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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第25-2話



統治府から誰かが飛び出したのが見えた。シェイド君だ。



それを確認し、デボラさんが目を閉じ集中する。やがて、統治府から爆音が聞こえた。

被害を小さく留めるために、威力は小さめに抑えたという。ここまでは計画通りだ。



「ここまで、シェイド君たちが来れるでしょうか」


「……さあね。だけど、そうしてくれないと話にもならない」


シェイド君とメディアさんと思われる影は、屋根から屋根へと猫の……いや、豹のように飛び移っていく。凄まじい迅さだ。

まだ、オーバーバックと思われる人影は見えない。私たちがいるこの路地まで、距離はもう50メドもない。大丈夫、行けるはずだ。


様子を見ようと路地を出た刹那。



ドグン



……重く、気味の悪い気配を向こうから感じた。そこには……深紅の銃を担いだ、黒と緑の男。



彼が、私を見て嗤った。



「やはりなぁ……雁首並べて、一網打尽だぁ」



銃がシェイド君に向けて構えられる。……まずいっっ!!!



加速アクセラレーション5!!!」



オーバーバックに向けて駆け出す黒い影が見えた。こういう時のために潜んでいた、エリックだ。



「おぉ」



オーバーバックはすかさず標的を変える。白い閃光が、エリックの至近距離で放たれた!



ヴォン



「嘘っ!!?」



思わず叫んだ。銃から放たれた閃光は、向こうの家の壁を粉々に砕いた。……何という威力。

いや、驚くべきはそこじゃない。あの至近距離で、弾丸を避けたエリックがおかしい。「加速」をかけているからといって、あんなことが常人で可能なの?


「はっ!!いいねぇっ!!」


エリックの拳を、オーバーバックは銃身で受ける。エリックは思わず後方に退いた。


「くっ……」


「いやぁ、愉しいねぇ……もう少し熟れてからの方が食べ頃だがぁ……」


「……止まりなさい」


私は、震える手でアリス教授から貰った「魔導銃」をオーバーバックに向けた。彼が呆れたように笑う。


「おいおい姉ちゃん、そんなへっぴり腰じゃ俺は撃てねぇぜぇ……」


「やってみないと、分からないわ」


シェイド君たちが路地に辿り着く。「ここは任せたよ」と、デボラさんが息が上がっているシェイド君を引っ張った。


「……随分、悠長なんだな」


睨み付けるエリックに、オーバーバックが銃口を向ける。私への警戒が解かれてないのは、すぐに分かった。


「そりゃなぁ。そこから逃げるのは、転移魔法でも使わないと無理だぁ……お前らを片付けてからでも、十分間に合うぅ……」


悔しいけど、オーバーバックの言う通りだった。「転移の玉」は稀少品で、アリス教授をもってしても簡単には作れないとのことだった。

「あなたたちにも持たせられればよかったのだけど」と、心底申し訳なさそうにしていたのが目に浮かぶ。


ただ、もし使っていたらオーバーバックはすぐに私たちを殺し、デボラさんたちを追っただろう。

彼は、私たちがどこにいるのかを把握できる。それが本当なら、逃げを打つ意味はない。



私は呼吸を整えた。……大丈夫、分かってたことだ。



「オーバーバックさん。……提案があるの」


「んん?命乞いかぁ??」


クックックと、オーバーバックが笑う。



「……私たちと契約を結ばない?」



「ほぅ??」



これは、賭けだった。正攻法で行っても、オーバーバックを倒せる見込みは多分ない。

私は彼に会ったことがなかったけど、エリックやシェイド君の口振りからこの男の危険性は何となく分かった。

そして、逃げても無駄だ。その上でアヴァロン大司教を捕らえ、かつメディアさんを救うなら……これしかない。


オーバーバックが、契約という言葉を使っていたのが肝要だった。この男の行動原理は、契約だ。まるで傭兵のように動くなら、雇い主を私たちに変えればいい。


問題は、対価だ。金なら、エリックが持つ宝石がある。どれほどの価値があるのか正確には分からないけど、少なくとも1000万ギラ以上はあるはずだ。

それ以外のものを……例えば、私の貞操を求められたら?分からない。ただ、穏やかに済む対価を私は願っていた。


もう一度呼吸を整え、私は口を開く。


「……あなたが、メディアさんを守るという契約を結んでいるのは知ってる。だから、それに上書きする形でこちらも契約を結ぶわ。

……『私たちに危害を加えない』という契約を」


オーバーバックの口の端が上がった。


「対価は何だぁ?俺は金じゃ動かねぇ……女も、名誉も要らねぇ」


「……!?じゃあ、何を対価にあなたはアヴァロン大司教と」


「お前らにそれが払えるとは思えねぇ……」



ズォンッッ!!!



オーバーバックのマナが、一気に膨れ上がった!まずいっ!!……私の賭けは、失敗に終わったんだ。


私は魔導銃を握り直す。こうなったら、できるだけ足掻くしか、ない。エリックの表情の険しさが増した。



ごめんなさい、教授。エリザベート。

そして……ごめんなさい。エリック。



覚悟を決めた瞬間、オーバーバックのマナが萎んだ。……どういうことだろう?



