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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第3章(ロックモール編)
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第21話


「どうもお世話になりました」


私は深く頭を下げた。馬には既に荷物は積んである。エリックは既に馬上の人だ。


数日間、教授も交えて厳しい修練をしてきた。ある程度の手応えは感じている。疲労も、昨日の休養日で大分取れたと思う。


「いいのよ。私も久々に貴女たちに教えられて楽しかったわ」


「ひぐっ、教授ぅ……」


エリザベートが教授に泣き付く。彼女は笑って頭を撫でた。


「別に今生の別れでもないでしょう?特に貴女は」


「でも……トリスで何があるか分かりませんし……」


「……そうね。『シェリル』については、私も知りたいし。……聞いているんでしょう?マリア・マルガリータ」


「え」


ニコリと教授がエリザベートに笑いかけた。


「どうしてそれを」


「彼女の魔法……いや、『秘宝』も使ってるのかしら。『千里眼』については、さすがに知ってるわ。トリスとしては最高機密なんでしょうけど」


ジャックさんが頷く。


「全貌を知ってるわけじゃないがな。特定の相手の視野などを共有するとは聞いている。エリザベートも似たようなのは使えるな」


「まあ、お前さんたちならバレていると思ってたけどな」


「バイク」に跨がりながら、ランパードさんが肩を竦める。


「そこまで織り込み済みか、ランパード卿」


「俺に女王陛下の深い御心は分からんよ。向こうからこちらには何もできねえしな。

ただ、戻ったら何かしらの動きはあるはずだ。『シェリル』がどの程度関与しているのかいねえのか、多分調査は始まってる」


「ブロロッ」と「バイク」から低く重い音がした。ランパードさんは僅か数日で、これを乗りこなせるようになったらしい。


「じゃあ姫様、後ろに乗ってくれ」


「……うん」


エリックがランパードさんを見た。


「そっちの用件が終わったら、どうする」


「多分俺に出されるのは、テイタニアの討伐指令だ。エリザベートを連れていくかは知らねえ。危ねえ橋を渡るから、俺としては国許に置いときたいが」


「嫌よ。貴方についていくもん」


ランパードさんの腰に、エリザベートが後ろからぎゅっと抱き付いた。


「……とこれだ。まあ陛下もエリザベートには甘いからな」


「そうか。まあ、近いうちに会うことになりそうだな。生きていれば」


「お互いな。じゃあ、世話になったな!また会おうぜっ!!」



ブロロロロ…………



2人を乗せた「バイク」が急速に小さくなっていく。私たちも、そろそろ出なければいけない頃だ。


「行っちゃいましたね」


「ええ。そうだ、プルミエール。貴女にはこれを」


教授が懐から何かを取り出した。……これはっ!!?


