと一緒に暮らしていること。そして、もうすぐ、子供がうまれることなどが書いていました。文面から、ロバートの幸せそうな様子が伝わってきました。複雑でした……。
貴族としての道からは、外れているけれど、親としては、元気で過ごしているのが分かって、嬉しかったのです。
子供に関して、男の子が生まれた時は「ルーク」、女の子の時は「ソフィア」と名付けるつもりだと書いてありました。
捜さないでほしい、と、締め括られていました。私共も意地をはってしまって。本当は会いたいのに、捜そうとはしませんでした。
お相手のメアリー嬢の名は、メアリー・エリオット男爵令嬢です。」
「っ!」
メアリー•エリオット。 それって、お母さんのことなの?
お母さんは、駆け落ちをしたの……?
そんなこと、何も聞いたことがない。
だって、私のお父さんは……。私は……。
狼狽える私に、温かい眼差しを向けてくれるクレア様。
「ソフィア嬢、突然のことで、驚かせてしまったわよね。私も心臓が止まりそうだったわ。あなたには、ロバートの面影があるわ。そして、あなたの母親の名前は、メアリー・エリオット。偶然で片付けるには、無理があるわ。あぁ、そうだわ。ソフィア嬢、突然変なことを言うけれど、これを開けてくれないかしら?」
クレア様は、ドレスの胸元の内側からネックレスを取り出す。ネックレスには、懐中時計のような丸い飾りがついている。
クレア様は、私の元へ歩いてくると、ネックレスを差し出してくる。
「さぁ、ソフィア嬢、この蓋の部分に手を乗せてくれるかしら。」
「あの? こうでしょうか?」
言われるがまま蓋に軽く手を乗せる。
すると、一瞬、ほんのりと手が温かく感じた。
カチッと、蓋が開く音がする。
「え?どうして?」
手を外すと、ネックレスの蓋の部分が開いていて、中になにやら数字が書かれていた。
「あぁ、やっぱり………、間違いないわ、あなたは、フォルスター侯爵家の血を引いているわ。あぁ……。」
クレア様は、再び涙を流す。
「クレア様? どうぞおかけにならっれてください。」
クレア様を支えるように背中に手を添えて、先程座られていたソファーへと付き添う。
「ありがとう、ソフィア嬢、優しいのね。あぁ、気になるわよね。
最近ね、暗証番号を覚えられるか不安になってきてね。ほら、金庫の番号は、定期的に変えないと、防犯対策のためにね。
このネックレスはね、この中に、秘密にしたいことなどを書くことができるの。そして、この蓋は、フォルスター家の血筋のものしか開けることができないの。
あ、そうだったわ、年を取るとうっかりするわ。ソフィア嬢、先程見た数字のことは、他言無用でお願いね。そして、このネックレスのことも秘密よ。王家から特別に賜ったものなの。
さっき、父はいないと言っていたけれど……もしかして……別れてしまったの?ロバートは……二人は、元気にしてる?」
不思議なネックレスのことが気になったけれど、詮索してはいけないと自分に言い聞かせる。
「それは……。」
クレア様の問いかけに、すぐに返答が出来なかった。私は、何も知らないもの。
私は、ノーマン伯爵の娘ではないの?
だから、引き取られたのよね……。
父と義姉の顔が頭をよぎり、言葉が上手くでてこない。
「ソフィア?」
思い詰め黙り込む私の手を、グレッグ様がそっと握る。
その手の温もりのおかげで我に返り、なんとか言葉を紡ぐ。
「私の…私の母は、10歳の頃に亡くなりました。」
クレア様は、哀しみの表情を浮かべた。
「そう……、とても残念だわ。では、あなたはそれからロバートと?」
「私は……。」
今まで 自分の生い立ちを、誰にも知られたくなかった。
でも、クレア様は母のことを知っている。
おそらく私の本当の?父のことも。
優しく包むように重ねられたグレッグ様の手を、ぎゅっと握りしめてグレッグ様を見上げる。
「グレッグ様、これからお話しすることは、グレッグ様が以前お尋ねされたことの、証言にもつながることです。
グレッグ様……。
本当は、知られたくないことです。
どうか、嫌いにならないでください。」
不安や緊張がこらえきれず、涙が頬をつたう。
「ソフィア、大丈夫だ。」
グレッグ様は、優しく握りしめた手に力をこめ、反対の手で涙を拭ってくれた。
優しげな眼差しで見つめられて、昂った感情が落ち着いていく。
深く深呼吸をしてから、意を決して言葉を発した。
「クレア様、ルイーズ様、グレッグ様、これからお話しする事は、ある方を貶める内容に聞こえるかもしれません。
ですが、本当のことです。
私なんかの発言を信じてもらえるか分かりませんが……聞いて下さい。」




