EP 3
「天界ゴッドチューブ、最悪の生配信スタート(神々の実況プレイ)」
ボリッ……ボリボリッ……。
泥沼夫妻が真顔で『生米』を噛み砕く、シュールにして狂気に満ちた咀嚼音。
その映像は、あろうことか天界のメインサーバーをハッキングし、『ゴッドチューブ』の特設チャンネルで全世界へ向けて高画質生配信されていた。
◇ ◇ ◇
「…………ねぇ、カグヤ。私、もう酔っ払っちゃったのかしら。画面の中のおじさんとおばさんが、生米と水道水でディナーしてるんだけど」
「ルチアナ、貴女はシラフでも年中酔ってるようなものよ。でも安心して、私の目にも全く同じ狂気の映像が映っているわ」
天界の片隅にある、ルチアナの散らかったコタツ部屋。
堕落女神ルチアナは片手に缶ビールとスルメを持ち、月の女神カグヤはコタツでみかんを剥きながら、空中に投影された巨大モニターを呆然と見上げていた。
「あの二人、ポポロ村でも有名な凄腕農家の泥沼夫妻よね? なんでこんな世紀末みたいな食卓になってるのよ……」
「原因はアレよ。画面のワイプ(小窓)を見てみなさい」
カグヤがみかんの皮で指し示した画面の隅には、別カメラで捉えられた第4温室の『メロ美』と、第7温室の『メロ彦』が、ぽよんぽよんと卑猥に揺れながら甘い果汁を滴らせている姿が映し出されていた。
「げっ!? S級指定魔界植物のメロロンじゃない! しかも雄と雌のダブル!? これ、完全に『段階2(疑似キャバクラ期)』まで育ち切ってるわよ!」
「ええ。お互いにメロンの果汁で腹を満たして、メロンの甘言で心を満たしているから、現実の配偶者なんてどうでもよくなってるのよ。まさに究極のネグレクトね」
「ひゃああああっ!? だ、ダメですぅぅ! 不純ですぅぅ!!」
二人の背後で、悲鳴を上げる声があった。
初心者マークの刺繍が入ったピンク色の芋ジャージに、健康サンダルという『女神の正装(嘘)』を身にまとった見習い女神・リリスである。
「の、農家さんが農作物に寝取られるなんて、見習いの私には刺激が強すぎますぅぅ!!」
リリスは真っ赤になった顔を両手で覆い隠していた。
……が、その指の隙間はガッツリと開いており、持ち前の好奇心で画面をガン見しながら、ジャージのポケットから取り出した『みたらし団子』をモチャモチャと咀嚼していた。
「リリス、指の隙間からガン見してるわよ。団子のタレがジャージについてるし」
「ふぇっ!? ち、違います! これは神格公務員としての生態調査の一環でして……! 決して昼ドラ的なドロドロ展開が気になっているわけではっ……!」
そんな天界のニート神と見習い女神がワチャワチャしている間にも、ゴッドチューブの配信画面には、全宇宙から殺到した視聴者たちのコメントが、滝のような勢いでスクロールし始めていた。
『(コメント欄)泥沼夫妻 メロンに寝取られるwww』
『(コメント欄)あのメロン人生クラッシャーすぎんだろwww』
『(コメント欄)旦那はキャバクラ、妻はホストに通ってる状態かよw 泥沼すぎるwww』
『(コメント欄)てか、食事中の空気冷え切りすぎて草。会話ゼロじゃねぇかw』
『(コメント欄)お互いメロンに夢中で、完全に仮面夫婦になってんぞwww』
その時、コメント欄に一筋の天才的な書き込みが投下された。
『(コメント欄)仮面夫婦ってなんだよ!? マスクメロン? 誰が旨い事言えとwww』
――ピタッ。
ルチアナとカグヤの動きが止まった。
「「…………ブフッ!!」」
次の瞬間、二人の女神はコタツに突っ伏して大爆笑を始めた。
「ギャハハハハ!! マスクメロン!! ちょっと、今のコメントした奴に座布団……いや、天界ポイント1万点あげなさいよ!!」
「くふっ……ふふふっ! ダメ、ツボに入ったわ……! 泥沼夫婦がメロンでマスク夫婦(仮面夫婦)って……人間って本当に業が深くて面白いわね……ッ!」
『(コメント欄)マスクメロンwwwww』
『(コメント欄)座布団一枚www』
『(コメント欄)天才現るwww』
『(コメント欄)誰が旨いこと言えとwwww 腹痛いwwww』
ゴッドチューブのコメント欄は、この歴史的ダジャレの投下によって完全に『大草原(www)』へと変貌。
かつて炎上神ワイズが仕掛けた悲劇のプロデュースなど足元にも及ばないほどの、爆発的なトラフィック(PV)を叩き出し始めたのだ。
「あわわわ……! す、すごい勢いでPVが伸びてますぅ! 私のエンジェルすまーとふぉんの処理が追いつきません!」
リリスが自前の分厚いハードケース付きスマホ(月額2万円)の画面を見ながら、アワアワと健康サンダルを踏み鳴らす。
「ルチアナ先輩! この配信、天界のローカル枠を超えて、第1種宇宙(始源宇宙)のメインストリームにまで拡散されてますよ! このままだと……ッ!」
「え? 始源宇宙に拡散? ってことは……」
ルチアナがビールの缶を置き、顔面を蒼白にさせた。
その映像が『そこ』に届くということは、つまり――。
「マズいわ……! 全宇宙で一番忙しいあの『ガチの仕事中毒の最高神』の目にも、このクソくだらないメロン不倫動画が留まってしまうってことじゃない!!」
時を同じくして。
次元の遥か彼方、全宇宙の事象を統括する『アウター・ヘブン』の最深部にて。
激務の果てに「猫動画」で癒やしを得ようとしていた第1種宇宙創造神格公務員・ユニーバの目に、この『泥沼のマスクメロン動画』が飛び込もうとしていた。
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