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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第24-1話

統治府に近付くに従って、兵士の数が増えてきた。一昨日より多いかもしれない。


「そんなにあの娘が重要なのかねえ」


「よく分からないにゃ。殺す相手を守る意味はもっと分からないにゃ」


ボクらはプルミエールの魔法で人間に化けていた。持続時間はほぼ半日。魔法が解けるまでは、ボクらは姉弟か親子にしか見えないだろう。

魔法がかかっているとは言っても、デボラさんの胸は相当に目立つ。周囲の男たちの目がそっちに行くのは気に食わない。


「よう姉ちゃん。幾らだ……」


言い寄ってきた男の首筋に、短剣が突き付けられた。


「売りもんじゃないよ。『蜻蛉亭』はどっちだい」


「ひいっっ!!?あ、あっちだ。その物騒なもんをしまってくれっ」


デボラさんが鞘に短剣を納める。さすがに抜刀が速いな。


「『蜻蛉亭』?」


「ああ。一度主人の護衛を受けた所でね。あたしに貸しがあるはずさ。

1度しか行ったことがないから、場所の記憶は曖昧だけどねえ」


「なるほどにゃ。でもそこで情報貰えるのかにゃ?」


「統治府に娼婦を派遣する高級娼館だからね。まあ何かしら中の様子は分かるだろうさ」


統治府から200メドほどしか離れてない場所に、それはあった。蔦まみれの不気味な館。あれが「蜻蛉亭」らしい。


#


「お嬢様、『蜻蛉亭』に御用で?」


館の呼び鈴を鳴らすと、執事風の初老の男が出てきた。


「主人のカサンドラはいるかい。デボラ・ワイルダが来たと言えば分かるはずさ」


「……お待ちを」


5分ほど待つと、ボクらは中に通された。化粧水の濃い空気が鼻を付く。外観はああだけど、中は豪奢でいかにも娼館という感じだ。


「御主人、客人に御座います」


「通して」


執務室兼私室と思わしき部屋に入ると、初老の婦人が髪を櫛でとかしていた。顔には皺も少し見えるけど、十分現役で通りそうなほど美しい。

おっぱいも大きそうだし、あるいはここで得意客を取っているのかもしれないな。ボクは熟女趣味じゃないからちょっとお断りだけど。微かに甘い匂いもする。


婦人が顔を上げると、訝しげな表情になった。


「……本当にデボラ?」


「ちょっと狙われててねえ。耳は魔法で隠してるんだ」


「……その声と顔立ち、言われてみればデボラ・ワイルダね。変装は弟の……誰だっけ」


「ウィテカーさ。今日はいないけど、まあそんなとこさね。半年ぶりだけど、健勝そうで何よりだよ」


「お蔭様でね。貴女に命を救われたからこそ、私の今はある。ジャレッド、お茶を」


「畏まりました」


男が去っていく。


「しかし、急な訪問ね。貴女に護衛の仕事を頼む予定は今のところないわよ?

