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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第23-2話


自分で言うのも何だけど、ボクは誤解されやすい。


この語尾のせいなのだろうか。ボクは元は「偽猫デミキャット」だった。偽猫には言葉を話せるのもいるけど、声帯の関係上どうしても「~にゃ」と言ってしまう。

その時の癖が、御主人によって人化術を身に着けた後もどうしても残ってしまったらしい。最初の1年は直そうと努力したけど、やめた。


多分直そうと思えば直せたんだろう。でも、ボクはそうしなかった。面倒だったのと、この語尾と見た目を使って道化じみた振る舞いをした方が楽だったからだ。

御主人がそれを苦々しく思っているのは知っている。久々に会ったアリス様もそうだ。


でも、長年染みついた習性は捨てられない。それに、捨てる必要もなかった。こうしていれば、女の子にはちやほやされたし。

「お馬鹿でちょっと被虐趣味があって、見た目がかわいい亜人」として振舞うことに、ボクは満足していた。



しかし、変わる時が来たのかもしれない。否、道化としての仮面をそろそろ捨てる日が来たのかもしれない。

エリックたちの旅が、並々ならぬ覚悟で進んでいることは理解できた。デボラさんもそうだ。



そして、ボクだけが……覚悟がない。



御主人とアリス様がボクをエリックたちに付かせたのは、それに気付いていたからなんだろう。

なぜそんなことをわざわざしたのか。……理由は薄々分かっている。



もう、御主人は永くない。まだまだ生きるみたいなことを言っているけど、ずっと傍で仕えてきたボクには分かる。

夜、ひっそりと自室に消音魔法を張っている意味。「静かでないと眠れない」何て言ってたけど、あれは大嘘だ。一晩中続く咳を、エリックたちに聞かせたくなかったからだ。

それに、あの煙草。普通の煙草じゃない。肺を中心とした胸の痛みを軽減する、超強力な鎮痛剤だ。もちろん、それはエリックですら知らない。アリス様はさすがにすぐ気付いたようだけど。



そう、これはボクがオルランドゥ家を継げるか否かの試験なのだ。

そして、このままでは試験にボクは受からない。



軽く査証を奪ってくるって言ったけど、それは簡単なことじゃない。中の偵察はなおさらだ。

ただ、危険に怯えてもボクは変わらない。せめて、形だけでも……彼らに並びたいのだ。


ボクは猫の姿に「戻り」一目散に「女神の樹」の中心へと向かった。

カルロスの言う通りなら、そこにはロックモール統治府があるはずだ。



#


(これは厳しいにゃ)


街中にはあちらこちらに重装備のテルモン兵がいた。胸の紋章がフレスベルグ皇室のものだから間違いない。血生臭さはないけど、賑やかであるはずのロックモールの目抜き通りは緊張感から閑散としていた。

あと、所々にユングヴィ教団の人間がいる。全員に共通しているのは、あの首飾り。どうやら、あれが「査証」のようだ。


中心部に行くに従い、物々しさは増していった。そして幹の真下に、荘厳で豪華な建物がある。……これが多分、ロックモール統治府。


実は、ロックモールには一度も行ったことがない。ただ、統治府が超特権階級御用達の賭場と娼館を兼ねているらしいという噂は聞いていた。

賭場街と花街のちょうど中間にある、この統治府に誰がいるのか。それだけは見極めないと。


(よっと)


バルコニーに登り、窓から中を見る。貴賓室のようだ。



そこには一人……緑髪の少女が座っている。



人の姿に戻ろうと思ったけど、ボクは思いとどまった。何故なら、少女の目には……あまりに「何もなかった」から。

確かに見た目は整っている。おっぱいもそこそこある。ただ、あまりに……人間味がない。そう、まるで植物か何かのような……


彼女がボクを見た。ゆっくりとこちらに近づいてくる。


逃げるべきか留まるべきか、ボクは躊躇した。逃げることを選択しようとしたその時、ボクは呼び止められた。


「あら、猫ちゃん……かな」


逃げようと思えばすぐ逃げられただろう。しかしボクは動かなかった。いや、動けなかった。



この少女、恐らくメディアという子だろうけど……普通じゃない。感情が、すぐには分からないのだ。

それだけじゃない。……香水か体臭か何かの、この匂い。甘い匂いが、ボクの身を封じた。



ボクはそのまま彼女に抱っこされ、頭を撫でられた。胸には、査証の首飾りがある。


「うふふ、かわいい猫ちゃん。人に慣れてるのかな」


メディアと思われる子は静かに微笑む。


このまま普通の猫のふりをしているのが、一番安全だ。……だけど、これはよく考えれば千載一遇の好機でもある。



無害なふりをするのは、やめろ。



「メディアさんだにゃ」



居心地の良い胸の中から抜け出し、ボクはくるんと一回転して亜人の姿になった。



「……どうして私の名を?」


「カルロスさんからの使いだにゃ。あなたを救うお手伝いをしているにゃ」


「カルロスさんの?」


初めて感情が見えた。僅かな喜びと、僅かな驚きだったけど。本当にこの人、カルロスの恋人なのかな?

そもそも、猫が亜人になるのを見てもそんなに驚いていない。不自然なほど、超然としている。


とりあえず、ボクは頷いておいた。


「にゃ。あなたにもう一度会いたいって。そもそも、あなたを連れ去ったのは誰にゃ?ユングヴィの誰かかにゃ?」


「……そっとしておいて。私はここで死ぬ定めなのだから」


「……にゃ??」


「彼は確かに大切な人。一緒に過ごしたかった。でも、彼の言うことが確かなら……」


「彼??」


外から靴の音が聞こえた。


「メディア、そこに誰かいるのですか」


まずいっ、これ以上ここにいるのは……自殺行為だ。


「いいえ、誰も」


「そうですか。入りますよ?」


「少し待っていただけますか。身支度を」


ボクは猫の姿に戻り、彼女の肩に乗った。そして早口で囁く。


「その首飾りだけもらえるかにゃ?」


「これは構わないわ。不要なものだから」


小声で言うと、そっとメディアがボクの首に査証をかけた。


「バレないかにゃ?」


「これを気にしているのはテルモンの人だけだもの。『彼』には関係ない」


「ありがとにゃ。また会うかもにゃ」


ボクは窓から一目散に逃げだした。



……「彼」……多分あれは、ミカエル・アヴァロンだ。



アヴァロン大司教が彼女をなぜ必要としているのだろう?必死で逃げながら、ボクは考えを巡らせていた。

これはただの推測だ。でも、メディアから受けた超然とした印象からして、このぐらいしか可能性がない。



メディアは、「女神の樹」の巫女なのではないか?



そもそも、「女神の樹」の巫女というのが何者なのか、ボクは知らない。人間ですらないのかもしれない。

一つ言えるのは、ユングヴィの連中……あるいはアヴァロン大司教が、彼女を必要としているのだろうということだ。


街の出口が見えてきた。ここを抜ければ、とりあえずは安心……



ゾクン



背後から、物凄く嫌な予感がした。刹那。



ボクの右肩を、灼熱の何かが貫いた。




用語解説


「査証」


要するにビザ。ただ、この世界では写真技術がほぼなく、画像化はそれなりに高度な魔法使いでないとできない。

このため、ある程度高級な宝飾品を以て身分証明としている。大量に配る必要がある場合は、特殊な細工を施した宝飾品で代替しているようだ。

もちろん、盗難などによるなりすましを防ぐため、本当に重要な場合は魔術的措置を施される場合も少なくない。

ただ、今回の場合は占領から間もないため、そのような措置は取られなかったようだ。

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