18
本日は、グレッグ様よりお茶会に誘われた日だ。お茶会と言ってもグレッグ様と私だけなのだけど。グレッグ様のお母様に、私を紹介したいとのことだけど……緊張する。
先日グレッグ様に選んでいただいたワンピースを着て、鏡の前に立つ。
スカートの下部には小花模様が施してあり、控えめにフリルがある可愛らしい装いだ。
私なんかに似合うのか不安だったけど、グレッグ様が選んでくださったものなので、多分おかしくはないと思う。 以前に比べると、体つきは全体的に人並み程度にふっくらしてきたと思う。
「うん、大丈夫。」
自分自身に暗示をかける。鏡の前で子供みたいにクルッと回った。
あの日、義姉と再会した事で、しばらく恐怖と不安で精神的に不安定だった。
グレッグ様にもいずれ、私の過去の事は話さなければいけない……。
でも、とりあえず今日のことだけを考えよう。グレッグ様のお役に立てるチャンスだもの。何とか気持ちを切り替えて、頑張ろうと思う。
「ソフィア、用意はできたかい?」
ルイーザさんが呼ぶ声がする。私は急いで階下に降りる。
「ルイーザさん、もしかしてグレッグ様がもう来られましたか?」
「あぁ、外で待っているよ。ソフィア、そのワンピース、可愛いソフィアによく似合っているよ。グレッグ様と仲良くね。楽しんでおいで。」
似合っていると言われたのが嬉しくて、ルイーザさんに思わず抱きついた。
「ありがとうございます。ルイーザさん、行ってきます。」
「あぁ。」
奥からダンさんの声もする。ふふ、本当にダンさんは口数が少ない。その分、ルイーザさんが話すから丁度いいのかしら。ダンさんやルイーザさんみたいな仲の良い夫婦に憧れる。
ルイーザさんにて手を振り、外へ出る。扉付近にグレッグ様が待っていた。
「よく似合っている、ソフィア。馬車を待たせてある。行こうか」
「はい!」
差し出されたグレッグ様の手に自分の手を重ねる。
グレッグ様のエスコートで、馬車に乗り邸宅に向かった。
馬車は乗り心地もよくて、快適だった。前を向くとグレッグ様と目が合う。私達は思わず、お互い微笑む。
「ソフィア、今日は母のご友人も来られるそうだ。母の古くからの友人なので、何も緊張することはない。ソフィアはいつも通りでいてくれればいい。」
「は、はい……。」
なんだか緊張する。平常心を保とうと心を落ち着かせるように、自分自身に言い聞かせる。
「着いたようだな。」
ハモンド邸は、ノーマン邸とは比べ物にならないくらいに壮観だった。
グレッグ様のエスコートで、私達は中へと向かう。廊下の窓から中庭を伺うと、グレッグ様とよく似たご婦人とご友人と思われる方が談笑していた。
「先に母に挨拶をしよう。ソフィア、こっちだ。」
「は、はい。」
緊張しながらグレッグ様に誘われて、中庭のテーブルに近づいて行く。
「あぁ、グレッグ。よく来たわね。あら、リリアーナ?」
お母様は私を不思議そうな顔で見つめる。
「ただ今戻りました母上。お久しぶりですフォルスター夫人。こちらが──。」
グレッグ様が私をお母様達に紹介しようとした時、フォルスター夫人が勢いよく立ち上がり、ガタンと椅子が倒れた。
「リリアーナ?」
夫人はこちらに近づいてきた。夫人はお母様に声をかける。
「リリアーナが来ることを隠してたの?」
「いいえ、何を言っているの? リリアーナのことを隠していたのはクレアではないの?クレア?」
クレア様は、何も聞こえていないように質問には答えずまじまじと私を見つめてくる。
「リリアーナ? では、ないわね。だって目元が違うもの。それにしても、あまりにもリリアーナにそっくり。あなた、お名前は?ご両親のお名前は?」
「えっ……。」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に戸惑い、私は言い淀んだ。グレッグ様も驚いて何か言おうとしていた。
「お、お初にお目にかかります。ソフィアと申します。父は……。」
私は、どうしてもあの人が父親だと認めたくなくて、言葉を濁した。
「父は……いません。母は、メアリーです。」
クレア様は血相を変えて、更に詰め寄ってくる。
「メアリーですって? まさか、こんな偶然があるかしら。メアリー、お母様の正式なお名前を聞いてもいいかしら?」
「はい、メアリー・エリオットです。」
私が答えると、クレア様は狼狽する。心なしか顔色も優れない。
どこか具合でも悪いのかしら。
「あ、あなたは、メアリーの娘のソフィア? あ、あ、あの、ソフィア……そうなのね……あぁ、こんな奇跡が起こるなんて……。ロバート……許してちょうだい…なんてことを私は……。そう…そうなのね。ソフィア。」
「あ、あ、あのクレア様⁉︎」
私はなぜかクレア様に強く抱きしめられた。
クレア様はひどく狼狽されていて、涙を流されている。
「大丈夫ですか? クレア様?」
私はクレア様の背中をそっと撫でる。
「あぁ……なんて優しい子なの…ごめんなさい、ごめんなさい……」
お母様とグレッグ様も困惑しているようだった。
「あ、あの、クレア様?」
クレア様を落ち着かせようと声をかけては見たものの、余計に強く抱きしめられる。
助けを求めるように、グレッグ様をみつめる。
そんな私を見て、お母様も何かに気づいたように動揺する。
「クレア、リリアーナにそっくりなソフィアは、まさか、ロバートの……?」
クレア様は、泣きながら頷く。
「ルイーズ、えぇ。きっとそうだわ。」
「クレア。きちんと確認してからではないとまだ早いわ。とりあえず中へ入りましょう。ね。グレッグ、あなた達も一緒に。」
お母様はクレア様を私から離すと、二人一緒に中へと入って行った。
私とグレッグ様も、お互い顔を見合わせてうなずくと、その後に続いた。




