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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第26-6話



別荘が消えた瞬間、さすがの俺も崩れ落ちそうになった。……最悪だ。



プルミエールは責められない。彼女は、もともと戦闘慣れしていない。そういう奴でもない。

本当なら、のんびりとオルランドゥ魔術学院で魔法研究に生涯を捧げるはずの女だ。心根も真っ当な、こういう修羅場にいてはいけない類いの人物だ。


それに、何よりアヴァロンは強大に過ぎる。こうなる前に、俺がエストラーダを討たねばならなかった。

音速剣ソニックブレード」や「フラッシュ」の発動を躊躇していなければ……こうはならなかったはずだ。

ただ、もし発動していたら、プルミエールたちは無事では済まなかったかもしれない。どちらが正しかったのか、俺には分からない。



一つ言えることは……絶体絶命ということだ。



満足そうに嗤うアヴァロンの顔が、急に渋くなった。



「……!??……おかしいですね」



……間に合ったのか。俺は大きく息をついた。まだ、最悪ではない。


恐らく、アヴァロンは誰を転移させたかというのを把握できるのだ。

そして、転移した中に……多分、シェイドやデボラ、そしてメディアたちはいない。


俺は短剣を構え、エストラーダと向き合う。まずは、こいつを何とかしないといけない。


ビヒュンッッッ


「ぐっ」


触手を横っ飛びに交わす。攻撃は相変わらず激しい。だが、2倍速でも避けられなくもない。

元は普通の男であるエストラーダの攻撃は、ある程度は読める。速度もさほど速くもない。


ただ、触手を斬ってもすぐに再生される。そして、本体に近付こうとすると触手の盾で防がれる。それを破壊しても、すぐに別の盾が現れ、キリがない。

「音速剣」の使用を躊躇っていたのは、奴の再生速度と余力を読みきれていなかったのもある。もし「音速剣」を使って仕留められないなら、その時こそ本当の終わりだ。より危険性が高い「閃」は尚更だ。



……何か妙だ。



エストラーダがアヴァロンを吸収した時の触手は、恐ろしく速かった。アヴァロンの意思が反映されていたにせよ、だ。

あの速度で攻撃されていたなら、2倍速じゃ太刀打ちできない。30秒しか持続できない5倍速か、さらに持続時間が短い「乱」を使うしかなかったはずだ。

そして、今2人は一体化している。アヴァロンの意思が、こちらにさらに反映されていても不思議ではない。


にもかかわらず、俺はまだ攻撃に対処できている。いや、むしろ……遅くすらなっている。



導き出せる答えは1つ。


エストラーダにはまだ自我が残っている。そして、それはアヴァロンに僅かながらでも抵抗している。



とすれば……自我を完全に取り戻せば!!?



