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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第4章(ヘイルポリス編)
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第29話

(指摘を受け1月15日に一部修正)

「アンバーの隠れ家」から戻ってから、微妙な空気が続いている。帰り道も、皆どこか言葉少なだった。

それは部屋に戻った今でも続いている。


「どうしてあんなこと言ったんだろうね」


プルミエールが髪を梳きながら言う。やはり、引っかかっていたか。


「あのランダムという男が何者かは分からん。ただ、率直に言えば俺にも違和感があった」


「違和感って、クロエさんたちのこと?」


「ああ。彼らを信用してないわけじゃない。敵でもないと思う。ただ、あまりに都合が良すぎる」


「都合?」


「ああ。なぜ、絶妙の時機にカルロスたちの所に現れたのか?不思議に思わなかったか」


プルミエールが手を止めた。


「そりゃ……運が良かったからじゃ」


「そこだ。俺は運をそんなに信じてない。運だと思っている物事の背後には、必ず何かがあるはずだ。

あいつらには感謝している。ただ、ランダムが初対面の人間に無意味に警鐘を鳴らすような、思慮のない男とは思えないんだ」


「……確かに」


「『パワードスーツ』、だったな。『遺物』じゃないと言っていたが……何か問題があるんだろうか」


「どうだろ……明日クロエさんたちに訊いてみるしかないんじゃないかな」


「そうだな。明日も早い、今日はもう寝るぞ」


「……うん」


何か、俺たちは根本から勘違いしている気がする。

そもそも、ジャックとアリスがヘイルポリスに行った意図は何だ?父の友人だからといって、無批判に信用しすぎてはいなかったか?


とにかく、ヘイルポリスに行かないと話にならない。目で見たものしか、信用してはならない。

それは、俺がプルミエールと一緒にいる理由でもある。


#


エルファンからヘイルポリスまでは、オルランドゥ大湖沿いに馬を走らせ半日程度だ。

シュトロートマンの勢力が強い地域であるらしく、この方面から攻められる心配は薄いのだという。


それにしても、クロエたちは相変わらず暢気なものだ。まるで小旅行から帰ってくる程度のノリだ。どう切り出せばいいか……


「クロエさん、ところでそれ、ヘイルポリスの遺跡から出土した、って」


プルミエールから先に彼女に話しかけてくれた。正直、助かる。どうも俺はこういうのが苦手だ。


「……あ、『パワードスーツ』?うん、そうだけど」


「その遺跡ってどんなものなんですか?何か気になっちゃって」


「あー、昨日のランダムさんの言葉が気になってるのか……」


ちらりと彼女がブランを見る。ブランは小さく頷いた。


「あんたらなら言ってもいいだろ。ヘイルポリス南部にある小遺跡さ。そんなに深度はないけど、それでも出土品は結構あってね。こいつだけじゃなく、幾つか『秘宝』が見つかってる。

