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メタ読みしてもいいですか?  作者: 矢玉


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3.落としましたか?


 公園から通りを目指して走る。人目があれば、と大きな通りでは歩いたが、どうしても速足になった。マンションに着き、エレベーターを………待っていられずに、階段を駆け上がる。足が上がらず、膝が抜けそうになりながらドアへ。小刻みに振るえる手で鍵を差す。

 ─バタン─

 閉めたドアに寄りかかり、ずるずると腰を着いた。

 くらくらする酸欠の頭と、酷使して痛みすら感じる足。とりあえずは一息………

 「…!」

 まさかと思うが。それでも確認した方がいい。こういうタイミングでまた……というのはホラー系のお約束だ。

 鞄を下ろして、手近にあった傘を持つ。鍵とドアロックを確認してから、室内をひとつずつ見回ってく。

 母の帰りはまだだ。もし誰かいたら、問答無用で殴っていいはず。

 「はぁ……、はぁ……、」

 まだ呼吸は乱れたまま。隠密もなにもないな、と思う。それでも出来るだけ慎重にすべての部屋を見て………というほど部屋は多くないけれど。

 誰もいない。

 カーテンを全部閉めて、自室へと入って、今度こそ一息ついた。

 (ゆめ……じゃないよな…)

 いまいち実感が持てない。それでも、買ったばかりの詰襟の袖は切れているし、フードの下に見えた口元も…………

 (いやいやいや……)

 もう一度、深呼吸。

 主観を除けば、あるのは制服の袖の切り口だけ。確かに見たと思っている自分も、一昨日事故にあっている。

 どこかに袖を引っ掛け、その辻褄合わせに見た幻。

 そうとでも思うのが現実的だ。どこからともなく長剣を出した男にいきなり切りつけられて腕で弾いた、なんて思うより。

 なのに、なんで………

 「はぁ……、はぁ……、」

 興奮しているのか?

 じっとしていられないような衝動。それは“逃走”のためじゃなく、“闘争”を求めているかのような。

 握りしめたままの傘をゆっくり手放し、落ち着けと呟く。

 頭を打っておかしくなった。この可能性が一番高い。幻覚があんなリアルか?というのは、幻覚なんて見た事ないからわからない。袖はどこかに引っ掛けたか………あるいは自分で切ったとか。

 これに関しては、都合よく明日病院に行く予定がある。額の傷の経過観察で、その時相談すればいい。それまで行動は慎重にならなければいけないけど。

 けれどもし、幻覚ではなかったとしたら?

 剣を出す。腕で弾く。そんなの、ゲームだ。

 逆を言うなら、ゲームでなら何度となく似たシチュエーションを作ってきた。

 そんなはずない、と隅の段ボールに目をやる。さすがにこのタイミングで開ける気にはなれないけど、あのゲームならあり得る展開だ。

 首を振り、立ち上がる。

 どっちの想像にしろ不安はつきまとうが、今出来る事は少ない。まずは傘を玄関に戻して………

 詰襟を脱ぎ、Yシャツを確かめる。

 「……縫うか……」


 秋音が帰ってきたことで、少し落ち着けた。どうせ明日は病院に行くし、その病院は母の勤め先のビルの中。少し痛むからとだけ告げて、さっさとベッドに潜り込む。

 どうせ眠れないだろうという予想に反して、気が付けば目覚まし時計に起こされていた。

 体調は、問題ない。頭は、むしろクリアなくらいだ。

 そうなると、いよいよ昨日の事はただの夢だったんじゃないかと思えてくる。袖の縫い跡が無ければそれで済ませられるのだけど。

 「じゃあ、二時に病院ね」

 秋音に念を押される。

 今日までは短縮日程だ。どこかで昼を食べ、オルタービルに向かう事になる。

 「わかってる」

 昨日の不安はかなり薄まった。病院すらいいのではないか、なんて考えも浮かぶ。

 ともあれ、行動は慎重に。様子を見つつ、異変があれば警戒を高めて…………

 「日立優馬はいるか?」

 そういう異変は想定していなかった。

 無事登校し、まだクラスに馴染めない転校組がどことなくそわそわとしている朝の教室。優馬も話しかけられたら、それが幻覚かどうか確認をおこたらないようにとは思っていたが。

 廊下に現れた美少女は、クラスメートを頼ってこちらを指名した。

 まず、美少女である。白い肌、大きな瞳、つややかな黒髪。すらりとしたおみ足は、黒のニーソ。凛とした、という表現が似合いそうな美少女である。

 そして、優馬の知り合いリストに彼女はいない。ここの生徒である以上、どこかで目に入ったかもしれないが………新学期二日目というより転校二日目。面識はないと言い切っていい。ついでに昔ここに住んでて実は幼馴染という事もない。