それとも何かしら、その可愛らしい男の子を、私にくれるとでも?」


思わずブルッと身震いした。カサンドラというひとはかなり綺麗だけど、さすがにボクの守備範囲じゃない。


「ははは、そういうわけではないさ。ちょっと、貸しを返して貰いたくてね」


「貸しを返す?」


「ああ、大したことじゃないさ。統治府で何が起きてるか、分かるかい?ここからも娼婦を送ってるんだろう?」


男がお茶を運んできた。それを一口啜ると、ふうとカサンドラさんが溜め息をつく。


「私には何もできないわ。統治府相手の商売は開店休業状態。ここ数日の物騒な動きと関係があるのかしら」


「多分大有りさ。どうなんだい」


「ユングヴィの偉いのが来てるって話。ユングヴィは私たちを目の敵にしてるから」


デボラさんがボクを見た。やはりあれはアヴァロン大司教だったか。


「誰かの出入りは?例えば、緑色の髪の女とか」


「……ちょっと分からないわ。あと数日で統治府での商売は通常通りになるって聞いたけど、情報はそれくらい。私にできることはないわ、申し訳ないけど」


「そうかい」


デボラさんが辺りを軽く見渡した。……微かに音が聞こえる。喘ぎ声だろうか。


「……ところで、テルモンの連中が随分来てるみたいだねぇ。結構な人数じゃないかい?」


「……何が言いたいのかしら」


カサンドラさんが眉を潜めた。デボラさんは肩を竦める。


「いや、これだけ来ると連中相手の商売は儲かってるんだろ?ここも満室みたいじゃないか。

それとあんた、すぐにここにあたしらを入れなかったね。客、ついさっきまで取ってたんじゃないかい?多分、テルモンの高官……違うかい」


「……目ざといわね」


彼女が苦笑する。そうか、彼女は商売上不利になる行動ができないわけか。だから、協力を拒んでいる……


「というわけで交渉さ。あたしらはあそこにいる人物に接触したい。統治府には関与できなくても、さっき言ったテルモンの高官からなら何とかできるだろ?」


「口利きをしろってことね。……そうね、不可能じゃない。でも、多少の面倒は伴うわね。報酬は?」


「命を救った貸しがあるだろ?まあ、それに加えて、モリブスの花街からこっちに何人か送れなくはないね。給金を弾むという条件で」


「いつからワイルダ組はそっちにも手を出しているのかしら?用心棒なら分かるけど」


「まあ、色々花街はあたしらに貸しを作ったからね。質は保証するさ」


ふむ、ともう一度カサンドラさんがお茶を飲んだ。


「……分かった。3時間後、もう一度ここに来て。これからもう一人、テルモンの第4皇子を客として取るの。彼経由で話を附けられる」


「第4皇子……随分年下だねぇ」


「ふふ、可愛い坊やは好きなの。母親の愛情に飢えた坊やは特に。……そうそう、その坊やを多分使うことになるけど、いいかしら?」


「……ボクかにゃ?」


フフフ、と妖しい笑いをカサンドラさんが浮かべた。


「ええ。ユングヴィは姦淫は禁じているけど、色事は禁じてないのよ。貴方なら、多分気に入る人がいるわ」



……そういうことか。ボクはげんなりした。



「……ここは、男娼も扱ってるのにゃ?」


「あら、子供なのによく知ってるわね。この子、何者?」


「ボクは「それは詮索しないでおくれ。まあ、信頼は置ける奴さ」」


ボクの言葉をデボラさんが遮った。……確かに、身の上を明かさない方が正解か。

ただ、ボクを男娼として送り込むというのは正直勘弁だ。ボクはデボラさんに耳打ちした。


(男の相手なんて死んでもゴメンにゃ)


ボクは確かに見た目がいい。女装だって多分似合うだろう。ただ、男に犯されるなんてまっぴらゴメンだ。


デボラさんは少し目を閉じた後、微かに笑った。


(大丈夫、考えがある。抱かれる必要なんてないから安心しな)


(本当にゃ?)


(あたしに任せな)


「相談は終わったかしら?」


デボラさんが頷いた。


「ああ。3時間後だね」


「ええ。その子も一緒にお願い」


#


「考えって何にゃ?」


ボクはかき氷が乗った匙を口に入れた。ロックモール名物らしいけど、マゴの実から取った蜜とあいまって実に美味しい。モリブスに戻ったら作ってみよう。


デボラさんはグバのジュースを飲むと、周囲をうかがって小声になった。


「渡しとくよ」


「……これって」


デボラさんが、懐から何かを取り出す。

手渡されたのは、黒い球だ。受け取ってすぐ、それがいかに危険なものか察した。


「そう、爆裂魔法を込めた『爆弾』だよ。魔力を通せば、離れた場所でも起爆できる」


「何でそんなものを持ってるにゃ?危ないにゃ」


「何が起こるか分からないからね。ロックモールにあいつがいると聞いて、組から持ってきたのさ。籠城したのを炙り出すためには、必要になると思ってた。

あたしの魔力を通さない限り爆発はしないから安心しな」


「……見えたにゃ。ボクはこれを置いたら、すぐに猫になって逃げるにゃ。そしてそれを受けて起爆すれば……」


「統治府は火事になり、アヴァロンはメディアを連れて出てくる。そこをエリックたちと叩く。どうだい?」


確かに、筋は通る。アヴァロンが「グロンド」を使って逃げるかもしれないけど、やってみる価値はありそうだ。


しかし……この作戦には、一つ見落としがある。



「オーバーバックはどうするにゃ」



デボラさんが言葉に窮した。あの男は、どこにいるのか分からない。そして、間違いなく只者じゃない。


「……それだね。敵はアヴァロンだけじゃない。炙り出しても、オーバーバックってのに守られていたら簡単じゃないのは分かる」


「対策が必要にゃ。あいつを引き離さないと……」


「賭場にいるって言ってたね。そこで何とか……え?」


デボラさんの表情が固まった。信じられないものを見たように、口がポカンと開けっ放しになっている。


ボクも振り向いて彼女の視線の先を見た。



……馬鹿なっっ!!?



カフェの入口に、黒い眼鏡の男がいた。短い黒髪に、黒と緑の斑の服。その異様な出で立ちから、客がざわめいた。


あの外見……間違いない。オーバーバックだ。


奴は一直線にこちらに向かってきた。ニヤニヤとした、気持ち悪い笑みを浮かべながら。

逃げるかどうかを逡巡する暇もなく、奴はボクらの隣の席に座った。


「暑いなぁ」


……気付いている?それともただの挨拶?