「いや、待てよぉ?……お前が、プルミエール・レミューかぁ?」


「……え、ええ。だとしたら?」


オーバーバックの顔から、初めてあの気味が悪い笑みが消えた。


「……なるほどなぁ……あるいは、お前らに乗る方が正解かぁ?」


「何を、言ってるの」


口の中が乾く。再び、オーバーバックがニヤリと笑った。



「俺の記憶を調べろぉ……今すぐでなくていぃ……」



「え?」


思いもかけない言葉に、私は固まった。エリックが、掠れた声で訊く。


「……どういうことだ」


「俺には記憶がねぇ……15年前からの記憶が、一切だぁ。

だから、俺はそれを取り戻すために、アヴァロンたちと契約を結んだぁ……

だが、その女なら確実に俺の『記憶』を取り戻せるはずだぁ。それが、1つ目の対価だぁ」


「……まだ対価が?」


「この場でお前らを見逃し、債務不履行になるのを上回るには、それなりの対価が要るぅ……

お前らが、もっと強くなったら、俺と戦えぇ……期限は、俺と次に会う時だぁ」


エリックが、私を見た。これは、その場しのぎに過ぎない。そう訴えていると、すぐに察した。


ただ、1つ目の対価は不可能じゃない。今の私が「追憶」で遡れるのは10年前までだけど、もう少し頑張れば15年前の記憶は分かりそうだ。

問題は、2つ目の対価。要は、「オーバーバックに殺されろ」ということだ。しかも、次にいつ会うかなんて、分かったものじゃない。



私は、目をつぶった。……ここが、正念場だ。



「……いいわ。でも、条件がある」


「条件ん?」


「ええ。今の私じゃ、15年前にあなたに何があったかは分からない。だから、時間をちょうだい。……そう……1ヶ月ぐらい」


「1ヶ月ぅ?」


私は頷いた。このまま行けば、サンタヴィラまで大体そのぐらいで着く。どちらにせよ、それまでには20年前まで「思い出せる」ようになっていなければならないのだ。


オーバーバックは渋い顔になった。


「……3週間だぁ。そこまで待てねぇ……」


思わず唾を飲み込んだ。


「……いいわ」


「プルミエールッッ!!?」


エリックが叫ぶ。オーバーバックの笑みが深くなった。


「いいぜぇ……!!契約、成立だぁ……」


向こうから、人々の叫び声が聞こえる。統治府から、人が逃げ出しているのだろう。その中に、アヴァロン大司教もいるはずだ。


オーバーバックが、パチンと指を鳴らす。しばらくして、彼の後ろに黒い空間の歪みができた。……転移魔法?


「俺はしばらく消えるがぁ、せっかくだから一つ情報をくれてやるぅ……

俺をやり過ごしたからといって、安心しないことだぁ。『怪物』が、まだ残ってるぜぇ……」


「何っ!!?」


「クックック……俺とやるまで、死んでくれるなよぉ。そして、殺しがいのある獲物になれぇ……」


そう言い残し、オーバーバックは消えた。



それとほぼ同時に……禍々しい気配を、私は感じた。今まで感じたことのないような、おぞましい気配を。



「誰かぁっっ!!!娘が、娘がぁっっ!!!」



「逃げろぉっっ!!!喰われ……があああっっっ!!!」



悲鳴が、ハッキリと聞き取れるほどに大きくなった。……何かが、近付いてきている!!?



「……逃げる、にゃ」


シェイド君が、路地から出てきた。


「え?」


「何かは分からないにゃ……でも、とにかく逃げるにゃっっ!!!」


エリックが、シェイド君の言葉を無視して叫び声がする方に駆け出す。


「エリックッ!!」


「お前らは先に逃げろ!!」


「そんなことを……」


遥か向こうに、2人の人影が見えた。遠くて顔までは見えない。


しかし……そのうちの1人からは、無数の細長い……触手か枝のようなものが生えているのが分かった。

それが次々と人々を捕まえている。……何なの、あれは??



「……何てことを」



緑髪の少女が、強ばった表情で呟いた。


「何なんだいあれはっっ!!?」


デボラさんの叫びに、彼女は弱々しく首を振る。


「……多分、あれは……私の前に来ていた客人。私の血で……人にあらざる者に変わってしまった」


「……え」


私は向こうを振り返る。……そんな、馬鹿な。




あれが、エストラーダ候だと言うの??




キャラクター紹介


カサンドラ・アーヴィング(49)


女性。高級娼館「蜻蛉亭」主人。普段は茶色の髪を上にまとめている。

50近いが、その肉体と技巧、そして卓越したメイクで未だに客を取っている。目尻に皺はあるものの、30半ばでも十分通用する程度には若々しい。

すっぴんでもかなり美しいが、それを他人に見せることはまずない。

年少の、できれば10代の客を好んで取る傾向にある。いわゆるショタコンであり、現役を続けているのは実益も兼ねている。


娼館の主人としては優秀で、目利きには定評がある。また、やむにやまれぬ事情から娼婦や男娼に落ちた者には手厚い保護を与えている。

実はモリブス出身ではなくテルモン出身。ただ、反皇室側の人間でありモリブスのワイルダ組(引いてはベーレン家)との関係が深い。

テルモン皇室からの刺客をデボラが撃退したことで、その関係性はさらに強まった。


なお、年齢上後継者を探しているがなかなか見当たらない様子。

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