 となると幻覚を疑うのだが、彼女はクラスメートに声を掛けてから、こちらを見た。話しかけられたクラスメートも、さらには関係ないクラスメートも彼女を見てから、教室を見回してる。

 あれだけの見た目、注目されるのも無理はない。そして“日立優馬”と言われてすぐ自分の事だとわからないのも、無理はない。

 至極自然。幻覚ではないように思える。

 それでも一応警戒して。『あれ?アイツがヒタチユウマだったっけ?』みたいな空気になるのを待ってから、席を立つ。視線を感じながら近付けば、

 「日立優馬だな。少し付き合ってほしい」

 ─ざわっ─

 (あぁ、本当に“ざわっ”っていうんだな)

 確かに空気の立てる音を聞いた。

 小さくうなずいて………ここまできたら、もう幻覚ではないだろう。現実ではないとしたら寝こけて見てる夢だ。

 名前の確認に合わせた要望にもうなずいてしまった形なので、踵を返す彼女の後ろについていく。どこへ行くかは知らないが………

 (スタイルいいな)

 身長は、優馬よりやや低いくらい。160半ばか。つい観察してしまう。

 肩をやや越す程度の髪は、他の女生徒と似たような長さだが、しっかりと整えられている。両耳を出す髪型のせいか、まっすぐな姿勢のせいか。歩き方もピシリとしていて、わずかなびく髪すらも、止まればきっちり元の位置に戻るように見える。黒のセーラー服が、彼女のためかのように似合っていた。

 スマートと表現した方がしっくりくるスタイルは賛否あるだろうが、清潔感は好印象だろう。

 (最近じゃあ透明感って言うんだっけ)

 そんな事を考えてるうち、彼女が足を止めたのは校舎の端。階段と自販機のあるスペースだった。

 紙パックのジュースを買った男子が、ちらりと彼女の方に目を向けてから去っていき………人はいなくなる。

 「すまない、急に呼び出して」

 「あ、あ…うん」

 彼女は一応同級生らしい。とはいえ初対面。しかも地元じゃ見なかったような美人。どういう口調、態度で接したらいいかわからず、困る。

 「私の名前は半井冬華(なからい とうか)、隣りのクラスだな。実は……」

 とポケットから取り出しのは、生徒手帳だった。優馬の。

 「昨日これを拾ってな。返そうと思って」

 「え?」

 落とした?いや、落としたというのならあの公園で。それは不思議じゃない………か?どこに入れたかも覚えていないが、ありえなくはない?

 やや混乱しながらも、

 「あ…ありがとう」

 受け取る。

 要件はそれだけだろう。もったいない気がするが、ここであれこれ話を繋げられるほどナンパではない。まして人生初の生美少女相手に、舌など回らない。

 教室へと傾いた動きを止めたのは、

 「見ない顔だと思うのだが………転校組か?」

 冬華だった。

 「あぁ……親の都合で、新学期に合わせて」

 「私のクラスにも何人かいたな。多いのだろうか?」

 「どうだろう?こっちにも何人かいたけど、ここが新興都市だからとかじゃないのか?」

 「そこまで発展はしてないぞ。大きなビルは出来たが……」

 「それだ。うちのか……親も、たぶんそこで働いてる」

 「たずねて行ったりしたのか?」

 「あ~、まぁ……」

 「?なにかあったのか?」

 「ちょっとケガしたというか……」

 ほらコレ、と額を指す。冬華が触れようと手を伸ばしたところで、予鈴が鳴った。

 「すまない。時間だな」

 「いや…」

 細い指が戻っていくのを目で追ってしまう。

 優馬としては、もう少しお近づきになっても全然かまわないわけで。むしろ予鈴がうらめしい。

 「じゃあ、今度は手帳を拾ったお礼を要求しに行くが………かまわないか?」

 それはつまり………

 「…………」

 予想外の“今度”に、バカみたいにコクコクとうなずいてしまった。

 「………。……戻らないのか?」

 「あ…、戻る戻る」

 取り戻した落ち着きを再び失いつつ、彼女の後について教室へと向かう。

 ………小さなガッツポーズは、我慢できなかった。


 (お礼……お礼か~)

 最初こそニヤついてしまったものの、冷静になるにつれ、色んな考えが浮かんでくる。

 まず“お礼”の内容。要求するらしいが、どの程度だろう?『一緒に買い物』なんかだったら望むところ………まぁ予算内での話。現実的なトコだと、ジュース一本とか。連れ出された所も自販機の前だったし。

 で、そうなると彼女自身の事が気になってくる。半井冬華という名前と、隣りのクラスという情報は得た。あの見た目だ。聞けばおおまかな情報くらいはすぐわかるだろう。事前に少しくらいは知っておきたいが………。

 そこまで考えると、さらに気になる事が出てくる。なぜ………

 (積極的に関わろうとする?)

