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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第6章(ム=カイ遺跡編)
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第35-4話



私は、何をする気力もなくただぼんやりとベッドの端に腰かけていた。



どうやって部屋に入ったのかは、よく覚えていない。ここがジークポリスの高級旅館であるのは内装から察したけど、そんなのはどうでもよかった。


今日は色々なことがあった。あり過ぎた。ナイトハルトが私の従兄弟であること、ランダムさんとの再会、そして彼が「神」であること。どれも衝撃的だったけど、それすら今は大したことじゃなかった。



私の心を占めていたのは、恐怖と後悔。

あの、オーバーバックという男に、私はなぜあんな約束を……「記憶を取り戻す」などという約束をしてしまったのだろう??



仕方なかった。ああ言わなければ、きっと私たちはロックモールで彼に皆殺しにされていただろう。

エリックですら、あの男には何もできそうもなかった。ああするしかなかった。それは分かっている。



……でも、これからどうすればいいの?



手で顔を覆った。ランダムさんの言っていたことが、全て虚言であればいい。そう思いたかった。

でも、彼は……多分嘘はついていない。精神感応魔法の初歩を、私は義父さんから習っている。嘘をついているかどうかは、かなりの精度で分かるのだ。


そして、あの男は約束をきっと覚えている。もし彼に再会したら、どうすればいいのだろう?

言われた通り記憶を取り戻す?いや、そんなことをしたら多分大変なことになる。彼が「あの程度」で済んでいるのは、きっと記憶を失っているからだ。

じゃあ、それを拒絶すればいいの?……きっと、それも無理だ。私たちじゃ、彼には……勝てない。


救いなのは、まだ時間が幾らか残っているという点だ。3週間後、またあいつは現れると言っていた。

つまり、あと約2週間。それまでに、何とかする手段を見つけないといけない。



「どうした、塞ぎ込んでいるようだが」



いつの間にか、ナイトハルトが部屋に入っていた。口元には、いつもの余裕の笑みが浮かんでいる。


「……あなたには、関係のないことです」


「つれないな。あの胡散臭い男の戯言を、真に受けたわけでは……」


「あなたも分かっているはずです。彼が言っていることは、狂人のそれじゃない。

あなたも知らなかったんですよね。ハーベスト・オーバーバックの正体を」


彼の表情が、真顔になった。


「……彼は、『勇者』アルベルト・ヴィルエール陛下の紹介で六連星に加わった、と聞いている。

私が加入したのは、先代の『六連星』であった父上が死んだ後だから、その辺りの事情は知らない。一つ言えるのは、あの男は元々『六連星』ではなかった、ということぐらいだ」


「じゃあ、正体を知っているのは」


「アルベルト様とトンプソン卿……あるいは、『六連星』を立ち上げた1人、シェリル・マルガリータぐらいだろう。……正直に言えば、私も少々混乱しててね」


「ゲオルグ陛下のことは、どうするんですか」


ナイトハルトが、しばし沈黙した。


「私も色々考えたが、やはり『聖棺』は使うべきだ。『聖槌アウレ』を使うことが、危険だとしても」


「あなた自身は、どうなってもいいというんですか!?」


思わず大声になった。彼が、少し目を閉じる。


「ランダムとかいう男の言う通りになるとは、限らんだろう。それに、『アウレ』はともかく『グングニル』は、今まで散々使ってきた。心や身体に変調を感じたことなど、ない」


「でも、今回は違うかもしれないんですよ!?」


「ほう、心配してくれているのか」


ふっと、ナイトハルトが笑った。私は身を強張らせる。


「な、何を……」


「やはり君こそ私の妃に相応しい。今回のことが終わったら、是が非でも物にしたくなった」


「……そんなんじゃ、ありません。それに、私とあなたは、近い血縁なのでしょう?そんなこと……」


「従兄妹との結婚なぞ、庶民であっても禁じられてはいないぞ?それは言い訳にはならんな。

エリック・ベナビデスに操を立てているつもりかもしれないが、『ム=カイ遺跡』の件が一服したら彼は用済みだ。諦めろ」


何か言おうとしたけど、上手く言葉が出てこない。私とエリックは、「まだ」そういう関係じゃない。キスはされたけど、それだけだ。


「……処刑するんですか」


「さあな。ただで殺されてくれる男でもないだろうがね。それに、今はこれからのことの方が大事だ。

出発は、今から2時間後。兄上にかけられた睡眠魔法の効力が続いているうちに行く。君も、体力を蓄えておけ」


ナイトハルトが、私に何かが入った瓶を手渡した。色と微かな匂いから、それが高級な体力回復のポーションであるのがすぐに分かった。


ふと、疑問が生じた。部屋を去ろうとするナイトハルトに、私は声をかける。


「あなたは、この件が終わった後……どうするつもりなんですか」


ナイトハルトは振り向くと、どこか寂しそうに笑った。


「さあな。ただ、私が不老不死になることは、恐らくはあるまいよ」


彼はそのまま出て行った。


私は、その言葉が本当であるのを「精神感応」で感じた。そして……同時に分かったことが一つある。



あの人は、何かを偽っている。




アイテム解説


「ポーション」


よくある体力回復のアイテム。本作では一種の栄養ドリンク的な使われ方をしている。

モリブス編でしばしば出てきた「霊癒丸」もその一種。ただし、あくまで回復するのは体力やマナであり、外傷には効かない。

もちろん、配合されている薬草などによってその効果は大きく異なる。「霊癒丸」は最高級の効果がある。ナイトハルトが手渡したものは、それには及ばないがかなりの高級品。

なお、1本で一般庶民の月収が飛ぶ程度には高い。



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