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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第24-2話



子供の頃見たあの光景を、あたしは未だにハッキリと覚えている。



父さんと母さんは、家を空けることが多かった。

2人と過ごした時間より、ジャック先生やアリスさん、あるいはベーレン候の家族と一緒だった時間の方が長かったかもしれない。

それでも、寂しさは感じなかった。一緒にいる時は、できる限りの愛情を注いでくれたから。

どこかの遺跡に向かう2人を、精一杯手を振って送り出す。それがあたしとウィテカーにとっての1週間の始まりだった。


父さんたちは、冒険から帰る度に嘘みたいな土産話をしてくれた。

とてつもなく巨大で知恵のあるドラゴン。ひとりでに動く、機械の兵士。機械が勝手に掃除をしてくれる不思議な邸宅……

どこまで本当なのか、当時のあたしには分からなかった。でも、真偽なんてどうでもよかった。



世の中は謎に満ちていて、だからこそ面白い。

きっと、父さんと母さんはそれを伝えたかったんだと思う。



そんな2人が、冒険先にあたしたちを呼ぶことはほとんどなった。

ただ、一度だけ連れていってくれた場所がある。モリブス南西部の、サンターナ山地だ。



丸3日かけて、あたしたち一家は山地を探索した。巨狼や二角熊のような、獰猛な魔物にも出合った。

すごく怖かったけど、どこか安心してもいた。父さんたちが守ってくれたから。そして、山地の奥にそれはあった。



『……うわぁ』



そこにあったのは、一面の花畑。花は全て、虹色に輝いていた。



『きれいでしょ』


母さんが穏やかに言う。


『うんっ!!すごくきれい……何て花なの?』


『名前はないわ。私たちが見付けた。ね、リオネル』


父さんが頷く。


『ああ』


『これ、皆に見せてあげたいなあ。ジャック先生やアリスさんにも』


『そうだな。だが、彼らはともかく、世の中には知られてはいけない花でもある』


『どうして?』


母さんが、足元の小石を花畑に投げ入れた。その刹那。

石が落ちた辺りが、一瞬のうちに黒く染まった。


『……え』


『花が『攻撃された』と感じたの。そして、花は猛毒を放つ』


父さんが何かを呟く。すると、花は元の虹色に戻った。父さんは「すまなかったな」と足元の花を軽く撫でた。


『この花畑は生きている。もし、大勢の人がここに来れば、ここは荒らされてしまうだろう。

そして、大勢の人が死ぬ。この花の毒によって』


『そうね。……知られることが、必ずしもいいこととは限らない。世界は美しいけど、封じられた方がいい事実もあるの』


父さんと母さんが、一瞬悲しげな表情になった。


『どうして父さんたちは、あたしたちをここに連れてきたの?』


『そのことを教えるためだよ、デボラ、ウィテカー。お前たちにも、きっと分かる時が来る』


父さんたちが、何を伝えようとしたのかは未だにハッキリとは分からない。


ただ、あの花畑の美しさは、きっと一生忘れることはないだろう。



#



何で、こんなことを思い出しているんだろう?



目の前には、銃口があった。……ああ、そうか。




これが、走馬灯か。




……父さん、母さん。ごめん。

ウィテカー、後は頼んだよ。




唇を噛むと、目の前を何かが通った。……そして。



バァンッッッ!!!!!



銃声。



……あたしの意識は、まだある。

腰の辺りを、誰かが強く抱き締めていた。



限界突破リミットブレイク!!!!」



視界が一気に上へと移る。天井に当たると思った瞬間、目には家々の屋根が広がっていた。



「え」



ドスン、と衝撃が走る。シェイドが、私と一緒に屋根に降りたと認識するまで数秒かかった。


「逃げるにゃ」


「……は?」


「いいから逃げるにゃ!!!ボクにおぶさるにゃっっ!!!」


よく事態が飲み込めないまま、シェイドに背負われる。すると、風のように彼は屋根の上を走り始めた。……迅いっ!!


