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メタ読みしてもいいですか?  作者: 矢玉


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5.ご存知ですか?


 冬華が呼んだ救急車は、意外にも診療所の前で止まった。見るからに個人医院である。

 駐車場もあるしそれなりに広いが、敷地としては大きめのコンビニくらいだろうか。街の中心部から少し離れたようだし、あまり流行ってるようにも見えない。

 ストレッチャーで運ばれていく物部を見送る優馬。その心配は、はっきりと表情に出ていたのだろう。

 「大丈夫だ。骨までは行ってないようだし、傷も大きいわけではない。命に別条はないだろう」

 そう言って肩に手を置いてくれる冬華。だがその手はなぐさめだけではないらしく………

 「だが人の心配ばかりしてる場合ではないぞ。見ようによってはキミの方が大変なんだ」

 言われてみれば。物部はわけもわからずケガしただけ、とも言えるが、優馬は違う。

 幻覚でなければ………むしろ幻覚であってほしいとすら思ってしまうが………“剣”を出すフードの男に、どこからともなく現れた冬華は刀で対抗した。その動き、明らかに人間業ではなかった。

 ………フード男を蹴り飛ばした優馬自身の事もある。

 「キミが暴れなければ安全は保証する。秘密を守ってくれるのであれば、今夜家に帰れる。キミ自身のためにも、説明は聞いてくれ」

 「………」

 肩に置かれた手は、そのための拘束だ。今聞いた言葉は、すべて裏返せる。

 説明を聞かなかったら。口外したら。暴れたら。

 まぁそれらがなかったとしても、説明は聞きたい。逆に詰め寄っていたかもしれない。知りたい事だらけだ。

 「………わかった」

 深呼吸ひとつ。少しでも冷静に。説明を聞きもらさぬように。

 冬華にうながされ、診療所へと入った。

 (………診療所の中…?)

 どこか場所を変えるのかと思ったら。スリッパに履き替え、受付に挨拶をすると、慣れた様子で冬華はスタッフオンリーの扉を開けた。居心地の悪さを感じながら、一緒に通り抜ける。

 奥の扉を抜けると、廊下。いくつかある扉のうち、応接室のプレートが貼られた扉をノック、返事がないまま開ける。

 「座ってくれ」

 部屋は無人だった。

 窓はなく、中世の砦らしき絵が飾られている。中央に丸テーブル、椅子は四脚。隅に電気ケトルの乗ったテーブルがあったが、それだけで、もう他に物が置けないような狭い部屋だった。

 「なにか飲むか?コーヒー、紅茶、緑茶……インスタントかティーパックだけどな」

 「じゃあ、コーヒー」

 勧められた奥の椅子へと座り、添えられた砂糖とミルクを紙コップのコーヒーに淹れてかき混ぜる。

 冬華は緑茶だった。お互いひとくち飲むのを待ってから………

 「では、説明しようか」

 彼女は静かに語り始めた。変貌していた世界の事を。


   *  *  *


 これから話すことは一見荒唐無稽、とうてい信じられないようなこともあると思うが、とりあえず最後まで聞いてほしい。証拠についても、いくつかは示せる。

 まずは………そうだな、キミは私が持っていたもの、あのフードの男が持っていたものを覚えているか?

 幻覚ではない。あれはマスカレーダーの持つブランド……あぁ、いや。最初から説明しよう。

 二十年ほど前から、世界各地でオカルトじみた事件が散見されるようになった。それ以前にもあっただろうが、はっきりと“正体不明の事件”が観測されるようになったのだ。それらを辿り、行きついたのが“マスカレーダー”の存在だ。

 当時はそんな名称もなく、犯人の顔が金属で覆われてるように見えたところから、そう呼ばれるようになっただけだが。

 犯人……そうだ。人間の仕業だ。だが“人間”と言っていいかは………ヒトが、ヒトを逸脱して行ったものだからな。

 原因は、“オラクル・ウィルス”。これもそう名付けられただけだし、正直ウィルスという言い方は正確ではないと思ってる。既存のウィルスと比べ、その性格は異なる部分が大き過ぎる。

 人に感染、発症、変調を来たすという意味では当てはまるが、瞬時に肉体を作り変えたり、武器を作り出すなど他のウィルスとは違い過ぎるだろう?

