EP 17
「カニ出汁の暴力と覚醒の歌声! 強欲アイドル、奇跡のラストテイク」
「よし。次でいよいよラストシーンだ。長回しの一発勝負でいくぞ」
ポポロ村の広場に、お玉を持ったリアンの声が響いた。
映画『どん底からのシンデレラ~鳩とパン屑と私~』も、ついにクライマックス。
スラム街の路地裏で、全てを奪おうとする悪の組織のボス(デュアダロス)に対し、貧しい少女が立ち向かう最大の感動シーンである。
「シーン4、アクション!」
リアンの合図で、キャルルが特注安全靴で地面を強く踏み締め、重厚な魔導録画機を構えた。
「ふふふ……。無駄な抵抗はやめな、嬢ちゃん。この街の掟は絶対だ。大人しくその豆(鳩の餌)を渡しな」
「わ、わたしは……まけないぞー。夢は、ぜったいあきらめないんだからー(棒読み)」
デュアダロスの完璧な極道演技に対し、リーザの演技は相変わらず絶望的な大根っぷりだった。
だが、ここでカメラの後ろ――つまりリーザとデュアダロスの真正面に陣取った監督が、映画の歴史を変える暴挙に出た。
「……チッ。大根芝居に付き合ってる暇はねぇ。カニとマグロの鮮度が落ちる前に、仕込み(並行作業)させてもらうぞ」
リアンはカセットコンロ(魔導式)と巨大な土鍋をカメラのすぐ横にドカン!と設置した。
そして、差し入れられた『幻の深海タラバ』と『極上・海王マグロ』を、神速の包丁さばきで解体し始めたのだ。
シャパパパパパンッ!!
殻が割られ、純白の極太カニ身が姿を現す。マグロは美しいサシが入った大トロ部分を、しゃぶしゃぶ用に分厚くスライスしていく。
そして、昆布で丁寧に出汁を取った土鍋の熱湯へ、大量のカニの殻を惜しげもなく放り込んだ。
ジュワァァァァァァァァッ……!!!
瞬間。
ポポロ村の広場に、暴力的なまでの**『濃厚なカニ出汁と醤油の香り』**が爆発した。
「……ッ!!?」
カメラの前で演技をしていたリーザの動きが、ピタリと止まった。
対峙していたデュアダロスの鼻が、ピクピクと痙攣する。
(な、なんやこの暴力的な匂いは……!! 旨味の塊みたいな湯気が、ダイレクトに鼻腔を殴りつけよる……ッ!!)
デュアダロスは、カメラの横でリアンが用意している**『極上・海鮮出汁しゃぶしゃぶ』**の圧倒的なビジュアルと匂いに、理性を吹き飛ばされそうになっていた。
(カニ……! マグロ……! 温かい……お鍋……!!)
連日パンの耳と雑草で飢えを凌いできたリーザの胃袋は、完全に限界を突破した。
彼女の顔面が空腹のあまりガクガクと引きつり、目がバキバキに血走っていく。ただの「飢えた乞食」へと成り下がりかけた、その時だった。
(……違う! 私は、私は『アイドル』なのよ!!)
極限の空腹とサバイバル本能の中で、リーザの瞳の奥に、ただの純真さではない、ある種の『狂気』にも似た執着の炎が揺らめいた。
ファンの時間、視線、お金。そして目の前の「極上のカニとマグロ」。
その全てを奪い尽くし、代わりに「宇宙一の幸せ」を与える。それが、絶対無敵のスパチャアイドル・リーザの真骨頂!
「……音楽、スタート!!」
リーザが叫んだ瞬間、空気を読んでいた財務担当ニャングルが、魔導スピーカーのスイッチをターンッ!と弾いた。
鳴り響くのは、神々の動画サイト『ゴッドチューブ』でもバズり散らかしている、あの名曲のイントロ。
「なっ……!? ここで歌う気か嬢ちゃん!?」
デュアダロスが驚愕する中、リーザは大きく息を吸い込み、魂の底から歌い始めた。
♪『今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)』
♪『全て上手くいくわ (絶対!)』
♪『愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)』
リーザの口から紡がれる、人魚姫特有の『極大バフ(奇跡の力)』が乗った圧倒的な歌声。
それはただの強欲な歌詞(Love & Money)のはずなのに、極限の飢餓状態から絞り出されたその声は、なぜか**「残酷な世界(都会)に対して、絶対に夢を諦めない少女の、命を燃やすような魂の叫び」**として、広場に響き渡ったのだ。
♪『ダイヤ(カニ)が欲しい♪ 土地(大トロ)も欲しい♪』
♪『貴方の愛で生きていける……!!』
「おお……おおおっ……!!」
その神々しいまでのカリスマ性と歌声の波をモロに浴びたデュアダロスは、悪のボスの威厳などとうに消え失せ、アルマーニのスーツを震わせてボロボロと男泣きを始めた。
(なんちゅう……なんちゅう純粋な欲の塊や……! 己の欲望にここまで真っ直ぐで、美しく生きる少女がおるやなんて……ワシの負けや……ッ!!)
邪神の心すら浄化(物理的なバフと空腹)させ、デュアダロスはついに膝から崩れ落ちた。
そして、ディレクターズチェアの母・リヴァイアサンは、滝のように真珠の涙を流して立ち上がっていた。
「なんという迫真の演技と歌声……! 理不尽な暴力に打ちのめされながらも、愛と夢を力強く歌い上げ、ついには悪のボスすらも改心させてしまう……! ブラボー!! これが私の愛娘、宇宙一のトップアイドルですわぁぁぁ!!」
リーザの脳内では「カニとマグロが食べたい」という欲望しかないのだが、その強欲すぎるアイドルパワーが、偶然にも「映画史に残る奇跡のラストシーン」を完全に成立させてしまったのである。
「……よし、カニ出汁が完璧に出たな」
カメラの横で、リアンが土鍋の火力を調整しながら、お玉を振り上げて叫んだ。
「はい、カットォォ!! クランクアップ(撮影終了)だ!!」
監督のOKが出た瞬間。
「うおおおお!! ご飯! カニぃぃぃぃ!!」
「マグロじゃぁぁぁ!!」
先ほどまでの神々しいアイドルと極道ボスは跡形もなく消え去り、リーザとデュアダロスは、まるでゾンビのようにリアンの土鍋へと猛ダッシュしていくのであった。




