8.相容れませんか?
優馬の手に生まれたのは、刃渡り四十センチもない片刃の剣。身幅が広く、鍔も大きい。最大の特徴は、その峰に刻まれた櫛状の凹凸。
「ソードブレイカー…」
仮面の下、香宮が微笑った気がした。
複数のスタイルを選べるとはいえ、メインとなる武器は一本である。スタイルには区分がされており、メイン、サポート、ガジェットの三種類。メインを複数選んだ場合、それぞれの特徴を合わせたような武器になる。
逆に、メインとなるスタイルをひとつも選ばなかった場合。それでもサポートとして選んだ武器は発現するし、モノクルなどのガジェットばかりでもその形は現れる。
ただ“メイン”とされてるのは伊達ではなく、他に比べ攻撃性能が高い。そもそも優馬のブランド“ソードブレイカー”の元は、利き手ではない方に持つ武器である。攻撃力を期待できるスタイルではない。
それでも、優馬の武器はコレだし、コレで戦うしかない。確かに攻撃力は低いかもしれないが………
「キミを説得する時間は、まだありそうだね!」
─ギンッ!─
『剣を壊す』という名を冠された武器である。さすがに実際に壊す事までは出来ないが、それでも相手の攻撃を受け、次の攻撃を遅らせる防御に適した武器だ。
驚いたのは、一応訓練はしたとはいえ、香宮の攻撃にしっかり反応して体が動く事。
ゲームでは何度も戦闘を行ってきたとはいえ、それはあくまで行動宣言してサイコロコロコロである。実戦で役立つとは思えない。
戦闘となった時、かなりのケガは覚悟した。以前のような『マスカレーダーかどうかを試す』一撃ではなく、『マスカレーダーに対する攻撃』である。弾けるとは思えないし。
それが………
「どうだね?力が欲しくならないか?いや、強力な能力を自由に使いたくならないか!」
─ギンッ!─
見える。どうすればいいか考える前に体が動く。さばき、受け、流し、ときに絡める。なんなら……───
「ッ!」
─ギャリ!─
反撃すら行える。
「………キミは特別だよ。在野に埋もれるべきではない」
足を止め、剣を下ろして香宮が言う。切りつけられた場所を押さえた手。そこには血もにじまず、手を外せば傷口すら残っていない。
「……そうゆう言葉に心揺れるのが普通なのかもな……」
ソードブレイカーを倒して構えて。
(お互いダメージはほぼなし。大技も使ってない。あっちのスタイルから推察すると、必殺2回、防御1回ってとこか……)
状況を整理しながらも言葉を紡ぐ。
「でもな、オレの能力とアンタの理想とは別物だ。オレはアンタの手段を否定する。理想への道を否定する。殺そうとして生き残ったから仲間に、なんて都合がいいんだよ」
「……まだ古い“常識”に捕らわれてるようだね。なら、」
香宮の構えが変わった。両手で持った剣が、半身の体の後ろに隠れる。
「一度死んで、考えを改めたまえッ!」
(来る──!)