 さきほど言ったように、この“オラクル・ウィルス”に感染、発症したものを“マスカレーダー”と呼ぶ。そして“マスカレーダー”が持つ武器が“ブランド”だ。

 ブランドも細かく分類されてるが、今は置いておこう。留意すべきは、マスカレーダーには二種類いる、という点だ。

 察してると思うが、私も、あのフードの男もマスカレーダーだ。だが、おそらくアイツは“ローグ”………歯止めの効かなくなったマスカレーダーだろう。

 ………キミは、特殊な力を手に入れたらなにをする?映画のような話だが、実際に起きると映画のようにはいかないぞ。なにか止めるものがないと、際限なく身勝手が通るのだから。

 暴走するマスカレーダー“ローグ”を止める事を目的とした集団が出来た………というのは、『映画のよう』ではあるか。私はその組織に属している。

 すまないが、組織について今は詳しく話せない。キミの去就次第、という事になる。

 だが“マスカレーダー”については教えられる。いや、知ってもらわなければならない。なぜなら、キミにも“ローグ”の危険があるからだ。

 これは、またあのローグに襲われるという意味だけではない。キミ自身が“ローグ”になるかもしれない、という意味だ。

 先ほど公園でなにか感じなかったか?急に周囲から人が消えたり、あの友人の反応がなくなったり………あるいは、妙な高揚を覚えたり。

 個人の感覚に差はあれど、非感染者・未発症者は忌避したり無反応になる。逆にマスカレーダーは高揚や興奮などを感じる。“デュエル・コート”と呼ばれる空間だ。マスカレーダーならば作り出せ、少々離れていても察知することができる。

 あの場でキミが行動できていたこと事態が、キミがマスカレーダーであるという証拠だ。

 そしてマスカレーダーにはローグになる可能性が常につきまとう。自制が効くかどうか、という話ではない。マスカレーダーとしての力を使えば使うほど、オラクル・ウィルスは体を深く蝕んでいく。

 能力を使う際、体の一部が金属状に覆われることから“メタライゼーション”というが………それが進んでいくのだ。それが全身を覆えるようになった時、ローグという戻れない道に足を踏み入れる事になる。

 一部の感染症に異常行動の報告例があるのは知ってるか?個人的には寄生虫の宿主操作に似たものだと思ってるが………なんにせよ、“メタライゼーション”が一定を越えた者を“ローグ”といい、その行動はタガが外れる。

 おのれの欲望、願望のみのために行動し、他者を省みない。元に戻った例はなく、元に戻す方法もわからない。一時の暴走などではなく、性格が書き換えられてしまうと言った方がいい。

 ただ、知能が落ちる例もあれば、落ちない………どころか上がる例もある。厄介なのは、偽装する輩がいることだ。一般人を装いつつ、したたかに計画を推し進める………そんな輩が。

 今回のフードの男もそうだろう。なんらかの目的があり、キミに近付いた可能性がある。………間に合わなかったが、昨日“デュエル・コート”を察知し駆けつけた公園にキミがいるのを見た。あの時もなにかあったのだろう?探りを入れるために今朝、会いに行ったのだが………。

 ともあれ、キミも能力を使いすぎればローグに堕ちる可能性がある。ローグとなった者がどうなるか………『止める事を目的とした組織』と言ったが、止める方法など限られている。

 そもそも、強大な力があり、それを自分勝手にふるう輩だ。そういった者がどうなるか。これは一般社会でも例はあるだろう。司法、行政を挟まない分わかりやすいが、同時に一般に認められる権利もないと言える。

 マスカレーダーのための法はないからな。

 ………どうした?と、聞くまでもないか。こんな話、いきなりされても頭がついていかないだろうからな。今日はこんなところにしよう。

 最後に。この話は当然ながら秘密だ。こんな事実を受け止められる一般人は少ない。あなたの隣りに対処できないバケモノがいるかもしれない、なんて、混乱しか招かない。

 “メタライゼーション”のこともある。力を使おうと思わないでほしい。制御についてはおいおい教えるつもりだ。

 家までは車を出してもらおう。それと、なにかあったら遠慮なく連絡してほしい。私の番号だ。


   *  *  *


 「ゆーまー」

 ばたばたとした足音と秋音の声で、はっと我に返った。

 診療所から帰って、自室でぼーっとしていた。

 ─がちゃ─

 「大丈夫なの?」

 「………ノック」

 「でも病院………」

 「あ~…だから、」

 友人と公園に寄った際、頭上から枝が落ちてきてケガ。救急搬送し、ついでにそこで自分も診てもらった………という事にした。クリニックへの連絡も診療所の方からしてもらったし、秋音へはメールをした。のだが、