デボラさんが探るように言う。


「……まあ、 南国だからねえ……何か、用かい」


「ククク……いいねぇ、すぐ逃げないのは修羅場潜ってるなぁ」


「……あたしらを狙って来たのかい」


微かに声が震えている。

そもそも、どうしてボクらがここにいることを奴は知ったんだ?


それに答えるかのように、ニタァとオーバーバックの笑みが深くなった。


「品定めさぁ……。面白い気配を感じたんでなぁ。雑魚ならすぐに狩るつもりだったが、これは『太らせて』から狩るのが正解だぁ……」


何を言っている??確実に言えるのは、こいつはボクらの居場所を何かの方法を使って知っている、ということだ。

……冷や汗が額を伝ったのが分かった。


オーバーバックが、不意にボクの方を見た。


「……にしてもお前。回復が早いなぁ。殺さない程度に加減はしたが、腕取れてるかと思ってたぜぇ」


……!!?ボクの正体を、こいつは知ってる!!?


「……どうして分かったにゃ」


「俺には真実が『見える』んだよぉ。どんな魔法も、俺の前では無意味だぁ。

……せっかくだから、注文するぜぇ。焼きビーフン……はねぇなあ。この『パンシート』にするかぁ。一応、麺類らしいしなぁ」


まるでボクらがいないかのように、オーバーバックは気ままに振る舞っている。「殺そうと思えば殺せる」とでも思っているのか?


「何が望みにゃ」


「あぁ?さっき言っただろぉ、品定めってなぁ。あとは改めて警告だぁ。

緑髪の女には手を出すなぁ……依頼主からの依頼でなぁ、そこだけは契約上果たさなきゃいけねぇんだよぉ」


「契約主……アヴァロン大司教にゃ?」


「さあなぁ……ただ、俺の契約にはお前らを消すことは含まれていねぇ……何もしねぇんなら、将来性に免じて見逃してやるよぉ」


ガタン、と急にデボラさんが立ち上がった。目の前のかき氷は、すっかり溶けてしまっている。


「……行くよ」


「……分かったにゃ」


もちろん、アヴァロン大司教の件を諦めたわけじゃない。ただ、この場は早く立ち去りたかった。

エリックの言う通り、この男は……危険だ。底が全く見えない。


「おうおう、せっかくだから名物の『パンシート』でも見ていけよぉ。

……というか狐の女ぁ。お前、どこかで見たことがあるなぁ」


「知らないね」


オーバーバックの笑みが、さらに深まった。



「いやいや、会ったことがあるぜぇ……ああそうだ、あれは15年前だぁ。確か、名前は……パメラ」



デボラさんが驚きをあらわにして振り返った。パメラ??確かそれは……



「何であんたが、母さんの名を……」



「そうかぁ、親子かぁ。似てるはずだぁ、マナの感じも気配もぉ……」


「あんたっ、母さんを何で知ってるっ!!!」


「ククク」と愉快そうに……いや、恍惚に満ちた様子でオーバーバックは口を開いた。



嫌な……とても、嫌な予感がする。



「俺が殺った、最強の相手の一人だったぜぇ……あれは愉しかったぁ……」




「貴様ぁっっっ!!!!!」




デボラさんは懐から銃を抜こうとする。しかし、それより遥かに速く……どこからか取り出したか分からない長銃を、オーバーバックはデボラさんの鼻先に突き付けていた。



「見逃してやるって言ったのによぉ……残念だぜぇ」



つまらなそうにオーバーバックが呟く。……そして。




バァンッッッ!!!




銃声が、響いた。




キャラクター紹介


ハーベスタ・オーバーバック(年齢不詳、30代?)


男性。短い黒髪にサングラス、迷彩服を好んで着る。身長183cm、体重78kg。見るからに鍛え上げられた身体を持つ。

服装は明らかに北ガリア大陸のどこの国とも違う。南ガリアやアトランティア大陸でも同様の出で立ちはない。

鼻はそれほど高くはなく、常にニヤニヤと笑っている。どこか間延びした喋り方が特徴。


北ガリアの秩序維持を担う組織「六連星」の一人だが、立ち位置は他の5人とは大きく異なるようだ。

契約を重視し、契約外の行動は極力避けている様子が伺える。戦闘狂のようだが、「獲物は太らせてから狩る」が信条でもある。決して話が通じない男ではない。


趣味は博打とB級グルメ。盲人のようにも見えるが、目は見えているようだ。本人曰く「真実が見える」というがその真意は不明。

武器は深紅の長銃「紅蓮」。その戦闘能力は極めて高いが、その素性含め一切が謎に包まれている。

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