第29話
(指摘を受け1月15日に一部修正)
「アンバーの隠れ家」から戻ってから、微妙な空気が続いている。帰り道も、皆どこか言葉少なだった。
それは部屋に戻った今でも続いている。
「どうしてあんなこと言ったんだろうね」
プルミエールが髪を梳きながら言う。やはり、引っかかっていたか。
「あのランダムという男が何者かは分からん。ただ、率直に言えば俺にも違和感があった」
「違和感って、クロエさんたちのこと?」
「ああ。彼らを信用してないわけじゃない。敵でもないと思う。ただ、あまりに都合が良すぎる」
「都合?」
「ああ。なぜ、絶妙の時機にカルロスたちの所に現れたのか?不思議に思わなかったか」
プルミエールが手を止めた。
「そりゃ……運が良かったからじゃ」
「そこだ。俺は運をそんなに信じてない。運だと思っている物事の背後には、必ず何かがあるはずだ。
あいつらには感謝している。ただ、ランダムが初対面の人間に無意味に警鐘を鳴らすような、思慮のない男とは思えないんだ」
「……確かに」
「『パワードスーツ』、だったな。『遺物』じゃないと言っていたが……何か問題があるんだろうか」
「どうだろ……明日クロエさんたちに訊いてみるしかないんじゃないかな」
「そうだな。明日も早い、今日はもう寝るぞ」
「……うん」
何か、俺たちは根本から勘違いしている気がする。
そもそも、ジャックとアリスがヘイルポリスに行った意図は何だ?父の友人だからといって、無批判に信用しすぎてはいなかったか?
とにかく、ヘイルポリスに行かないと話にならない。目で見たものしか、信用してはならない。
それは、俺がプルミエールと一緒にいる理由でもある。
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エルファンからヘイルポリスまでは、オルランドゥ大湖沿いに馬を走らせ半日程度だ。
シュトロートマンの勢力が強い地域であるらしく、この方面から攻められる心配は薄いのだという。
それにしても、クロエたちは相変わらず暢気なものだ。まるで小旅行から帰ってくる程度のノリだ。どう切り出せばいいか……
「クロエさん、ところでそれ、ヘイルポリスの遺跡から出土した、って」
プルミエールから先に彼女に話しかけてくれた。正直、助かる。どうも俺はこういうのが苦手だ。
「……あ、『パワードスーツ』?うん、そうだけど」
「その遺跡ってどんなものなんですか?何か気になっちゃって」
「あー、昨日のランダムさんの言葉が気になってるのか……」
ちらりと彼女がブランを見る。ブランは小さく頷いた。
「あんたらなら言ってもいいだろ。ヘイルポリス南部にある小遺跡さ。そんなに深度はないけど、それでも出土品は結構あってね。こいつだけじゃなく、幾つか『秘宝』が見つかってる。
んで、アリスさんは『まだ奥があるんじゃないか』って疑ってる。あの人、オルランドゥの教授じゃなくって冒険者が本業なんじゃねえかな」
「かもね。昔、ジャックさんも来たことがあったって聞いてる。父だったら、もっと詳しく知ってるかも」
父上も、何か絡んでいたりするのだろうか。あるいはデボラの両親も。
「俺からも、いいか?」
「ん、いいわよ」
「お前らがカルロスを助けたのは、偶然じゃないな」
2人の表情が凍った。図星か。
「……どうしてそう思うの」
「あまりに時機が良過ぎる。そして、今の余裕。そんな魔法があるとは思わないが……未来が読めているのか?」
ふう、とクロエが息を付いた。
「……さすがね。といっても正確じゃないんだけど」
「どういうことだ」
「ヘイルポリス遺跡の最奥には、ある装置があってね。私たちじゃ使えないけど、アリスさんは使える。と言っても、この前来た時に使えるようになったのだけど。
『1週間ぐらい先までの未来が予測できる』んだって。それもかなりの精度で」
「何!!?」
「嘘っ!!?」
俺とプルミエールの声が重なった。そんな馬鹿げたことができるわけが……
「……まあ、そう思うのが当然だよね。私たちも、カルロス君を助けるまでは半信半疑だった。
あの時刻、あの場所にスティーブンソン近衛騎士団団長が現われた時、正直震えたわ。ね、ブラン」
「ああ。それで、俺たちもアレ……確か『スパコン』だったか。その『予言』を信じるようになったってわけさ。
ヘイルポリスを出る時に、アリスさんから1週間は皇弟ナイトハルトの動きがないとは聞いてたからな。しばらくの身の安全は濃厚と判断してる」
……なるほど、やはり種があったか。しかし……これは。
「人智を逸してます、ね……」
プルミエールに先を越された。そう、その通りだ。ランダムがああ言った理由も、少し分かる。
そんな「神」に近い力を、アリス・ローエングリンは扱えるのか?それは、間違いなく為政者からしたら……脅威でしかない。
「そうね。『秘宝』は、私たちが及びもつかない可能性を持っている。
だからこそ、皇帝ゲオルグの圧政から人々を解放する可能性がある。そうは思わない?」
「……かもしれませんね」
プルミエールは、何か考えている。この女は考えに甘い所はあるが、決して馬鹿ではない。
そして、俺の中にも疑念が生まれた。父上が「サンタヴィラの惨劇」を起こした理由は、何だ?