 「早退してきたのか」

 「もともと診察に付き合うつもりだったし」

 と、近付いて来て貼り直した絆創膏を確認しようとする。

 「いや、大丈夫だから」

 その手を払う。あまりまじまじ見られても困るのだ。マスカレーダーとなった優馬の回復力は、常人をはるかに超える。おそらく、もう跡もない。

 「その一緒にいたっていう友達は?というか、さっそく友達できたのね。女の子?だったら……」

 「だ~か~ら~、」

 一気に日常に戻された。適当な説明をして、とにかく部屋から追い払う。夕飯のリクエストを聞かれ、食べてみたかった宅配ピザを希望できたのは良かったが。

 「っふ~…」

 ベッドに倒れ込んで天井を見つめる。

 バラバラだった思考が、ようやく形を持った。“マスカレーダー”、“オラクル・ウィルス”、“メタライゼーション”………

 (………『シン・ライン・シヴァルリー』じゃねえか!!)

 胸中で言葉にした瞬間、体が熱くなる。

 『シン・ライン・シヴァルリー』。現代異能TRPG。優馬がドハマりしているゲームである。

 冬華の説明に驚いた理由は、それらがその『シヴァルリー』の設定そのものだったからだ。

 引っ越す前。生まれ育った町は、名称こそ“町”だが“村”と言った方がいいようなところで。娯楽の少ない中、出版関係だった母がどこからともなく手に入れてきたのがTRPGのルールブックだった。

 TRPGは会話主体でゲームが進み、ルールブックとサイコロ、そして紙とペンで無限に遊べる。人数はある程度必要だが、ヒマしてる友人などたくさんいた。

 興味を示した数人と“都会”に6面ではないダイスを調達しに行った時、他にも様々なルール………システムがあるのを知った。リプレイ………実際に遊んだ記録も購入し、手探りで遊び始めて………離れて行った者もいれば、入って来た者もいた。

 優馬はハマった。それも現代異能モノ『シン・ライン・シヴァルリー』に。

 舞台は現代日本。だが、世界には隠された真実があり、それがオラクル・ウィルスに感染、発症した者たちによる脅威であり、それに対抗する組織の存在。プレイヤーはその組織に所属し怪物となった発症者相手に戦うヒーローモノ………ではなく。

 もちろん組織所属のプレイヤーもいるし、怪物となった発症者“ローグ”を相手に戦うのだが。“ローグ”は、元は一般人である。そしてその素性を隠す事もできる。

 一般人と思っていた相手が、実はローグだったという展開。それを倒さなければいけないという葛藤。そしてもしかしたら、自分も同じ末路を辿るかもしれないという不安。決して表立って動くことのできない、バレればまとめて“バケモノ”と呼ばれかねない存在というのも、優馬の心に刺さった。

 おしむべくは、このシステムでゲームマスター………シナリオを用意し、ゲームの進行をするホスト役を、優馬以外があまりやらない、ということだけ。

 自キャラを作り、いわゆる主人公サイドとして遊ぶプレイヤーは、数えるほどしか経験していない。

 このシステムは、キャラを成長させる経験点をゲームマスターも貰える。プレイヤーになった際に使えるのだが………未使用の経験点が数百点も溜まるほど、主にゲームマスターとして遊んできた。

 なので、冬華に聞いた説明など、ゲームマスターとして何度も語ったような内容で。『詳しく話せない』と言った組織についても知ってる。

 “グローバル・オーダー”。フード男がつぶやいた通り、略称は『G.O.』。そこに所属、ローグの被害を食い止めようと戦っている冬華は、マスカレーダーの中でも“キャバリエ”と称される。

 (まぁ、ゲームの通りなら、だけど)

 そうであるなら、全て説明できる。

 能力は、追加データが載ってるサプリメントも含め12種のスタイルで分類される。それぞれ武器………ブランドが異なり、“剣”を出すスタイルは“ソード”と呼ばれる。

 それらのスタイルを、1~3種選んでキャラを作る。スタイルごとに取れる能力………アビリティがあって初期経験点で取得していく………と、概要はそんな感じだが。

 もし冬華がG.O.のキャバリエで、ゲーム通りの話なら……───

 (どういうことだ?)

