表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/276

ご褒美?

 


 広いテーブルを埋め尽くす料理たちに、ルシウスはそっと首を回して後方に広がる店内を見渡す。

 未だ、他の客の姿は伺えない。


 小さなワイン瓶を一本開け、二杯目のエールを呷っているシュトルツ。その隣で最初の数口で食事を終えたエーレは、甘味を食べていた。


 リーベはワインを嗜む程度に飲みながら、ルシウスと並んで、ゆっくり食事を満喫している。



 静かな店内、しかしあまりいつもと変わらない食事模様。それが何故かルシウスに安心感を与えた。



「美味しいですね」



 レギオンに比べると薄味ではあったが、素材の質はよく、口にもお腹にも優しい美味なものだった。



「でしょ~、割とここ気に入ってたんだよね」


「あんなこと言ってた割に、シュトルツって首都に詳しいですよね?」


「まぁ、ほら。やっぱり女性をエスコートするには、詳しい方がいいじゃん?」



 普段よりも随分行儀のいいシュトルツが、肉をナイフで切りながら口端を上げた。



「いつも女性に声かけて、振られてるじゃないですか。いつそのエスコート発揮するんですか」



 そういえば最近、シュトルツのそんな姿を見かけていないことに気づいた。

 女性と遊ぶ時間なんてないせいもあるだろうが、彼の言っていることとやっていることの矛盾に、ルシウスは首を傾げる。


 ふと、目に灰緑色の髪が蘇った。



「そういえば」 正面の赤い瞳と視線がかち合う。


「さっき、リーベが描いた絵と似てる人が――」



 途端、盛大に咽こんだシュトルツが、勢いよくエールを呷り、ルシウスの隣では、数度苦笑が飛ぶ。



「灰緑色の長い髪の女性か?」



 フォークを置いて尋ねてきたリーベに、ルシウスは頷く。


 どこかで見覚えがあると思っていたら、あれはコンラート邸で隠蔽の魔鉱石にイメージ固定をしたときだ。リーベが描いた絵の女性だった。


 綺麗と可愛いと足して割った感じの、とても愛らしい姿の女性。


 背丈はルシウスよりも低く見えたし、お淑やかな中に、少し勝気な雰囲気が混ざっていて、ふんわりと柔らかな感じの女性だった。



 絵と先ほどの女性を頭の中で並べていたとき、またリーベの苦笑が飛んだ。


 エーレが甘味に乗っていた黄金色の果実を、さっとシュトルツの皿に避けたのが見えた。


 果実を皿に落としたエーレが、シュトルツを見る。

 その視線を受けた彼は、数瞬考えるようにして、緩やかに首を振った。



「会ってないよ。また繰り返すつもりもないし」


「別になんも言ってねぇだろうが」


「俺の愛は、エーレさんのものだから」


「だから何も言ってねぇし、思ってねぇよ。てめぇは、いちいち気持ちわりぃ言い方を選ぶな」



 リーベの絵と先ほどの反応、交わされた端的な二人の会話。

 ふと、昨日の会話を思い出したルシウスは、ようやく気付いた。



「あ! もしかして恋人だった人!」



 思ったより大きな声が出て、咄嗟に口を閉じる。隣で三度目、リーベの苦笑がそれを打ち消してくれた。



「お前はどうも、アメリ・ヴァレッタと縁があるようだな」


「勘弁してよ。俺の中では終わったことなの。いつの話してるんだよ……」



 声を落としたシュトルツが、不満げに口に肉を詰め込んでいく。ルシウスは三人を、交互に目だけで一瞥する。



 すごく、気になる。でも、詳しく聞けるような雰囲気ではない。


 あれだけ女性に声をかけているんだから、彼に恋人のひとりやふたりがいても、特段おかしいとは思わない……はずなんだけど。なんだか想像が出来ない。


 彼にとって一番は、エーレなわけだし。


 思考の先で、視線がその男に行きついた。



「あ?」 その彼は、まだ黄金色の果実を、ひとつひとつシュトルツの皿に移している途中だった。


「なんだ、お前もそろそろ恋人がほしい年ごろか?」


「どうしてそうなるんですか! いや、ほしくないことはないですけど……」



 思わず口が滑って、素直は感想がこぼれ出る。

 あらぬ方向に行きそうな会話の流れに、いつもの癖でリーベを見ていた。彼は優しく微笑むと、ワイングラスを持ち上げる。



「私たちは貴方の自由を制限しない。やりたいようにやればいいと思うが……」



 その視線がシュトルツへと向けられた。



「あの男の真似だけはしないように」


「ちょ、俺何もしてないからね!?」


「どの口が言っている。お前の貞操観念を、ルシウスが見習わないように忠告しただけだ。

 アメリ・ヴァレッタのことを言っているわけではない」



 その名前が出た途端、シュトルツが押し黙った。


 どこか嫌な雰囲気になり始めてきたのを察したルシウスが、小刻みに首を振る。視線がたどり着いたのは、黄金色の果実だった。



「それ、南部でしか取れない黄金果ですよね?」



 最後のひとつをフォークに指したエーレが、「いるか?」と果実を向けてきた。



「いや、嫌いなのかなと思って」


「嫌いというより体質に合わねぇんだよ。食うと気分が悪くなる」


「あー」



 ルシウスには身に覚えのない感覚だったが、たしかに特定の食べ物が体質に合わないという人を、それなりに見かけてきた。



「ひとつ、もらってもいいですか?」



 宙に浮いたままのフォークがこちらへとやってきて、黄金果が皿に乗せられた。昔に何度かだけ食べたことがあるものだった。


 口にした途端、甘酸っぱい果汁が口の中に広がって、ふと妙な現実感が浮上した。エルフの里に入る前のあれと同じ感覚だった。


 遠くにきた実感、仲間と当たり前のように過ごす時間。そこに、しっかりと存在している自分。

 そんな着地感が、ルシウスを勇気づけてくれた。



「そのアメリさんは、大商会の方なんでしたっけ? それもあって、今回の件は、テオドールさんに任せるしかないって感じですか?」


「その認識で合っている。アメリはヴァレッタ商会の一人娘で、私たちが通っていた貴族院に、特例で入った人物なんだ。私はさほど面識はないが、シュトルツはそれなりに面識がある。つまり、隠蔽が効果を成さない」



