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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第5章(皇都テルモン編)
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第33-1話


「皇都テルモン」は、世界最大の都市の一つだ。


人口は数十万人もいるらしい。アトランティアや南ガリアからの移民も増えているらしいから、100万人以上いるかもしれない。

皇帝ゲオルグが住む王宮周辺は実に華やかだ。アングヴィラの城下町よりも、きっと人々の生活水準は上だろう。



でも、それは多くの奴隷や下層階級の人々の犠牲の上に成り立っている。



王宮から遠ざかれば遠ざかるほど、人々の暮らしは貧しくなる。そして、住民の人数も増えていく。

私のテルモンでの記憶は11歳の頃までしかないけど、子供でも分かるくらい歪んだ街だった。


それは、あれから11年経った今……さらに酷くなっているようだった。


#


「君の生家は……『第二層』にあったかね」


朝のコーヒーを優雅に飲みながら、ナイトハルトが言う。


「生家ではなく、叔父夫婦の家です」


「失礼した。君の両親は、君が幼い頃に亡くなっているのだったね」


私は小さく頷いた。両親の記憶は、ほとんどない。そして、なぜ死んでしまったのかもよく分からない。

ただ、叔父のマシュー・レミューが下級貴族であったことは知っている。叔母のキャリー含め、私にはあまり関心がなさそうではあったけど。


そして、記憶にうっすらとあるあの魔族のお兄さん。彼は、何者だったのだろう?

ナイトハルトは彼を「ミハイル・コバロフ」と呼んでいた。その名前すら、私は「忘れていた」。



私の中から失われている、11歳から12歳にかけての記憶。それを今日、私は「思い出しに行く」。



「ナイトハルト……閣下は、私の両親をご存知なのですか。そもそも、ミハイル・コバロフとは一体」


「ふふ、君はただ『思い出しさえ』してくれればいい。詳しい話は、全て見てからだ。

今日は私も同行しよう。私がいた方が安全だろうからね」


「それって、どういう……」


ふふ、と彼は笑った。


「それは着いてからのお楽しみだ。9の刻になったらここを発つ。それまでに支度を済ませておいてくれたまえよ」


この人は、色々と私について何かを知っていて、それを隠している。正直、信用はできない。

でも、彼に従うしか今の私にはできない。それが悔しくて、彼の姿が消えたのを確認して、私は唇を噛んだ。


#


「第二層」は、下級貴族や商人が主に住む地区だ。


上級貴族や王族が住む「第一層」ほどではないけれど、それでも生活水準は高い。大体の家が奴隷や召使を使っていて、その多くは魔族や亜人だ。特に魔族は多い。

彼らは、その力を十分行使できないよう特殊な魔道具を首につけられている。それは奴隷の証でもあり、支配階層の恐れの証でもある。


そして……馬車の中から外を見ていて気付いたことがある。奴隷の数が……増えている。


「どうした?魔族がそれほど珍しいか?」


「いえ……そういうわけじゃないですけど。魔族が多いなって」


「単純労働は彼らに任せるようになっているのだよ。そして、その行動や意思はこちらで管理している」


言われてみると、道端でゴミ拾いなどをしている魔族の目には生気がない。それにはほぼ例外がないようだった。


「これって、どういう……」


「君が知らなくていいことだよ。さて、レミュー家……の跡地はあそこだったかな」


私が育った家は、小さな公園に変わっていた。子供たちが無邪気に遊具で遊んでいるのが見える。


「これって……」


「殺人事件が起きた家を買い取ろうという奇特な人物がいなかった、というだけだな。さて、降りよう」


ナイトハルトとその護衛に囲まれて、私は公園に向かった。



……どこからか視線を感じる。



「やはり『いる』か」


ナイトハルトが溜め息をついた。そして、虚空に手を伸ばすと……



フォン



その手には、槌が握られていた。……これは……武器??


