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『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


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EP 18

「海神陥落のカニしゃぶと、神回バズの錬金術師」

「よーし、全シーン撮影終了クランクアップだ! ……さぁ、お待ちかねの『打ち上げ』といくぞ!!」

 リアンの号令と共に、ポポロ屋の店内は歓喜の渦に包まれた。

 テーブルの中央には、巨大な土鍋が鎮座し、黄金色に輝くカニ出汁がグツグツと暴力的なまでの旨味の香りを放っている。

「まずはこれだ。『極上・海王マグロのレア・カツレツ』だ」

 ドンッ!と大皿に盛られたのは、外側はサクサクの薄衣を纏い、中は美しいピンク色の霜降りが残る分厚いマグロカツ。特製のワサビ醤油ソースが熱々の衣にジュワッと染み込んでいる。

「うおおおっ! いただきまぁぁぁす!!」

 リーザとフェンリルが同時に飛びつき、レア・カツレツを口に放り込む。

 サクッ、という軽快な音の直後、口の中でマグロの大トロの脂が体温で一瞬にして溶け出し、濃厚な旨味が大洪水を引き起こした。

「おいひぃぃぃぃぃ!! なにこれ! お魚なのに、超高級な牛肉みたいにお口の中でとろけちゃうぅぅ!!」

「ヤバェ……! パチンコで確変引いた時より脳汁が出る美味さだぜ……ッ!!」

 極貧地下アイドルと神の眷属ニートが、涙を流しながら白米を狂ったようにかき込む。

「さぁ、メインディッシュだ。……タラバの『極太カニしゃぶ』だ」

 リアンが用意したのは、丁寧に殻を剥かれ、純白の身がむき出しになった大人の腕ほどもあるカニ足の山。

「ふんっ。我がシーランの宝庫で獲れた最高級食材とはいえ……地上の野蛮な調理法など、たかが知れていますわ」

 特等席に座る女王リヴァイアサンは、腕を組みながらツンとそっぽを向いていた。

 深海で常に「極上の刺身(生食)」を食べている海神にとって、火を通すなど食材への冒涜だと思っていたのだ。

「……まぁ、騙されたと思って食ってみな。火を通すことでしか引き出せねぇ『甘み』ってもんがあるんだよ」

 リアンはカニ足をトングで挟み、黄金の出汁の中へ「しゃぶっ、しゃぶっ」と数回くぐらせた。

 表面だけがうっすらと白く花開き、中はふんわりとしたレア状態。それを、スッとリヴァイアサンの小皿へと置く。

「……そこまで言うなら、一口だけ……」

 リヴァイアサンは気乗りしない様子でフォークを手に取り、その巨大なカニ身を上品に口へと運んだ。

 そして、一口噛み締めた、その瞬間。

「…………えっ?」

 女王の動きが、完全にフリーズした。

 熱を通されたカニの身は、生の時とは全く違う『極限の甘みと旨味』へと昇華されていた。プリッとした弾力を噛み破ると、中からトロリとしたカニのエキスが溢れ出し、特製のポン酢の酸味がそれを完璧に引き締める。温かい食事が、冷たい深海で冷え切った神の体を、芯からポカポカと温めていく。

「あ……あああ……っ」

 リヴァイアサンの瞳から、大粒の真珠の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「な、なんて……なんて恐ろしい食べ物なの……! 海の恵みが、地上の知恵(調理)と合わさって、全く別の高みへと到達している……! 美味しい……! 美味しすぎますわぁぁぁ!!」

 絶対的な威厳を持っていたはずの海の女王が、完全に食欲(飯テロ)の前に陥落した瞬間であった。

「すいませぇん! 監督リアン殿! カニのおかわりを! あと、熱燗も一本作ってくださぁい!!」

「おう。食うなら自分でしゃぶしゃぶしろよ」

 その後、リヴァイアサンは魚人兵士たちと共に、夜が明けるまでポポロ屋の海鮮宴会を心の底から堪能した。

「ポポロ村、最高ですわ! 娘の素晴らしい映画の撮影現場も見られたし、こんな極上のお食事まで! リーザ、これからもこの村で、女優ウェイトレスとしてしっかり励むのですよ!」

 すっかり上機嫌(酔っ払い)になったリヴァイアサンは、テーブルに『迷惑料と撮影協力費』として純金の延べ棒と深海の真珠を山のように積み上げ、大満足で海へと帰っていったのである。

