第30-2話
ジャックとアリスが……消えた??
樫の木の重い扉を蹴破る。中は見事にもぬけの殻だった。
中には、棺のようなものが縦に置かれている。
「ねえ、これ……」
プルミエールがテーブルの上を指さした。「プルミエールへ」と書かれた置き手紙がある。
震える手で彼女がそれを開いた。
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プルミエール、そしてエリックへ
恐らく、私たちがここを出た後すぐにあなたたちはこの手紙を読んでいることでしょう。
色々不審に思っていることかと思います。本当に申し訳ありません。
ただ、私たちの為すべき大義のために、あなたたちを一度ここに引き付ける必要があった。
きっと私たちがやろうとしていることを知れば、心優しいあなたたちはそれを全力で止めようとするでしょう。
そして、一通りの事が済んだ後、あなたたちは私たちを強く憎むようになるかもしれません。
しかし、このまま放置すれば取り返しがつかないことになるのも分かって欲しいのです。
愚帝ゲオルグは、テルモン北部の「ム=カイ遺跡」の開発に着手しました。あそこに眠る者を目覚めさせることは、この世界の破滅に直結するものです。
既に同種の者は目覚めています。真の力に気付かないままなのが救いですが、もし「2人目」が十全の状態で起きたならば、どうなるかは容易に想像が付きます。
そこで、私たちはヘイルポリス遺跡にある兵器の起動を決断しました。ジャックが生きているうちにしかできないことです。
それを起動すれば、「ム=カイ遺跡」とそこに眠る者は破壊されるでしょう。その近くにある都市、ジークポリスも消滅するでしょう。
しかし、「2人目」が目覚めることによって失われる命と天秤にかけたならば、それはやむを得ないことです。
この重みを、あなたたちもいつか理解する日が来ると信じます。
全てが終わった後、私たちは別の場所に行きます。
どこかは明かせません。ジャックの命の灯がいつまで続くかも分かりません。
ただ、いつか落ち着いたら、私たちの目的全てを明かせると思います。それは、あなたたちの旅路の果てにあるものと同じだと信じています。
話せないことが多く、大変申し訳ありません。
それでは、またいつか。
親愛なる
アリス・ローエングリン
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「……何だこれは」
虚脱感が、俺を襲った。理解が全く追いつかない。
一つ言えるのは、俺たちはジャックとアリスに利用されていた。その事実だ。
「……嘘」
プルミエールはその場に崩れ落ちた。後ろから手紙を読んでいたクロエとブランも、呆然としている。
「ヘイルポリス遺跡に、そんなものがあったなんて……」
「知らなかったのか」
クロエが力なく頷いた。
「さらに奥があるらしいことは聞いてた。ひょっとしたら、アリス教授はこれを隠していたのかも」
「『兵器』に心当たりは」
「全く。ブランは?」
「分からない。ここから『ム=カイ遺跡』までは数百……いや、1000キメド以上ある。そこを破壊するなんて、見当もつかない」
ジークポリスは、テルモン北東部の港町で第二の都市だ。
そこがもし消失したら、数万の犠牲は避けられまい。……なるほど、俺たちが知っていたら絶対に止めただろう。
ただ、ヘイルポリス遺跡に戻ったところで、半日はかかる。
恐らく、着いた頃には全て終わってしまっているはずだ。間に合いようがない。
「そもそも、どうやって彼らはここを」
ブランの言葉に、プルミエールが少し考えて棺のようなものを指さした。
「分からないけど……多分、持ち込んだ『秘宝』ってこれじゃないでしょうか。
微かに、マナの気配がするんです。きっと、転移魔法に近いものだと思います」
「じゃあそれを起動すれば!?」
「……無理だと思います。操作方法が分からないですし、そもそも追われるようなヘマを教授がするとも思えません……」
その通りだ。このまま、ジャックとアリスの掌の上で転がされているだけでいいのか?
ジークポリスのことなどどうでもいい、と開き直れればいいのだろう。
ただ、彼女の言う「大義」が何なのかが分からないのに、それに容易く同意もできない。
……考えろ。一矢報いる手はないのか。
……待て。もう一つ不可解な点がある。
「クロエ、一つ訊いていいか?」
「え」
「なぜ皇弟ナイトハルトは、一気に攻めてこない?ジャックとアリスがいるのを知っていても、黙って陣を敷いているだけというのはおかしくはないか?」
「……皇弟ナイトハルトは、兄のゲオルグと違って賢明な人物よ。慎重に慎重を期しているのだと」
いや、それだけじゃないはずだ。完全に無策であるはずがない。
アウグストというアヴァロンの部下が向こうにいるのも気になる。何か、策を巡らせているはずだ。
とすれば……この話を教えたならどう動く??
ナイトハルトという男を、俺はよく知らない。ゲオルグよりも民衆の信望があり、本来皇帝に就くべき人物とされながら、敢えて奴に服従を誓っている男という。
北方の異民族や蛮族の鎮圧に精力的に動いている、というが……信用に足る人物なのか?
考えろ。ジークポリスを見捨て、自分たちの目的だけに動くのか。それとも、一か八か敵であるナイトハルトと手を結ぶのか。
チラリ、とプルミエールを見た。彼女の瞳は揺れている。ただ、俺の服の裾を、ギュッと握っていた。
「……お前はどう思う」
「え」
「これから、皇弟ナイトハルトに会うつもりだ。どうなるかは分からない。ただ、話の通じる人間であるのを祈るしかない」
プルミエールは数秒考え、顔を上げた。
「分かった。でも、私も行かせて」
「どうしてだ」
「何となく。でも、私にできることも何かある気がする」
「……了解だ」
都市紹介
ジークポリス
テルモン皇国北東部の港町。人口は約8万人で、テルモン第二の都市である。
アトランティア大陸との交易で近年成長しており、亜人も増えつつある。
最も、亜人は奴隷として売買されており、貧富の格差はここでも激しい。
ジークポリス北西に1キメドほどの位置に「ム=カイ遺跡」があり、観光名所となっている。
ただ、内部への立ち入りは厳重に禁じられている。遺跡等級は「3」であり、その難度からほとんど探索はされていなかった。
なお、直前までナイトハルトが北部に遠征している。ここに立ち寄ったかは現時点では不明。




