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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
5章

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オリーブの木にて、夕食を

 


「アポロン第二刻過ぎに、‘’オリーヴの木‘’集合ね。エーレさんにも伝えといて」



 シュトルツが言うと、ベンチを立ったばかりのリーベは、目を伏せた。

 何かしらの思考が巡らせたような沈黙を経て、彼は懐から取り出した懐中時計を開く。



「三刻足らずか」


「俺はお子ちゃまと、もうちょい遊んでからいくから~」


「了解した」



 彼はシュトルツに一瞥だけくれると、すぐに去っていった。



「あと三刻ないらしいけど、どうしようか」


「楽しそうなところならどこでもいいので、お願いします」



 首都に何があるのかもよくわかっていない。なんだって新鮮で面白いはずだ。



 ルシウスは彼に任せることにし、後について随分色んなところに連れて行ってもらった。


 中央広場から南に降りた場所にある広場の大きな時計台。そこからぐるりと迂回して上った、首都が見渡せる高台。


 来た道とは逆側の階段を降りた先にの通りでは、王立図書館、大聖堂、王立劇場などが立ち並んでいた。中には入れなかったが、それらを順に見回ったりもした。



 どのあたりに何があるのか、どこから先は立ち入らない方がいいのか。

 彼はルシウスが思った以上に色んなことを知っていた。



「東側いけばもっといろいろあるけど、あんまり時間もないし、そろそろ行こうか」



 そう言ったシュトルツの足は、近くにあった細い通りへ向けられ、やがて大きな店構えの飲食店が点在している通りに出た。



「しばらく来てないからねぇ、どこだっけかなぁ」


「ここって貴族街に近い場所ですよね?」



 視線をあげると、貴族特有の豪奢な屋敷の屋根が見え隠れしている。ここは市政と貴族街の丁度中間あたりにある通りで、庶民でも裕福層な訪れる場所だろう。


 ヴェール・ノワールもこの辺りにあるはずだった。



「あー、そうそう。貴族もよく来る場所だよねぇ」


「一体、どんな店に行こうとしてるんですか……」



 オリーヴの木。彼が口にしていた店を想像してみる。


 夏の陽はまだ高く、通りは先まで見通せたが、今までの場所に比べて若干人通りは少ないように見えたし、行き交う人たちの服装もやはり整って綺麗な人たちが多かった。



「あー、あっちだあっち」



 いつしか遠ざかっていた彼の背を追おうと、ルシウスは身を翻す。ふと視界の端で何かが揺れた気がした。

 振り返ると、見覚えのある髪色が目に映った。


 ほぼ同時に、歩み寄ってきたシュトルツがルシウスの手をさっと掴み上げて、急かすように引っ張る。



「早く行くよ」


「シュトルツ、今の女性――」


「俺、ここらだと会いたくない人が多いから」



 どこか焦っているような声色に引きずられながらも、ルシウスはもう一度、後ろを振り返る。


 夏の陽に輝く灰緑の長い髪に相反して、揺れているスカートの色は藍紺色。その女性がこちらを振り向いた時、ルシウスの脳裏にコンラート邸での絵が蘇った。









 シュトルツに手を引かれて数分。たどり着いたのは、大きくシンプルな構えの建物だった。


 緑で縁取られた両開きの扉の前には、「オリーブの木」という店名、名前の通りオリーブの成る木の絵が描かれた看板がある。


 シュトルツは店を下から上まで見ると、おもむろに首を傾げ、



「前は二階建てじゃなかったんだけど、改装したのかなぁ?」 ひとりごちて、こちらを見た。


「いや、僕が知るわけないじゃないですか」



 咄嗟に答えたルシウスは、彼が自分ではなく、後方に向けていることを知り、振り返るが――誰もいない。


