2.ファーストコンタクト?
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫だって」
「今日くらいは休んでいいのよ?」
「半日だけだし、ホントなんともないから」
「そう…。なにかあったら連絡してよ?」
「わかったって」
……と、そんなやりとりをして登校。額の絆創膏は取れなかったが、隠せるほど髪も長くない。まぁ話しかけられるキッカケにでもなれば、『異世界転生しそこねた』と笑って返そうと構えていたものの………
始業式。そして各クラスへ。誰としゃべるでもなく、話しかけられるでもなく、割り当てられた席へ。真ん中後ろ。周りでは、それぞれ近くの席の誰かとしゃべっていたりして………。
「あ~、席に戻れー。とりあえず自己紹介して、配布物と伝達事項で終わりだから」
白髪で小柄な男性教師が入ってきて、なんだか諦めの混じったような声音で言う。
「とりあえず先生からなー」
と黒板に名前を書くが、おとなしく前を向いてるのは優馬含めて十人もいまい。
考えてみれば、皆一年はこの高校にいたはずで。地元なら、それより前からの知り合い、という場合だってある。そりゃあ同じクラスになれば話も止まらない。転校生と言ったって、二年の新学期からでは目立ちもしないし。というか………
(多いな、転校生)
自己紹介で『親の仕事で引っ越してきました』というのが、すでに三人。発展途上の都市、という事なのだろうか。
街並みやマンションがキレイなのは、都会だからではなく単純に新しいからなのかもしれない。
趣味や部活、あるいはウケ狙いの自己紹介もあるなか、優馬は無難に流す。趣味について語りたいが、仲間を探すのは慎重にならなければ。誰にでも理解してもらえる、というものでもない。
とはいえ、悠長にしていては欲求不満になる。『じゃあ、解散』と言った先生の後を………
「…………」
一応、誰か話しかけてくるなら充分なだけ待ってから、先生の後を追いかける。聞いておきたいのは、
「あの。部活やサークルの一覧ってありますか?」
見せてもらった一覧には、目的の部活はなかった。そう都合よくあるとは思っていなかったが、一応である。
同好会も載っていたが、そちらにもなかった。カードゲーム・ボードゲーム同好会が近いとは言えるが、あくまで近いだけ。優馬が求めるモノは、ジャンルとしては近いが方向性が違う。
そこらヘンのさじ加減をわかってくれる同好の士がいればなぁ…と思いつつ、学校帰り。遠回りして、一昨日チェックした駅近くの本屋へと寄る。
引っ越し前はネット注文、あるいは遠征しかなかった本が、ここなら手に………
(入ら……ぬ)
店の半分は文房具や玩具、雑誌も発売日には並ばない、なんて本屋ではない。雑誌の種類も多ければ、コミックの新刊が平積みされている、結構広い本屋。それでも、手芸や技術書はあれどTRPGはない。
予想していたとはいえ、マイナーなジャンルなんだと思い知る。あんな田舎で同じ趣味の友人が出来たのは幸運だったという事か。
(いや、オレが引きずり込んだんだけど)
逆に娯楽の少なさが良かったのかもしれない。人口は桁違いの町に来たとはいえ、出来る遊びも増えてるわけで。
とりあえずは、近場にプレイヤーがいないか探りを入れてみるか。それからサイコロ転がし、会話で進めるゲームをどうやってプレゼンしていくか。いや、その前に“気の合う友人”というのを見つけないと。そーいや、ルールブックも段ボールから出してないな。
などと思いながら線路沿い、勘だけでマンションの方へと歩みを進める。やがて車道とは別れて公園の中へ。やや昇り、逆に線路は低く消えていく。
木立を抜ける涼しい風に、鳥の声が混じる。さっき自転車に乗ったおばさんとすれ違ったきり、人の気配もなくなる。
─ざわっ─
風に梢が揺れて、むしろ静かさが際立った。この町に来てから、夜でもどこからか人の発する音というものが聞こえていた気がする。元の町を思い出して落ち着いてもいいはずなのに………
(……なんだ?)
ドクドクと、鼓動が早い。急かすように、踊るように?あるいは警鐘のように。
はぁ…と大きく息を吐いて。それでも落ち着かない胸に手を当て、足を止めて目を閉じる。
それで、少しは治まった心臓が……───
─ドクンッ─
目を開け、顔を上げた先。
男がいた。顔はわからない。黒のコートを着て、フードを目深にかぶっている。少し汗ばむくらいの中、きっちりと前を閉じて、両手はポケットの中だ。
男とわかったのは、それなりの身長と体付き。それに革靴から。
さっきまでいたか?どこから?なぜ止まって、こちらを見てる。………見てる?
色々な疑問が頭に渦巻く中、優馬が気付くのを待っていたかのように男が動いた。
「…ッ!?」
まばたきひとつの間に、20メートルほどの距離が半分になった。
時間が飛んだかのような変化に頭が真っ白になる。どうやって?なんで?どこから、その“剣”は出てきた?
振りかぶられるまごうことなき“剣”。自分へと向かってくるその刃を、なぜか冷静に見つめる。
(あ、カッコいいな)
両刃の西洋剣。やや細身で切っ先は大きめ。RPGに出てくる剣そのものといった感じで……───
視界を遮ったのが自分の腕だと気付いた瞬間、刃は……
─キィィンッッ─
高い音を立てて、弾き返された。
(…………?)
腕に衝撃が残っている。避けられるタイミングではなかった。実際、腕に衝撃があったわけだし。
(“キンッ”?)
それだけが、わからない。
いや、“それだけ”じゃない。どこから出したかわからない剣でいきなり切りかかってきた男も、だ。
見れば片手に剣を下げたまま、数歩分の距離を取ると……
(……笑っ…た?)
そのフードの下、確かに口元は笑みの形に歪んだ。そして、
(そっちは線路…!)
木々の間に身を躍らせると、どこかへ消えてしまう。
それを見送った姿勢で、しばし呆然とする。
いまのは、いったいなんだったのだろう?白昼夢でも見たと言われれば納得しそうな、現実感のない一瞬の出来事。本当に起こった事なのだろうか?
証拠になりそうな物といえば、足元に落とした鞄………。事故で頭を打ち、幻覚でも見たのだろうか。
鞄を拾おうと伸ばした手に、違和感。袖が………切れている。
ちょうど剣を受けた所。下のシャツごと、すっぱりと切れている。腕に傷はないのに。
「…………っ」
ぞくり、と。なにかを感じる。誰かに見られてる気がして………一切合切を後にして、鞄を抱えて自宅へと走った。




