表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

243/266

"物語"と僕

 



 目を覚ましたルシウスは、今までにない妙な感覚を覚えた。


 少し前まで混沌を巻き起こしていた記憶たちは、随分と遠のいていて、はっきりと自分がどこにいるのかわかる。その上で頭の中には、しっかり膨大な物語が残っていることを感じ取れる。


 物語の中のルシウスの思考も感情も、引き出そうとすれば鮮明に思い出せるだろう。


 それでもあれは僕じゃない。そう区別できる確信があった。



「ルシウス」



 声をした方向を見ると、隣のベッドの向こう側に、リーベがいた。そのベッドにはエーレが眠っている。


 仲間の姿を見て、ルシウスは深い安堵を感じた。それは、自分がしっかり今の仲間を認識できていると言う安心だった。



「混乱は収まった……という認識で合っているか?」



 こちらへやってきたリーベの、珍しく自信なさげな問いに、ルシウスは一度の瞑目と重い頷きで応える。

 前よりも随分、意識ははっきりしている。けれど、体が重くて声を出すのも億劫だった。


 リーベの深い安堵の息を心地よく受け取った彼は、今一度エーレを見た。



「エーレなら問題ない。生命力を消費しすぎて眠っているだけだ。

 それよりも彼女とは、どうなった? と聞きたいところだが……」



 彼はそれ以上言わずに水の入ったコップを持ってくると、ルシウスの頭を抱え、水を飲ませてくれた。

 喉の渇きが癒えた彼は、どうにか声を絞り出す。


「彼女が、どうにかしてくれました。多分、もう大丈夫です。でも……体がだるくて……まだ眠くて……」


「把握した。眠りたいだけ眠った方がいい。記憶が馴染むまでには時間がかかる」



 ルシウスは小さく頷くと、体が望むまま、瞼を閉じることにした。




 その眠りでも彼は夢を見た。けれど、それは起きた時には、ぼんやりと思い出せない類の夢だった。

 どれくらい眠っていたのかわからない。体のだるさも、頭の重さも消えきらない。


 それでも喉の渇きと空腹を訴えた体に従って、ベッドを出ることにした。



 ふと、扉へと視線を巡らせると、



「エーレ」



 簡素な机の前の椅子に座ったまま、腕を組んで眠っているエーレがいた。

 呼びかけても反応がない。


 自分が意識を混濁させていた間に何があったのか、余程疲れているのだろう。


 彼を起こさないように、そっと扉を開けて廊下に出たところで、すぐにシュトルツと鉢合わせた。



「思ったより、早いお目覚めだったね。体調はどう?」



 その手にはお盆に乗せた料理がある。最近、こういう彼しか見ていない気がしたルシウスは、思わず失笑した。



「もう大丈夫です。心配かけてすみません」


「いんや、お子ちゃまが悪いわけじゃないからねぇ。それよりお腹空いてるでしょ? 食べる?」



 隣に並んで見せてきた料理は、どう考えてもエーレがまだ好んで食べるものだった。



「それエーレのやつじゃ――」


「まだ寝てるでしょ?」



 シュトルツは、今しがた出てきた扉を見て言った。



「何があったか教えてもらえませんか?」


「俺は直接見てたわけじゃないけどね」



 そんな前置きをしながら、シュトルツが部屋の扉を開けた。









 シュトルツとお互いに起きたことを話している間、ルシウスは慎重に咀嚼しながら料理を食べた。


 エーレが机の前にいることと、まだ本調子じゃないだろうから、という理由でベッドでの介抱つきの食事だった。



 意識の混濁によりルシウスが眠った後、エーレが風の精霊と対話をしに向かった、ということをまず聞かされた。

 それ以前のことをルシウスは尋ねた。彼自身、その間の記憶が薄かったからだ。


 自分が自我の揺らぎを抱えながら、ベッドで何を言って、どうなっていたのか。リーベに聞いた範囲でだけ教えてくれた。



 意識の中に風の精霊がやってきて、記憶を整理してくれたのは、エーレが彼女を説得してくれたおかげなのだろう。

 ルシウスもまた、シュトルツに夢の中であったことを話した。



 食べ終えた皿を丁寧にお盆にまとめた彼に、この間、随分と面倒をかけたという気持ちと、思っていた以上に心労をかけたことを知ったルシウスは、謝罪を重ねる。



「本当に色々すみませ――」


「お前が謝ることじゃない」



 そこに眠っていたはずのエーレの声が飛んできた。



「エーレ、大丈夫なんですか?」


「あ?」



 片目だけ開いた彼はまだ眠そうだったが、すぐに首を回しながら立ち上がる。



「別に、あいつと話すのに生命力を使いすぎただけだ。大したことじゃない」


「でも顔色がまだ――」



 自分がもう一度眠ってから、それなりに時間が経っていると聞いた。それなのに、彼の体調はまだ回復しているようには見えなかった。



「俺も少し考えるところがあっただけだ。気にするな」



 それ以上何も言おうとしない彼に、自然とシュトルツを見た。



「ああ、顔色の良いエーレさんを最後に見たの、いつだっけなぁ」



 笑ってお盆を持ち上げたシュトルツに、ルシウスは半眼になる。



「貴方たちはいつもいつも、シュトルツが話したこと以外は本当に何もなかったんですね?」


「んー、たぶん?」



 右肩だけ上げて上に視線を投げた彼に、嘆息がこぼれる。



「俺が、この空間だと生命力の安定がしにくい。それだけだ」



 不本意そうなエーレの声色にルシウスは目を見開いた。



「なんでそれ、先に言ってくれなかったんですか」



 だから霊奏でこれほど消耗したのか。合点がいって、更に嘆息がこぼれた。



「霊奏の訓練つけるくらい問題なかったからな。それに、リーベが土魔法で生命力消費を抑えてくれてただろ」



 エーレの言葉に、首を傾げかけた時、シュトルツが付け足した。



「あれあれ、リーベが指定魔法してたでしょ?」


「あー、そういえばたしかに……」



 風の精霊とひと悶着あって、何気に展開されたリーベの魔法のことはすっかり忘れていた。



「土ってそんな特性もあるんですね……」


「魔法使用者がその場から動けないという欠点があるから、中々使うところはない。そんなことより――」



 説明をしながら隣までやってきたエーレが、不意にルシウスの肩を押した。



「まだ寝とけ」



 思わず反駁が喉まで這い上がってきたが、寸前で飲み込んだ。


 まだ体調が万全ではない。自分もエーレも。

 風の精霊ともう一度対話するにしても、今の調子じゃ消耗だけが激しくなる。



「エーレもちゃんと食事摂ってくださいね」



 ルシウスはそれだけ言って、布団をかぶり、回復を優先することにした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