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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第27-3話



私がこの世に「生まれ落ちた」のは、1年前だ。



女神の樹の下にいた私を拾ったのは、ユングヴィ教団の老司教、オフィーリア・アーヴィングだった。

彼女は統治府での執務の帰りに、たまたま私を見つけたのだ。


『あなたを守らないと』


開口一番、彼女は言った。


『どうしてですか』


『あなたが『女神の樹の巫女』だから。あなたの存在を知ったら、利用したり、殺そうとしたりする人がすぐに現れる』


私は驚いた。私の中にある「樹の記憶」から、利用されたりすることがあるだろうことは知っていた。そして、「私の娘」が犯してしまったことから、危険視する人がいるだろうことも理解していた。

でも、私を見てすぐに「女神の樹の巫女」だと彼女が理解したのは、さすがに予想外だった。傍から見たら、裸で横たわっている変な女にしか見えないはずだ。


『なぜ分かったのですか』


『無駄にこの街で70年以上生きているわけじゃないのよ。それに『女神の樹』については、こちらでも色々調べているの。

上に話をするととても面倒なことになりそうだから、私のところで止めているのだけどね』


『……なぜ、私を助けようと』


『過去の『巫女』の末路は知っているわ。その誰もが、不幸せな結末になった。

最初の巫女は悲恋の結果ここに根を生やし、2人目は慰み者となった挙句に命と引き換えにこの街を作った。そして3人目になってやっと子を成すことができたけど、その子は惨劇を引き起こしてしまった。

あなたの意識がどれなのか……あるいはその全てなのかは分からない。でも、私はあなたに『普通の女性』として生きてもらいたいの』


『え』


『それが神の教えだから。私の個人的な想いもあるけど、それはまたいつか、ね。ついてらっしゃい、とりあえずその恰好を何とかしないといけないわ』


#


オフィーリアさんはロックモール郊外の彼女の私邸に、私を匿った。そして、人としての生き方や知識を色々と教えてくれた。


彼女は、ユングヴィ教団のロックモール支部を束ねる人だった。一応原理主義派に属しているけれど、心情的には世俗派に近いらしかった。

ロックモールにある病院の院長も兼ねていて、いつもとても忙しそうにしていたけど、とても親切で温厚な人だった。


そして、私が「人」として生きていく道はないか、こっそりと探してくれていた。

それは悲しいかな、ついに見つけられなかったのだけど。


家族のことを一度だけ聞いたことがあるけど、とても寂しそうな顔になったので慌ててやめた。

人には、触れられたくない過去があるのだと、その時知った。



とても、幸せな時間だった。多分、先代たち含めても、一番幸せだったかもしれない。



#



それは、ほかならぬユングヴィ教団によって壊された。私の存在が、どこからか漏れたのだ。



そして、オフィーリアさんは自分の命と引き換えに……私を逃がした。カルロスと出会ったのは、その夜のことだ。



#


最初は、当面の隠れ蓑としてしか、彼のことを考えていなかった。でも、彼は真っすぐで、優しかった。

そう……先代たちが愛してしまった男たちのように。


そして、私もまた、彼に惹かれてしまった。


それがただの本能なのか、それとも私の「記憶」によるものなのかは分からない。でも、それが誤ってると知っていても……想いは強くなってしまった。

だから、あの日……私が浚われたことはむしろ僥倖だったのかもしれない。多分、私の方が耐えきれなくなっていただろうから。


結ばれることは、何かしらの破滅に繋がる。そう理性では分かってた。

オフィーリアさんからも、「もしその時が来たら、まずゆっくり考えなさい」と釘を刺されていた。

この身体である限りは、誰も愛することはできない。……分かってたはずだった。


だから、アヴァロンに連れ去られ、「女神の雫」を作れと命じられても、私は抵抗しなかった。

ああ、これでよかったのだ。先代たちのような「過ち」を、繰り返すことはない。……そう思い込もうとした。


#



ああ、なのに。分かっていたのに。



私は、愛されたいと思ってしまった。だから、カルロスのキスを……受け入れてしまった。



#


彼の胸に抱かれながら、私は悔恨の念でいっぱいになっていた。

でも、涙は、流れない。すごく泣きたい気分なのに、泣けないのだ。



……ああ、私は所詮「魔物」なのだ。それを実感し、さらに悲しくなる。代わりに、強く握った手のひらから緑色の「血」が滲むのが分かった。



頭上では、彼の「触手」が必死に私を守っているのが分かった。深紅の大剣の男の剣戟は凄まじく迅く、そして重い。私でもそれが分かった。

剣の一振りで、幹のような「触手」が何本も斬り飛ばされていく。



「邪魔だってんだろうがぁっ!!!!!」



ヴォン



剣から放たれた衝撃波が、私とカルロスを襲う。ボロボロになったカルロスが、残り少なくなった「触手」で盾を作った。……しかし。



バキィッッッ!!!



