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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 8

「神界のスタンディングオベーションと、誕生する『メロン星雲』」

 泥沼夫妻の狂気と純愛(?)に満ちた結末は、アナステシア世界のみならず、全宇宙の歴史に永遠に語り継がれる伝説となった。

【天界・ゴッドチューブ特別配信枠】

『(コメント欄)全俺が泣いた』

『(コメント欄)映画化決定。タイトルは「マスクメロンの誓い」で頼む』

『(コメント欄)シェイクスピアも墓から起きて拍手するレベルの悲恋』

『(コメント欄)金貨5万枚! 二人の来年の肥料代にしてくれ!!』

『(コメント欄)純金延べ棒100本! あのメロン、俺も育てたい!』

 コメント欄のスクロール速度はもはや光速を超え、画面はスパチャ(投げ銭)の虹色で埋め尽くされていた。

 この日、ゴッドチューブのサーバーは三度もダウンしかけたが、天界のインフラエンジニア(天使たち)が徹夜で魔力供給を行い、なんとか配信を維持し続けていた。

「う、うぅぅ……ッ! ずびぃぃぃっ!」

 ルチアナのコタツ部屋では、凄まじい光景が広がっていた。

 見習い女神のリリスが、ジャージの胸にある初心者マークで盛大に鼻をかみ、床をのたうち回っている。

「ダメですぅぅ! こんなの絶対間違ってるのに、二人の純愛が美しすぎて……! お互いの過去(不倫メロン)を許し合い、共に来年へ向けて種を育てるなんて……! 究極の家族の形じゃないですかぁぁ!!」

「いやリリス、アンタ完全に騙されてるわよ! アレただ農家がメロンに脳を焼かれてるだけだから!! ……っく、でもズルい! BGMの入り方が完璧すぎて、どうしても涙が止まらないのよぉぉぉ!!」

 ルチアナはビールの空き缶の山に突っ伏し、カグヤに至っては感動のあまり白目を剥いて昇天(物理的に数メートル浮遊)していた。

 だが、この『メロン不倫動画』が引き起こした最大の影響は、そんな神々のローカルな騒ぎには留まらなかった。

 ◇ ◇ ◇

 次元の彼方、アウター・ヘブンの最深部。

 全宇宙の事象を統括する第1種宇宙創造神格公務員・ユニーバの執務室。

「うわぁぁぁぁぁん!! 恵さぁぁん!! 愛蔵さぁぁぁん!!」

 最高神ユニーバは、デスクに突っ伏し、神格クラスの大号泣をかましていた。

 彼女の目から溢れ出る涙は、ただの水分ではない。それは『宇宙を創造する源泉オリジン・エネルギー』そのものである。

 その光り輝く涙が、デスクの上に置かれていた『マイタンブラー』にポタポタと落ち――。

「あっ……!」

 ガタンッ!

 感動のあまり激しくデスクを叩いた反動で、タンブラーが倒れた。

 中に入っていた、超高濃度の砂糖とハチミツが致死量ブレンドされた『激甘アップルティー』が、こぼれ落ちる。

 そして、ユニーバの『創造の涙』と『激甘アップルティー』が混ざり合った瞬間。

 凄まじい化学反応ビッグバンが起きた。

 ピシャアァァァァァァァァァァッ!!!

 執務室の空間が歪み、そのエネルギーは次元を突き破って、アナステシア宇宙の片隅、名もなき暗黒空間へと転送された。

 数億光年の空間を巻き込み、極上の甘い香りを放つ緑色のガスと、黄金色の網目模様の塵が渦を巻く。

『――システムログ:第1種宇宙、セクターA-74に新たな星雲が誕生しました。命名【メロン星雲】』

 機械的なAIのアナウンスが響く。

 名もなき農家の、くだらないメロンNTR劇。

 それが、あろうことか全宇宙の最高神の心を揺さぶり、宇宙の地図に新たな星雲を書き加えてしまったのだ。

 後世の天文学者たちは、この甘い匂いを放つ謎の星雲の誕生理由を知る由もなく、永遠に頭を抱えることになるのだが、それはまた別のお話である。

「うぅ……っ。星雲の一個や二個、どうでもいいわ……! 明日からの仕事も全部休んで、来年の泥沼農園の収穫を見守るわよ……ッ!」

 宇宙の仕事(膨張計算や重力調整)は、完全にストップした。

 ユニーバの頭の中は、すっかり「泥沼農園の来年のスケジュール」で埋め尽くされていたのである。

 ◇ ◇ ◇

 そして、翌朝。

 ポポロ村は、異様なほどの熱気と感動に包まれていた。

 昨晩の配信を見ていた村人たちは、目を真っ赤に腫らしながら広場に集まっていた。

「あぁ……泥沼のオッサン、すげぇ愛だったな……」

「奥さんも凄かったわ。あんなにドロドロになりながら、全てを受け入れるなんて……」

 誰もが、二人の狂気を「究極の純愛」として美化し、謎の感動に酔いしれていた。

 ただ一人。

 この全宇宙を巻き込んだ感動の空気を、根底から粉砕する男を除いては。

「…………」

 ポポロ屋の厨房の裏手。

 元・最強の暗殺者にして、狂気の料理人・リアンは、愛用の『銀の包丁』をシャコッ、シャコッと砥石で研いでいた。

 彼の瞳には、感動の涙など一滴も浮かんでいない。

 あるのはただ、料理人としての『絶対的な執念』だけであった。

「……リアンさん? どうしたんですか、そんな真顔で」

 起きてきた極貧地下アイドルのリーザが、首を傾げる。

「……フッ」

 リアンは包丁を天に掲げ、ギラリと刃を光らせた。

「自分が手塩にかけて育てた食材メロンを、骨の髄まで愛し、涙を流して完食し……そして来年への命(種)を繋ぐ……。まさに『農家の鏡』じゃねぇか」

「えっ? いや、リアンさん、あれはそういう感動ドキュメンタリーじゃなくて……」

「よし!! 決めたぜ。あの泥沼夫妻が食い残したメロンの『皮』と、余分な『種』。俺がポポロ村の最強グルメとして、美味いメロン料理に昇華してやる!!」

 リアンの脳内では、昨晩の不倫劇は「農家が自分の育てたメロンのあまりの美味さに号泣しながら食った感動のグルメ番組」として完全に誤変換されていたのである。

 かくして、世界中が感動に包まれる中、空気を読まない暗殺料理人が泥沼農園へとカチコミをかける準備を整えていた。

お読みいただきありがとうございます!


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