EP 10
「労働の対価と新たな日常。そして、世界を巻き込む『おでん戦争』へ」
♪タララランラン、タラララ〜ン……。
翌朝。ポポロ村の広場にあるコンビニ『タローソン・ポポロ支店』から、のどかな入店音が響き渡っていた。
「ふふふっ……! これください! あと、レジ横の『からあげタロー(レッド味)』も!」
「毎度あり! しめて銀貨1枚と銅貨5枚になりまーす」
ピンク色の芋ジャージを着たリーザが、レジ袋を大事そうに抱えながら店から出てきた。
昨晩の『世界的大バズり』と『100兆円規模の経済的制裁』という歴史的偉業を成し遂げた彼女の手元に残ったのは、ニャングルから渡された「銀貨2枚」。
普通ならストライキを起こすレベルのブラック搾取である。
だが、生粋の極貧サバイバリストである彼女の脳内は、ただただ「今日はパンの耳じゃなくて、コンビニ弁当とからあげが食べられる!」という小市民的な幸福感で満たされていた。
「はぁ〜、揚げ物の匂い……最高ですの。やっぱり、アイドルは地道な労働に限りますわね!」
ホクホク顔でポポロ屋の裏手(自宅兼まかない場所)へと歩いていくリーザ。
すると、昨日は勇者ゼロスの暴走によって無残に掘り返されていた『月見大根』と『太陽芋』の畑が、一晩にして完璧に整備されているのが見えた。
「――フゥーッ!! リーザ様、おはようございますッ!! 本日も推し事(農作業)、全力でやらせていただきますッ!!」
畑のど真ん中。
漆黒のローブ……ではなく、タローマン製の丈夫なオーバーオールを着込み、首に『Love & Money』の公式マフラータオルを巻いた大柄な男が、クワを片手に直立不動で敬礼してきた。
元・魔王軍の幹部にして、現在はリーザの『会員番号ゼロ番(TO:トップオタ)』を自称するミラースである。
「あ、ミラースさん。おはよう。畑、すっかり綺麗になったね」
「ハッ! 我が深淵の闇魔法を応用し、土中の害虫を分子レベルで消滅させつつ、適度な魔力を土壌にブレンドしておきました! これで次期作のネタキャベツは、通常の三倍の甘みとゴシップ(ネタ)を蓄えるはずですッ!」
かつて世界を絶望に陥れようとした暗黒魔法は、今や『ポポロ村の無農薬オーガニック農法(最高効率)』として完全に最適化されていた。
彼がクワを振るうたびに「L・O・V・E! リーザ様!!」という野太いコールが響き渡る。平和(?)な日常の光景だ。
しかし。
そんなのどかな村の風景とは裏腹に、村長宅の地下ラボでは、ポポロ村の首脳陣たちが頭を抱えていた。
「……なぁ、ニャングル。これ、どうすんのよ」
麦わら帽子を机に投げ出し、月兎族の村長・キャルルが疲労困憊の表情で指差した先。
そこには、三カ国の王家や軍のトップから届いた『親書(分厚い封筒)』が、山のように積まれていた。
「ルナミス帝国からは『我が国の公式エンターテイナーとしてリーザ嬢を迎え入れたい』。アバロン魔皇国の魔王ラスティアからは『ポポロおでんの独占輸入契約と、アイドルのサインを寄越せ』。おまけに天界の天使長からは『緑の青汁から我々を救済してくれ(切実)』やと……」
ニャングルが煙管をカンカンと叩きながら、呆れたように親書を読み上げる。
昨晩、ワイズが仕掛けた生配信の同接数は、最終的に『10億』を突破した。
リーザの「奇跡のバフ歌唱」と、リアンの「ポポロおでんの圧倒的飯テロ」は、アナステシア世界における【最強の戦略兵器(アイドル&食糧)】として、各国のトップに完全に認識されてしまったのだ。
「まぁ、世界中が『おでん』と『アイドル』の奪い合いを始めるっちゅうこっちゃ。……ポポロ村のブランド価値が跳ね上がったのはええけど、こりゃあ、下手な戦争よりタチの悪い『政治的包囲網(ファンレターの嵐)』になりそうでっせ」
ニャングルの言葉に、キャルルが「もう嫌ぁぁ……アタシはただ、静かにサウナに入って畑仕事したいだけなのにぃぃ……」と長い耳をぺたんと垂れ下げて机に突っ伏した。
バンッ!!
その時、地下ラボの扉が開き、仕込みを終えたリアンが入ってきた。
「……チッ。どこの国の王様だろうが、魔王だろうが関係ねぇ」
元・最強の暗殺者は、腰に巻いたエプロンの紐をギュッと結び直しながら、絶対零度の殺気を漂わせた。
「ここはポポロ村だ。どんなお偉いさんだろうが、ウチの店(ポポロ屋)でメシを食いたきゃ、行列に並んで金貨を払えってんだ。……キャルル、ニャングル。お前らも腹括れ。今日の『ランチ営業』は、マジの戦場になるぞ」
リアンの言葉通り。
ポポロ村の入り口へと続く街道には、すでにルナミス軍の装甲車、獣人王国の騎兵隊、そしてアバロンの魔族たちが、我先にと「おでん」と「生ライブ」を求めて長蛇の列を作り始めていた。
◇ ◇ ◇
「ふんふふ〜ん♪ からあげ美味しい〜♪」
そんな村の危機的(?)状況などつゆ知らず。
リーザは店の勝手口の階段に座り、タローソンのからあげを口いっぱいに頬張っていた。
「……あれ? なんか村の入り口、すごい人だかりですの」
遠くに見える、各国の軍旗と物凄い数の人々。
だが、極貧地下アイドルである彼女の思考回路は、常に斜め上(欲望の方向)へと直結している。
「あんなに人がいっぱい来るってことは……もしかして、差し入れ(タダ飯)もいっぱい貰えちゃうってこと!? やったぁぁ! アイドルやってて良かったですわぁぁ!!」
両手を挙げて万歳するリーザの背後で。
「オイ! リーザ! 油売ってねぇで早くエプロン着ろ! 客が押し寄せてきやがるぞ!!」というリアンの怒声が響いた。
「はーい! 今行きますぅぅ!!」
炎上神の悪意すらも飲み込み、己の食欲と強欲で世界を救ってしまったポンコツアイドル。
彼女の「タダ飯」を求める戦いは、世界中の国家を巻き込む前代未聞の『おでん戦争(第四章)』へと、そのスケールを無限大に広げていくのであった。