 届けてくれたのはありがたいが、廊下で渡す………なんならクラスメートに『渡しておいて』で済んだはずだ。なのになぜわざわざ校舎の端まで連れ出し、優馬の事を聞いてきたか。その理由がわからない。

 「ちょっといいか?」

 「お、おぅ」

 教室。今日の日程は終わり、『今度は』が今日の可能性を考えて、考え事をしながら席を立たずにいた。そんな優馬に声を掛けてきたのは、少し離れた席の男子だった。

 「オレは物部佐俊(ものべ さとし)。ヒタチユウマ………」

 机に手をつき圧をかけてくる。

 これが長身コワモテ筋肉ダルマならビビりもしたが、運動部とは縁がなさそうなややポッチャリ。短い茶髪を逆立ててはいるが、ニキビのある、どちらかというと愛嬌のある顔立ち。

 見た目からというわけではないが、“呼び出し”ではなさそうと判断する。

 「質問がある。ぜひ、答えてほしい」

 友達になりたい、とかだろうか。おぼろげな記憶ながら、彼も転校組だったような気がする。

 うなずいた優馬に物部はさらに近寄り、声………は大きいまま。

 「あの女性は、なぜ、キミを、たずねてきた?」

 「………………」

 まさにそのことを考えていた。

 「拾った生徒手帳を届けてくれた」

 「すぐに渡さなかったのはなぜだ?」

 (やっぱそう思うよな)

 そしてその答えはわからない。そう答えるのは簡単だが………

 ちらりと周囲に目を向ける。教室に残っている何人かは、こちらの会話を気にしている。

 正直に答えて気を引き続けるのはゴメンだった。かといって、あまりにとぼけすぎると再びたずねてきた時に支障をきたす。

 こういう時は、

 「生徒手帳にメモを挟んでいたせいで、余計な気を使わてしまったみたいだ」

 “ありそうな話”をすればいい。

 冬華がどんな性格かは把握できてないが、『そういう事もあるかもな』と思わせてしまえば勝手に納得するものだ。

 その証拠に。様子をうかがっていたクラスメートは興味を失ったようだ。

 「話した内容はそれだけか?」

 が、すごむことをやめない物部。そんな疑われるようなほどか、と思い………

 (……もしかして、)

 ぴんときた。

 ぐっ、と声をひそめる。

 「…手帳を落としたと思しき場所を教えようか?」

 欲しいのは、きっかけではないだろうか?

 「………」

 ずいっ、と来た。鼻息荒くうなずく。

 柳の下に二匹目のドジョウがいるかはともかく………とりあえず、ジャンクフードで手を打った。


 下校途中にクラスメートとファストフード店に寄る、なんて初めてだった。そもそもファストフード店が近くになかった、というのもあるし、そんな事するなら誰かの家に寄った方が早かった。

 二階の隅、二人掛けの小さな席に腰掛けて、

 「まず、確認から入ろうか」

 口火を切ったのは優馬だった。

 ここに来るまでに事前交渉は済んでいる。なんとなくのキャラクターも感じ取った。お互い、似た匂いを感じたはずだ。

 「名前は半井冬華、2-A。基本情報はそれくらいしか知らないけど……」

 「中学の途中から転入、あの口調と見た目で当初は距離を置かれたが意外と気さくで男女問わずファンはいるものの広く浅い交友で交際の噂はなし。現在帰宅部」

 「………すごいな」

 「これくらい、地元組に聞けば誰でも知ってる」

 情報内容ではなく、その収集能力に驚いた。いつから集めたか知らないが、なかなかなコミュ力を持ってるのではないだろうか。クラス全員が気になりつつも声を掛けなかった優馬に声を掛けたのも彼だし。