「ちょ、ちょっとこれって……」


「ええ、『魔導銃』よ。私が使ってたのだけど、餞別としてあげるわ」


「そ、それって、すごく貴重なものじゃ」


「大丈夫、身を守る手段なら他にもあるから。むしろ貴女にはそういうのないし、ちょうどいいと思うわ」


手渡された銃は、ずしりと重い。これ、扱いきれるのかな……


「魔力に比例して威力が増すから、今の貴女なら結構なものになってるはずよ。むしろ、全力で撃たない方がいいかも。被害が大きくなるから」


「わ、分かりました。大切に使います」


「そろそろ行くにゃ!夕方までに宿場町に着かないとにゃ」


外套を被ったシェイド君が言う。馬に乗ろうとした時、向こうから誰かが馬でやってくるのが見えた。


「……あれって」


「ちょっと待ちな!!」



あの長い銀髪に狐のような耳……デボラさんだ。



「どうしたんですか?」


「組のことはしばらくウィテカーとラファエルに任せたよ。……あたしもロックモールに連れていってくれないかい」


「えっ」


戸惑う私をよそに、教授は「いいわ」と微笑んだ。


「人が多い分には安心だし、貴女も時々修練を手伝ってくれたから。狙いはやっぱり」


「ミカエル・アヴァロン。あいつが父さんと母さんの仇かは分からないけど、何か知ってるのは間違いないからね」


「……そうね。ただ、くれぐれも無理はしないで。……貴女は、歳の離れた妹のようなものだから。ジャックも、いいでしょ?」


「ああ。ロックモールには、多少は土地勘があるだろう。そいつらを導いてやってくれ」


「任せときな」


ニヤリとデボラさんが笑う。


「エリックもいいだろ?」


「ああ。向こうの事情は、商売柄知ってるんだろう?」


「まあね。うちは女衒はやっちゃいないけど、用心棒系の依頼は結構あるからね」


「やったにゃ!!!」とシェイド君が声をあげた。


「お姉様も一緒にゃ!!これで勝った……」


「何が勝ったって??」


睨まれたシェイド君が冷や汗を流しながら震える。そういえば、部屋を覗こうとした彼が思い切り蹴飛ばされてたっけ。


「な、何でもないにゃあ……やっぱ怖いにゃあ……」


「デボラ、私の代わりにシェイドを頼んだわよ。舐めたことしたら半殺しで構わないから」


「ひうっ!!?アリス様、容赦や慈悲はないのかにゃ……」


「ないわ」


デボラさんが彼に近付いて、顔を近付ける。


「あたしに手を出そうとしたらマジで殺すから。そのつもりでいな」


「にゃぁ……」


エリックが溜め息をついた。


「まあ、デボラが一緒なら安心だな。ジャック、色々世話になった。また会いたいものだが」


「俺の寿命が尽きてなければ、な。……次会えるのはいつの日やら」


「そうだな。まだ目的地までは遥か遠い。次に会う時は、サンタヴィラの真実を伝えに行く時だな。数か月後か、1年後か」


「まあその時を楽しみに待ってるぜ、アリス共々。それまでは生きなきゃな」


ニヤリとジャックさんが笑った。教授も笑顔で手を振る。


「じゃあね。良い旅を」


「本当に色々、ありがとうございました!!行ってきます!!」


私は馬に乗り、深く頭を下げた。


#



2人に次に会うのは思いもかけない形だということを、この時の私たちは知らない。



#


モリブスからロックモールまでは丸3日かかる。幸い、モリブス領内では私たちの安全を確保してくれるようにすると、ベーレン侯が確約してくださった。

「シェリル」、もといテイタニアの襲撃の件で、ラミレス家もベーレン侯に大きな貸しができたという。「統領選当選がほぼ確実になったことを考えれば、この程度でも安いものたい」だそうだ。


私たちは最初の宿場町、サンティアナに着いた。交易路らしく、大荷物を馬車に積んだ商人が目立つ。


「賑やかなものですね。バザールみたいなのもある」


「南ガリアの農作物の評判はいいからね。テルモンでは高く売れるのさ。とりあえず、飯にするよ。酒はイケるかい?」


「はいっ!実は結構好きなんです!エリックもいいわよね?」


「構わん」


「ボクはお酒あんまりなのでいいかにゃ?」


「いいさ。とりあえずあそこにしようか。うちのもんも使っているとこさ」


デボラさんを先頭に入る。酒場は商人と護衛の傭兵で一杯だ。


「らっしゃい。注文は」


「『テキ』のソーダ割りを3杯、ココのミルク割りを1杯。ツマミにボガードのサラダ、鶏のティッカ焼き……辛いのはプルミエールがダメだから……茄子の挽肉詰め辺りでいいかね。

