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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第23-1話


「ハーベスタ・オーバーバック」……聞いたことがない名前だ。私はもちろん、エリックもデボラさんも、そしてシェイド君も首を捻っている。


「誰にゃそいつ」


「俺が知るかっ!……ただ、間違いなく……只者じゃない。それは俺にすら分かった」


「テキ」を一口飲んで、デボラさんがふーっと息を吐いた。私の酔いも、大分覚めてきている。


「赤い何か、ねえ。武器、あるいは『遺物』かい」


「ボクは分からないにゃ。一応、『遺物大全』は一通り読んだけど、ちょっとピンと来ないにゃ。ただ……」


「銃の類いだな。馬に乗っていたのを次々殺したという辺り」


エリックにシェイド君が頷いた。


「魔法かもしれないけど、そうかもにゃ。ただ、銃の『遺物』は知らないから、多分未確認のにゃ。もちろん、それが『遺物』って保証もないにゃ」


「とにかく、覚えておく必要はありそうだねぇ……」


アヴァロン大司教の仲間だろうか?それとも、もっと別の誰か?

分からないけど、やっぱり簡単にはいきそうもない。


「ま、考えてもしょうがないさ。とっとと引き揚げて寝る……」


「待て。俺はあんたらは知っている。だが、この眼鏡の女と亜人のガキは誰だ?あんたらの仲間みたいだが」


カルロス君の言葉に、シェイド君が不快そうに笑った。


「ガキにゃ?お前より年上にゃ、敬語使えにゃ」


「何っ!?偉そうに言ってんじゃな……」


「ちょ、ちょっと!!喧嘩は止めなさいって」


シェイド君がぷくっと膨れる。


「む。締めてやろうと思ったけどプル姉さんの言うことなら従うにゃ」


「は!?何様だっっ!?」


「ボクの名はシェイド・オルランドゥにゃ。大魔法使い、ジャック・オルランドゥの弟子にして養子にゃ」


「……え?」


エリックが呆れたように首を振った。


「弟子も養子も自称だろう」


「に゛ゃっ!?でも、大体その通りにゃ?」


「まあ、好きに言えばいい。ああ、こいつの腕が立つのは本当だ。手を出すなら命の覚悟ぐらいはした方がいい」


カルロス君は唖然とした様子だ。ちょっと空気を変えなきゃ。


「えっと、私はプルミエール・レミュー。オルランドゥ魔術学院の学生……をやってました」


「あ、ああっ。よ、よろしく頼む」


デボラさんがやれやれと苦笑した。


「ま、自己紹介はそこまでだね。明日も早いから、今日はここでお開きにするよ。部屋割りは男女別でいいね?」


「えー、お姉様と一緒じゃな……何でもないにゃぁ……」


睨まれたシェイド君が小さくなった。


「カルロスはどうするんだい。仇のあたしらと一緒が嫌というなら無理強いはしないよ」


「……背に腹は変えられない。頼む」


#


「大丈夫なんでしょうか」


シャツ一枚のデボラさんが振り向いた。


「大丈夫って、なんだい」


「カルロス君です。……仇なんですよね」


ハハハとデボラさんが笑った。


「まあ事実だけどね。あいつには殺されるだけの理由があったし、そのことはあいつも分かってるさ。

子供だから一言言わずにいられないだけさね。前にも似たようなことがあったけど、親父と違って分別はある子だよ。

それに、あたしもエリックも負い目には感じてるんだ。どんな理由があれ、あの子の親父を殺したのはあたしらだしね」


「なら、いいんですけど」


デボラさんがニヤリと笑った。


「大丈夫って言えば、あんたはいいのかい?」


「え?」


「部屋割りさ。エリックと一緒の方が、よかったんじゃないのかい?」


「うえっ!!?あ、いや……そういう、関係でもないですし……」


「もう、お互い素直になんな。何か昔のあたしと旦那を見てるみたいだよ」


「そうなんですか?」


デボラさんが遠い目をした。


「旦那は無口な人でね。想いを口にするのが下手な人だった。あたしもそんなに器用な方じゃなかったからね。くっつくまでには色々あったもんさ。

あんたらが互いを気にしてるのは、分かりやす過ぎるくらい分かりやすいよ。そういう関係になった方が、この先を考える上ではいいと思うんだけどねえ」


そうなんだろうか。彼の気持ちも少しずつ見えてはきたけど……

そもそも、私自身の感情がよく分からない。彼には恩もあるし、悪い人でないのもさすがに分かってる。

ただ、男女の仲になるのがどうなのか……いい加減、彼に訊くべきなんだろうか。


