第26-8話
ぐしゃり
エリックがアヴァロンの頭蓋を踏み砕いたのが見えた。巨大な幹は白い石のようになり、既にさらさらとした砂になり始めている。
「エリック!!」
「もう、大丈夫だ……」
はぁはぁと、肩で息をしている。彼の元に走り、崩れそうになっているのを支えた。
「本当に、大丈夫なの」
「かなり、無茶をしたが、な。……あいつらの、後を追う……」
近くで、何か動く気配がした。……白髪になり、枯れ果てたようにしわくちゃになっている、エストラーダ候だった。
「えっ」
「……君、たちは」
枝に寄りかかり、手を伸ばそうとしている。……意識があったんだ。
そしてようやく、私はエリックの意図を正確に理解した。ああそうか、ファリスさんのアミュレットの欠片は、彼の記憶を呼び戻すために使われたのだ。
あの混乱の中、言われるがままに「追憶」を掛けていたけど……とすれば。
「エリック、逃げないとっ」
「いや、もうエストラーダに、そんな力は、ない。それに……」
小さくエストラーダ候が頷いた。
「ファリスは、逝ったのだな。自らの、意思で」
「そうだ。怪物になり果てた自分を、知られたくない、と」
「……私にも責任が、ある」
「え?」
エストラーダ候が苦笑した。
「アヴァロンが、ネリドと私の前に現れたのは……1ヶ月と少し前、だ。その時、私は……クーデターの計画を、持ち掛けられていた。そして、君たちの排除も。
それに向けて、隠密裏に動いてもいた。思えば、アヴァロンは……あの指輪のことも、知っていたのだろう。そして、計画を知ったファリスが、どう動くであろうかも……グフッ」
「エストラーダさんっ!!」
「もう、いい。寿命が来ているのは、分かる。それに、ファリスの想いも知った……これ以上の殺戮を犯さずに、済んだ……アヴァロンは」
「死んだよ。俺が殺した」
満足そうに、彼は微笑む。
「……そうか。アヴァロン大司教からは、ファリスの居場所を、君らが知っていると聞かされていたが……私は、いいように使われていた、わけだな」
「ああ。だが、落とし前はつけさせた」
「そうか……プルミエール君、だったな。……これを」
胸に刺さっていた金属の欠片を取り出すと、エストラーダ候は穏やかな声で私に言う。
「ファリスのことを……忘れないでくれ。もう、君だけが……彼女と心通わせた人間、だ」
「……はいっ」
目から涙が溢れ出す。……ファリスさんは、エストラーダ候には普通に生きていて欲しかったはずだ。……こんな結末なんて、ない。
私の思考を読んだかのように、エストラーダ候は首を横に振った。
「私のことは、いい。狂人に踊らされただけのこと、だ」
彼は、ロックモールの青空を見上げる。雲一つない、透き通るような空だ。
「……ファリス、今逝こう。愚かな父を、赦してくれ」
カァァァッッ
不意に一瞬、金属が赤く、温かく光った。
これが何だかは、正確には分からない。でも、多分……ファリスさんの答えなんだ。
根拠はないけど、なぜかそう思えた。
エストラーダ候の身体が、白い石に変わっていく。そして、端から砂となって、砕けていった。
彼は、穏やかに笑った。
「……そうか。ありがとう……」
それが、エストラーダ候の、最期の言葉だった。
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私はエリックを支えながら、なくなった別荘へと向かう。崖を見ると、階段が下まで続いていた。
私は涙を拭う。皆に、追い付かなくちゃ。
「……歩ける?」
「何とか」
海岸伝いにずっと歩けば、通りに出る。逃げる場合は、そこで落ち合う手筈になっていた。
もう、大丈夫だろう。転ばないように、慎重に一歩ずつ階段を下っていった。
その時だ。
ズズンッッッ!!!!
向こうから、地響きのような音が聞こえた。そして、そこから感じられたのは……強大で邪悪な、2つの魔力。
「……何っ?」
「何だ、これはっ」
砂浜の向こうから、誰かが走って来るのが見えた。……デボラさん??
「来るなっ、引き返しなっっ!!!」
「ど、どうしてですかっ??アヴァロンは、もう……」
「それどころじゃないんだよ!!!」
心を落ち着けるように、大きくデボラさんが深呼吸する。顔色は、顔面蒼白だ。
「カルロスが…………怪物になっちまった」




