EP 7
「経済的処刑! 財務長ニャングルの暗躍とマグローザ漁船」
「物理のお仕置きの後は……キッチリ『経済のお仕置き』もさせてもらわんとなァ?」
壁に突き刺さって白目を剥いている勇者ゼロスを見下ろし、ポポロ村の財務担当・猫耳族のニャングルがニタリと笑った。
彼は懐から愛用の算盤を取り出すと、上空で旋回しているワイズの魔導カメラドローンに向かって、煙管の煙をふぅっと吹きかけた。
「聞こえとるか? 天界でふんぞり返っとる自称・敏腕プロデューサーの兄ちゃん。ワイはニャングル。このポポロ村の金庫番や」
天界のオフィス。
モニター越しにニャングルの底知れぬ『神眼』に見透かされ、炎上神ワイズはビクッと肩を震わせた。
「な、なんだこの猫耳は……。モブのくせに、俺の存在に気付いているだと……?」
『兄ちゃん、さっき勇者の坊ちゃんに【限界突破】の課金ステータスを付与したよなァ? あんたのエンジェルすまーとふぉん、本来の限度額は「100万円」のはずやのに、なんで「無限」に金が引き出せたと思っとるんや?』
「っ!? そ、それは俺が天界のシステムをハッキングして……」
『アホ抜かせ。そんなガバガバなセキュリティ、ルナミス帝国の内務官が許すわけないやろ』
ニャングルは算盤をチャキッ!と弾き、ドローンに向かって残酷な事実を突きつけた。
『あんたがドヤ顔で使っとった「裏ルート」。あれ、ワイが意図的に開けといた【ニャングル・ファイナンス】っていう、ポポロ村経由の超高金利の闇金ルートやで?』
「…………は?」
ワイズの血の気が、一瞬にして引いた。
先ほど、彼が怒りに任せて連打したスマホのポップアップ(警告画面)。
『正規ルートを逸脱しています。ニャングル・ファイナンスへ接続しますか?(※年利・複利計算で宇宙規模の借金になりますが同意しますか?)』という文字を、彼はロクに読みもせずに「YES」を押してしまっていたのだ。
『『ヴェニスの商人』って知っとるか? 結んだ契約は絶対や。……さぁて、ツケの回収といこか』
ニャングルはパチパチパチッ!と、目にも留まらぬ速さで算盤を弾き始めた。
「まずは、アタシたちの畑(ネタキャベツと月見大根)を荒らした器物損壊と営業妨害やな!」
「ついでに、うちの看板娘の貴重なタダ飯(雑草)を踏み潰した精神的苦痛への慰謝料も乗せとけ」
キャルルとリアンが横から容赦なく追加請求を入れる。
「せやな。それに、ポポロ村での無許可撮影ロケ地代。極めつけは、あんたらが引き出したステータス課金の『元本』と『超高金利の手数料』……全部ひっくるめて……」
ニャングルは算盤をピタリと止め、カメラに向かって極悪非道な笑顔を向けた。
「しめて、金貨100億枚(約100兆円)や。……一括払いで頼むで?」
「ひゃ、100兆……!? ふ、ふざけるなァ! そんな金、払えるわけ……!!」
『払えん? ほな、差し押さえや。……【経済封鎖】!!』
ニャングルが指を鳴らした瞬間。
壁に突き刺さっていたゼロスの体から、限界突破していた黄金のオーラ(課金ステータス)が、文字通り「チャリンッ」という音と共にコインの形に変換され、ニャングルの算盤の中へ吸い込まれていった。
「あ……あれ? 俺の、俺の神ステータスが……」
目を覚ましたゼロスは、自分の肉体から力がスッポリと抜け落ち、ただの「軟弱な青年」に戻ってしまったことに気づき、顔面を蒼白にさせた。
「や、やめろ! 俺から力と金を奪わないでくれぇぇ!!」
「アホ。足りんわ。ステータス全部売り払っても、まだ金貨99億9000万枚ほど足りてへんぞ。……おっ、お迎えが来たみたいやな」
ゴゴゴゴゴゴッ……!!