「まあ、あんたらのことだし、野次馬が口を挟むことでないけどね。それに、あたしらにとって恋やら何やらよりも、今は優先すべきことはある」


「……そうですね」


布団を被り、目をつぶる。彼は今、どう思っているんだろう。


#


モリブスを出て3日目の昼。巨大な樹が、遠くに見えてきた。あれが「女神の樹」か。


「……大きいですね」


「高さは数百メドはあるらしい。木陰はいつも暗いから、幹に近いほど裏の世界になるんだ。娼館や賭場は、そっちの方にある」


「そういうことだね。普通の旅人は周辺の温泉に泊まるか、金があれば海に行くね。

で、あんたは追放されてるんだろ?どこか行くあてはあるのかい」


カルロス君が黙った。


「海側に別荘がある。そこも抑えられてたらお手上げだけど、あそこの存在はゴンザレス家の親族しか知らないはずだ」


「大丈夫なのか?」


「……まあいざとなれば旅人のふりをしてやり過ごすしかないさ。俺の顔は周辺部ならそう知られてないし。お前らは……まあ全員目立つけど」


シェイド君の目が輝いた。


「海にゃ!?おっぱい……」


「はないぞ。砂浜はかなり遠いからな。父上は書斎代わりに使われていた。静かなところさ」


向こうから10人くらいの人たちが、馬に乗ってやってきた。バザールの商団かしら。

「おお、ロックモールに行きなさるか」と、向こうから声をかけてきた。


「何だい?モリブスの商人と見受けたがね。帰りかい」


「いや、門前払いを食らった。昨日テルモンの連中が大勢やってきてな。ロックモール市は連中に占拠された。

モリブス側から入るのは査証が必要なんだそうだ。ただ、昨日の今日でそんなのが手に入るわけもねえしな……商売あがったりさ」


商人はうんざりしたように荷物を見ると、「じゃあな」と立ち去っていった。


「査証……そもそも、ロックモールが占拠されたこと自体モリブスには伝わってないだろうからねえ。……そういうことかい」


「どういうことです?」


デボラさんが苦笑した。


「ベーレン侯はある程度こうなることを読んでたわけだね。あたしらがアヴァロンを狙うことで混乱が生じれば、そこが突破口になるということか」


「でも、ロックモールが封鎖されているならどうやって中に入るんですか?」


「そこだねえ。カルロス、いい案はあるかい?」


「……ロックモールは城壁で覆われているわけじゃないが、モリブス側から入れる道は3つしかない。そこに兵士を置かれたら、強行突破以外は手がないな……いきなり騒ぎを起こしたら、メディアを奪い返すなんて無理だと思う」


「あんたしか知らない道があるとか、そういうことはないかい?」


カルロス君が辛そうに首を振る。


「……そんな都合のいいことはないさ。いきなり躓くなんて」


「まあ、正面からやるしかないな。手早く終わらせる」


エリックの言う通り強行突破自体はできるだろう。ただ、「騒ぎにならずに」となると難しい。



その時、シェイド君がニマッと笑った。



「僕の出番のようにゃ」


「え?」


「僕が何者か、プル姉さん分かってるかにゃ?」


「……あっ!!」


「そうにゃ。猫になれば簡単に入れるにゃ。そこから査証を盗んでくるにゃ。ついでに中の様子も見てくればなお良しにゃ」


なるほど、確かにその通りだった。ジャックさんの下にいただけあって、女の子追ってるだけの子じゃないんだな。でも……


「結構危険だよ?あんた、本当に大丈夫なのかい」


「デボラ姉さんはこの前のボクの勇姿を見てないのにゃ。まあ心配しないでにゃ。皆はティアナの街で待機してるにゃ」


トン、と自信ありげに胸を叩くと、白い煙とともに彼は黒猫の姿になった。


「じゃ、行ってくるにゃ」


用語紹介


「天使の樹」


ロックモールのシンボルであり、ランドマークであり、繁栄の源でもある巨大樹。高さは500メートルにも及び、それによって作られる木陰は半径2kmにも及ぶ。

幹のすぐ下は毎日夜のような暗さであり、それが賭場や娼館にとっては都合の良い環境を作り出していた。幹に近いほど裏の世界に近いとされている。温泉など一般人向けの施設は外周部に多い。

いつからそれがあったかは定かではないが、少なくとも300年前にはその存在が確認されている。


実はほとんどつけないとされており、万病に効くなど様々な言い伝えがされている。そのどれが正しいのかは不明。

また、「女神の樹の巫女」の物語など、女神の樹にまつわる昔話や寓話も多い。その中の幾つかは事実に基づくものであらしいが、誰が作者も定かではない。


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