EP 5
「ワイズの焦燥と、限界突破の『マネー(重課金暴走)』」
「あああああっ!! クソッ! クソッ! クソォォォ!! なんでネフィリムがペンライト(妖刀)振ってオタ芸打ってんだよ!!」
天界の無機質なオフィス。
炎上神ワイズは、飲んでいた『天使の微糖フラペチーノ』を床に叩きつけ、高級なガラスデスクを何度も台パンしていた。
モニターに映るゴッドチューブの生配信は、完全に彼のコントロールを離れていた。
恐るべき魔王軍の幹部・ミラースは、完全に浄化(洗脳)されて「リーザ様ァァ!」と泣き叫ぶ熱狂的ファンと化し、主役であるはずの勇者ゼロスは、アキレス腱を切って泥だらけで転がっている。
『(コメント欄)なんだこの神回ww』
『(コメント欄)リーザちゃんの強欲オーラ最高! もっと搾取して!』
『(コメント欄)ネフィリムのおっさん、コール完璧で草』
「俺の、俺の完璧な『虐殺からの英雄救済シナリオ』が……! ぽっと出の地下アイドルの『ゲリラライブ』に完全に喰われてるじゃねぇか……ッ!」
ワイズはギリッと歯を食いしばり、漆黒のブラックカード仕様・エンジェルすまーとふぉんを引ったくった。
こうなれば、もはや「悲劇の英雄」というスマートな台本はどうでもいい。
このポポロ村を物理的に更地にし、あの忌々しい人魚の娘を黙らせて、「大災害」としてのPVを強奪するしかない!
「ゼロス! いつまで寝転がってやがる! 貴様は俺の最高傑作の『駒』だろうが!」
ワイズはスマホの【課金】の画面を開き、金額入力欄に『限界突破』の数字を打ち込み始めた。
『ピピッ……警告。正規の予算ルートを逸脱しています。現在、ポポロ村経由の【ニャングル・ファイナンス(※超高金利の闇金ルート)】へ接続されています。実行しますか?』
スマホの画面に謎のポップアップ(警告)が表示されたが、完全に頭に血が上っているワイズは、そんな細かい規約など読まずに「承諾(YES)」を連打した。
「うるせぇ! 俺の予算は無限だ! ゼロスにありったけのステータス(金)をブチ込んで、あの村ごとアイドルを消し飛ばせ!!」
ターンッ!!
ワイズがエンターキーを叩いた瞬間。
◇ ◇ ◇
ポポロ村、広場。
泥だらけになって「痛いよぉ……」と泣いていた勇者ゼロスの体が、突如としてビクゥッ!と跳ね上がった。
『スキル【マネー】――強制・限界突破』
チャリンチャリンチャリンチャリンチャリィィィンッ!!!!
ゼロスの懐にある端末から、狂ったようなレジの決済音が鳴り響く。
同時に、彼の全身から『黄金の闘気(札束のオーラ)』が天を突くほどの勢いで噴き上がった。
「……あ、アァァァッ!!」
ゼロスの瞳からハイライトが消え、白目を剥いて立ち上がった。
切れたはずのアキレス腱は治っていない。だが、「筋力SSSSS」というバグったステータスの数字そのものが、物理法則を無視して彼の肉体を強制的に操り人形のように持ち上げていたのだ。
「な、なんだアレは!? 勇者のお兄さんが、金ピカに光り出したぞ!?」
「あかん! リーザ嬢ちゃん、下がれ! アレは理性をぶっ飛ばして『数字の暴力』だけで動く、課金暴走モードや!」
ニャングルが咄嗟にリーザをかばって後退する。
ゼロスは涎を垂らしながら、地面に落ちていたオリハルコンソードを拾い上げた。
その顔は、もはや爽やかな勇者のものではない。圧倒的なステータスの快感に脳を焼かれた、ただの化け物だった。
「アハッ……アハハハハッ!! 痛くない! 痛くないぞ! 俺のステータスは99999だ!! 俺が最強だァァァァッ!!」
ブォンッ!!
ゼロスがデタラメに剣を振り回した。
ただそれだけで、オリハルコンソードから放たれた黄金の斬撃波が、台風のような突風となってポポロ村の広場を薙ぎ払った。
「きゃあぁぁぁっ!?」
「リーザ様ァァッ! 危ない!」
ミラース(元・魔王軍幹部、現・限界オタク)が、リーザの盾となって斬撃波を妖刀で防ぐ。
だが、その余波はポポロ村が誇る豊かな農地へと直撃した。
ドガァァァァァァンッ!!!
「(隊長が昨日、キャバクラで……ギャァァァ!!)」
「(オイラのズラがぁぁぁ!!)」
収穫間近だった『ネタキャベツ』や『ダイズラ豆』たちが悲鳴を上げながら宙を舞い、畑がめちゃくちゃに掘り返されていく。
「あはははは! 雑魚どもめ! 俺の課金パワーの前にひれ伏せぇぇぇ!!」
ゼロスは狂ったように笑いながら、さらに剣を振り上げ、畑を片っ端から蹂躙していく。
ゴッドチューブの配信画面では、その圧倒的な破壊力に再びコメント欄が騒然となっていた。
天界のワイズも「そうだ! そのままやっちまえ!」と狂喜乱舞している。
だが――。
ポポロ村においては、『畑を荒らす』ということは、神を怒らせるよりも恐ろしい大罪であった。
「……おい」
瓦礫と土煙が舞う中。
信じられないほどドス黒く、絶対零度の殺気を放つ声が、広場に響いた。
「てめぇ……今、踏み潰したのは……」
暗殺包丁を持った料理人・リアンが、ピキピキと青筋を立ててゼロスを睨みつけていた。
その隣には、タローマン製の特注安全靴の踵を『カンッ、カンッ』と鳴らしながら、完全に瞳孔の開いた月兎族の村長・キャルルが立っている。
「アタシが丹精込めて育てた『月見大根』と『太陽芋』の畑……」
「今日のまかないの『ポポロ煮込みおでん』に使うはずだった、極上の具材たちだぞ……」
二人から放たれる殺気は、限界突破したゼロスの黄金オーラすらも凍りつかせるほどだった。
ポポロ村の絶対的ルール。
『メシの恨みは、命で払え』。
「あ? なんだお前ら。モブの分際で、ステータスMAXの俺様に勝てるとでも……」
ゼロスが嘲笑おうとした、その瞬間。
「『月影流・地ずり鐘打ち』――行くわよリアンさん!!」
「……お前の命ごと、三枚におろしてやる」
激怒したマッハ1のウサギと、元・最強の暗殺者のコンビが、最強の課金勇者に『物理と技術の圧倒的な暴力』を叩き込むべく、地を蹴った。




