第26-5話
エストラーダ候の背中から伸びる、歪んだ幹。その先にアヴァロン大司教の上半身がくっついている。
その異形の怪物を見た時、私は激しい絶望と後悔に襲われた。
人を殺すのは、初めてだった。エリックと一緒に行動するようになってからも、私自身が直接誰かを傷付けたことは、ない。
だから、目の前にいた男が、どんな鬼畜であろうと……それを撃つことに対して躊躇がなかったかと言われたら、それはきっと、違う。
でも、それでも即座に撃たなきゃいけなかった。それが、こんな事態に繋がってしまったんだ。
「……プルミエールさんは、悪くないにゃ」
シェイド君が、呟いた。
「あの速度では、誰も反応、できないにゃ。それより、エリックを……」
「シェイド君!?」
彼が崩れ落ちる。その瞬間、激しい衝撃を私は感じた。
「きゃああっっっ!!?」
3メドほど、シェイド君ごと飛ばされただろうか。右腕の上が、激しく痛む。シェイド君は無事みたいだけど、それでもかなり身体を強く打っているようだった。
『……まだ加減が上手く行かないですね。当てたつもりだったのですが』
私は、アヴァロンの右腕……というよりは巨大な「幹」の風圧が、私を薙ぎ倒したのをようやく理解した。
……風圧だけであの威力?直撃なんてしたら……
いや、怖がってる場合じゃない。悔やんでる場合でもない。
シェイド君は限界だ。デボラさんは立ち上がったけど、右肩を押さえている。あんな短時間で、治るわけがない。
右手を曲げる。痛いけど、骨は折れてない。エリックを助けられるのは、私だけだ。
「シェイド君、デボラさんを連れて家に逃げて」
「家に?……ああ、そうだにゃ。了解にゃ」
シェイド君が、よろめきながら走り始めた。もちろん、ヴェルナーさんたちの支援という意味もある。でも、それだけじゃない。
カルロス君とメディアさんが隠れている地下室。そこには、崖の方に抜ける隠し通路がある。
多分、彼らはそれを使って逃げているはずだ。そして、直接戦えなくなったら、彼らに追い付き、守ってあげる。
ある程度状況が煮詰まった時にはそうすると、事前に決めていた。
『逃げるつもりですか?』
巨大な幹が、シェイド君に向けて振り下ろされる。
「させないっ!!!」
「魔導銃」が火を吹き、幹に直撃する。
それを破壊するまでは至らなかったけど、それでも大きく向きを変えることぐらいはできた。
ズォォォォンンッッッッ!!!
巨大な地響きが耳を突いた。
「助かったよ!!」
シェイド君と合流したデボラさんが叫ぶ。2人は、家の中へと消えていった。
『……そういうことですか。まあ、予定に変更はありませんが』
エリックはというと、激しくエストラーダ候の触手とやりあっていた。触手の攻撃は激しさを増している。……見るからに厳しそうだ。
「エリック!!!」
「来るなっ!!!お前も逃げろッッ!!!」
見たところ、アヴァロンとエストラーダ候は繋がっているけど、動きは独立したもののようだった。
細かい、無数の「枝の触手」はエストラーダ候。そして、幹による攻撃はアヴァロン。つまり、私がここを去れば……1対2でエリックは戦うことになる。そんなのは無茶だ。
「でもっ!!?」
「でももこうもないっ!!巻き添えを食らいたいのか阿呆がっ!!!」
そうか!エリックの「加速」は、10倍速以上だと周囲に被害をもたらしかねない。
彼が本当の全力を出すには、私は邪魔でしかないのだ。
でも、この怪物に果たしてそれが通用するの??
そもそも、アヴァロンの力量を私は……いや、私たちは見誤っていた。隠密魔法で気配を消し、シェイド君を囮に「幻影の霧」を当てる。その狙いは、見事に当たった。
でも、彼はあっさりと幻術から抜け出した。それだけ、彼のマナは膨大なのだ。
さっきから、アヴァロンは力任せの攻撃しかしていない。でも、これで魔法が使えたら……
私は、ふと「グロンド」が転がっていた地面を見た。……ないっ!!?
『早速ですが、まずはさっき逃げたスナイダ夫妻の娘と、亜人の盗人から消えて貰いましょうか。ついでに、メディアも。
『女神の雫』は大変惜しいですが、後で取りに行けば十分でしょう』
幹の先には……「グロンド」があった。……そんな。
「やめてええええええっっっっ!!!!!」
次の瞬間。別荘は、光に包まれて……消えた。
キャラクター紹介
「アヴァロン」
「エストラーダ」と一体化した姿。背中の辺りから生えた高さ4mほどの幹の先端に、上半身裸のアヴァロンがくっついた異形と化している。
そこからは腕のような巨大な幹が左右に生えている。「腕」の先端には枝があり、これで物を取ったりすることが可能。
自我を保っていられるのは、本人が持つ巨大な魔力による。なお、エストラーダから生えている枝は操作不能であり、あくまで動かせるのは幹部分だけである。
言ってみれば、2つの意思が1つの身体を共有し、それを分割して動かしているというべきかもしれない。
通常の攻撃手段は幹を使い殴るのみ。ただ、その攻撃力は計り知れない。
また、「グロンド」を手にしたことで強力な魔法攻撃も可能となっている。
なお、燃費は極めて悪い。