それと、ロックモールの最新事情を知りたいねぇ。変わりはないかい」


「……あんた、ワイルダ組のデボラ大姐か。外套で気付かなかったぜ」


「いいんだよ。で、どうなんだい?」


主人と思わしき口髭の男が、辺りを軽く見渡した。


「……テルモンの奴らはいねえな。ならいいか。テルモンとゴンザレス家との関係が、最近悪化してる」


「元からそんな仲は良くないだろ?」


「今回はちと違うらしい。テルモン領側の連中が軍隊を派遣してるって話だ。ここ数日のことだ」


「どういうことですか?」


デボラさんが振り向いた。


「ロックモールは世界二大歓楽街の一つさ。テルモンとモリブスの共同統治ってことになっててね。博打をテルモンの軍閥が、色事をモリブスのゴンザレス家が仕切ってるのさ。

一応持ちつ持たれつでこれまでやってたんだけどね。ゴンザレス家が1年前にベーレン侯に弓引いてからは大分押されてるんだよ」


「……あの時のことだな」


エリックの言葉に、デボラさんの表情に翳が差した。


「……まあね。あたしの旦那が殺されたのはその時さ。エリックのお陰でゴンザレスの乱は収まったわけだけど……ここで辛気臭い話をするのはやめとくかね。

とにかく、ゴンザレス家はあれで大分弱体化したんだ。もちろん、あたしたちワイルダ組には特大の貸しがある」


「ロックモールの花街が大分テルモンの影響を受け始めてるという話は聞いたことがあるな。そういうことか」


「まあね。ああ、もちろんあんたが気に病むことはないよ。ゴンザレス家の連中は、命があるだけまだマシと思うべきさ。

ただ、そうなると困ったね……軍隊まで来てるとなると、ゴンザレス家の庇護もそんなに当てにできそうもないってことか」


「そうなのにゃ?」


いつの間にかミルクのようなものが入ったグラスを手にして、シェイド君が言った。


「ロックモールでは奴らに働いてもらうつもりだったんだ。でも、軍隊が来ているってことは、あまり期待できないかもしれない」


「軍隊は、俺たちに対する備えだろう?」


「多分ね。それと同時に、ゴンザレス家に圧力をかけてるのさ」


主人が私たちにお酒のグラスを手渡した。


「何やら訳ありみてえだな。まあ、くれぐれも気をつけな。厄介事に巻き込まれたくねえなら、ロックモールは素通りすることを勧めるぜ」


「生憎、そういうわけにもいかな「何でダメなんだよっっ!!!」」



激しい叫び声に、私たちはそっちの方を見た。酒場の隅で、若い男の人が傭兵の胸倉を掴んでいる。



「金なら幾らでも出すっ!!だからお願いだ、俺に雇われてくれっっ!!!」


「無理なものは無理だ。命は惜しいんだよ、他当たんな」


「100万ギラでもかっ!!200、いや300万でもっ……1000万!!!どうだ!!?」


「命の値段としては安すぎだな」


傭兵は見るからに歴戦の強者っぽいけど、男の人は随分と若い。私よりは下、見た目だけならエリックより少し上といったぐらいか。男の人はその場に崩れ落ちる。


最初は興味なさそうにしていたデボラさんが、急に目を見開いた。


「……驚いたねぇ……あそこにいるのは、まさか」


「……!!!ああ、そうだ。間違いない」


「エリック、知ってるの?」


エリックは「テキ」を一口飲んだ。



「ああ。あいつは、ゴンザレス家『現当主』。カルロス・ゴンザレスだ」




都市紹介


「絶頂都市」ロックモール


海に面した大娯楽都市。年中温暖であり、単純な娯楽・風俗都市ではなくリゾート地としての顔も併せ持つ。

テルモンとモリブスの国境にあり、両国の共同統治ということになっている。

賭博はテルモン軍閥、性風俗はモリブスのゴンザレス家の管轄である。

両国にとっては貴重な観光収入源であり、近年は遥か遠方のアトランティア大陸の富裕層も相手にしている。


成立の経緯は定かではないが、200年ほど前から現状の統治体制であったようだ。

温泉地としても名高いため、元は湯治場だったのではという推測がある。これを利用したユングヴィ教団直営の病院もある。なお、特権階級御用達である。


華やかな表の顔とは裏腹に、実権争いは絶えない。

特に1年前のゴンザレス家によるクーデタ未遂後は急速にテルモンの勢力が伸びており、そのパワーバランスは崩壊しつつある。

街の中央には、シンボルである巨大樹「女神の樹」がある。稀にできる実は万病に効く薬になるという伝説があるが、その真実を知る者は「ほぼ」いない。

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