後ろから追ってくる気配はない。でも、彼は屋根から屋根へと飛び移る。私をおぶった状態で。……こんな力が、どこにあったのだろう?


不意に、彼が態勢を崩した。地面へと落ちそうになったのを見て、私は彼から離れる。そして、今度は私がよろめく彼を抱いて飛び降りた。


「ぐっ!!!」


肩と腰に強い痺れを感じた。いくら小柄でも、人を抱きながら数メドの高さから跳ぶのはさすがに厳しい。

シェイドはというと、はぁはぁと荒い息をついている。あたしを救うために、かなり無茶をしたのは明白だった。


「……ちょっと待ちな」


手を彼の額に当てる。恐らく、さっきの「限界突破」とやらは、相当に体力とマナを消費する魔法だったはずだ。

とすれば、これで何とかなる。手が黄色く光り始めた。


「……くっ……にゃっ!!?」


シェイドの目に精気が戻ってきた。彼は慌てて飛び起きる。


「何やってるにゃ!!逃げなきゃ……」


「多分、もう大丈夫さ。『時間遡行』で肉体を少し元に戻したから、体力やマナと同時に記憶も戻っちゃったみたいだね」


周囲を見渡す。「蜻蛉亭」のすぐ近くだ。


「……すまなかったね……あたしのせいで、こんなことに」


「いいにゃ。ボクに親はいないけど……ご主人やアリスさんが殺されてたら、同じことをしたと思うにゃ」


「ありがとう……一生恩に着るよ」


「ボクこそにゃ。あれは切り札だけど、反動も大きいにゃ。

……治してくれて本当に助かったにゃ」


ニッと笑うシェイドの頭を、思わず撫でた。


「意外といい奴だね、あんた」


「じゃあ後でおっぱい……あだっ」


あたしはシェイドの頭に拳骨をくれてやった。


「冗談とは分かってるけど、そんな余裕はないよ。これから、どうするんだい?

エリックたちと合流しようにも、大分距離がある。何より、オーバーバックと次に会ったら……」


「……エリックたちとは後でにゃ。今戻ったら、まとめて一網打尽にされかねないにゃ」


「なら、どうしてここに……あっ」


そうか、闇雲に逃げてた訳じゃないのか。蜻蛉亭には、今テルモンの皇子がいる。オーバーバックが何者かは知らないけど、あそこにいれば少なくとも暴れることはできない……!


あたしの様子を察したのか、シェイドがニヤリと口の端を上げた。


「さすがデボラ姉さんにゃ。理解したみたいだにゃ」


「時間には少し早いけど、あそこで待つことはできる。オーバーバックに気付かれたとしても、皇子の手前荒事には及べない……考えたね」


「にゃ。むしろ問題は帰りにゃ。あいつはボクらを見逃すとは言ってたけど、どこまで本当かは謎にゃ。こればかりは運否天賦にゃ」


運次第、か。でも、選択肢はない。


「行くよ」


あたしは「蜻蛉亭」の呼び鈴を鳴らした。


魔法紹介


限界突破


肉体能力を爆発的に引き上げる魔法。肉体強化魔法を得意とするシェイドの切り札でもある。

筋力や動体視力、反射能力が通常の数倍になるため、エリックの「加速」に近い効果が期待できる。

違うのは、筋力自体も跳ね上がっているため一撃の効果は「加速5」よりはずっと高い点。

また常軌を逸した跳躍などは「加速」ではできない利点でもある。

半面、「加速」ほどの速度では動けない。また、音速を超えることによる衝撃波の発生も不可能である。


持続時間は2分ほどであり、終了後は反動で動けなくなる。「加速『閃』」を使ったエリックのように、本来は数時間マトモな行動はできない。

「時間遡行」でこのデメリットを打ち消せるデボラとの相性は非常に良いと言えるだろう。


なお、使用時には若干の溜めが要る。

オーバーバックに不穏な気配を感じたシェイドは、事前準備を済ませていた。

このため、銃が出た瞬間に「限界突破」を発動。銃を跳ね上げて天井に穴を作らせ、そこから脱出ということをやってのけている。

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