そのためにはどうすればいい。自分が、ロペス・エストラーダであると思い出させるには……


激しい攻撃のさなか、まだ愕然としているプルミエールが見えた。アヴァロンが幹の腕を振り上げ、止めを刺そうとしている。



加速アクセラレーション5!!!」



大地を思い切り蹴り、プルミエールのもとに向かう。俺が彼女を抱いて逃げるのと、奴の攻撃が再び空振り地面を揺らすのとは、ほぼ同時だった。


『つくづく無駄な足掻きを……』


「何を呆けているっっっ!!」


「でも、皆……」


「多分無事だっ!!俺を信じろっっ!!」


青ざめながら、プルミエールが頷く。豊かな胸元に、首飾りが見えた。


……いや、これは違う。金属を紐で繋いだだけの代物だ。確か、これは……



……そうか。これがあった。



「プルミエール、これは……ファリスが持っていたアミュレットの欠片か?」


「え?」


「今すぐそれに『追憶リコール』をかけろっ!!物にかけた場合、手にした者にその『物の記憶』を思い出させる効果があったはずだっっ!!」


「で、でも、なんでっ!?」


「エストラーダを正気に戻すためだっっ!!ファリスが死んだ夜のことを、『思い出させろ』っ!!」


「でも、そんな時間なんて」


「俺が何とかするっっ!!!いいからやれっっ!!!」


プルミエールが、戸惑いながら詠唱を始めた。修練の結果、こいつの魔力もかなり向上している。1分足らずで、詠唱は終わるはずだ。

だが、1分という時間をアヴァロンが許すはずもない。



だから、そのための「加速」だ。



俺はプルミエールの頭に手を乗せる。そして、「10倍速」を発動した。

マナの残量からして、「音速剣」を1度撃つのが限界だ。だが、これくらいしかもう思い付かない。


#



俺の「加速」は、動きを速める魔法ではない。



自分と、自分が触れた物の「時間を加速する」魔法だ。ベナビデス王家の血族だけが使える、秘術でもある。



2倍速なら、周囲の2倍。5倍速なら、周囲の5倍の時間の中を、俺は動ける。俺以外の世界で起きていることは、全てその分ゆっくりと動く。



命のない物の時間は加速させやすい。物を枯らしたり、朽ちさせたりするのは比較的楽だ。

だが、命があるものだとかなり疲弊する。ジャックの元での修練がなければ、2倍速すら大変だっただろう。……だが、今なら。



#


視界の端で、ゆっくりと「グロンド」が光るのが見えた。まずい。詠唱が終わりきる前に撃たれたら、さすがにどうしようもない。



早く終わってくれ……その想いは通じた。



「終わった!」


「よくやった!!」


俺は紐の部分を持ち、「5倍速」に切り替えてエストラーダに向かう。「グロンド」を発動しかけたアヴァロンが、一瞬怪訝そうになった。


『…………?』


エストラーダの触手が5本、俺に襲い掛かる。それを他愛もなく避け、俺は欠片をエストラーダに投げ付けた!



「キシャアアアアアッッッ!!!」



奇っ怪な叫びと共に、巨大な「枝の盾」が現れる。しかし、「5倍速」で投げられた欠片は、それを易々と砕いた。



……そして。



ダンッッッッ!!!



身体に、欠片がめり込む。エストラーダの動きが、止まった。



『……何を』



……ア



…………アア



『……………アアアアアアア!!!!!』



エストラーダが吼えた。何かに苦しむかのように身をよじらせ、そして踞る。目からは、赤い涙が流れていた。



エストラーダは、「思い出した」のだ。自分が何者であるかを。そして、同時に娘が何者であったかも、その末路も、あるいは……死ぬ間際の想いも……全て知ることになった。



『なっ!!?』



アヴァロンの「幹」が大きく揺れる。それは、根本から折れようとしてた。



自我を取り戻しつつあるエストラーダが、アヴァロンを拒絶し始めたのだ。

そして、この瞬間こそ……俺が狙っていたものだ!!!



右手を、短剣の束にかける。狙いは上方の、アヴァロンの身体。失敗は、許されない。するつもりもない。



エストラーダの枝を踏み台にして、俺は飛び上がる。……今だ!!!




音速剣ソニックブレード!!!!」




…………ザンッッッッッッ!!!!!




『え』




間の抜けた声と共に、アヴァロンの身体は……上下に両断された。





魔法紹介


「加速」


エリックら魔族の王にしか使えない魔法。名前からすると動きを加速させているように見えるが、その実は「自分の時間を加速させる」魔法である。

このため、発動中は周囲の動きがスローモーションになる。例えば2倍速なら半分、5倍速なら5分の1の速度になる。故に攻撃の回避は容易になる。

しかも自分の拳や剣の速度は加速されているため、威力は跳ね上がる。攻防両面で極めて強力な魔法であると言える。

ただ、それ故に魔力の消費も激しい。エリックが乱発できているのは、彼の才能と修練の結果である。


現状20倍速までは可能だが、10倍速以上の攻撃だと音速を超えるため衝撃波による周辺被害が発生する。このため、10倍速以上を発動した状態での攻撃は一瞬しかできない。

ただ攻撃を伴わないなら、今回のように10倍速を使うことは不可能ではない。

なお、極めた先には別の効果もあるらしいが、その領域に達したとされるのはエリックの父ケイン程度である。


触れた物の時間を加速させる効果もある。第3話の終わりに死体を塵にしたのはこれである。

命がない物の加速は容易いらしく、100倍速ぐらいはできるようだ。半面、(植物含め)命がある物に対する難度は高い。

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