んで、アリスさんは『まだ奥があるんじゃないか』って疑ってる。あの人、オルランドゥの教授じゃなくって冒険者が本業なんじゃねえかな」


「かもね。昔、ジャックさんも来たことがあったって聞いてる。父だったら、もっと詳しく知ってるかも」


父上も、何か絡んでいたりするのだろうか。あるいはデボラの両親も。


「俺からも、いいか?」


「ん、いいわよ」


「お前らがカルロスを助けたのは、偶然じゃないな」


2人の表情が凍った。図星か。


「……どうしてそう思うの」


「あまりに時機が良過ぎる。そして、今の余裕。そんな魔法があるとは思わないが……未来が読めているのか?」


ふう、とクロエが息を付いた。


「……さすがね。といっても正確じゃないんだけど」


「どういうことだ」


「ヘイルポリス遺跡の最奥には、ある装置があってね。私たちじゃ使えないけど、アリスさんは使える。と言っても、この前来た時に使えるようになったのだけど。

『1週間ぐらい先までの未来が予測できる』んだって。それもかなりの精度で」


「何!!?」


「嘘っ!!?」


俺とプルミエールの声が重なった。そんな馬鹿げたことができるわけが……


「……まあ、そう思うのが当然だよね。私たちも、カルロス君を助けるまでは半信半疑だった。

あの時刻、あの場所にスティーブンソン近衛騎士団団長が現われた時、正直震えたわ。ね、ブラン」


「ああ。それで、俺たちもアレ……確か『スパコン』だったか。その『予言』を信じるようになったってわけさ。

ヘイルポリスを出る時に、アリスさんから1週間は皇弟ナイトハルトの動きがないとは聞いてたからな。しばらくの身の安全は濃厚と判断してる」


……なるほど、やはり種があったか。しかし……これは。


「人智を逸してます、ね……」


プルミエールに先を越された。そう、その通りだ。ランダムがああ言った理由も、少し分かる。

そんな「神」に近い力を、アリス・ローエングリンは扱えるのか?それは、間違いなく為政者からしたら……脅威でしかない。


「そうね。『秘宝』は、私たちが及びもつかない可能性を持っている。

だからこそ、皇帝ゲオルグの圧政から人々を解放する可能性がある。そうは思わない?」


「……かもしれませんね」


プルミエールは、何か考えている。この女は考えに甘い所はあるが、決して馬鹿ではない。


そして、俺の中にも疑念が生まれた。父上が「サンタヴィラの惨劇」を起こした理由は、何だ?



遥か向こうに、尖塔のようなものが見えてきた。あれが、ヘイルポリスか。



#


「父様、クロエ・シュトロートマンただいま戻りました」


ヘイルポリスの古城に入ると、長髪の初老の男が奥から現れた。温厚そうだが、どこか厳粛な空気を纏っている。


「君が、『魔王』エリック・ベナビデスか」


「ええ。あなたが」


「左様。ヘイルポリス領主、カール・シュトロートマンだ。ここに来てくれて幸甚に思う。

その女性が、プルミエール・レミュー嬢だな。話はアリス・ローエングリン教授から聞いているよ」


「お会いできて光栄です、閣下。教授は」


「北部のイミル関だ。私は一旦こっちに戻ってきたが、彼女はまだあそこだ。オルランドゥ卿もそこだが……」


「容態が良くない、とは聞いています。大丈夫なんですか」


シュトロートマンが口を濁す。


「……とてもそうは見えない。ただ、考えがあってイミル関にいるのだとは思う。幾つか、『秘宝』も持ち込んでいるようだし、全く無策とは考えにくい」


……「秘宝」か。何か、胸騒ぎがする。


「その『秘宝』が何かは、ご存知なのですか」


「いや……あれを扱えるのは、ローエングリン教授だけだ。こちらとしては、ひとまず彼女に任せるしかない。今までも、彼女には色々助けられてきたしな」


プルミエールに視線を送る。彼女が小さく頷いた。


「私たちをイミル関に連れて行ってくれませんか」


「無論だ。ただ、今日はもう遅い。宿を取っているから、そこで休むといい。

それにしても、エリック君、だったな。やはり、ケイン殿とよく似ている」


「……やはり父上をご存知でしたか」


「会ったのは、私がごく若い時の一度きりだったが。先代皇帝シャルルについて諸王会議に出た時に、な。立派な方だったと記憶しているよ。

『サンタヴィラの惨劇』の話を聞いた時は、耳を疑ったものだ」


「父上は、ジャック・オルランドゥ卿やアリス・ローエングリン教授とも懇意でした。その点について、話を聞いたことは」


「……そうなのか。初めて聞いたよ」


俺は軽く落胆した。シュトロートマンは、あまりジャックやアリスの素性について詳しく知らないらしい。


「とりあえず、簡単な祝宴の席を設けている。よかったら、どうだ。昨晩の『アンバーの隠れ家』ほどのものは出せないと思うが」


「いえ、ご相伴に預からせて頂きます」


#




翌日のジャックとアリスとの再会が、思いもよらぬ形になることを、この時の俺はまだ知らない。





キャラクター紹介


クロエ・シュトロートマン(25)


女性。身長168cm、体重56kg。黒髪をポニーテールにしており、快活そうな外見をしている。

性格もその外見通り明朗快活である。多少勝気なところがある。

剣術にはある程度の心得があり、「パワードスーツ」の力を借りなくてもなかなかの腕前。

2歳年下のブラン・コットは幼馴染であり恋人。なお、大体尻に敷いている様子である。

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