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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第6章(ム=カイ遺跡編)
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第35-5話


「どうした?随分さえない顔をしているが」


アンソニーが肉を飲み込んで言った。

食堂では「ダストボックス小隊」の面々が昼飯を食っている。俺は内心、選択を誤ったと思った。


ランダムの所では、結局ほとんど何も口にしなかった。そんな気分になれなかったからだ。

それでも腹は減る。多少何か入れておかないとこの後がもたないと思ったのだが……連中がいることを、すっかり忘れてしまっていた。一人になりたかったのだ。


「いや……何でもない」


「そんな風には、とても見えないがな。お前も一人飯はつまらないだろう、こっちに来たらどうだ?」


「……分かった」


断るのも波風が立つ。こいつらと長く付き合うつもりはないが、それでも空気は読まないといけない。


「どうにもこいつは辛気くさくていけねえな。一仕事の前だ、ぱーっと行こうぜ」


豚鼻の男……確かアゾグという名だったか。彼がエールの入ったグラスを掲げた。


「ほどほどにしろよ。泥酔した状態で仕事なんざできるわきゃないからな」


「細けえことはいいんだよ、ギャラハー。にしてもうめえなあ!特にこの魚と貝の……何だっけか」


「『プイユの湯』。ジークポリスの伝統料理でしょ」


兎人の女が、冷たく言い放つ。


「んだよ偉そうに。旨けりゃいいんだよ旨けりゃ」


「脳筋は楽よねえ……てかあなた、ナイトハルト閣下と一緒に何をしてたのよ」


視線が俺に集まる。正直に言うべきだろうか。しかし、ランダムが言っていた話をすんなりこいつらが信じるとは、到底思えない。


「あのランダムという男は、ナイトハルトの知り合いの情報提供者だ。こっちの事情に詳しいらしい」


「ふうん。まあ顔の広い閣下だからねえ。にしても、『神』とか何とか言ってなかった?」


「彼なりの冗談、だそうだ。気にしなくていい」


「何か隠してるな」


バフという名の牛男が、静かに言った。


「どうしてそう思う」


「お前の表情だ。今の平静を取り繕っているが、アンソニーが話しかける前のお前はどこか焦っている……いや、追い詰められた表情をしていた。俺の目は誤魔化せんぞ」


その隣にいたエルザが頷く。


「だね。まあ、あんたも時代が時代なら王様か王子様だ。お偉いさんならではの色々な事情みたいなもんがあるんだろうけどよ。

オレは隠し事が好きじゃねえんだよ。そんなんなら、オレは『降りる』ぜ」


「……ん」


人間の男が、言葉少なに同意する。これは、全てを隠すのは無理か。


「……分かった。ただ、聞いて後悔するなよ」


俺は、「ム=カイ遺跡」とこの世界の成り立ちについて、それほど障りがなさそうなところを選んで話した。ランダムについては信じてもらえそうもなかったので、ナイトハルトが懇意にしている学者ということにした。