それは他愛もなく砕け散る。触手の隙間から見える男の顔は、まるで悪鬼のようだ。



地面に剣を突き刺してからの男の攻撃は苛烈だった。明らかに、人間を超越した何かだった。いや、本当に彼は人間をやめかけているのかもしれない。


あの剣が「遺物」と呼ばれるものであることは薄々分かった。

……あれは、ヒトが持っていいものじゃない。ヒトを確実に狂わせるものだ。理屈ではなく、本能で私はそのことを知っていた。


でも……私は、何もできない。……あまりに、無力だ。



胸に抱いている、宝石をちらりと見る。これを使えばきっと、この危地を脱することができるだろう。

でも、それはカルロスが否定したやり方だ。彼の想いを裏切ることになる。……それだけは、できない。



手のひらから、一筋緑の血が流れた。こうやって彼にわずかずつ力を与え続けているけど……もう、限界だ。



「終わりだっっっ!!!!!」



ザンッ!!!



最後の盾も破られた。カルロスは干からび、崩れ始めている。



…………ごめんなさい。私になんて、会わなければ…………



堅く目を閉じる。……このまま、カルロスと一緒に斬られるのだ。




「なっ!!?」




その時、男が飛びのくのが見えた。……何だろう?エリックさんたちが来たのだろうか。



ガチャッ



顔を上げる。そこには、見たことのない鎧を着た、2人組がいた。顔は、異形の兜に覆われて見えない。



「……誰だ、貴様らは」



「別に名乗るほど大した者じゃないよ、デイヴィッド・スティーブンソン」


青い鎧の声の主は、若い男性のようだ。


「チッ」


大剣の男が剣を薙ぐ。その衝撃波を、もう一人が容易く掌で弾き返した。


「攻撃は効かないわよ。こちらからの有効打も、多分ないけど。

でも、この子たちを守ってエリック・ベナビデスたちが来るのを待つことくらいはできるかな」


もう一人の、赤い鎧の中は女性みたいだ。デイヴィッドと呼ばれた男の顔が歪む。


そして、大剣を再び地面に突き刺した。



「……魔王が来るまで温存しとくつもりだったが……使うしかねえなぁ!!……轟け、『スレイヤー』ッ!!!」



深紅の剣が、赤い光を纏う。天まで届こうかという光と共に、その斬撃は振り下ろされた。



……しかし。



ズォンッッ!!!!



青い鎧の男性が、それを全身で受け止めた!??



「うおおおおっっ!!!!!」



パァンッッッ!!!!!



甲高い破裂音。男が、呆気に取られたような表情で彼を見つめる。



「……マジ、か??」



鎧は真っ二つに割れた。しかし、男性は苦笑いを浮かべ、傷一つなく立っている。赤い髪の、精悍そうな人だ。


「あーあー……『パワードスーツ』が破壊されるとはねえ……こりゃ、シュトロートマンさんにまた小言言われそうだな」


「あーあーじゃないわよ、ブラン……。それが壊されること自体、相当想定外なんだから。

でも、もうあなたに打つ手はないかな。その遺物を『解放』すれば皆殺しにできるだろうけど、あなたも死ぬ。つまり『詰み』ってやつ?」


デイヴィッドが何か唱えるのが分かった。背後に、空間の歪みができる。


「……悪いが、逃げさせてもらうぜ」


「逃がすかよ!!!」


ブランと呼ばれた男性が、銃を抜こうとした。デイヴィッドは剣を振るい、彼を妨害しようとする。

衝撃波を、赤い鎧の女性が身をもって防いだ。


「あっぶないわね……ここまでで、良しとしましょ?」


デイヴィッドは、空間の歪みに消えようとしている。


「……テルモンの、反皇帝派かっ!!!」


「ご存知のようで光栄ね、アングヴィラの近衛騎士団長様。ま、またお会い……はしたくないわね」


反皇帝派??そんなのが、なぜここに……??


そして、デイヴィッドはいずこへと去った。


「大丈夫??」


「え、ええ。……あなたは」


女性が兜を脱ぐ。長く黒い髪の、快活そうな女性だ。



「私は、クロエ。クロエ・シュトロートマン。アリス・ローエングリン教授からのお願いで、ここに来たわ」




キャラクター紹介


オフィーリア・アーヴィング(享年73)


女性。ユングヴィ教団のロックモール司教であり、教団が運営する病院の院長でもあった。

実質的なロックモールの顔役であり、テルモンとモリブスの両国の勢力を取りまとめられるだけの人物であったと言える。

元は娼婦であったが、身請けした貴族が夭折したのを受けて帰依。以来「聖母」として人々の信頼を集めた。「蜻蛉亭」のカサンドラも、彼女の影響を強く受けている。

テルモン系の人間ではあるが、心情的には反皇帝派であり、その関係上モリブスの世俗派との交流もあったようである。


その人望と政治手腕からテルモン皇室、イーリスの原理主義派からは危険人物とされてきた。

彼女には政治的野心が乏しかったが、アヴァロンは彼女を排除する切欠をひたすら欲しがっていたようである。

果たして、野心ある若い神父の手によりメディアの情報がリークされ、これを口実に彼女は邪教徒として殺された。反論の余地もなく、一刀両断であったようである。


なお、メディアを人間に戻す方法は色々と探していたようだ。

実はアリスとシェイドの存在にも辿り着いており、亡くなる直前には会う約束も取り交わしていた。

もし彼女の死がなければ、メディアはアリスの元にいた可能性が高い。

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