 その日の深夜。

 ポポロ村の村長宅・地下ラボにて。

「ふひひ……。リアンの旦那の暗殺カメラワークに、ルナ嬢ちゃんのガチ爆破特効……そして極めつけは、リーザ嬢ちゃんの強欲すぎる神曲(Love & Money)……」

 財務担当ニャングルは、煙管を吹かしながら、魔導録画機の映像データをゴッドチューブ(神々の動画サイト)のアップロード画面へと流し込んでいた。

「この圧倒的な映像美と、ガチ泣きする邪神のリアクション……。タイトルは『【神回】極貧アイドルが本気で歌ったら、ヤクザのボスが泣き崩れた件www~どん底からのシンデレラ~』や。これで、ポポロ村の村おこし(広告収入)は完璧やで!」

 ターンッ!!

 ニャングルがエンターキーを叩いた瞬間、その動画はアナステシア全土の魔導通信網へと放たれた。

 ◇ ◇ ◇

 翌日。天界セレスティア。

「ぶふぉぉぉっ!!? なにこれヤッバ!!」

 コタツ部屋で芋ジャージ姿のまま缶ビール(朝ビール)を煽っていた女神ルチアナが、エンジェルすまーとふぉんの画面を見て盛大にビールを噴き出した。

 隣でスルメをかじっていたアバロン魔皇国の魔王ラスティア(永遠の17歳)も、目を丸くして画面に釘付けになっている。

「ちょっとルチアナ、この映像凄すぎない!? 何この爆発魔法(CG)のクオリティ! しかもこの歌……月人君の曲とはまた違う、本能を直接殴ってくるようなすっごい強欲なオーラ(バフ)が出てるわ!」

「間違いない、これガチの奇跡バフが乗ってるわ! ていうか、泣いてる悪役、ウチのデュアダロスじゃないのwww やだこれ最高!! ヴァルキュリア! リリス! 今すぐこの動画、全天使に拡散リポストしなさい!!」

 神と魔王による『公式リポスト』。

 それが引き金となり、動画は瞬く間にルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国を巻き込んで大爆発を起こした。

『この人魚の娘、マジで可愛い! 歌声で闘気がめっちゃ回復するぞ!』

『スパチャだ! この【リーザ】って娘に金貨スパチャを投げろ!!』

『俺の口座残高、全部持っていってくれぇぇぇ!!』

 PV数はわずか半日で「3億」を突破。

 強欲アイドル・リーザの歌声は、図らずもアナステシア世界全土の心を鷲掴みにし、彼女は一夜にして『世界全土のトップアイドル』へと君臨してしまったのである。

 ◇ ◇ ◇

 しかし。その日の夕暮れ時。

 ポポロ屋の裏路地からは、今日も暴力的なまでに食欲をそそる匂いが漂っていた。

「スーハースーハー……! はぁんっ、今日はリアン特製の『豚の角煮』の匂いね……! これでパンの耳をかじれば……」

 換気扇の真下。

 ピンク色のフリルエプロンを着たリーザが、満面のアイドルスマイルでパンの耳を取り出そうとしていた。

「リーザ嬢ちゃん! 動画のギャラ(出演料)やで!」

「えっ!? ホント!? ニャングルさんありがとう!」

 ニャングルから渡されたのは、銀貨1枚(1000円)。

 莫大な広告収入とスパチャ(数億単位)は、すべてニャングルが「ポポロ村の防衛費と撮影機材の減価償却費」として合法的に中抜き(徴収)していたのだ。

「やったぁぁ! 銀貨1枚! これで明日はタローソンのからあげクンが買えるわ!」

 ガラッ。

「……おい。また換気扇の下で貧乏くせぇことしてんのか。さっさと中に入って配膳の手伝いをしろ。……まかないは、角煮の端っこを乗せた特盛チャーハンだ」

 勝手口を開けたリアンが、呆れたようにため息をつく。

「ほんと!? やったぁぁぁ!! 一生ついていきます、リアンさん!!」

 自分が『世界全土のトップアイドル』になっていることなど露知らず。

 強欲にして極貧のポンコツ人魚姫リーザは、今日も銀貨1枚とまかない飯に全宇宙の幸せを感じながら、ポポロ村の騒がしくも温かい日常の中で、図太く逞しく生きていくのであった。


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