EP 4
「強欲アイドルの乱入と、ネフィリムの陥落(ガチ恋)」
「あ……。アタシの、明日の朝ごはん(オーガニックな雑草)が……」
ポポロ屋の裏手で、極貧地下アイドル・リーザの時が止まっていた。
プランターの中で無惨に踏み潰された、名もなき雑草たち。それは、パンの耳だけでは不足しがちなビタミンを補うため、彼女が毎朝ラジオ体操の帰りに水をやり、手塩にかけて育てていた『命の綱(タダ飯)』であった。
「……っだぁぁ、マジ最悪! なんだよこの泥と草! 俺のミスリルマントが汚れちまったじゃねぇか! あー痛ぇ、早く治癒魔法かけろよ無能ども!」
アキレス腱を切ってのたうち回る勇者ゼロスが、苛立ち紛れに雑草をさらにグシャッと踏みにじった。
その瞬間。
リーザの中で、何かが完全に『プツン』と切れた。
「…………弁償しろ」
「あ?」
「アタシのタダ飯を……土足で踏みにじった罪の代償を、キッチリ払ってもらうわよォォォォッ!!」
リーザはピンク色の芋ジャージを翻し、ポポロ屋の裏に置いてあった『みかん箱(※彼女の専用ステージ)』を広場のど真ん中にドカン!と設置し、その上に飛び乗った。
「ニャングルさん! 音響お願い!!」
「へへっ、待ってましたで嬢ちゃん! ゴッドチューブで全世界生配信中や! 稼ぎ時やでぇぇ!!」
ポポロ村の財務担当ニャングルが、魔導スピーカーのツマミを限界までひねり上げる。
ズンッ! ズンッ! と腹の底に響く重低音と共に、あの神曲『Love & Money』のイントロが、戦場(ポポロ村広場)に爆音で鳴り響いた。
「な、なんだ!? 突然音楽が……!?」
完全に置いてけぼりを食らっていた魔王軍のネフィリム・ミラースが、ビクッと肩を揺らす。
みかん箱の上に立つリーザは、健康サンダルでリズムを刻みながら、バキバキに血走った目でゼロスとミラースを睨みつけ、マイク(※ただの大根)を握りしめて歌い始めた。
♪『今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)』
♪『全て上手くいくわ (絶対!)』
♪『愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)』
ブワァァァァァァッ……!!!
リーザの口から放たれたのは、ただの歌声ではなかった。
海神の血を引く人魚姫としての『極大バフ(奇跡)』と、失われた朝ごはん(雑草)に対する『底なしの強欲』が完全に融合した、目に見えるほどのピンク色のオーラ。
♪『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)』
♪『貴方の愛で生きていける (Fuuu~!)』
「ぐっ……!? な、なんだこの光は……! 攻撃魔法か!? いや、違う……これは……!!」
リーザの放つ強欲のオーラをモロに浴びたミラースは、妖刀・哭刀を構えて防御しようとしたが、その光は彼の心の奥底――「ネフィリム(禁忌の混血)」として迫害され、孤独と憎悪に塗れていた深淵へと、強引に土足で踏み込んできた。
(な、なんだこの女は……! 我のドス黒い闇(過去)を前にしても、一切怯まないどころか……『それも全部よこせ』と言わんばかりの、圧倒的なまでの強欲……!!)
ミラースの脳内に、リーザの歌声が直接響き渡る。
♪『世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)』
♪『全部抱きしめるわ (最強!)』
♪『貴方の全て(人生)を背負って生きていける!!』
リーザの意図としては「お前らの財布も命も全部むしり取って弁償させる」という物理的な脅迫なのだが、孤独なネフィリムの心には、それが全く別の『究極の救済』として変換されてしまった。
(全、全部抱きしめる……? この忌まわしいネフィリムの血も、汚れた魂も、彼女は『全て自分のものにする(受け入れる)』と言ってくれているのか……!? なんという、なんという深く、底なしの愛(強欲)なのだ……!!)
「あ……あああ……っ」
カランッ……。
ミラースの手から、世界を滅ぼすはずだった妖刀・哭刀が力なく滑り落ちた。
闇のオーラは完全に浄化(物理的にバフで上書き)され、彼の目からは滝のような涙が溢れ出していた。
「素晴らしい……! こんな温かい光(歌)に包まれたのは、生まれて初めてだ……! そうか、我は復讐などしたかったわけではない。ただ、誰かに『全て』を受け入れてほしかっただけなのだ……!!」
ズサーッ!!
泣き崩れたミラースは、そのままみかん箱の前にスライディング土下座を決め、両手を天に掲げて号泣し始めた。
「女神よ……! いや、リーザ様!! このミラース、貴女の歌声に魂を救われました!! これから一生、貴女のガチ恋ファン(下僕)として、この村の農作業でも便所掃除でもなんでもやらせていただきますぅぅぅ!!」
「えっ? あ、うん、そう? ならまずはその辺の畑耕しといて」
「ハハーッ!! 喜んでぇぇぇ!!」
わずか数分。
炎上神ワイズが手配した「最悪のダークファンタジーの悪役」は、アイドル(物理)のライブによって完全に洗脳され、ただの『熱狂的な農業ボランティア』へとジョブチェンジしてしまったのである。
『(コメント欄)ネフィリムがオタ芸打ち始めたぞwww』
『(コメント欄)すげぇ! アイドルの歌で魔族が浄化された!!』
『(コメント欄)リーザちゃんマジ天使! 俺もポポロ村に就農するわ!!』
『(コメント欄)金貨100枚スパチャ! リーザちゃんに美味しいもの食べさせてあげて!!』
ゴッドチューブの生配信は、ワイズの台本(虐殺ショー)から完全に逸脱し、『リーザのゲリラライブ・スパチャ祭り』へと変貌を遂げていた。
「ふ、ふざけるなァァァァッ!! なんだこの茶番は!! なぜネフィリムがペンライト(※妖刀)振ってコール入れてんだよ!!」
天界のオフィスで、ワイズは完全に発狂し、MacBook(風の魔導端末)をへし折らんばかりの勢いで台パンを繰り返していた。
画面の端では、相変わらずアキレス腱を切った勇者ゼロスが「痛いよぉ! 誰も俺を見てくれないよぉ!」と泥だらけになって転がっているが、視聴者の誰一人として彼に興味を持っていなかった。
「許さん……! 俺の完璧なプロデュースをコケにしやがって……!! ゼロス! 泣いてないでさっさとあの女を黙らせろ! 予算ならいくらでもブチ込んでやるから!!」
炎上神の怒りと共に、ゼロスのエンジェルすまーとふぉんに「無限の課金」が注ぎ込まれようとしていた。
限界を突破したP2Wの暴走が、ポポロ村に更なるカオスを呼び込もうとしていた。




