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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第27-4話



……誰だこいつは。



目の前にいる異形の2人を見て、さすがの俺も動きが止まった。



男は上半身こそ普通だが、下半身には見慣れない意匠の甲冑を着けている。

女はもっと異様だ。赤い、似たような甲冑だがやたらと曲線的で、継ぎ目が見当たらない。こんな防具は、見たことがない。



「主役登場、ね」


女が笑う。そこに敵意はない。それだけは分かった。



……ただ、この状況を整理できない。カルロスは枯れ果て、いるはずのデイヴィッドはどこかへ消えている。メディアは無事なようだが……



何がここで起こった?



#


そもそも、ここに来るまでがおかしかった。


デボラに案内されるまま、限界に近い身体を何とか動かして俺たちは砂浜を走った。

途中、木陰で休んでいるヴェルナーを見つけた。息があることを確認し、もう少し先へと進む。


「シェイド!!?」


デボラがうつぶせに倒れているシェイドに駆け寄る。その表情は、すぐに安堵へと変わり、やがて疑念へと変わった。


「……どうした?」


「いや、寝てるだけさ。……でも、『マナが戻っている』」


「何?」


「こいつもギリギリで動いてたからね。だから、ここであんたらを呼びに行くのを託されたんだ。

『少し休む』って言ってたから、意識を失っているのはいいんだ。でも、体力もマナも回復しているなんて、あり得ない」


「……誰かが回復魔法を??」


後ろからプルミエールが割り込んできた。デボラは首をひねる。


「どうだろうね。というより、睡眠魔法スリープもかけられてる気がする。

あたしはここで少しシェイドの様子を見るよ。あんたらは先に行ってな。あたしじゃ、あいつらとは戦えない」


「あいつ『ら』?」


「深紅の大剣を持った男さ。間違いなく『使う』」


ぞわっと背が逆立つ錯覚がした。……あいつだ。


「……デイヴィッド……!!」


「やはり、知ってたね」


「……万全でないと、戦える相手じゃない。無理そうなら、すぐに全力で逃げる。

カルロスについては……運を天に任せる以外にない」


オルランドゥ魔術都市から出た際、デイヴィッドはまだ実力を隠していた。

もしあそこで本気を出されていたら……どちかが死んだはずだ。

そして恐らく、それは俺の方だっただろう。「閃」は、プルミエールがいる以上使いようがなかったからだ。


逃げる体力は残っているか?数秒ぐらい、「5倍速」を発動できる程度はある。ただ、誰かを守るのは……無理だ。


「プルミエール、お前はここにいろ」


「……分かった。無理は、しないで」


「そのつもりだ」


俺は小走りで街道へと向かった。……戦闘は、もう終わっている?


#


……そして、俺はこの2人と出会った。


メディアが抱いているのは、干からび骨と皮だけになりつつあるカルロスだ。まだ息はあるのだろうか。


「……主役、だと?」


「そう。アリス教授からの依頼でやってきたってわけ。ああ、さっき彼女には自己紹介したけど改めて。

クロエ・シュトロートマンよ。よろしく」


差し出された手を握るべきか、俺は躊躇した。敵意はないが、本当に信用できるのか?