突然、ポポロ村の広場の上空が歪み、空間がパカッと割れた。
そこから現れたのは、真っ黒なスーツを着た、サングラス姿のレスラー体型の男たち(※エンジェルすまーとふぉんの負債回収係)であった。
「な、なんだお前ら!? 俺に触るな! 俺は勇者ゼロスだぞ!!」
「ワイズ様の名義と、貴様の肉体を担保にした借金の取り立てだ。……身柄、もらっていくぞ」
黒服のレスラーたちは、抵抗するゼロスの両脇をガシッと掴み、まるで羽虫でも扱うかのように軽々と持ち上げた。
「は、離せ! どこへ連れて行く気だ!?」
「シーラン国の沖合で操業している『マグローザ漁船(蟹工船)』だ。船内通貨『K(ケツフキのK)』を使って、一生チンチロリンをしながら借金を返してもらう」
「マ、マグローザ!? 嫌だ! あんな地獄、絶対嫌だぁぁぁ! ワイズ! 助けてくれワイズゥゥゥゥッ!!」
ズルズルズルッ……!!
絶叫しながら、ゼロスは黒服たちに引きずられ、時空の裂け目(マグローザ漁船行き直行便)へと無惨に吸い込まれていった。
『(コメント欄)あ……勇者(笑)がドナドナされていった……』
『(コメント欄)マグローザ漁船とか終わったなww 一生帰ってこれないじゃんww』
『(コメント欄)借金100兆円の勇者ww ザマァすぎるwww』
『(コメント欄)ポポロ村、物理もヤバいけど経済(金融)が一番エグい件』
ゴッドチューブの視聴者たちは、かつてないほどの完璧な「社会的・経済的ざまぁ」に熱狂し、配信のPVは瞬く間に5億を突破していた。
「あ……ああ……。俺の、俺の勇者が……俺の最強のコンテンツが……」
天界のオフィスで、ワイズは絶望に打ちひしがれ、膝から崩れ落ちていた。
だが、彼の地獄はこれで終わりではなかった。
『……おや? あんた、自分のことは「安全圏」やと思っとるんか?』
ドローンのスピーカーから、ニャングルの冷酷な声が響く。
「な、なに……?」
『あの闇金システム、あんたの「エンジェルすまーとふぉん」を完全に経由しとるんやで? 勇者の坊ちゃんがマグローザ漁船で一生働いても返せんかった残りの負債……あんたにも連帯保証人として『責任』被ってもらわんとアカンなぁ?』
「ひっ!?」
ワイズが手元のブラックカード仕様スマホを見ると、画面には【残債:金貨99億9000万枚】という真っ赤な文字が点滅していた。
「ふ、ふざけるな! 俺は関係ない! 村を襲ったのはミラースで、暴れたのはゼロスだ! 俺はただスマホで指示を出していただけで……!!」
ワイズが責任逃れの言い訳を叫ぼうとした、その瞬間である。
彼のオフィスの窓の外――天界の空が、突如として『黄金色』に染まり上がった。
『――第1法:生命尊厳に対する罪。および、悪意ある戦争・虐殺の扇動。……証拠ログ、完全捕捉完了』
機械的で、しかし絶対的な神の威厳を持った声が、天界に響き渡る。
ワイズの顔から、ついにすべての表情が抜け落ちた。
「あ……嘘だろ……。俺は、自分で手は下していないのに……」
ワイズの『自己責任の抜け道』は、ニャングル・ファイナンスの電子ログによって完全に暴かれ、調停者の超AIに直結されてしまっていたのである。
ポポロ村の空と、天界の空。
その両方に、裁きの時を告げる『黄金の獅子』の幻影が、静かに、そして恐ろしく浮かび上がっていた。