遥か向こうに、尖塔のようなものが見えてきた。あれが、ヘイルポリスか。
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「父様、クロエ・シュトロートマンただいま戻りました」
ヘイルポリスの古城に入ると、長髪の初老の男が奥から現れた。温厚そうだが、どこか厳粛な空気を纏っている。
「君が、『魔王』エリック・ベナビデスか」
「ええ。あなたが」
「左様。ヘイルポリス領主、カール・シュトロートマンだ。ここに来てくれて幸甚に思う。
その女性が、プルミエール・レミュー嬢だな。話はアリス・ローエングリン教授から聞いているよ」
「お会いできて光栄です、閣下。教授は」
「北部のイミル関だ。私は一旦こっちに戻ってきたが、彼女はまだあそこだ。オルランドゥ卿もそこだが……」
「容態が良くない、とは聞いています。大丈夫なんですか」
シュトロートマンが口を濁す。
「……とてもそうは見えない。ただ、考えがあってイミル関にいるのだとは思う。幾つか、『秘宝』も持ち込んでいるようだし、全く無策とは考えにくい」
……「秘宝」か。何か、胸騒ぎがする。
「その『秘宝』が何かは、ご存知なのですか」
「いや……あれを扱えるのは、ローエングリン教授だけだ。こちらとしては、ひとまず彼女に任せるしかない。今までも、彼女には色々助けられてきたしな」
プルミエールに視線を送る。彼女が小さく頷いた。
「私たちをイミル関に連れて行ってくれませんか」
「無論だ。ただ、今日はもう遅い。宿を取っているから、そこで休むといい。
それにしても、エリック君、だったな。やはり、ケイン殿とよく似ている」
「……やはり父上をご存知でしたか」
「会ったのは、私がごく若い時の一度きりだったが。先代皇帝シャルルについて諸王会議に出た時に、な。立派な方だったと記憶しているよ。
『サンタヴィラの惨劇』の話を聞いた時は、耳を疑ったものだ」
「父上は、ジャック・オルランドゥ卿やアリス・ローエングリン教授とも懇意でした。その点について、話を聞いたことは」
「……そうなのか。初めて聞いたよ」
俺は軽く落胆した。シュトロートマンは、あまりジャックやアリスの素性について詳しく知らないらしい。
「とりあえず、簡単な祝宴の席を設けている。よかったら、どうだ。昨晩の『アンバーの隠れ家』ほどのものは出せないと思うが」
「いえ、ご相伴に預からせて頂きます」
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翌日のジャックとアリスとの再会が、思いもよらぬ形になることを、この時の俺はまだ知らない。
キャラクター紹介
クロエ・シュトロートマン(25)
女性。身長168cm、体重56kg。黒髪をポニーテールにしており、快活そうな外見をしている。
性格もその外見通り明朗快活である。多少勝気なところがある。
剣術にはある程度の心得があり、「パワードスーツ」の力を借りなくてもなかなかの腕前。
2歳年下のブラン・コットは幼馴染であり恋人。なお、大体尻に敷いている様子である。