速く、まっすぐな踏み込み。それが間合いに入る直前……───
……かろうじて目で追えたのは、移動するという予測と、剣の構えから左に行くという予想から。
消えたと思うほどのスピードで、香宮の体がスライドする。それはあの公園で切りつけられた時と同じアビリティ。スタイル:ストリングスによる移動だ。
複数のフィラメントを操るストリングスは、それを操って移動や攻撃の補助に使える。伸ばした先への移動、あるいは周囲に檻のように展開して………
「…っ!!」
逃げ場をなくした一撃に使う。
「ッァアア!!」
覚悟していたとはいえ、激痛に声が漏れる。無数のフィラメントに切り裂かれ、ソードによる斬撃が腕、胸、肩を深く切り裂く。
床に倒れ、自身が噴き出した血だまりの上でなんとか体を起こす。
「まだだ!」
「……強情だね。普通なら死んでいる。力の恩恵が身に染みただろうに」
香宮の言う通りだった。腕の傷は骨まで達しているし、胸の傷も致命傷。
だがそれらも、優馬の意思とは関係なく金属が覆い、あっという間に傷は消えて痛みもなくなる。
同時に湧き上がる衝動。爆発しそうな闘争本能。それを奥歯で噛み殺し、優馬は立ち上がった。
「力があるからって何してもいいってわけじゃないだろ。それに、得た力をどう使うかは自由だ」
失血とオラクル・ウィルスに体を蝕まれる感触に目眩がする。ふわふわとした感覚の中、口をついたのは誰のセリフだったか。ゲームマスターをしていた時にプレイヤーのひとりが言ったセリフだ。
「その言でいうなら、僕がキミの説得に力を使うのも自由かな」
(あぁ、ツッコミが入るトコだな…)
説得とは言葉でするものだと。
握りしめたソードブレイカーの感触を頼りに意識を繋ぎとめる。かすんだ視界が焦点を戻した。
「試してみなよ。その力で説得できるか……ひとの心を動かせるか」
「試すのは、キミが泣いて考えを改めるまでどれくらいか、だよ」
─ギンッ!─
三度の斬撃。
(クソッ)
それをさばきながら………こうして反応できるのは、どこかでゲーム的なステータスが作用しているからだろう。能力値的なものがあるなら、たぶん順当な結果と言える。だがゲーム的というのなら、
(オレのターンじゃないのかよ)
攻撃は、おおむね交代制のはずだ。こっちの攻撃を待ってくれない、というのは………当たり前だが………そこまで“ゲーム”ではないという事だろう。
─ギンッ!─
それでも、なんとか刃を返す。それこそ何点と出るわけじゃないから、どれくらいダメージが入ってるかなんてわからない。それでも推測するなら、HP70~80に対し合計20~30点くらいはダメージを与えたか。
さっき防御不可の攻撃を出した香宮の手札は、あと攻撃と防御に一枚ずつといったところ。
まぁこれも『バランスを考えたなら』であって、そのバランスというのはプレイヤー側がなんとか勝てる事を考えたもの。HPというもの含め、甘えの残る想定でしかない。
それでも……
(やるだけやる!)
振り下ろされる剣を弾き、すぐさま薙がれる剣を受ける。それでも少しずつさばききれなかった攻撃が、傷となり、金属化して体を蝕んでいく。
「……どうした?“説得”が下手じゃないか、社長サンよ」
軽口を叩きながらも、ふと視界に入った右手が肘まで硬質化していてぞっとする。頬に感じる違和感も、金属だろうか。
「思った以上に強情であることは認めよう」
想定以上の守り、と印象付けたはずだ。攻撃は大した事ない、というのも。
香宮は、両手で握った剣をかつぐように構えた。
「それでも、キミが折れる未来は変わらないよ」
「ッ!」
圧が増す。一瞬下がりそうになるが、そもそも足が動かない。
ソードのアビリティ、〈ダウンフォール・ストライク〉。回避ペナルティに攻撃力UP。これが二枚目の攻撃カード。
(出し惜しみしてたんだ。最後であれよ)
迫りくる豪剣をにらみ、ソードブレイカーの鍔を左手で握る。
もともと片手剣であるソードブレイカーの柄は、両手で握れるほど長くない。そもそも両手での運用など想定されていない。だがアビリティとして、両手を使い渾身の一撃で弾き返す、という説明があった。
〈リバーサル・エッジ〉、こちらの切り札。
「っぁああああ!!」
吠える。ソードブレイカーの必殺技は、攻守一体のカウンターだ。
─ギィンッ!─
弾き返したソードの残響を……
─ダンッ!─
優馬の踏み込みがかき消す。香宮のふところへと入り込み、そのままソードブレイカーを振り上げる………その刃に、無数のフィラメントが絡みつく。それは速度を減じ、刃を包み、ついには止める。
「……惜しかったな」
ストリングスのアビリティ。これが、香宮の防御のカード。
「いや……」
香宮の、その後ろを見つめて。優馬は笑みをこぼした。
「予定通りだ」
「……!?」
黒い髪が軌跡のように。舞うように冬華は………
閃く斬光は一瞬。
……香宮を一太刀で切り伏せた。