 どこからか、ゲームの世界に迷い込んだということか。

 (それなら……)

 一気に起き上がり、部屋の隅、積み上げた段ボールのひとつにとりつく。それにはTRPG関連の物を詰め込んである。もちろん『シン・ライン・シヴァルリー』のルールブックも。

 「なっ……」

 思わず手に取り、開く。そこにあったのは、『シールド・ウォーズ2.0』の拡張データ集だった。

 『シヴァルリー』のサプリメント購入のため諦めたもので、新たな戦闘特技、種族などが載っておりキャラクターメイクの幅がかなり広がる。そもそも『シールド・ウォーズ』は優馬が初めて手にしたTRPGシステムでその版上げである2.0は…………

 「………………って読んでる場合じゃねぇ!」

 戦闘特技を見ながら『これならこんなキャラが作れるな~』と考え始めたところで我に返った。

 詰め込んだ物を全て出す。床に広げたそれらの中に、『シン・ライン・シヴァルリー』に関連するものはひとつもなかった。

 ルールブックはもちろん、限定で手に入れた特製ダイス、リプレイ、書きかけのシナリオや経験点を記した紙、預かったキャラクターシートも。

 ただ消えていたのではない。例えば『シヴァルリー』のリプレイが載ったから、と買った雑誌は、別のシステムのリプレイが載っていた。ルールブックも、別のルールブックになっている。

 (……………………)

 自分の記憶を疑いたくなる。が、

 (ありえねえ)

 プレイも、ルールブックを読み込んだ時間も………費やした時間は、合わせれば数百時間にもなるだろう。妄想と疑う余地すらないほど、染み付いている。

 「……………」

 ちらりと時計を確認して、ケータイを手に取った。引っ越し前、地元でイヤというほどTRPGを遊んだ友達にかける。結果は………

 ─ぴっ─

 通話を切ったケータイを見つめる。

 『忘れないようなんとか繋いどくから、夏休みとか戻ってきたらまたやってくれよ?シールド・ウォーズ』

 ……………メールボックスを開く。『シヴァルリー』の文字はない。

 世界から………いや。フィクションから『シン・ライン・シヴァルリー』が消え、現実(ノンフィクション)に現れた。

 それとも優馬がゲームの世界に来たか。どちらにせよ、優馬の胸にあるのはわくわくと不安だ。

 (俺が……マスカレーダー!)

 あこがれの異能を使える。妄想してきた世界で、妄想してきたアクションが出来る。

 けれど不安もある。

 『シヴァルリー』は人間関係、その葛藤に重きのあるシステムだ。そのシナリオは、大体においてエグいところを攻める。優馬もマスターとして、過去いくどとなくプレイヤーを追い詰めてきた。もし現状が『何も知らない高校生が覚醒した』という筋のシナリオなら……───

 「っ!」

 部屋を飛び出す。リビングに駆け込めば、

 「………ピザならまだよ?」

 ソファーでテレビを見てる母。

 「………ハーフ&ハーフで頼む」

 適当にごまかして部屋に戻る。そうだ、早退して戻って来ていた。

 (……落ち着け)

 まずは“最悪”を考えよう。『シヴァルリー』において家族が巻き込まれる、近しいものが死ぬなどは当たり前なのだ。

 今が……この世界が『シヴァルリー』の世界で、現実だった場合。それが“最悪”のケースにつながる。気のせい、取り越し苦労で終わったのであれば、優馬の恥ずかしい思い出として封じてしまえばいい。

 (俺がマスターならどうする?)

 どうシナリオを組む?転校してきたキャラが怪しげな人物に襲われて覚醒する。その先を読む………いや、作る。自分だったらこの後……───


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