 ぜひ、仲間に欲しい能力だ。

 「で、そちらの情報だが……」

 ポテトをくわえてドヤ顔を披露した後、物部は話を促した。とはいっても、優馬から出せる情報など少ない。

 「自販機の前で二、三言葉を交わした。内容はこちらの出自について」

 「…………おい。」

 トレイの上のナゲットが、ひとつ物部の口に入る。

 さすがに1セット分の情報は出せないと思って、情報量はナゲットにしておいた。それも、今ひとつ減ったが。

 「慌てるな。彼女は“お礼”を要求してきた」

 「ほう?」

 「予鈴が鳴っていたから、それはまた今度だそうだ」

 「ほほう」

 「つまり聞きたい事があればその時に聞ける、というわけだが、なぜ足を踏む?」

 「気にするな。手帳を落としたくらいじゃ運のバランスが取れてないと思っただけだ」

 (手帳か……)

 それも気になる点ではある。物部の足下から靴を抜きつつ、ナゲットをかじる。

 確かに落とす可能性はあった。が、鞄の中に放り込んだものが、そう簡単に落ちるだろうか?鞄に傷はない。チャックを締め忘れたと言われればそれまでだが。

 (もし………)

 ぞくり、とした予想が背筋を這う。

 もし、昨日のアレが幻覚ではなく、明確に優馬を狙ったものだったとしたら?それに関連して、彼女が動いていたとしたら?

 浮かんだその考えを、まさかと捨てる。

 (シナリオには使えそうだけどな)

 ゲームマスターの思考としては、アリではある。

 「で?実際どこで落とした?それが彼女の行動範囲ってことだろ?」

 「それなんだけどな。言われるまで失くしたことに気付かなかったから、いったいどこで落としたかさっぱり」

 「つっても、どこ行ったかくらいは覚えてるだろう?」

 「まぁ…」

 いくつかの店を寄って公園を通って帰っただけだ。店内という事もないだろうし、やっぱり可能性が高いのは公園とその帰り道なのだが………

 「……人に言えないようなトコ行ったのか?」

 「本屋と公園だよ」

 「なんだ」

 なんだ、っていうほど平穏ではなかった………と思う。制服の袖、その縫い跡を確かめるようになぞる。

 現実に起こった事とは思えない。ならば幻覚なのだが、そうとも思い切れず………いっそ妖怪だとでも言われた方が納得………?

 (あぁ、オカルトって線があったか)

 「で、本屋と公園ってどこの?」

 「どこって言っても………」

 地理を完全に把握しているわけでもない。わかる地点からの行き方をなんとか説明する。

 物部はふむふむとうなずくと、

 「犬の散歩の時に公園で拾ったな」

 「犬、飼ってるのか」

 「いや知らん」

 「………完全にイメージで言ったな」

 小型犬より大型犬をしっかり躾けていそうだな、なんて思う優馬もたいがいか。

 「まぁ、少し時間をずらして同じルートを辿ればエンカウントの可能性もあるってことだな」

 鼻の穴を膨らませながら都合のいい計算をしているところ申し訳ないが。

 「このあと病院行かなくちゃならないから、ずっとは付き合えないぞ」

 「病院?」

 「コレ」

 と、額の絆創膏を見せる。

 「まさか……朝、遅刻しそうになって走ってたら曲がり角で───

 「いや。車にはねられた」

 「車両!?よくそれで済んだな」

 確かにそうだ。でも、昨日切りつけられたかもしれないのに無傷な方がびっくりだ。

 「そんなわけで、予約時間までだな」

 「病院って、総合か?」

 「オルターってビルのクリニック」

 「あぁ。そこのビル、親父の勤め先が入ってる」

 「うちの親もそこ。出版社」

 「うちはIT。あのビル関連の転校生、多いみたいだぜ」

 「ほぅ」

 同じ転校組といっても、やはり物部の情報収集能力はあなどれないようだ。聞けば、引っ越し時期は同じくらいだが、結構歩き回って地理を把握したらしい。

 見た目はドロップアウトした運動部員だが、なかなかに勤勉だ。いずれ趣味を聞いて、出来れば引き込みたい。

 コーラを持ち上げたまま、そのカップを人差し指で叩きつつ何か考えていた物部は、

 「ここからでも、公園から回れば病院には間に合うだろう」

 ルートを検索していたらしい。

 というか……

 (そうだよな。公園に行く流れだよな)

 なんとなくイヤだから行かない、とも言えない。それに、もし場所が理由ならその情報を持って病院に行ける。物部がいれば幻覚かどうかもわかるし、なにかあれば病院に連絡もしてくれるだろう。

 そう考え、公園に向かうことにした。幻覚じゃなかった場合どうするか、なんて事は考えもせずに。


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