男が肩を竦める。


「その格好じゃ怪しまれるだろ。『パワードスーツ』、解除しないと」


「あ、それもそうね」


女が左手首に触れると、甲冑は煙のように消えた。女はごく普通の町人姿になる。……こんな魔法、見たことがない。


「何をやった、そして何者だ?」


「あー、これ?装備を解除したの、魔法じゃないわ。まあ説明が長くなるけどそれは置いとくわね。

私はカール・シュトロートマンの娘。パパの名前は聞いたことあるでしょ?」


「……テルモンの反皇室派の長か?確かに、アリス教授は協力関係にあるとは聞いていたが」


「そ。で、今手が離せないってことで、私たちが代わりにね。というか、この子大丈夫?」


メディアが悲しげに首を振る。


「……私のために……力を使いきった。もう、このままじゃ」


男がカルロスに駆け寄る。すぐに渋い顔になった。


「……確かに、これはまずいな」


「何とかできそう?」


「さっきの子供はただの過労だから良かったけど、こっちは深刻だね。……一応薬一式はあるけど、見たところ老化の進行だから気休めにしかならない」


「……そうか。彼、あなたの大切な人なんでしょ?」


コクン、とメディアが頷く。


「もう、どうしようも……」


「苦痛なく逝かせることならできるけど。延命を望むなら、一応応えられる」


……こいつら、医者か何かか?シュトロートマンの娘が、そんな大層な奴だとは聞いたことがない。


「延命?」


「といっても数日。最期のお別れぐらいは言えると思うわ」


メディアは悲しそうに俯き、胸元から緑の宝石を取り出した。


「……これを使えば、彼は助かる」


「……あなた、それって」


「『女神の雫』。私の生命の結晶。そして、『願い』を一つだけ、叶える力を持つの」


男の目が見開かれた。


「伝承は、マジだったのか!!?」


「……伝承?」


「ああ。ユングヴィに伝わる話だ。『巫女は命と引き換えに『女神の雫』を産み出し、それをもって干天に慈雨を降らせた』とね。

150年前、怪物となり倒れた夫の願いを聞き入れ、巫女は雨を降らせたのさ。

自分を我が物にしようとした豪商と、ロックモールの一部を水没させるだけの豪雨をね。

そして、その引き金となったのが、その宝石って話だ。娘を逃がした時に、もう覚悟は決まっていた……と解釈されてる」


「随分詳しいのね」


男が苦笑した。


「まあ、一応イーリスの人間だしな。……エリックが来たということは、アヴァロンは」


「俺が殺した」


「そうか。親父に代わって礼を言うよ。まだ、残党は多いが……」


「親父?」


「ああ、俺の紹介がまだだったな。ブラン・コット。親父はイーリスの第一師団団長だ。俺は放逐された身だがな」


イーリスの第一師団団長の息子?それが、なぜシュトロートマンの娘と……一体、何が起きている?


クロエがメディアを見つめた。


「……それを使えば、あなたは死ぬ。でも、彼は助かる。そういうことね」


「……私は、所詮ヒトじゃない。そして、誰かを愛することも許されない。……ならせめて、この命は彼を助けるため……」



「……ダメ、だ」



掠れた声。カルロスが、口を開いた。


「君、は、生きなきゃ、いけない……人間になる、方法は、アリスって人が、知ってる、んだろう……」


「……カルロス」


「俺の、ことは……いいんだ。君を、守れた、だけで……」


ブランが首を振った。


「もう喋るな。寿命が……」


「俺は、満足、だよ。メディア、君は、君の人生を……」


俺は唇を噛んだ。……安い悲劇だ。こんな結末を見たかったわけじゃない。

アヴァロンは討ち、エストラーダ候も塵に帰った。だが、この2人を守れなかったことは……痛恨の極みだ。


確かに、2人を守ることは、俺の宿願とは何の関係もない。だが、父上の教えには背く。

「頼まれたことは、最後まで遂行しろ。それが君主たるものの務めだ」。父上は、事あるごとにそう言っていた。


俺は、魔族を統べる君主たらねばならない。見捨てることは、決してできない相談だった。



……何か、できないのか。本当に、打つ手はないのか。



メディアがクロエの制止を振り切り、宝石を強く握る。



「……嫌。あなたの記憶を消してでも……!!!」



その時、向こうからプルミエールとデボラの姿が見えた。



…………それだ!!!



加速アクセラレーション5ッッッ!!!!」



宝石が砕かれようとした瞬間、俺は力尽くでそれを奪う。そして叫んだ。



「デボラッッ!!!『時間遡行』を!!!」


「えっ!!?」


「今なら間に合う!!余力は!?」


「ほとんどないけど……」


俺はクロエとブランを見た。


「今から治療をやるっ!!今から来る亜人の女に、体力回復の治癒魔法を!!あとはあいつが何とかするッッッ!!」


「え」


「いいからすぐにだ!!できるんだろ、強力な治癒ヤツ!」


そうだ。シェイドの様子からして、あいつの体力を回復させたのはこいつらのうちのどちらかだ。

なら、その力を借りれば……デボラの魔力を回復させれば、「時間遡行」で「干からびる前の」カルロスに戻すことは、多分できる!


一瞬呆気に取られていたクロエが「ああ」と呟いた。


「あれは魔法じゃないわ。薬を霧状にして、ついでに眠らせただけよ。寝ないと体力は戻らないから。でも、お望みとあらば……」


彼女は一瞬のうちに、赤い甲冑姿になった。そして何か操作すると立て続けにデボラとカルロスに霧を放つ。


「あ……か……」


「デボラさんっ!!?」


崩れ落ちるデボラを、プルミエールが支えた。カルロスもまた、ガクッと首が横に倒れる。


「とりあえずお望み通りにね。ここじゃ目立つから、少し場所を移動しましょうか」

アイテム紹介


「女神の雫」


「女神の樹の巫女」がその生命力を注いだ結晶。砕くことで、巫女が願った「奇跡」を起こすことができる。

奇跡の力は相当に強く、死者蘇生など世界の理をねじ曲げることまで可能。ただ、世界の征服や破滅など大それたものはできない。

結晶は硬く簡単には砕けないが、巫女だけは簡単に破壊することができる。

なお、破壊すると巫女は死ぬ。いわば心臓のようなものである。


女神の樹の巫女の体液は直接飲むとエストラーダやカルロスのように人外化を引き起こすが、一定以上希釈すればまさに万病の薬となる(そして強烈な媚薬ともなる)。

このため、生殖という役目を終えた巫女は利用されるのを防ぐため「女神の雫」を作るのである。いわば、自決装置のようなものである。

もっとも、それ自体に奇跡という副次的な効果があるため、かえって狙われる理由になっているのだが。


メディアについて言えば、彼女は早い段階で死を覚悟していた。

「同じ死なら人の役に立つ死を」ということで、アヴァロンに言われるまま雫を生成していたというわけである。

なお、アヴァロンの願いについては次回ブランが明かすことになるだろう。一応、私利私欲ではない。

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