「ターミネート・ソルジャー」のことと、そしてその一体が「ム=カイ遺跡」に眠っていることを伝えると、テーブルの空気が一気に冷えた。


「……マジ、かよ……俺は降りるぜ、今まで何度も危険な任務はこなしてきたが、こんな無茶なのは……」


「降りたきゃ降りろよ、アゾグ。その代わり、お前は賤民以下だぞ?『廃棄層』行きになってもいいのか?」


「でもよ……命あってこそじゃねえかよ。お前は怖くねえのかよ、ギャラハー!?」


「死ぬ時は皆死ぬんだ。だろ?シャルル」


シャルルと呼ばれた人間の男は、静かに匙を置いた。


「……生きているだけで幸福だ。今の俺は、いわば『おまけの人生』を生きているに過ぎない」


「元死刑囚は言うことが違うなぁおい!?でもな、俺はまだ死にたくねえんだよ!24だぞ??女もろくに抱いちゃいねえ、旨いものもまだまだ食ってねえ。

皆が皆、お前みたいに悟ってるとか思わねえ方がいいぜ??」


「だが、逃げても死ぬより辛い生活が待っている。そもそも、逃げられると思ってるのか、アゾグ」


「アンソニー……」


アンソニーがアゾグを睨んだ。見かけこそ子供だが、その言葉には修羅場を潜った人間しか持ちえない、不思議な重みがある。


「大丈夫だ。ここ2年、2番組のコルバート、5番組のセレスとジェシカが死んだ以外は大体この面子で上手くやって来た。

今までの小隊でも、間違いなく最強だ。余程のことがあっても、きっと生き残れる。

それに、ナイトハルト閣下もいる。あの方は、何やかんやで俺たちを守ってくれるだろう。そうだろ?」


「あ、ああ……」


ナイトハルトの人望は、確かなもののようだった。しかし、「神器」の危険性までこいつらに伝えるべきだろうか。

いたずらに動揺させたくないという気持ちと、真実を伝えることが誠実ではないかという考えがぶつかり……前者が勝った。


アンソニーが、俺に向かって笑う。


「というわけだ。そんなことを伝えられたからといって怖気づくほどやわじゃないさ」


「……すまないな。ただ、一つだけ言わせてくれ。危ないと思ったら、なりふり構わず逃げろ」


「それはお前の意見か?それともナイトハルト閣下の意見か?」


アンソニーが、じっと俺を見てきた。こいつは、まださほど俺を信用してはいない。


「……後者だ」


「そうか。ならば従おう。それよりどこに行った?あの変なシャツの男は」


「準備があるらしい。2時間後には、ここに来ると言っていた」


「本当に大丈夫なのか?あんな痩せっぽちで、戦力になるのかよ?

それに、お前の知り合いらしいあの猫と狐。奴らも姿が見えねえじゃねえかよ」


言われてみれば、シェイドとデボラの姿がない。


「いや、俺も知らない。どうしたんだ?」


「こっちに着いたら『調べ物があるにゃ』とか言って消えやがったよ。あいつらも信用ならねえな。そもそも何だよ、『にゃ』って。馬鹿にして……」


「ごめんにゃ、これは生理現象にゃ」


俺の後ろから声がした。振り向くと、シェイドとデボラ、そしてクロエとブランがいる。その表情は、やはりあまり明るくはない。


「シェイド、いつの間に……?」


「猫は足音を立てないモノにゃ。少し気になって調べてたにゃ」


「調べた?」


「そうにゃ。おかしいとは思わないにゃ?」


「おかしい?」


クロエが頷いた。


「ジークポリスは移転した、って話だったわよね。しかも、本来あるべき場所から相当離れた場所に。

でも、ここの食堂もそうだし、街の人々も普通に生活している。『何もなかったかのように』」


「……まさか」


嫌な予感がした。さっきのナイトハルトの言葉を思い出す。



『奥の手だ。使ったのは2、3度しかない』



その2、3度のうちの1回が、今回だとしたら?そして、ジークポリスの人々が一体何人いるというのか??

それだけの人数に、同時に術をかけていたとしたら。……その消費マナは、とてつもなく膨大だろう。


そして、その上でさらに「アウレ」の力を使ったとしたら……



クロエの言葉に、デボラが続ける。


「魔力の残滓を感じ取れるシェイドを中心に、ちょこちょこ聞き取りをしてたってわけさ。

出た結論は、『誰かが魔法を使っている』。ナイトハルトかアウグスト、多分ナイトハルトだろうって話になった。

ちょっと大丈夫なのかい?ナイトハルトにずっと従うってわけでもないだろうけど」


……俺の脳裏に、今度はランダムの言葉が聞こえた。



『使用頻度がさほどでないうちはいい。だが、一定水準を超えると……使用者は、自我を失った怪物へと成り果てるんだよ』



これは、猶予なんてない。俺は直感した。



ナイトハルトがどうなろうが、俺は知ったことじゃない。だが、あのアヴァロンの姿を思い返すに、甚大な被害が起き得るというのも容易に想像がついた。



「どうしたんだよ、また深刻な顔になって」


「……ナイトハルトを止めないと」


「は??」


「詳しいことは、まだ言えない。そもそも、そうなるかどうかはまだ分からない。

ただ、一つだけ言っておく。ナイトハルトに異変が生じたら、俺が奴を殺す。何としてでも」


「何を馬鹿なことを言っ……」


訝し気なエルザを、アンソニーが制した。


「今は言えない。そうだな」


「ああ」


アンソニーは、小さく頷いた。


「分かった。万一もないだろうが、その時はお前に任せる」


「……済まない」



確証はない。ただ、もし俺の考えが正しいなら……



ナイトハルトは、ゲオルグのために自分を犠牲にするつもりだ。




キャラ紹介


アゾグ・ヨークシャー(24)


ハーフオークの男。豚鼻で、見た目はオーク寄り。身長191cm、体重121kgの巨漢。

ハーフオークにありがちだが、父はオーク、母は人間。ただ、母がレイプされた結果生まれたため、父の素性は知らない。

最下層民として生きてきたが、その腕っぷしの強さを買われて子供の頃から用心棒として働いていた。その突出した膂力を買われ、2年前に4番組に加入。

大食漢で豪快だが、意外と気は小さく臆病。この臆病さは用心深さでもあり、何度か役にも立っている。

その外見からか素人童貞。彼女募集中だが、そのルックスのため一向にその気配はない。


相方で冷静なギャラハーとは互いの欠けている点を埋め合う良いコンビ。なお、元々2人は対立する貴族に雇われていた敵同士である。

武器は大棍棒。小隊ではタンク役を務める。

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