 ああ。ルシウスは先ほどの視線の意図を察して、ふと目を閉じてみた。


 おそらく彼は、仲間の生命力を感知したのだろう。

 この広い首都でたった二人の生命力を嗅ぎ取るのは、困難な業であるだろうが、もしかしたら――



「……僕にはまだわかりませんね」



 さすがに首都は、人が多すぎる。すぐに断念して目を開けると、すぐ隣にいたはずのシュトルツはおらず、代わりに扉が開く音が聞こえてきた。



「もう着くだろうから、先に入っておくよ~」


「ちょ! 一言くらいかけてくださいよ!」



 すぐに小走りで追い付いたルシウスに、シュトルツは首だけ振り返ると。



「広範囲の生命力探知には、早くても十年はかかるよ?」



 そう、ほくそ笑んだ。








 外観に劣らず、店内は広々としていて、薄緑色の上品なクロスが敷かれたテーブルが、等間隔で並べられている。


 テーブル数自体は多くない。壁にかけられたシンプルな時計に目をやると、針はアポロン第二、十の刻を指していた。


 入店と共に、すぐにやってきた女性店員へ、シュトルツは角席を希望し、彼女の案内のもと、店の一番奥のテーブルへ座ることにした。



「どうして、いつも角なんですか?」



 レギオンでも、彼らは角席に好んで座っていることを思い出した。



「エーレさんが角、というか奥の席がいいらしいんだよねぇ」



 壁際の椅子へかけた彼は、空けた隣を見て微笑む。その脳内には、すでにエーレが見えているようだった。



「でも一番奥だったら、色々面倒じゃないですか?」



 シュトルツの正面に腰掛けたルシウスは、怪訝に思って尋ねる。



「色々?」


 さっそくメニューを開いた彼は、「ああ」と納得したように頷くと、すぐに自分の飲み物だけを店員へと先に注文した。


 店員が遠ざかって、彼は言う。



「レギオンじゃ、奥の方が面倒じゃないし。こういうところだとほら、色々見えるでしょ?」


「色々?」



 ぐるりと店内を見渡してみると、たしかに店の全体が見渡せる位置で、造りの関係もあって入り口もしっかり見ることが出来る。早い時刻のせいか、客はルシウスたちしかおらず、店内は更に広く見える。


 でもそれだけだった。



「ある意味の職業病だよねぇ。入り口付近の方が、何かあった時に逃げやすいかもしれないけど、俺らには必要ないし?」


「はぁ、そうですか」



 わかるような、わからないような。

 それ以上の思考を諦めて、メニューを開いたルシウスは、飛び込んできた値段に濁った声が漏れ出た。


 運ばれてきてワイン、咄嗟にメニューの価格と目の前の実物を照らし合わせてしまう。



「ご注文はお決まりですか?」


「私も同じワインを」



 ルシウスが決めるよりも早く、答えたのは、いつしか到着していたリーベだった。



「遅かったねぇ」



 二人を歓迎したシュトルツは、エーレのために一度立ち上がり、彼を奥の席に通す。

 他はあとで注文すると告げた彼は、ルシウスの手の中のメニューをひょいと取って、先にエーレに渡した。



「飯にはまだ早えだろ。腹も減ってねぇしな」



 渡されたメニューをテーブルへと押し出したエーレは、不機嫌そうに隣を一瞥する。


 指定時刻より遅れたのは、乗り気ではかったこの男が原因のようだ。

 そこに、シュトルツの苦笑が滑り込んだ。



「いいじゃん、たまには四人揃って外食も。

 お子ちゃまにとって、これはご褒美になるんじゃないの?」



 たしかに。こんな落ち着いた形で、四人揃った外食は初めてだった。



「好きなものを選ぶといい」



 リーベの手によって、メニューは再び手元に戻ってきて、彼はおすすめを教えてくれた。


 城にいた時に聞いたことがあるような料理名もあった。

 結局、いつものように食べたいだけ頼んだシュトルツを見て、ルシウスは気になった一品だけ注文することにした。




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