「大方『シェリル』の手のものだろう?『憑依ポゼッション』には私の『聖槌アウレ』は極めて相性が悪いと知っているんじゃないかね」


屋根の上に、何かの影が見えた。護衛の一人……小柄なホビットが、それを射抜く。


「に゛ぁぁぁぁ」


「猫、ですね。他にも、あの子供や犬も」


「アルベルト様……というよりクリス・トンプソンの命かな。それとも『シェリル』の独自判断か、さもなくばその『主端末』たるテイタニア・ランドルスの意思か……」


やれやれ、とナイトハルトが槌を構える。


「『シェリル』、聞こえているだろう?君も『アウレ』に操られたいのかな?」


「……」


公園から、12歳ぐらいの女の子が走り去るのが見えた。


「……まさか、私を殺そうと」


「もちろんそうだ。君の『失われた記憶』は、多分アングヴィラの連中にとってはあまり都合がよくない。

だからクリス・トンプソンは君を保護し、記憶を消した。何で君を殺さずに手の内に置いておいたか、そしてよりによってアリス・ローエングリンの所に送り込んだかの真意は定かじゃないがね」


「……それは、『ム=カイ遺跡』の情報を、知られたくないからですか」


ナイトハルトが肩を竦めた。


「さあね。彼らもまた、ローエングリンが言う『2人目』が目覚めるのを恐れているのかもしれないな。

もっとも、私の関心はそこにはない。求めるのは、不老不死を与える『聖棺』のみだよ。

まあ、これであっさり『シェリル』が諦めるとも思えないがね」


掌から、汗が滲んだ。……率直に言って、頭が混乱している。

宰相トンプソン……義父さんは、何を考えていたの??そして、私の「記憶」って……



そう思うと急に、「追憶リコール」を使うのが怖くなってきた。

ひょっとして、私は……決して目覚めてはいけない「何か」を起こそうとしているんじゃ……??



ガタガタと、手が震える。ナイトハルトが、渋い顔になったのが分かった。


「怖気づいたか?」


「だって……そんな大事だなんて」


「従わないなら、『魔王』は殺す。それに、君の同意を得なくても私は君を『動かせる』。できればしたくはないがね」


あの「アウレ」と呼んだ槌は、きっと人の意思を奪うんだ。「憑依」とはまた違ったやり方で……

それは、絶対に嫌だ。それに、彼の言う通り……エリックのことを考えるなら、彼に従うしか、ない。



数秒、私は黙った。答えは、初めから出ている。でも……それを認めたくないだけだ。



「……分かりました」


ナイトハルトは「よろしい」と満面の笑みで答えた。


#



そして、禁忌の扉は開かれる。




都市紹介


皇都テルモン


テルモン皇国の首都。人口は90万人と、王都アングヴィラに次ぐ規模である。

王宮を中心として何層かに都市は分かれており、住人の属性も大きく異なる。


第一層…皇族や上級貴族が住む。官僚地区でもあり、面積は最も小さい。

第二層…下級貴族や豪商が住む。文化的には最も賑やかな層。経済政策は自由主義的であり、豪商にはかなりの自由が与えられている。

この層まで奴隷の所有が認められている。第三層との往来は許可がないと難しい。

この一角に超高級娼館がある。ただ、利用できるのは第一層の住民のみでそこまで栄えているわけではない。

第三層…一般庶民が住む層。一気に経済的、政治的自由が制限される。所得水準は概して貧しい。工場の労働者が多い。

第四層…下級国民の層。スラムであり、不穏分子は多い。ただ、あちこちに軍の駐屯地があり、非常に監視は厳しい。

なお、軍は第三層の住民が中心。ナイトハルトの意向で武勲を挙げれば第二層に上がれるため、志願者は多い。

廃棄層…第四層のさらに外、隔離された一角にある。使い物にならなくなった魔族や亜人の「ゴミ捨て場」。

また、第一層の住民が戯れに非人道的行為を行う場所でもある。


概して住民の不満は大きいが、ゲオルグによる圧政で封じ込められている。

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