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追放令嬢と剣聖師匠のすれ違い革命  作者: 囹圄
第二章

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第三十五話 『不測と強行』

 ヒルディアがガーハイムの腕を斬り飛ばしたことで、徴税官(ちょうぜいかん)一味(いちみ)とジェイムズたち三人が浮き足立っている間も、スイガは他の男たちに背を向け、ヒルディアの行動を厳しく窘(たしな)める。


「己らはジェイムズたちの目論見(もくろみ)に加担(かたん)するためこの村へやって来たのだ。であればこの場は荒事を避(さ)けるという判断が妥当(だとう)だと普通に考えればわかるだろうが!」


 ヒルディアは、困ったような顔で首をかしげる。


「でも師匠(せんせい)は、敵と見定めた相手が隙(すき)を見せれば、躊躇(ためら)うことなく抜き打ちにするようにと、常々おっしゃられてきましたわ」

「そりゃ山での話だ!」


 あんな場所まで来て野盗に成り下がるような人間は、大概(たいがい)まともでない。

 だから、油断したり、まして情けなど掛ければ、たとえ剣腕で上回ろうと、一瞬の隙を突かれ殺される。

 そんな環境で弟子を生き延びさせるため、スイガは常々敵には一切容赦(ようしゃ)せぬよう言い聞かせてきた。

 ゆえにヒルディアのガーハイムへの対処は、スイガの教えに忠実に従った結果ではあった。

 だが、あんな魔境(まきょう)と下界(げかい)とでは勝手が違うし、今はその場に適した状況判断が必要な時だと、言わずともわからないものかとスイガは思う。


「それに、冷静だったと言ったな! 己の目にはおまえが私情に流されているように見えたぞ!」

「う、たしかに、あの男はすごくムカつきましたし、触られそうになって生理的に耐え難(がた)いというか、キモチワルすぎて軽くトラウマを刺激されはしましたけれど」

「ほら! やはり冷静なんかじゃなかったのではないか!」

「落ち着いてくださいな。師匠こそ現在進行形で冷静さを失っておられますわ。なんだか口調も乱れておられますし」

「誰のせいだ誰の!」


 ヒルディアが表情を緩(ゆる)めながら師を宥(なだ)めると、スイガはますますムキになり声を荒げる。

 その背後では、顔面を赤く染めたガーハイムが、手当をしようとする配下を張り倒し蹴(け)倒し、震える手を剣の柄(つか)にかける。

 先程までは痛みとショックで動くこともままならなかったが、今は大量に分泌(ぶんぴつ)されたアドレナリンが痛みを抑制(よくせい)しつつ、怒りの感情に火をつけている。


「貴様ら、そこになおれ! こうなったからには生かしてはおかん! ワシ手ずから剣の錆(さび)にしてくれる! 特に女の方は、全身を切り刻みながら慰(なぐさ)み者に――」

「だいたい、つい先日野営した時におまえは、もう無謀(むぼう)な真似(まね)などすまいなという己の言葉に同意したではないか! それをこんなにもすぐに忘れるとはなんだ!」

