EP 6
「涙のフルコース。号泣の咀嚼音(狂気の捕食)」
第4温室と、第7温室。
薄暗いビニールハウスの中に、銀色の包丁とスプーンが鈍く光る。
「……食べるよ、メロ美。お前のすべてを、俺の中に刻み込むからな」
「……ええ、メロ彦。貴方の愛、一滴残らず私が受け止めるわ」
震える手で刃物を構える泥沼夫妻。
その切っ先が、それぞれの愛する果実の表面に触れようとした、その瞬間だった。
「ありがと、、う、、愛蔵さん、、産まれてきて、、良かった、、私を美味しく食べてね? 種は、、きちんと保管してね?、、」
メロ美の黄金色の網目模様が、ふわりと温かい光を放った。
そして。
「…………ガクッ!」
メロ美を支えていた蔓が力なく脱力し、彼女は愛蔵の腕の中で静かに「息を引き取った(完熟した)」。
一方、メロ彦もまた。
「じゃあな、恵。お前との時間、悪く無かったぜ。身体に気をつけろよな? 1年後にまたあおうぜ、、」
「…………ガクッ!」
誇り高き王冠のヘタがわずかに傾き、イケボを響かせていた彼もまた、沈黙(完熟)したのである。
「あぁ! あぁ! メロ美いいぃぃぃぃぃッ!!」
「逝かないでえええ! メロ彦おおぉぉぉぉぉッ!!」
二つの温室から、伴侶を失った(※配偶者は母屋で生米をかじっている)農家たちの絶叫が轟いた。
愛蔵はメロ美の亡骸(果実)を抱きしめ、恵はメロ彦の亡骸(果実)に頬をすり寄せ、子どものように声を上げて泣きじゃくった。
しかし、哀しみに暮れている時間はない。
彼らはメロロンの「一番美味しい瞬間」を逃してはならないという、農家としての究極の使命と、愛人としての最後の誓いを果たすため、ついに刃を入れた。
ザクッ……!!
刃が入った瞬間、溢れ出したのは、エメラルドグリーンと黄金が混ざり合ったような、目も眩むほど美しい極上の果汁だった。
むせ返るような芳醇な甘い香りが、視界を霞ませるほどに噴き上がる。
「うぅ……ッ! メロ美……いただきます……ッ!」
愛蔵は、大きく切り分けた果肉を、震える手で口へと運んだ。
「――ッ!?」
カッと、愛蔵の目が見開かれた。
美味い。美味すぎる。
舌の上に触れた瞬間、果肉がジュワァァァッと液体のように溶け出し、脳髄を直接殴りつけるような圧倒的な甘みと旨味が全身の細胞を駆け巡る。ルナキン(ファミレス)の最高級デザートすら泥水に感じられるほどの、正真正銘、神々の果実の味。
「うおおおおッ! あまいっ! お前、なんて甘いんだメロ美ぃぃぃ!」
ジュルルルルッ!! グチャッ! ムシャァァァッ!!
もはや上品にフォークで食べるなどという理性は吹き飛んでいた。
愛蔵はメロ美の果肉に直接顔を突っ込み、獣のように貪り食い始めた。鼻水と涙、そして黄金色の果汁で顔面をドロドロにしながら、号泣と咀嚼を同時に行う。
「うぐっ……ひっぐ……! うめぇ! メロ美、うめぇよぉぉ! 俺の中で、永遠に生きてくれぇぇぇ!!」
一方の恵もまた、完全に理性を失っていた。
スプーンなど放り捨て、両手でメロ彦の果肉を掴み、狂ったようにしゃぶりついている。
「ああああっ! メロ彦おおぉぉ! 貴方の愛(果汁)、すっごく濃いわ! 私の身体の奥底まで染み込んでくるぅぅぅ! はぁっ……はぁっ……もっと、私をもっと満たしてぇぇぇ!!」
ジュパァァァッ!! ズズズズズズッ!!
もはや食事の枠を完全に超えた、狂気とエロスが入り交じる異常な捕食(愛の)シーン。
その映像が、ゴッドチューブを通じて全宇宙のモニターに高画質・高音質(ASMR仕様)で流され続けていたのである。
◇ ◇ ◇
【天界・ゴッドチューブ特別配信枠】
『(コメント欄)絵面がヤバすぎるwwww』
『(コメント欄)なんで俺、メロン食うおっさん見て泣いてんだよ!!(号泣)』
『(コメント欄)食い方が完全にゾンビ映画のソレなんだがwww』
『(コメント欄)恵さんの喘ぎ声(咀嚼音)エグいエグい! BANされるぞ!!』
『(コメント欄)涙と果汁で顔面ぐちゃぐちゃじゃねーかwww 誰かティッシュ持ってきてやれwww』
コメント欄は、爆笑、号泣、そしてドン引きがないまぜになったパニック状態へと陥っていた。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!! だ、ダメですぅぅぅ!! 食べてるだけなのに、なんか凄くイケナイものを見てる気がしますぅぅ!!」
ルチアナのコタツ部屋では、見習い女神のリリスが顔を真っ赤にして床を転げ回っていた。
ルチアナとカグヤも、スルメをかじる手を止め、モニターに釘付けになっている。
「いや、でも……美味そうねアレ。私も一口食べたいわ……」
「ダメよルチアナ。あれは『愛』よ。他人が横から手を出していい領域を完全に超えているわ」
そして。
アウター・ヘブンでは。
「メロ美ちゃぁぁぁぁぁん!! メロ彦くぅぅぅぅん!! 永遠の愛バンザァァァァァイ!!」
宇宙創造神ユニーバが、感動のあまりにスタンディングオベーションを巻き起こし、その衝撃で第3並行宇宙の重力定数がほんの少しだけ狂ったが、やはり誰も気にしていなかった。
愛蔵と恵。
二人の男女は、伴侶への裏切りという名の『最高級メロン』を、皮のギリギリまで、一滴の果汁すら残さずに完食した。
そして彼らの手元には、ぬるりとした『無数の種』だけが、未来への希望(狂気)として残されたのである。
お読みいただきありがとうございます!
評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。