 なるほど。リーベの説明に、ルシウスは口の中で呟き、深く納得した。



 アメリにも、伯爵令嬢にも顔を知られているのなら、間接的にすら動きようがない。


 どうにせよ、夜会の騒動は彼らにとって、さほど重要ではないとのことだった。


 誰が裏幕であれ、アルノ―侯爵家がどうなるにせよ、王国内部を中和さえできればそれでいい。


 騒動が目的の邪魔になるのであれば、対策を練るしかなくなるが、そうでないなら干渉の余地はない。



 シュトルツの心境はやはりそれとは別のようだったが、そこはもうテオドールに任せるしかない、という結論は覆らなかった。



「テオから、いつ連絡くるかなぁ」



 黄金果を口に放り込んだシュトルツが、さして興味なさげにごちた。



「まだ一週間もたってねぇだろ」


「そうなんだけどさー」



 エーレの返答に、彼がこちらに一瞥をくれた。その視線の意図がわからず、首を傾げて応えてみると、残った黄金果を、無言で皿に移してくる。


 食べ物ならなんでも好きなはずのシュトルツの挙動に、思わず行き来していくフォークを目で追っていた。



「テオドールって、どうでもいい嫌なことは先に済ませるけど。こういうことは、じっくり考える慎重な性格でもあるからさ。いつになるかなぁって」


「テオドールさんから、絶対に連絡がくるって言い方ですね」



 テオドールを断絶で意識を落として中和に入った。誤魔化すのが面倒だったため、執務室の窓から退散したわけではあったが。



「ん」 彼は最後の黄金果を皿に落とす。 「来るよ。俺の知ってるあいつは、そういうやつだから」



 何を当然のことを言っている、と言わんばかりの口調。ふとテオドールの姿が頭に過る。


 年齢よりも、随分と落ち着きと威厳を兼ね備えていた。高位(位としては中位ではあるが、王家の剣となるとまた別だろう)貴族として、自己の信念のもと、一歩を譲らなかった姿勢。


 彼は、支配魔法の中にいてもなお、彼らへ最大の譲歩を示した。


 洗脳の影響で話こそ出来なかったが、それさえなければ、力強い味方になるかもしれない。


 あの日、酷く混乱していたルシウスは、今ではそう思うようになっていた。



「テオドールさんってどんな方――」 「そんなことよりさ」



 問いが、シュトルツに遮られた。

 どう考えても意図的なそれに、ルシウスはもう一度聞くのはやめて、果実にフォークを刺す。


 前では彼が、店をぐるりと見渡していた。



「どう思う? リーベ」


「特に、問題はなさそうに見えるが」


「だよねぇ」



 また、僕の知らない話を始めた。ルシウスは二つ重ねて刺した、黄金果を口に詰め込んだ。



「明日からの警護任務はここだから、俺らしばらく夜いないけどよろしくね~」



 酸味が喉に引っかかり、咽こみそうになった。


 ルシウスはシュトルツを見たあと、振り返って店内を見る。丁度その時、入り口のドアベルが鳴って、鍔の広い帽子を被った女性が入店してきた。



「ご褒美というか、完全に下見じゃないですか……!」



 そういえば、依頼書にオリーヴの木という文字があったような、なかったような……


 しっかり見ていなかったから、覚えていなかった。


 不満を訴えながら、もう一度店内を見てみるが――警護任務?


 彼らの言った通り、特段に何があるようには見えなかった。



「俺が、この店を気に入ってるのは本当だから。ね? 美味かったでしょ?」


「それは、そうですけど……だから受けたんですか? この依頼」



 その問いに答えたのはシュトルツではなく、リーベだった。



「オリーブの木は、ヴァレッタ商会直轄経営なんだ。近頃、周りに怪しい者が気配、何か探られている様子があるらしい。警護及び、可能な範囲での原因追及、との依頼だった」



 その依頼内容に、ルシウスの頭には、今までの色んな情報が頭に流れた。


 エリオットの開発や爵授与から始まり、夜会の騒動、アルノ―侯爵令嬢、テオドールの中和、ヴァレッタ商会、この警護依頼。


 点と点はばらけいて、うまく整えられないけど。

 ……なんだか繋がっている気がする。



 訴えるようにエーレを見ると、彼はそれ以上の眼光で、睨み返してきた。



「言っておくが、俺は指示してねぇからな。こいつらが勝手にしてるだけだ」



 それでも疑いの目線を送り続けてみると、彼は何故かテーブルに残った料理を、前に押し出してきた。



「せっかくの()()()だから言わずにいてやったが、もっと肉を食え、肉を」



 ご褒美、という単語を強調して言ったエーレ。

 そんなつもり、さらさらなかったくせに……


 もうすっかりフォークを置こうとしていたルシウスは、口を引きつらせて、シュトルツを見る。


 彼は残ったエールを呷りながら、「俺はもうお腹いっぱーい」と腹を擦る真似を始めた。



 ……ご褒美ってなんだっけ。


 ルシウスは最後の黄金果を口に放り込んで、大きなため息を吐きだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