「べつに下級官吏(かんり)ひとりの腕を飛ばす程度無謀でもなんでもありませんわ」

「だからそれが心得違(こころえちが)いだというのだ! 過酷な環境に身を置いていたからといって、人里でもその理(ことわり)が通用するなどとは――」

「聞け!! ワシの、話を、聞けぇ!!!」


 ガーハイムは声の限りに怒鳴(どな)るが、それでもふたりは彼を無視して言い合いを続ける。

 屈辱(くつじょく)と殺意のあまり、もはや顔色が紫色に変色したガーハイムは、とうとう剣を振り上げると、喚(わめ)き散らしながらスイガの背後より斬りかかる。


「下賤者(げせんもの)共が王陛下の臣(しん)であるワシに注意も払わんとは不敬(ふけい)の極みぃ!! そのそっ首叩き落として――」

「うるさい!!! 今弟子を指導しあっ!」


 背後から近付く声に気付いていたスイガは、喉元に切っ先を突きつけ制止しようと、身を捻(ひね)りながら後方へ抜刀する。

 丁度そこへ、片手で剣を振り上げたガーハイムが、スイガの背を斬りつけようと大きく踏み込んできた。

 結果、刀の刃はガーハイムの太い首に吸い込まれ、スイガはこれまで数え切れないほど繰り返した動きを体が自然になぞり、寸止(すんど)めするはずの刀を振りぬいた。

 ガーハイムの首が高く飛び、数秒の間をおいて地面に落ちると、二三度バウンドしながら転がった。

 静止した首の顔は、部下たち向けられる。

 カッと見開かれた目に見据(みす)えられ、男たちは声にならない悲鳴をあげる。

 一方のスイガは、少しの間刀を振りぬいた姿勢で固まったまま目を泳がせていたが、やがて剣を下ろすと気まずそうに咳払(せきばら)いした。

 その背後から、ヒルディアが短く声をかける。


「師匠?」

「あ、うん、これは……」


 そうつぶやきつつ項垂(うなだ)れ、嘆息(たんそく)しながら額(ひたい)に手を当てるが、すぐに平静な態度を繕(つくろ)いながらヒルディアに向き直る。


「作戦を変更する。己は左の護衛を尋問(じんもん)して情報を得るので、ヒルダはあとのふたりを斬れ」

「わかりましたわ!!」


 スイガは血振(ちぶ)りして納刀(のうとう)すると、あまりの急展開にオタつくことしかできない護衛たちのうちのひとりに歩み寄る。

 上官を殺した男の接近に気付いた護衛は、剣の柄に手をかけながら威嚇(いかく)する。


「な、なんだ、そこで止まれ! 止まらんと斬るぞ!」

「やってみろ」


 護衛の兵士は剣を引き抜きかけるが、一足跳(いっそくと)びに間合いを詰めたスイガは、相手の柄尻(つかじり)に掌(て)を当て剣を鞘(さや)に押し戻す。


「なっ!? ごっ!」


 護衛の男は動揺(どうよう)する間もなく、肘(ひじ)で顎(あご)を打ち抜かれ、膝(ひざ)から崩れ落ちる。

 その体が地面に沈む前に、スイガは襟首(えりくび)をつかんで支える。


「きっ、貴様! ガーハイム様に続いて我らも害そうというのか!」


 他の護衛が怯(おび)えを隠すこともできずに喚くが、スイガはそれを無視し、村の男衆三人組の方へ顔を向ける。


「ジェイムズ、この村で誰にも会わず見られず尋問ができる場所はあるか?」

「え、じ、尋問、ですか?」


 狼狽(ろうばい)したジェイムズは、思考がまわらず質問に対して質問を返した。

 すると、傍(かたわ)らのエヴァンスがたどたどしくもどうにか答える。


「それなら、さ、さっきの教会、とか、いいんじゃねえか?」

「あそこか」


 なるほどうってつけかもしれんとスイガは思う。

 それに、来た道を戻れば良いので、案内もいらない。


「祈りに来る村人はいないのか?」

「あ、ああ、司祭(しさい)が逃げちまってから、誰も近寄ろうとはしてねえ、そのはずだ」

「あ、で、でも、教会は、司祭が姿を消す際に、鍵をかけていって、だから扉を開けられないんです」

「問題ない。錠前破(じょうまえやぶ)りの心得(こころえ)がある。無理でも、扉を蹴破(けやぶ)れば入れるだろう」

「そ、それなら、正面扉より裏口にまわってください。鍵は正面よりも、簡易的(かんいてき)なものですし、扉を壊すにしても目立ちませんので」


 ジェイムズの言葉に頷(うなず)くと、スイガは意識を失ったままぐったりしている護衛を引きずり教会の方へと歩き出す。


「ま、待て! どういうつもりか知らんが、みすみす仲間を連れて行かせるものかよ!」


 スイガの立ちまわりを目の当たりにして手を出しかねていた他の護衛たちだったが、彼が背を向けたことで斬りかかろうと剣の柄に手をかける。


「待つのはあなたたちの方ですわ」


 後ろからかけられた声に男たちがふり返ると、抜き身の剣を持ったヒルディアが立っているのに気付く。


「ああ、女もいたな」


 去っていく男よりも、剣を持った女への対処が先と判断し、護衛の兵士たちはヒルディアに向きなおる。

 ヒルディアがゆっくりと刀を持ち上げ正眼(せいがん)に構えると、向かって右側の兵士が剣を抜こうとするのを、左手の兵士が手で制した。


「おい、なんだ?」

「まあ待て。先に訊(き)いておきたいことがある」


 向かって左手の男は、ヒルディアに問う。


「貴様ら、何故いきなりガーハイム様を殺した。それに、おまえの連れの男は我らの仲間を尋問するなどと言――っ!!」


 問い掛けの途中で、ヒルディアは左手の兵士との間合いを一気に詰めると、相手が反応する間も与えず刀を横薙(よこな)ぎに払った。

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